とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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35.クー子のパーフェクト教室 IN異世界

 

 アイジエン大陸からまたも飛行船を乗り継ぎ…帰路の途中でとある人物の目撃証言を頼りに現地まで乗り込んで交渉。色々あって暫くぶりに天空闘技場にまで戻ってきた訳だが…それでもまだゴン君もキルアもこちらに来ない。

 最悪の事態を想定しそうにもなるが、焦るにはまだ早いと自身を戒め、再会したヒソカに今後の方針を共有して戦略を練る。

 

「今日が2月18日です。9月初旬のサザンピースオークションまで時間がありません。なので遅くとも8月中旬にはフロアマスターになってくれませんか?」

 

「凄い要求するね君♠」

 

 生憎こちらは大マジである。あのバッテラ氏に彼の土俵で勝つためには、600億という大金が必要なのだ。そしてそれだけの資金を調達するには、フロアマスターの名声は必要不可欠。

 そして現実的にそれを為せそうなのは、現状ヒソカだけなのだから仕方がない。

 

「試験中のサポートが足りてない自覚があるって言ってましたよね? あと無茶振りポイントを全消費するので、フロアマスターになったあとのスポンサー契約、もしくは銀行融資での資金調達までお願いします。私と試合を組んで不戦敗してそれで10勝…即座にフロアマスター挑戦という線も考えたのですが…今後を考えると八百長紛いの勝利は確実にマイナスになりますのでそれは却下です。普通に勝ってフロアマスター挑戦権を得てください。」

 

「ほ、本当に言葉通りの無茶振りだね…。そうは言っても相手はどうするんだい? リールベルトがやる気十分で戦ってくれて僕は凄い嬉しかったケド。そんな相手がそう簡単には…」

 

「カストロさんを見つけて交渉して来ました」

 

「!」

 

「彼はもう暫くで帰還しますので、そしたら試合の受付をお願いします。遅くとも4月までには試合するように契約済みです。…あとカストロさんは長い山籠もりで飢えた虎みたいになってましたから、命の保証はできないとも言ってましたよ? 良かったですね?」

 

「……君には驚かされてばかりだよ♥ そんなに僕に死んで欲しいのかい?」

 

「死んだら当てにできないですし、言葉にするまでも無いですよね?」

 

 これでヒソカ不戦敗の懸念は取り払うことが出来た。10勝後の挑戦相手として指名したフロアマスターは、基本的に逃げることが出来ないので、あとはカストロさんにヒソカが勝てば、それで十中八九問題ない。講演会でも道場経営でも、いくらでも人が集まると言われるフロアマスターの知名度と、プロハンターのライセンス。この二つが合わされば、相当の融資額が期待できるはずだ。

 

(融資という名の借金が嫌なら、裏を含めた格闘大会の主催者辺りにスポンサーになってもらって稼ぐプランもある。フロアマスターともなれば一試合で十億超も現実的。年契約も視野に入れればそれだけで数百億を稼ぐことも無理な話じゃない。)

 

 あとは私の資金集めについてだが…と思考の海に沈んでいたところで、またもハンター協会から連絡が入る。

 それもメールではなく直電。しかも相手は協会の副会長こと、パリストンさんであった。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

「いやあ――お会いできて光栄です!! 異世界の付与師様、それも聞いた話じゃ世界を救った英雄様に会えるだなんて! ボク感激だなあ――!!」

 

「ええ…どうも。実はこちらも、私に魔法の学術書を執筆するように発案したのが副会長…パリストンさんだとは伺っております。ただ…『世界を救った英雄様』という話はどこから? 記憶では四次試験中での同期との会話くらいなのですが…」

 

「嫌だなあ!試験中に協会員に監視されていることにはとっくに気づいていたでしょう!? 何なら初日にバレて一度逃げたと言ってましたよ?」

 

「あー、…………確かに。そういえばそうでしたね」

 

 そういえば監視員が居たんだった…全然気にせずゴン君相手に盛り上がってたけど、その時の会話が聞かれていたのは失念していた。その割にはネテロ会長は何も知らなかったようだから、あの監視員は恐らく副会長側の配下。情報を共有しないのも、お得意の嫌がらせの一環ということなのだろうか?

 

「嫌だなあとぼけちゃって! 僕は敢えて聞かせたと思っているんですよ? 第287期の最高評価ハンターがそんな抜けてる訳が無いじゃあないですかー!!」

 

(抜けてて悪かったな!)

 

 …お風呂の時は監視がそれなりに離れてることは確認してたし、闇で遮蔽もした。会話も全てロードとの『万物との対話(ワールド・オーダー)』で完結しているから、その辺りの情報までは流石に漏れていないはず。

 

 なんというか…慇懃無礼の中にどこか闇を感じるというか…もしこの人にロードとの会話まで聞かれていたら、不味かったかもしれない…そんな不穏な感覚があるのだ。

 

「まあ雑談はこの辺にして本題に入りましょうか。つい先日、クーデリアさんの草稿をもとに二千人のサンプルで魔法の実証試験を実施したところですね。」

 

 話は切り替わり、ようやく本題に入ってくれた。

 今日私が、わざわざまたハンター協会までやって来たのはこれが理由なのだ。

 

「見事二百人…ちょうど二百人で驚きましたが、10%の人間に魔(・)法(・)的(・)な(・)現(・)象(・)の(・)発(・)露(・)が確認できました。つまり実証成功です。この瞬間、貴方はこ(・)の(・)世(・)界(・)の(・)人(・)類(・)史(・)に(・)も(・)名を残すことが確定しました。流石にこれはお世辞抜きに、とんでもないことだと思いますよ?」

 

「ありがたいことですが…それらも全て、執筆を発案頂いた副会長と、それに賛同してくれた会長のお力添えがあったからこそです。私はただ、私の持つ知識の一部をお伝えしたに過ぎません。」

 

(10%…という数値は元の世界と比較すると実はかなり少ない。何故なら元の世界では30%程度の割合で何らかの魔法の適性があるからだ。単に期間の問題で発露していないだけなのか、それとも魔力の根源が恐らく異なるからか、そもそも異世界人だからなのかと、理由は様々考えられるが決着が付かない話であれば論ずるのはせんなきこと。大切なのは二百人の魔法使い見習いが、この世界にも誕生したということだ)

 

「僕としてはこの二百人をきっちり育て、この世界に魔法を広める指導者としたい。」

 パリストンさんが右の指を一本立てる。

「そしてクーデリアさんは今、お金が必要。」

 左の指も一本立てる。

 

「草稿の出来は十分ですが、それでもやはり直接的な指導も賜りたいのが本音でもあります。」

 右の指が二本に増える。

「実証成功で75億。更に二週間の直接指導で追加で100億支払いましょう。」

 左の指も二本に増える。

 

「『受ける』か『受けない』か。僕にしてはものすご~く単純なこの二択。」

 

 

 

「どっちにします?」

 

 

 

「既に即決で『受ける』と答えたから今ここにいるんですけど!」

「そうですよねぇ~~! いやぁ本当に助かりましたよ!」

 

 多分この人、人使って遊びたいだけだなこれ。

 

▽ ▽ ▽

 

 二百人の生徒を一気に指導するのは無理なので、交代で二十人ずつ。

 各人のプロフィール等を簡単に確認しながら、草稿をもとに作成された資料を手元に実演を交えて、質疑応答を行う。

 

 後でそれぞれの生徒が現在使用できる魔法について個別に見させてもらうが、まずはある程度まとめて疑問を解消させてしまった方が早いので、今回はこういう手法を取らせてもらった。

 

《灯火(ともしび)》《風巻(ウィン)》《光輝(レイ)》

《土塊(つちくれ)》《小雷球(しょうらいきゅう)》

 

 どれも草稿に載せた下級に位置する簡単な魔法であるが、その五つを順番に発動してそのまま維持、状況に合わせてそれぞれの出力を上げたり下げたりしながら、各生徒の適性に合わせて説明する。

 

 ……因みにこの複数の魔法の維持、簡単にやってるように見えるかもしれないが、その実態は超高等技術である。そしてこれは私が付与の腕を磨く過程で、自ずと上達した技術だったりもする。

 

(今みたいに戦闘でもない落ち着いた状況なら、最大五つまでの同時運用が可能だけど……これは自分で言うのもなんだが天才の所業だ。元の世界でもこれができる人間なんて、多分片手で足りるかも怪しいね…並列思考の才能にも依存するんだったかな?)

 

(まあこの場でそんな話はしないけどね…。あまりにも先の話過ぎるし、個人の才能に依存するような話を初等も初等の段階の生徒に伝えるべきじゃない)

 

 実戦レベルといえる火焔魔法《焔衝波(えんしょうは)》を覚える前段階にすら至っていない魔法使い見習いに、大魔導士リディアの大技の一つ《焔天崩星(えんてんほうせい)・破界焔(はかいえん)》を教えるようなものだ。物事には順序というものがある。まあ多分教える前に帰っちゃうから順序も何も無いのだけど…。

 

 因みに《焔天崩星(えんてんほうせい)・破界焔(はかいえん)》の威力はこの世界基準だと、サーモバリック爆弾という兵器が近い。龍種をも一撃で屠る馬鹿げた火力…個人の念能力で再現するには流石にハードルが高いだろう。とはいえあれは【炎哭の杖ルシエル】の力も込みだから……

 

 

――閑話休題

 

 

「ええそうです。上手ですね。大切なのは自分の身体の中にある潜在魔力を循環させるイメージです。焦らずゆっくりで良いので、それをしっかりと感じてから、魔力の出口を指先に用意してあげましょう。

…………出来ましたね。次はその状態を維持したまま、変換式を意識して任意の属性に変換します。覚えた変換式を頭に思い浮かべて、指先から出ている魔力に当てはめます。

……そう……そう…………あっ! 今ちょっと固形物が生成されましたね! やっぱり土魔法に適性がありますね!きちんと発露してますよ!」

 

「貴方はもう《小雷球(しょうらいきゅう)》の習得が近いですね…特定の魔法にしなくとも電気の生成も出来ていますから、かなり筋がいいですよ! そう遠くない内に習得は済むと思うので、その後はじっくりと応用に進みましょう。残念ながらそこから先の細かな手順などは用意できませんが……だからこそ、貴方に合った、貴方だけの魔法を開発していってくださいね。」

 

「う~ん…これは《斬波(ざんぱ)》に近いけど…別物? どちらかというと空間に干渉しているような…ちょっとこの紙を触らずに切ってみてもらえますか? ……あーこれは…うん。空間魔法の一種ですね…属性魔法とは別口なのでどうにも指導が難しく…申し訳ないです。ただ極まると非常に便利で強力な魔法なことは保証するので、複雑かもしれませんが落ち込むことはないと思います。一応資料の方にも扱うにあたっての注意点は載せているので、あとで目を通しておいてくださいね。」

 

「あ~~~それ付与!付与魔法!! やったあこの世界にも居た! やっぱり付与師は優遇しちゃう! この世界でも『付与理論大全』出版しようかなあ!? そしたらサイン付きで送付しますよ!!」

 

 たった一人で二百人の魔法使い見習いの魔法を見て指導していくのだ。それはもうてんやわんやではあるが…講師としての本分か、やはりどこか楽しくも思う。

 先達は後進を導くことに喜びを見出すというやつだ。

 

 二週間にも及ぶ指導を終える頃には、もう完全に生徒二百人の卒業を見届ける気分になっていた。

 

 

「いやぁ~~本当に助かりました! 今回の指導の内容も加えて草稿は一部改訂しますが構いませんよね?」

「はい! 勿論です。私も指導中にああこう書けば良かったなあ、足りなかったなあ…と思うところが沢山ありましたし、そうして頂けると非常に助かります!」

 

「いいですね~~こちらとしてもやりやすいです! ああ最後にこれお土産です。お酒好きってことでしたので、ヴィンテージのマッカランを用意しました。」

 

「いいんですか!? やったー!!」

 

(なんだ!パリストンさんっていい人じゃん!)

(分かりやすくて好きだなあこの娘)

 

 

▽ ▽ ▽

 

 かなりの高級酒を土産にもらい、意気揚々と帰路につく頃には、キルアからの連絡が入ってきており、既にゴン君と一緒に天空闘技場の100階に到達したというお話を聞けた。200階に到達する前には帰れるし、実質間に合ったなーと考えている間に二週間分の疲労がどっと押し寄せる。

 

(が…頑張り過ぎたな私…100億J分の仕事だと思って張り切り過ぎた…)

 

 私はそのまま気絶するように眠りこけ、下船し損ねる前にロードに起こされた。

 

(最近ちょっとロードに甘えてるなあ私)

 




◆長いので本文中からは削りましたが折角なのでこちらで

 激しい戦闘中での継続した付与の場合は、精々三つが限界である。
 例えばヒソカ戦の終盤では服に『風』、身体に『念』、杖には状況に合わせた属性を常に切り替えながら戦っていたが、制御が大変な『風』による浮遊も混じっていたことで、短い時間であっても脳への負荷はパンク寸前だった。

 ハンター試験の一次試験後半ではそれまで付与を長時間継続していたこともあり、走りながらでは試験官への『風』の付与一つが限界だったりと…同時に扱える数は状況やコンディションによって容易く変動してしまう訳である。
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