とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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37.最後の金策

 

「じゃあ改めて、二人とも 200階到達おめでとう!」

 

「『纏』もものの数十秒で安定した♣ やっぱり凄いね君の付与♥ 二人の才能も確かだけど、覚えたての今でこれじゃあ、他の200階闘士も形無しだよ♦」

 

 ストレートに200階に到達したゴン君とキルアを自室に呼び込み、『念』を付与して目覚めをサポートしてあげた。『纏』もなしに試合させて、洗礼なんてさせる訳にはいかないからね。

 

 とはいえ二人の才能はやはり本物だ。私が余計な世話等焼かなくても、ヒソカあたりがオーラをうまくぶつけるだけで数分〜数十分もあれば『纏』の安定には成功したことだろう。

 

「凄い!まるで見えない鎧に包まれてるみたいだよ!」

「いやそれよりクー子の付与がやべえ!身体が明らかにこのオーラってエネルギーを纏うことを受け入れてるのが分かる!」

 

 二人ともがついに手に入れた未知のエネルギーに大はしゃぎのようである。二人には180階の時点で念については教えていたし、それの目覚めをきっちりサポートする代わりに、200階での試合は5月以降だと契約書に捺印までさせている。

 

 今の状態ではリールベルトさんどころかサダソさんやギドさんが相手でも勝率は皆無に等しい。これは二人を守るための契約なのだと強く伝えることで無理矢理にでも了承させた。……実のところキルアであれば負けないのでは? と思うところはあるが、そこは敢えて伏せる。

 

 目覚めたての内から他の念能力者を格下扱いさせてしまうのは、非常に危険なことであると、ヒソカもまた忠告していたくらいだからだ。

 

「ヒソカもクー子も…そして兄貴も…実は全員念能力者ってやつか。クー子に至ってはそれプラスで魔法まであるんだろ? 最終的に最強になるんじゃね?」

 

「いやぁ…そう単純でも無くてね…。もうお察しだとは思うけど、私の素の筋力はキルア達ほど強くないし、念についても付与で下駄を履いてるだけだから、実のところまだまだ発展途上。付与無しだと二人の…大体百日くらい先輩なだけなんだよ」

 

「うーん…でもその発展途上でイルミに勝ったし、ヒソカともいい勝負したんでしょ? だったらキルアの言うことは正しいんじゃないかな?」

 

 随分と持ち上げてくれる二人であるが、最強ということは少なくともあのネテロ会長を超えるということだ。正拳突きが軽く音速を超えるような人との正面戦闘…いずれは私の世界の最強と、肩を並べて空を翔けると決めている以上、未来を含めて絶対に勝ち目が無いとまで謙遜する気はないが…それを確かめる術は無いだろう。いつかその域に届くまでには、きっと私は帰ってしまっている。

 

「まあその辺については、今後は魔法もこの世界に広がるから…私のアドバンテージも減っていくと思うよ? なんと言っても既に、200人以上の魔法使いが、今も魔法を研鑽してるんだからさ! 製本については確か4月末って言ってたから、魔法を使える人が一気に増えるのはそれから後かな?」

 

「ゴンはリタイアしたみたいだけど、俺は覚えられるかな? 理解出来ても適性が無いと使えないんだろ?」

 

「こればっかりはね…仮に適性があっても発露までにはそれなりに時間が掛かるし、せめて一週間はそれに専念して欲しいかな…。でも今は念を覚えたてなんだから、専念するなら念の方にしないと駄目だよ?」

 

(キルアはどうだろ…? 魔法は適性ありきと言えども基本的には学問だから、きちんと勉強した上で情報処理能力も高くないと大成しないんだよね…感覚派な人もいるけど少数だし、それでも最低限の知識は持ち合わせてるのが普通。結構遊ぶのが好きな子みたいだし、勉強はあんまり好きじゃないイメージがあるなあ)

 

 

 そんな会話から更に時間が経過――暦は既に3月である。

 

 3月半ばの時点で私は、魔法で生成した合計2トンの扉を開けることに成功。我が事ながら戦々恐々としながらも、その場で応援してくれていたゴン君と喜びを分かち合った。

 

 天空闘技場の近くの土地に作ったこともあってか、あれよあれよと有名になり、今では観光スポットの一つである。勝手に作ったものなので壊そうかとも考えたが…天空闘技場側から逆に残してくれとまで頼まれたので、折角だからと外装にもこだわり『試しの門・ミニ』として寄贈した。

 

 その後、ストレートで200階闘士となったことでそれなりに有名になったゴン君が、片手で開けるパフォーマンスを披露したことにより、天空闘技場周辺は筋トレの聖地としても一層栄えることとなる。

 

▽ ▽ ▽

 

「帰ってきたこの私と試合がしたいなどと、酔狂な奴がいたものだな」

 

 3月初めに帰還したカストロさんは、ヒソカ戦前の試運転ということで適当な相手と戦っていた。適当というと失礼だが、相手は打倒カストロを誓い鍛えあげてきた200階闘士…モミアゲが特徴的な筋肉質な男性だった。

 

 腹(・)が(・)突(・)然(・)爆(・)発(・)したりしない限りはそうそう死なない鍛え方をしており、200階闘士としても十分な強さではあったと思うが…カストロさんは更にその上を行っていた。

 魔獣が跋扈する危険な山中での山籠りで研ぎ澄まされた戦闘勘と、圧倒的な武術センスは明確に対戦相手の男を上回り、純粋な肉弾戦だけで完封勝利を飾る。完敗を喫した男は悔しそうではあったが、どこか爽やかな顔で互いの健闘を讃えてから、担架で運ばれていった。

 

「…多分強化系ですよね? 一撃一撃の重さが違います」

「だろうね♥ 以前の彼も僕に挑むに足る強者だったけど、そこから更に自身の系統に合った努力を重ねてきたのがよく分かる♠ 天然ものは、こうやってうまくハマった時の驚きが醍醐味なんだよねぇ♥」

 

 カストロさんの動きは一緒に観戦していたキルアからしても大したものらしく、『念無しでもオレ並』と太鼓判を押していた。私としても200階以降で五体満足な達人の動きはそうそう見る機会が無いので、とても勉強になる。

 

「ヒソカはあの人と戦うんだよね? 勝てそう?」

「さあね♥ 僕にとっては互いに息を合わせてするのが戦闘(ダンス)…振付も曲も、その時になって初めて決まるものさ♣ 彼はきっと、僕と愉しく踊ってくれる♥」

 

(ゴン君の率直な質問の答えとしては「分からない」か…私としては勝ってもらわないと困るのだけど、あのレベルの達人を相手に、勝つと断言する方が危ないからね)

 

▽ ▽ ▽

 

 そんなこんなで3月31日

 

 宿命の『ヒソカvsカストロ戦』は、試合開始1時間前から既に超満員の大混雑に陥っていた。

 

 互いに9勝のフロアマスター挑戦権を賭けた戦い、片や実質無敗、片や初戦のヒソカ以外には無敗という圧倒的な戦績同士のぶつかり合い。これで盛り上がるなと言う方が無理な話だ。

 

(実のところ、こっそり付与で支援したいくらいなんだけど…そんなことしたら本気で殺されそうだからね…自重しないと)

 

 試合前から天空闘技場始まって以来の異様な盛り上がりを見せる本試合。ダフ屋が捌くチケットの値段はかつての『私vsヒソカ』すらも超えて高騰を続けている。

 それこそ一試合で数千億が動く程の、世紀の一戦の様相を呈していた。

 

 

…そして私は、その瞬間を待っていたのだ。

 

 

「試合会場にお集まりの皆さん!! 試合開始10分前になりましたので、不肖、この実況がここでアナウンスさせて頂きます!! なんとですねえ!なんっとですねぇ!!! この度の実況席には! あの『紫華の付与師』こと! クーデリア・リーフィス様にお越し頂いております!!!」

 

「「「「「「「オオオオオオオオ!」」」」」」」

 

 そこから私についての説明が入るが、ここ暫く試合をしていない私である。なんか試合映像がヤケに派手に売られてる人とか、『試しの門・ミニ』を作った人とか、その程度の認識の人も多いかな? と少々高をくくっていたが…それは大きな誤りだったようだ。

 

「「「我ら『始まりの二百人』が三傑!! 全ての魔法の母、クーデリア様を讃える者である!!!」」」

 

(な…なんかいる…知ってる顔だけに困るのだけど…)

 

 彼等は私が直接指導した二百人の内の三人であるが、どうも今月の頭辺りからこの天空闘技場に出入りしているようだ。『雷帝』だの『風魔』だの仰々しいリングネームを付けているがまだまだ名前負け、最近は出力も上がって100階以降でもちょいちょい勝てているのを見かけるが、どうにも色物扱いの域は抜けれていない。

 

 もう一人は治癒魔法の適性があったので療術師の道を勧めたからか、闘士としての登録はしていないようだが、試合後の闘士の治療をメインに活動しているようである。こちらは中々の知名度を稼げているようで、彼女に感謝している闘士も多い。

 

「うるせーぞテメーら!!モブが割り込んでんじゃねえ!!こちとら麗しいクー子様と、世紀の一戦観に来てんだ引っ込んでろ!!」

 

(実況ちゃんよく言った!)

 

「あ〜〜堪んねぇ!! クー子様が近くにいりゅう!隣に座って試合観戦なんてこれもうデートでは?デートだよ!?」

 

(実況ちゃん黙ってろ!)

 

「…そろそろ真面目にやってくれませんか? 試合開始も近いですし、話さないといけないこと、他にもあるでしょう?」

 

 私のこの言葉で一気に冷静になったのか、試合前恒例の賭けのオッズ公開に移ってくれた。そうそうこれこれ、これが早く見たかったのだ。

 

「おおっとぉ!これは意外や意外!ヒソカ1.31倍、カストロ3.07倍!賭けの割合としては7:3でしょうか?世紀の一戦にしてはやや一方的だぞぉおお!?」

 

「あっそれ半分くらい私のせいです」

「なんと!ど、どういうことでしょうかクー子様!?」

 

「ヒソカの勝ちに百億賭けたんで」

「…………へ?」

 

「大金なのでオッズにも影響が出るのは覚悟してましたが、やっぱり出ましたね。注目度が他と段違いなので崩壊することがなかったのは、流石カストロさんと褒めたいところです」

 

「……な、何してくれてんのこの人!?いやこの方!?聞きましたか皆さん!!個人で百億ですよ百億!しかもクー子様とヒソカは師弟関係!そこまでの信頼と覚悟とお見受けしますが…も、もしかして御二人はそれ以上の関係だったり……?」

 

「それは無いと断言するのでご安心を」

 

(ヒソカがどうとかそういう話の以前に、私はこの世界からいなくなるからね…そういう不義理なことは出来ないかな。元の世界には、私を一生支えるとまで言い切った人もいるしね…そっちは真意を聞きそびれたままお開きになって流れちゃったけど…)

 

「ありがとうございます!! それが聞けて一安心です!さあさあそろそろ試合も開始です。気合入れていつものやっていきましょうか!」

 

 ――ヒソカとカストロは既に入場済み。

 

 どちらのオーラも研ぎ澄まされ、試合開始を今か今かと待ち侘びている状態だ。両者共にこの世界における相当な上澄みの強さであることは間違いがなく、大半のフロアマスターからすれば、この二人の挑戦を受ける≒フロアマスター陥落の危機でもある。

 

 互いが望んだ世紀の一戦…それが今、これから始まる。

 

 





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