とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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修行編その2


46.グリードアイランド編④

 

「髪!せめて髪だけでも切らせてくれ!」

 

 皆さんこんにちは。つい先日、グリードアイランドには酒が止め処なく湧く泉があるらしいと知って大興奮のクーデリアです。二日前にはキルアから「最大威力の雷魔法を俺に叩きこんで」と、ちょっと怪しい性癖を疑う発言をされたりしましたが…それでも私は元気です。

 どうにも「詳しく教えて」という意味だったのはお恥ずかしい限り。キルアに電流は効かない(実際は耐えられるだけ)という話のイメージが先行してしまっていたようですね。

 

 

 さて、話を戻しましょう。

 

 つい先程まで私の前には、恐(・)ろ(・)し(・)い(・)食(・)人(・)鬼(・)がいたのですが…今度は急に散髪願望をカミングアウトし出しました。言葉の意味が分からず困惑が強まる一方です。

 

 実はこの男には結構怖い思いをさせられており、正直声を聞きたくないのも本音です。ただ、この狂人散髪屋の身動きは既に封じているので、こちらの身の安全は確保済みです。

 

 ……ここから私はどうするのが正解でしょうか?

 正直このまま火葬もありかと考えてます。

 

 

 では薪を焚べましょうか――

 

 

「やめろ!このまま火炙りとか正気か!」

 

「黙れ!22歳の女の肉が(人肉的な意味で)好みとか宣(のたま)う食人鬼(クズ)に、人権があると思うな! 認められるのは来世からだ!」

 

「女性が一人襲われてると思って駆けつけてみたら…いったいこれはどういう状況だわさ? 

 ……って、あんたクー子!?」

 

「ん…? あっビスケさん!お久しぶりですー!これから火をつけるとこなんですけど、ご一緒にどうです? ああ遠慮は要りません。ここにいるのは女の敵ですよ女の敵!!」

 

「……具体的には?」

「一人花摘み中の私を、ハサミを武器に強襲して物理的に喰い殺そうとしてきました。」

「薪に油も足すわさ」 ドバドバ

 

「誰かこいつらを止めろーー!!」

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 奇遇なことに、ここグリードアイランドで再会したのは二つ星(ダブル)のストーンハンター、ビスケット=クルーガーさん。「ハンター協会のお母お姉さん」とも称されるほどの傑物で、御年57才とのことだが非常に若々しく、体躯も相まってかまるで十代前半のようにお肌も艶々で瑞々しい。

 本(・)来(・)の(・)姿(・)も既に…というより、最初はそちらの姿でお会いしている訳であるが、そちらも十分に若々しく見えた。美容と鍛錬に大層気を遣っていることが見て取れる、一人の女性として純粋に尊敬できる方である。

 

 (出会ったのは数か月前、彼女が手練れの盗掘者集団を成敗しているところだったかな…?

  初対面でいきなりタンザナイト*1呼ばわりされた時は困惑したけど…)

 

 豪傑という名が相応しい立派な体躯から今の少女然とした姿にしゅるると変身?したビスケさんは、今度はジロジロと私を観察した上で、『完成後にすら自発的に輝きを増す夢の宝石だわさ!』と絶賛してくれた。彼女は心源流の師範代でもあるということで、そのまま無料のコーチングすら申しだされてしまったが…そこは思わず「既に師匠はいるので」とお断り。

 逆にその若さの秘訣については、有料で体験までもさせてもらった。

 

 彼女の能力は『魔法美容師(マジカルエステ)』。その本質はオーラを変化させたローションであり、その効用はあらゆる美容やリラクゼーションを強く味方してくれる…ヒーリングにも優れた、正直羨ましい能力だ。

 具現化された施術師の女性…クッキィちゃんのマッサージについてもそれはもう天にも昇る心地であり、その派生で生まれた『桃色吐息(ピアノマッサージ)』は、30分で8時間分の休息効果を与えるという。それらを悉く体験した上で確信を持って断言するが…あれは時間単価にして数百万は下らない究極の能力。人によってはその十倍は軽く支払うこともあるだろうことは、想像に難くない。

 

▽ ▽ ▽

 

「賞金首(ブラックリスト)ハンターなのに自分もブラックリストとか、もう賞金受け取れないじゃ無いですか…何考えてるんですかこの食人鬼(ひと)?」

 

「さあね。自身が追い求めるものがたまたま犯罪だった…なんてのも良くある業界だわさ。ハンターたるもの、何かを狩らなければならないって規則があるくらいよ」

 

 着火直前には命乞いも聞こえたが、構わず着火。

 油に引火し激しく燃え盛ったように見えるが、実態としては『風』の付与の出力と向きを絶妙に調整することで、下半身を中心に中度の火傷が広がる程度で済ませている。

 

(痛みで一か月は地獄だと思うけど…最低でも一方的に殺される恐怖くらいは味わってもらわないとね)

 

 本当はこのような私刑などせず、さっさと警察に引き渡したいところであるのだが…生憎ここはグリードアイランド。まだまだ一時離脱のためのアイテムも入手出来ていないので、引き渡すこともままならない。

 

 では見逃すかと言われるとそれも無理。流石に死刑が妥当の重犯罪者にまで優しくする気は無い私である。何なら未遂とはいえ現行犯、しかも被害者は他ならぬ私自身と、酌量の余地が一ミリもない。

 当事者ではないビスケさんに至ってすら、真剣に殺しを肯定していたくらいである。

 

「で、後ろにいるのが件の師匠? 一応フロアマスターらしいけど――

へぇ……ふ~ん…まあ、伊(・)達(・)じ(・)ゃ(・)あ(・)な(・)い(・)ってところのようね」

 

「それはどうも♣ お眼鏡にはかなったかな?」

「あんたにゃ勿体ないとまで言う気はないわさ」

 

 この人は結構な美形と筋肉フェチであり、内心イイ男!とか思ってそうだなあと邪推するが、その割には少々つれない態度を取るビスケさん。

 まるでお宝を先取りされてしまったかのように、ヒソカを見る目は若干冷ややかだ。

 

「え!?これどーいう状況!? お姉さんとヒソカと知らない子が、知らない人でキャンプファイヤー!?」

「あーもしかしてこれがサバトってやつ? 実物を見るのは初めてだな」

「あづぅああぁあ!! もういっそ早ぐ殺ぜぇえええええ!!」

 

 うーん参った。時間を掛けすぎて段々と人が集まって来てしまったね…まあ確信犯だからいいけどさ。

 これは今後の被害者を減らすための正しい行為…正しい行為…。

 

▽ ▽ ▽

 

「で、どーすんのこのバーベキュー? 食人鬼らしいし、そういう部族にでも引き渡す?」

 

「人聞きが悪いなあ、こんなんでもちゃんと生かしてるよ。今回ばかりはカードも奪うしね。

 本当なら逮捕まで持っていきたいけど、それも難しいから困ったもんだよ…」

 

 あの後、死なないように最低限の応急処置は施したが、この食人鬼を自由にするのはどう考えても問題がある。ここのNPCは困ったら警察を呼ぶ割に、警察の能力値はとても低く、まともなペナルティとして機能はしていないらしい。

 つまりはゲームマスターに直接目を付けられない限り、完全なる治外法権という訳で…ロード達の能力で『危険度21』と測定された理由も、今なら分かる気がする。一般的な治安が悪い地域で5〜10程度だと、ロードは言っていたからね。

 

「呪文以外の一時帰還には西側の港まで行く必要があるって話だったよね? 道中もかなり危険で難易度もそれなりに高いって話で…」

 

「うん。だから引き渡すにも修行後が適切なんだよね…このまま拘束して転がして、時期が来たら外に出ようか。メンチさんを誘ったりもしたいし」

 

 ほぼ唯一と言える明確な助命派のゴン君との会話も済ませ、ビノールトの処遇は決定した。然るべき組織に引き渡すのならこれ以上の私刑も不要となるので、逃げ出せない程度の拘束こそ残すものの、一般的な虜囚程度の立ち位置(万が一に備えてカードは全て没収済)に収まったのであった。

 

 

「…そろそろ彼女の紹介をしてくれないかい? 君が一目置いてる人なのは分かるけど♣ どこか目の敵にされているような気がしてネ♦」

 

(師弟関係の話だろなあ…今思えば、別途コーチングを受けるくらいは問題なかったとは思うけど、あの時のビスケさんはかなりグイグイ来てたから、思わず断っちゃったんだよね…)

 

 とはいえこうも言われて紹介しない訳にはいかないので、ゲームを始める数か月前に実は知り合っていたことを説明。

 実績あるダブルのプロハンターであることに加え、心源流の師範代で指導経験も豊富であることも付け加える。現在修行期間に入っている私たちからすれば、実は喉から手が出る程にありがたい存在だったりする。

 

 対するビスケさんはビスケさんで、何がそこまで彼女の琴線に触れたのかまでは分からないが…私たちが修行中であることを聞いた途端に、二週間の無料お試しコーチングを申し出る。

 期限後の師匠乗り換え大歓迎!とまで宣言するので、こちらとしても渡りに船とばかりにヒソカを除く三人は指導をお願いさせてもらった。

 

(ヒソカの指導に文句がある訳ではないけど、一度この世界の本職の指導は受けてみたいからね。)

 

 …それに、実はゴン君とキルアはヒソカの弟子という訳では無い。確かにここ暫くの間、ヒソカの指導を受けていることは事実であるが、それはあくまで正式な弟子である私の『お願い』で指導を受け持っているに過ぎない。

 

 少なくとも正式な師弟契約を結んでいる訳ではなく、その証拠に二人は一度たりともヒソカを師匠とは呼んでないし、ヒソカも二人を弟子とは呼んでいなかったりする。

 

「という訳なので、私はこれから二週間、ビスケさんの指導カリキュラムに従いますね。沢山学んで、今後の修行メニューの改善にも繋げますよ!」

 

「…それで君が強くなるならボクとしては構わないよ♠ ただあまりに不甲斐ない結果なら、君か彼女のどちらかを殺しちゃうかもね?」

 

 とまあ少々不穏なやり取りが挟まれたが、どうにもヒソカに対抗心ありありと見るビスケさんのやる気は十分なようだ。

 

 少し離れたところでは、ビスケさんの実年齢を聞き、間髪入れずにババア呼ばわりしたキルアが遥か彼方まで殴り飛ばされていた。

 

 ……こんな調子でこれから二週間、私達は果たして大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

――二週間後

 

 すみません本職の指導舐めてました。

 三人とも滅茶苦茶成長しました。

 

*1:
見る角度や光で青や紫に変化する宝石





こんな扱いですが、私はビノールト結構好きです。プーハットの次に好きかも。アベンガネは普通。

そして変則即落ち2コマを決めた主人公…
果たしてヒソカは弟子をNTRされてしまうのか!?
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