二話投稿。
明日は多分お休みです。
――パドキア共和国南東の港
「とある付与師の帰還録……なんちゃって♪」
「なんだいそれ?」
ちょっとしたジョークのつもりだったが、ゲーム世界(現実の島だけど)から帰還したので折角なので言ってみた。とはいえ本当に元の世界に帰還できたら、この世界に滞在中の出来事は、物語として残しても良いかもしれない。……残念ながらお遊びじゃない、ノンフィクションの真面目な報告書ベースになるだろうけどね。
マーケティングを考えたら称号は外せないし…紫華の付与師の帰還録?
まずは今回の帰還の目的である、ビノールトを警察に引き渡す。第一級の犯罪者でありプロハンターでもあるということで、対応ができるクライムハンターが現着するまで待機することとなったが、その間に諸々の手続きは済ませておく。
なんなら懸賞金も貰えるようだが…これ以上お金を貰っても困るので、お金については彼をここまで運んでくれたヒソカに渡す。更に加えてなにやらハンターとしての功績にもなるとのことで、こればかりは実際に打ち倒した私が貰っておくことにした。
(自分がシングルの状態で弟子が星を得るとダブルになって、更に加えて多分野でも功績を挙げるとトリプルになれるんだっけ? まあ今回のは星が貰える程に大きな功績でも無いみたいだし、一々気にしないでいっか)
なんやかんやで半日近くは時間を使ったが、なんとかビノールトの引き渡しは完了。結局死刑は免れない気はするが…まあこういうのは司法に委ねるのが一番だと割り切るしかない。人間は社会に生きる生物なのだ。
▽ ▽ ▽
取り敢えず目下の課題であった一時帰還方法は確立出来たということで、次は資金運用をお願いしていたマーメンさんに連絡を入れる。日付を見るとちょうど『付与理論大全』の発売翌日だし、売上の速報とかも気になるところだ。
「あ、マーメンさん、お久しぶりです。クーデリアです。一時帰還しましたので連絡差し上げました。今お時間大丈夫ですか?」
「ちょっと立て込んでますが…10分であれば」
ちょっとお疲れのようであるが、貴重なお時間をいただけたので雑談は控えて要点だけを確認。預けた1000億超のうち、300億ほどをゼビル島の向こう百年の環境保全に活用、残りで経済的な理由による未就学児を支援する名目で、特別学校の設立が予定されているようであった。
既にマーメンさんの手から離れ、半ば公共事業として進んでいるようなので詳しいことまでは分からないが、ハンター協会にはそれなりの数の感謝の声が届いているらしい…まあ丸投げした手前、せめてその後の顛末くらいは確認できたのは良かったと思うかな。
――尚この時。現場主導にて学校の敷地内にクーデリアの銅像が建てられようとしていることについては、マーメンには当然知る由もなく……それがクーデリアにまで伝わることは、最後まで無かった。
「あーあと『付与理論大全』はちゃんと売れてます? 付与師は全体の1%くらいはいるらしいので、百万部くらいは売れそうですかね?」
「いやそれが…先月…クーデリアさんがゲームを開始したあたりで解禁された予約の段階で、既に五百万部の注文が入っていてですね…。適正とは関係無しにもっと魔法を知りたいという層がやはり多いみたいで…」
「あ、ああ…成程。確かにそういう人も多かったですね。社交界では魔法の知識がないと笑われるとかなんとか?」
「はい…それで売上ですがまあ、千万部は軽く見込めるかと思われます。頁数も600超と『紫華の魔法理論』より分厚いですし…よくもまあここまで売れるなと…」
「あ、あはは…元世界ではポータル用の分冊版も出てるくらいですから…ちょっと分厚過ぎましたね!」
「まあこちらとしては喜ばしいことではあるのですが…ああ、発行印税については既に入金済みだと思うのでご確認を。そうは言っても困っちゃいますよね…? 使えなくて…」
「あっそれなんですけど、後日送付する一覧に記載されている各種素材を、天空闘技場のヒソカのフロアまで届けてくれますか? 購入と依頼の資金として百億ほどそちらに振り込むので、協専のハンターに依頼を出しておいてください。お忙しいとは思いますが、後ほどよろしくお願いします。」
素材集めの依頼について、マーメンさんの了承を取れたところで電話を切る。
いやあ助かった。お金はまだまだあるどころかどんどん増えるし、千億使ったはずが既に半分近く回復していた。恐ろしいものである。
因みに先ほど依頼していた素材集め。実は私はゲーム内の小人達に、マジックアイテムの作成を依頼しているのだ。
えっ?そんなもの作れたのかって?
そう…実は作れるのだ。私。
とはいえ普段はやらない…というかやる必要がない。何故なら元の世界では買ったほうが早いからだ。
しかも作るにしても質の良いもの、高機能なものを作ろうとすると、それ相応に時間も素材も山程必要で…はっきり言って割に合わない。仕事として設備が整った工房で大量に作るならまだしも、1から自作するのは非常に大変なのだ。
(それなりに実用的なものを作るなら200時間は欲しいからね…流石にそこまでの時間を浪費出来ないし、素材がないから作れるものも限定的とコスパが悪すぎる)
最初の数日の試運転により、小人達もまた私と同程度にマジックアイテムを作れることは確認済み。どうやら彼らには主人と同等の能力を得る性質があるらしく、私が主人である場合は、ある程度の魔法も扱えるようなのだ(私は寝てるから観測してないけど)。
素材も時間もない試運転なので、出来上がったものは『ちょっと光る石』とかいう殆ど無価値なものだが…それでも作れるというのが重要である。
付与魔法と違って大体数年は持続するので、日持ちも良いのがマジックアイテムの特徴。…石についてははっきり粗悪品なので、光も三日後には消えちゃったけどね。
(今あり合わせの素材で作ってくれてるのが大体20日目…進捗は七割くらいだったかな? 島の外だと寝てても機能停止してそうだから、完成はまだもうちょい先だね…)
これについては正直大した機能は搭載出来ていないが、ハンター協会に依頼した素材が揃えば、本格的なマジックアイテムも作成できる…はず。そのレベルとなると400時間は掛かるだろうから…大体二か月くらい?
正直自分で作るには時間が勿体なく、寝てても作ってくれるからこそのものではあるのだが…それでもそれなりに有用なものになるのは間違いない。
(ゲームクリアに役立つかなあ…? その頃にはもう殆ど終わってたりして?)
▽ ▽ ▽
(えーと次はメンチさんだね。繋がれば直接…駄目なら留守電で来月あたりにでも返事聞ければ良いかな?)
幸い電話は直ぐに繋がったので、メンチさんとは直に話すことが出来た。先月に渡したお詫びについては喜んで貰えたようで…その後の会話も楽しく盛り上がった。
さて本題ということで、グリードアイランドには未知の食材も幾つかありそうなことを伝えたり、一緒にゲームをやれないかを誘ったりしたのだが……どうにも彼女は現在とても大きな案件に仕掛中とのことで、来年にならないと空きが出ないとのことだった。
それは大変と一瞬諦めモードになりかけた私であったが、流石にあと二か月程度でクリア出来るとも思えない。
そこで私は天空闘技場に来てライセンスを提示すれば、ヒソカのフロアまで案内して貰えるように事前に話を通すというウルトラCを思いついたので、それをメンチさんに伝えたところ、それならばと快諾をいただけた。
(グリードアイランドはセーブを考えないなら何人でも入れるからね。メンチさんのタイミングでゲームに入ってもらえれば問題ないし、街には伝言板とかもあるから、仮に『
一応のゲーム開始予定日としてざっくりとした日付は確認できたので、その期間中だけでも伝言板を意識しておけば、きっと合流は叶うだろう。
▽ ▽ ▽
「次は天空闘技場に届いてるキルアの武器だったかな…詳細は秘密だけど、ちょっと重いから気を付けてとは言ってたっけ…?」
保管庫に入っていた箱を取り出そうとするが…お、重い! いや普通に持てはするが、本当に重い…というよりサイズにそぐわないというのが適切か。
「ええ…中身は何となく分かるけど…いったい何で出来てるのコレ? 掌サイズの二つの物体だよね?」
比重的に金より重いイリジウムやオスミウムを使っても、このサイズだと2kgが精々だ。なのにこれは一つで50kg近い。特注の合金と言い張るのは流石に無理がある。
(念で作られた武器…かな? これもある意味、この世界のマジックアイテムだね)
「随分と恐ろしい武器だね♣ 『周』で強化すれば、人体どころか装甲車でも貫通するんじゃないかい?」
「市場にも少量とはいえマジックアイテムも流れ始めたみたいですし…今後はこういった強力な武器も増えるのかもしれません。まあこれは魔力を感じないので、多分何らかの念能力産でしょうが…」
最後にリールベルトさんの試合日程等を確認しようかと思ったが、お出かけ中か彼には直接会えなかった。
聞いた話では中々相手が見つからないらしく、今は空いた時間でどこかに遠出しているようだ。
(ヒソカもだけど、強すぎると対戦相手が見つからないんだよね。皆避けちゃうから…)
このまま不戦敗だと流石に可哀想だなあとは思うが、まだ日数には余裕があるし、私からはどうする事も出来ない。こればかりは自分で頑張っていただくしかないだろう。
▽ ▽ ▽
外での用事は一通り済ませたので、一泊だけしてまたグリードアイランドへ。ここからは当然徒歩である…。
(そもそも外に出るとフリーポケットカードが全滅するから、中で仲間が控えていない限りはどう足掻いてもマサドラまでは徒歩なんだよなあ……この仕様、何かに使えないかな?)
ビノールトから奪ったカードの中にも少ないながら移動系の呪文カードもあった気がするが…預けてる相手が絶賛修行中なので迎えに来てくれることもないだろう。
なのでここは潔く良く諦め、ヒソカと二人、あの岩石地帯までの道中を、ただ只管に突き走る。
それこそ念もあり、付与もありの全力疾走…半分飛んでるように駆け走ることで、その速度はかつてのハンター試験時の比ではない。
この速度ならお届け物を待つキルア達との合流に、一時間とも必要ないだろう。
(この速度に付いてくるヒソカも大概だよねぇ…しかも100kgくらいある荷物まで持ってくれてるし…)
そのあまりの速度を遠目に観測していた一部のプレイヤーからは『爆速宅配ピエロ』『青の物の怪』等と揶揄されていたようだが…そんなことは露と知らない私たち師弟であった。