とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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50.グリードアイランド編⑧

 

「よーし!それじゃあ修行の成果を見せるぞ!」

 

 ゴン君の前には大岩が一つ…何というか、試し打ちに都合が良い手頃な岩だ。

 

「まずは範(・)囲(・)が(・)狭(・)い(・)も(・)の(・)からだね…」

 

『最初はグー…ジャンッケンッ!』

 

 構えを取り、ジャンケンそのままの掛け声で『硬』を使うゴン君……成程、恐らくこれが正(・)々(・)堂(・)々(・)と(・)や(・)る(・)方(・)の『発』。声を発して構えるという行為は『これからお前を攻撃する』と言っているに等しい。それが制約となってか、彼の拳に集まるオーラ量は、普段の倍ほどに膨れ上がっているようにすら思える。

 

『チー!!』

 

 そしてその恐ろしい程のオーラが籠った拳が、猫(・)の(・)手(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)形(・)に変形し、そのまま大岩に突き刺さった!

 

 岩には、拳の形そのままの穴が残される――

 

「的確な局部破壊攻撃だわさ。邪拳のチョキを、キチンとものにしている証拠。」

 

(なんか邪拳とか聞こえたけど…大分えげつなくない? 文字通りの必殺技なんだけど…)

 

 ホッと一息ついたゴン君はまたも構える。

 

「じゃあ次ね」

 

『最初はグー…ジャンケン!パー!!』

 

 今度は勢いよく掌底が叩きこまれたと思えば、その位置とは逆(・)側(・)か(・)ら(・)破壊音が聞こえてきた。

 

「パーは内臓破壊…。ただ押し込むだけからきちんと成長してるわさ。」

 

(…大丈夫? 暗殺拳法家にジョブチェンジしてない? いやゴン君は必殺技を求めていたし、本当の意味で必殺技ってことで何も間違ってはいないんだけど…)

 

 最後に見せてくれたのは『グー』であり、これは分かりやすく外部破壊。

 最大火力を叩きこまれた大岩は哀れ爆発四散!サヨナラ!…諸行無常である。

 

▽ ▽ ▽

 

「合格だわさ。系統としては全て強化系で固めつつ、拳の形と体の動かし方でその効果を変える。古武術を取り入れた立派な『発』として及第点よ。これで心置きなく、ゲーム攻略開始を許可出来るわさ。」

 

「よっしゃーー!! やったよキルア!お姉さん!ヒソカ!」

 

「おめでとさん。まあチョキについては俺の方でも結構指導したからな。これくらいはやってもらわないと困るぜ?」

「ええと…おめでとう。何というか…凄い正々堂々な『発』だと思うよ?」

「同じ構えから効果が異なる三択を迫る♥ 相手からすると少しいやらしいだろうね? それこそ君ならいずれ、相手の動きを見てからより効果的な手を選択出来るようになる♦ 最終系は理不尽な後だしジャンケンてところかな?」

 

 三者三様な返答を受けつつも、ゴン君は心の底から嬉しそうだ。恐らくものにするのに随分と苦労したのだろう。その後、ビスケさんからこの『発』の源流についての解説が入る。

 

 その昔、破壊のみを求めているものと誤解され、武術全般が邪拳と呼ばれ迫害・禁止されていた時代があり、その中であっても武術家達は戯れるふりをして修行を続けていた。という逸話を紹介してくれるビスケさん。どうやらゴン君はこの話からインスピレーションを受けて、邪拳⇒ジャンケンの連想ゲームで発の原案が固まったとのことだ。

 

(成程ね…殺傷を目的とした古武術が元なら、そりゃああいう形にもなるか。自分の系統以外はどうしても習得には時間が掛かるし、この短期間で実戦で扱えるレベルで形にするという意味では、最適な選択だったかもしれないね。…もしかすると隠密特化の発も後で開発予定なのかもしれないけど、それは変化か放出にでも寄せるつもりなのかな?)

 

 などと考えていたら「もう一個あるよ!」と意気揚々と紹介してくれた。

 発展途上とはいえ、自分の能力をこうもあけっぴろげに公開してしまうのは考えものである…まあ、ここには仲間しかいないしそれは良いか。

 

「でもそっちはまだ形にもなってなくねーか? 現状ただの『周』だろ?」

 

「ま…まあそうだけどさ、それでもちゃんと使えるから!」

 

 キルアとのやり取りもそこそこに、今度は釣り竿を掴んだ状態で座り込み…『絶』をする。完全に気配を絶ったその状態で…手に持つ釣り竿だけがオーラを纏う。

 

(これは…『硬』と『周』と『隠』の複合だね。身体のオーラは絶で消しつつ、釣り竿だけにオーラを集中。その上でそのオーラを隠す…。『凝』を使えば見破れはするけど、そもそもこれは『絶』で尾行した相手への最後の詰めで使う能力のはず…『凝』で索敵中の相手には焦って使わず、機を窺えばいい話)

 

 その状態で釣り竿を振るうことで、伸ばされた釣り糸の先端にあるオモリが大岩の残骸へと叩き込まれ……そのままの勢いで岩塊を砕き、粉々にしてみせた。

 

「よしっ!……本当はオーラを刃状に変化させてズバっと斬りたかったんだけど…まだ全然オーラの変化が出来ないから、今はこれがやっとかな? 放出系も組み込めば、横に振って刃状のオーラを飛ばしたりも出来るんじゃないかってキルアは言うんだけど…」

 

「ヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』も手元から離れても十分強力だろ? だったらより放出が近い強化系なら、ゼッテーやらなきゃ損だって!」

 

(最終的には完璧な『絶』で隠れてる人間が、背後から釣り糸と同時に斬撃も飛ばしてくる…ってこと!? しかも多分能力の方向性的に『隠』は標準搭載だから、『凝』を怠ると完全に不可視……あれおかしいな? キルアじゃなくてゴン君が元殺し屋だったっけ?)

 

 

▽ ▽ ▽

 

「んじゃ次俺な。まだフル充電でも一発が限度だけど……度肝抜いてやるぜ?」

 

 ぴょいと軽く飛んで新たな大岩の前に陣取るキルア。今回は武器のヨーヨーは使わずに、純粋な『発』だけの威力を披露したいようだ。

 

(あのビスケさんが既に合格を出している『発』…ということは、まさかもう既にあの魔法をモノにした? まだ教えて一か月も経過してないアレを? …だとすると、キルアは間違いなく超がつく程の…)

 

 そのまま岩の前で精神を統一するキルア。――その直後、バチリッという音がしてキルアの周囲に電流が迸った。キルアは淀みなくそれらを帯電させ、纏め、蓄積し、圧縮する。右手に集約された圧倒的な雷光が周囲を照らし、そして……

 

 

《雷電天穿(あまついかづち)》

 

 キルアがその右手を前に突き出した直後。

 人一人を軽く包める程の暴虐的な雷の奔流が、標的となった大岩に殺到し、衝突。

 

 周囲一帯の空気が震え上がるほどの衝撃と共に、岩肌が弾け飛ぶ。

 内部まで食い込んだ雷撃が一瞬にして大岩を駆け巡り、その巨体を無数の破片へと変えていく。

 

 やがて雷光が消えた後に残されたのは、見る影もなく砕け散った岩の残骸だけだった。

 

 

「……念覚えて1年未満でこれとか何かの冗談だわさ」

 

「溜めが長すぎるから、実戦で使うなら威力半減だけどなー。使ったらもう空っぽだし…使い勝手も悪いから多分言うほどでもないぜ?」

 

(……キルアは何やら謙遜しているが、間違いなく不世出の天才だ。私も仲間や周囲からは、やれ天才だ、やれ付与の神だのと持ち上げられてたけど…それに負けない才能の持ち主だと断言できる。)

 

(更に驚きなのが…雷を纏ったキルアは、まるで身体に『雷』を付与しているような状態だった! 勿論まだまだ未熟なひよっこ付与師程度だけど、それでも確かに、身体が電気を受け入れていた!)

 

「ねえキルア…? キルアは私が渡した『付与理論大全(雷部分抜粋)』を読んだんだよね? それで…どうしたのかを教えてくれる?」

 

「おっ!さっすがクー子!分かっちゃうかー!」

 

 キルアはまるで、クラスで自分だけが100点を取ったことを親に知られて褒められる子供のように、自慢気に語り出す。

 

「そうそう。『付与とは与えるものでなくて、その性質を一時的に書き換える術』…これ読んで俺はハッとしてさぁ。俺は…というか俺の家の人間は、己の身体を用途に合わせて操作することが出来るんだよね。」

 

 そう言って指を鋭利なナイフのようにビキビキと変形させ、またすぐに元に戻してみせるキルア。

 

「やってることって…付与と似たようなもんじゃね? て思ってさ。だったら、自(・)分(・)の(・)身(・)体(・)を(・)雷(・)に(・)合(・)う(・)よ(・)う(・)に(・)操(・)作(・)し(・)ち(・)ま(・)え(・)ば(・)良(・)い(・)んだって…気付いちゃった訳なんだよね? まあ電流に耐えれてる時点で元から、大なり小なりやってたんだろーけど……改めて意識してやってみると、全然違くてびっくりしたよ!」

 

 

 ……納得は出来た。この子はきっとその辛い暗殺者としての半生の中で、それが可能なだけの下地を鍛え続けてきたんだ。

 

 

 恐ろしい…でもそれ以上に哀しい子。

 日常が地獄だったはず…今こうして笑顔でいられるのが奇跡的なほどの……。

 

 

 ――私が抱いたこの思い。

 それは、慈しみをもってキルアを見つめるビスケさんが抱いている思いと、おそらく同じものなのだろう。

 

 キルアという人間を表すのに、これ以上相応しい言葉は、きっと世界のどこを探しても見つからない。

 

 

 

「凄い威力だけど、そのエネルギーは一体どこから来ているんだい? 何の制約も無しはあり得ないし、さっきは充電と言っていたけど、それだけだと酷く時間が掛かりそうにも思えるよ♦」

 

「ちょっとツテがあってね……100万Vまで電圧上げたこの特殊改造スタンガンなら、フル充電まで30分もかかんねーのよ」

 

 

(……そのツテは多分、リールベルトさんだよね?)

 

 

 

――――――――――――

 

『ジャン拳』※後に『ジャジャン拳』

・強化系能力

 

 やっていることはただの硬での攻撃だが、そこに武術的な要素をミックスしている。ゴンは武術の知識が疎く、それにより習得に難儀していた。キルアが主にチョキを、ビスケが主にパーを担当して指導を重ね、特定の動きを身体に覚え込ませた結果、ついに形になった発である。

 

 特に内部破壊のパーは難易度が高く、一流の武術家でも無いゴンの付け焼き刃では成功率が高くない。現状の成功率は十回に一回ほどだったりするので、今回成功したのは割とたまたま。蟻編序盤でゴンのグーをガードしようとした蟻程度であれば、パーで確殺が可能。

 

 

『静かな狩人(サイレントハンター)』

・変化+放出系能力(予定)

 

 現時点ではまだ系統別の要素は盛り込めていない。本編での解説通り、念技術の応用てんこ盛りの発である。

 

 ゴンの変化・放出が形になるのは蟻編以降であるため、G.I編では系統別要素は無し。それでも『硬』に相当する攻撃が『隠』ありで奇襲してくると思えば大分ぶっ壊れの恐ろしい能力だったりする。鋼糸使いが気配を絶って襲ってくる図をイメージ。

 

 

《雷電天穿(あまついかづち)》

・変化系能力

 

 キルアが再現したクー子最大の雷魔法。

 帯電 → 蓄積 → 圧縮 を経て、一気に放電する。

 

 尚、名前についてはクー子のオリジナル…というのも「もし仮に属性魔法として扱うなら~」という仮定で即興で命名されているため、クー子世界で広く認知されている訳ではなかったりする。

 

 純粋な威力としては落雷を上回るため、念能力者でも即死する可能性あり。

 

 因みに付与魔法の概念を学ぶことで、充電による痛みは徐々に緩和されていっている。その分『充電時に痛みを伴う』というキルアの隠れ制約を脅かしているが、電気への身体の最適化が進むことで、制約違反の減衰を相殺している。*1。

 

 恐らくこの世界のキルアは、『神速(かんむる)』の習得が原作よりも若干早いと思われる。

 

*1:
制約云々は本作の独自解釈です。





才能だけなら長いゾルディック家の歴史の中でもピカイチと、ミルキにすら言われる才能の塊がキルアなので、この程度のことは平気でやってきます。

でもそこに至る過程はやっぱり哀しいコです…
ビスケ最高の名台詞(モノローグ)だと思ってます。
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