とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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前話の最後が1999/11/14
今話が1999/12/20
原作でハメ組が壊滅したのが1999/12/29です。

今回はかなり筆が乗りましたね!


52.グリードアイランド編⑩

 

 ゲーム開始から101日…攻略開始からは69日、ゴン君達と合流してからは55日が経過した。

 

 ハンター協会に依頼していた素材各種は先月には回収し、私の就寝中には毎日合計14人の小人達がマジックアイテムを作成中だ。依頼窓口が二つになったことで、作成するアイテムも二種類同時に依頼出来ている…完成については来月以降といったところだろう。

 

「ついに85種に届きましたけど…ここからが壁ですね。ハメ組からの攻撃も面倒ですし、逃走前に撃退して捕えても、実行役は最低限のカードしか持っていないしで旨味が薄いです…。」

 

「人質交換で奪われたカードは戻って来たけど、やっぱ『堅牢(プリズン)』が欲しいよなー。あれで指定ポケットカード全部保護してないと、正直キリがないぜ?」

 

 『堅牢(プリズン)』を入手してそれを複製して増やすことで、指定ポケット全てを相手の攻撃から完璧に保護出来る訳であるのだが…それを独占して保護させないのが、60名以上のプレイヤーで構成されている、通称『ハメ組』という存在。

 

 散発的に現れてはカードを奪っていく彼等には私たちも頭を悩ませており、実行役を撃退しても根本的な解決にはならないと…非常に面倒な相手である。

 

(バッテラ氏からの500億の報酬がクリア目的で、末端は2,3億程度の報酬って話なんだよね…。だから捕えた実行役は人質交換前にお金(5億即金)で転ばせてスパイになってもらったけど、出来ればリーダーのニッケスって人と交渉がしたいなあ……流石に埒が明かないよ。)

 

 私の口座はまたも2000億を超えていたので、何なら500億を私が払って解散…または配下に降っていただくことも視野に入れている。お金については、魔法が関わる何らかの組織や組合が発足して利益が発生する度、私に数%のロイヤリティが入る契約だとかで、収入は鈍化どころか今でも加速中なのだ。

 ……この辺はパリストンさんの手練手管と思われる。

 

(ツェズゲラさんもこれでカード渡してくれないかな……いや無理か。あの人はクリア報酬を渡して仕事を完遂した上での報酬に拘ってそうだし、お金だけでは転んでくれそうにない。マネーハンターだそうだけど、その辺りは依頼を受けたプロとしてのプライドだろうね。)

 

「裏でニッケスさんとは話を付けてくれてるそうですし、進展があったら『交信(コンタクト)』が来るそうなので気長に待つしかありませんね。向こうも指定ポケットカードを80種以上抱えてるみたいなので、合わせれば90種を超えるでしょう。」

 

 …そうなると残りはツェズゲラ組に独占されているであろうNo001『一坪の密林』、No080『浮遊石』、No085『身代わりの鎧』。そして手掛かりすらないNo002『一坪の海岸線』くらい。No017『大天使の息吹』についてはハメ組が呪文カードを独占しているから交換が難しいだけなので、懐柔が出来れば一気に解決する話だ。

 

「ゲームも終盤になると、結局対人戦になる辺りバランスが取れてるわさ」

 

「もう面倒だし、ハメ組(彼等)のアジトに強襲しないかい? そっちの方が楽で面白いよ♥」

 

「…あと三日は待ちましょう。交渉が決裂するならそれもアリです。ゴン君も良いね?」

 

「う…う~ん。まあ、話し合いを拒否されたんなら仕方ないのかな?」

 

 ハメ組が戦闘能力に欠ける集団というのは既に確認済み。……とはいえ60人近い念能力者集団をまとめて相手取るのは流石に危険が過ぎる。実際に実行に移すならばお金パワーで背信者を増やして、一気に制圧するのが現実的だろう。

 私の予想では断る理由も無いとばかりに、諸手を挙げて協力してくれると思っているのだけど…。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

――ハメ組のアジト

 

「今日は皆に聞いて欲しい話がある――」

 

 ハメ組は5年前に結成した初期メンバー10人を中心としつつも、実質的なリーダーを務めているのはニッケスというプレイヤーである。その彼がアジトに集まった63名(ニッケス含む)のプレイヤーに対して重要な説明を行う。

 

 一部のハメ組メンバー…特に今年の9月以降にゲームを開始したメンバーの大半はその存在を認知していたようであるが、『クーデリア・リーフィス』というプレイヤーから

 

「500億は私が払うので、ハメ組は解散、集めたカードは全て渡してくれませんか?」

 

という打診があったことを集まった全メンバーに伝えたニッケス。

 

 それこそ大富豪バッテラのような法外な金銭を背景にした交渉には半信半疑なものが多く、当初は懐疑の念からの反論が噴出したが、新規参画組から彼女の確かな資金力の裏付けを聞いてからは、大半のメンバーが納得した。

 

 相手は島の外では『全ての魔法の母』とまで称される、発行部数一億部越えの超ベストセラー作家。しかも一冊2万…つまり印税が10%で最低2000億の資産が見込めるともなれば、その信憑性は格段に上がる。バッテラ氏に競り勝ち、グリードアイランドを一つ自分で落札しているという話に加え、メンバーの中には彼女の信奉者を自称すものまで含まれれば、性質の悪い嘘っぱちと断ずる方が難しい話になってくる。

 

「……念のためここ数年、このゲームに籠っていたメンバーに一度外に出て確認してもらったが、話に嘘は無いことの裏付けが取れた。件の学術書、『紫華の魔法理論』と『付与理論大全』の現物までがここにある。俄かには信じがたいが…我々がこのゲームに長年籠っている間に、島の外は大変革期を迎えていたようだ。」

 

 まずは前払いで250億、ゲームクリアのタイミングで更に追加で250億払うというぶっ飛んだマネーパワーに一同は慄き、賛同の声が多数を占める中……そこでゲンスルーと呼ばれる初期メンバーの一人が声を上げる。

 

「1つ、俺からもいいか?」

 

「5年…長かったような短かったような…ここで皆さんに、言っておかねばならないことがある。」

 

「――俺は『爆弾魔(ボマー)』だ。」

 

 ゲンスルーは初期メンバーの一人ということもあり、今回の件についてもニッケスからは事前に相談を受けていたのだが…実は彼には真の仲間が二人控えており、機を見計らってハメ組を裏切るつもりで、5年という月日を掛けての壮大な仕込みを既に終わらせていたのだ。

 

 不穏を感じて先んじて制圧に動いた、ハメ組の中でも最も実戦に優れたジスパーというプレイヤーも、ゲンスルーの『一握りの火薬(リトルフラワー)』により一瞬で返り討ちにされてしまう。残る61名のプレイヤーは、そのまま流れるように進められる彼の能力の説明を聞き続ける以外の思考を封じられてしまった。

 

 ……彼等はゲンスルーが己の能力を説明し終えるまで動くことも出来ず、気付いた頃には既に、ゲンスルーの能力発動条件を満たしていた。

 

 装着者の鼓動が6000回を超えると起爆する強力な爆弾『命の音(カウントダウン)』が、ハメ組全員の身体に装着された状態で作動する。

 

 爆弾の作動を確認したゲンスルーは指定ポケットカード76種を要求。彼が所持している分を合わせれば85種となる計算であり、もし要求が通れば一気に所持ランキング同率2位にまで躍り出ることになるだろう。

 

 解除方法はゲンスルーの身体に触れた上で「爆弾魔(ボマー) 捕まえた」と言うことだけ。集団で襲いかかられることを最初から想定していたゲンスルーが、予め用意していた『離脱(リーブ)』でゲーム外に飛ぶことで、ハメ組は彼を逃がしてしまったのだった。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

 バッテラ氏所有の古城、起動中のゲーム機が並んでいる部屋でゲンスルーが待つ。

 

 ――爆弾作動から約25分後、そこに現れたのは新規参画組の一人、プーハットであった。

 

「意外だな。てっきりニッケスが来ると思っていたが」

「こっちもな、複数で待ち構えてると思ってたぜ」

「ん? その通りだよ?」

 

 ゲンスルーのその言葉と同時に『絶』を解除して気配を現す二人、サブとバラ。彼等こそがゲンスルーの真の仲間であり、プーハットを遥かに上回る一流の使い手である。そのままプーハットの指輪…セーブデータを要求するゲンスルーであるが、ここでプーハットが交渉を開始する。

 

 交渉の要旨としては、『要求を飲むかどうかで結論が出ないままなら共倒れ』ということ、そして『自分なら上手く仲立ちできる』という内容である。

 

 しかし仲間を増やす気は一切無いゲンスルーはこれを拒否。『ゲームの外ではプレイヤーを殺しても指輪のデータは消えない』という裏ルールを把握していたゲンスルーは、プーハットの首根っこを掴んだ状態で容赦なく『一握りの火薬(リトルフラワー)』を発動。

 

 プーハット程度の使い手であればこれで即死

 

 

 ――しなかった!

 

 

「ん?ヤケにタフだな? その程度のオーラで防げるとは思えんのだが…?」

 

「本当だな…ただもう死にかけだぜ? さっさともう一発で殺っちまえよゲン」

 

 (あ…危ねえ! こいつら俺の指輪に指定ポケットカードが無いことを見抜いてるのか!? た、躊躇いなく殺しにきやがった…!

 

 見誤ったぜ…こいつは冷静にイカれてやがる!

 ……は、はっきり言って、もう俺は助からんだろう)

 

 本来であれば即死していた筈のプーハットであるが…実は彼には魔法の適性があった。それも『火』と『水』の2属性を得意としたハイブリッドである。相手が爆弾魔(ボマー)であることは既に知っているため事前に備えていたことが功を奏し、なんとか一命を取り留めることには成功した。

 

 しかし、状況は変わらず多勢に無勢、この窮地を抜け出して生き残ることは不可能と断ずる他ない。

 

(だ…だったらテメーも道連れだ! この顎メガネヤローが!! 三人まとめて地獄で後悔しやがれ!!!)

 

 

 

 

『一握りの火薬(リトルフラワー)』

 

《超可燃性汗男(スーパーオイリッシュ)》!!

 

 

 

 

――1999/12/20

 

 この日、バッテラ氏所有の古城で大(・)規(・)模(・)な(・)爆(・)発(・)事(・)故(・)が発生。即座にスプリンクラーが作動したことで延焼は免れたが、三名が重体、一名が死亡する騒ぎとなった。

 

 古城はバッテラ氏の私有地にあり、立ち入り禁止区域にも指定されていることも手伝い警察が出動するような事態は発生しなかったが、複数のグリードアイランドが並べられていた一室は全壊。幸い念のガードによりソフト及びゲーム機本体は無事であったが、ゲーム内のプレイヤーの進捗を確認できるモニター類は全滅していた。

 

 半死半生の重体に陥ったゲンスルー、サブ、バラの三名は駆け付けた警備により治療室に搬送。事故の発生原因を聞きだすためにも懸命な治療が開始されたが、そこに中々戻らないプーハットの様子を見に来たニッケスが合流。まずは自分の爆弾を解除したニッケスは、説明は後で必ずすると言い残してゲーム世界に帰還。

 

 本来であればゲンスルーをゲーム世界にまで引っ張りたいところであるが、意識すらない今の彼が『練』をすることは不可能なので、それは諦めるしかない。……加えて爆発の影響で彼の指輪も一緒に紛失してしまっており、時間が無い今はその回収すらままならないという、かなり切迫した状況である。

 

 残された彼等は誰もNo086『挫折の弓』を所持していないため、『離脱(リーブ)』の数が足りず、このままでは50人以上の人間が爆死してしまうだろう……そこで妙案を思いついたのが、どこまでも冷静で優秀な男、アベンガネである。

 

「交渉に応じる予定だったクーデリア・リーフィスに助けを求めよう。彼女たちなら『挫折の弓』を所持している可能性は高い。複製については俺達が山ほど所持している呪文カードを提供すればいいだろう。」

 

 これを聞いた直後、「それしかない!!」

 という勢いで全員まとめて『同行(アカンパニー)』で飛んだハメ組。

 

 いきなり60人近い人間…それもハメ組のメンバーが飛んできたことに面食らい、まさか今ここで全面戦争か!? と身構えるクーデリア一行に、病気がちな山賊もかくやという勢いで全員が土下座を敢行。

 

 事情を説明して指定ポケットカード76種(後に古城の外にまで吹き飛んでいたゲンスルーの指輪も回収して85種)全てと、独占していた『堅牢(プリズン)』全てを融通することで、爆弾を解除出来ていない全員を離脱させることに成功した。重症だったジスパーについてのみ…解除ワードを自力で発声することが出来ず、勇者プーハットと同じく尊い犠牲となってしまった。

 

 

「あー…その…皆さん。大変でしたね?

 お二人が犠牲になったとのことで…ご愁傷様です」

 

 期せずして60人の命の恩人となったクーデリアであるが、この状況を利用しない手はないと言葉を続ける。

 

「想定外の事態で事実上のリタイアにはなってしまったかと思いますが、こちらとしては追加の交渉の用意があります。あなた方残り60名、私たちのゲーム攻略を手伝って頂ければ、クリア時に一人頭5億を支払うことを約束しましょう。ツェズゲラ組が独占しているカードの入手や、No002『一坪の海岸線』に繋がる有力情報の入手に成功した方には、追加で10億をお支払いします。……それでいかがでしょうか?」

 

 命を救われたばかりか、既に完全に諦めていた筈の大金ゲットのチャンスである。

 一も二もなく賛同を集め、総勢60名の元ハメ組メンバー全員が、クーデリア組の配下となったのであった。

 




プーハット、ジスパー死亡
ゲンスルー組、再起不能(リタイア)

原作のゲンスルーはお金+クリア報酬も欲しがってましたので、このタイミングで裏切りました。
250億受け取った後だとハメ組は解散してしまうので、予定を前倒した感じです。

ただ両方入手するためにはバッテラ氏を脅す必要があったと思うのですが…彼らは現実でもお尋ね者になる気だったんですかね? 
1枠くらいは懐柔用にしておけば問題ないか…?
例えば『コネクッション』あたりに無理矢理座らせれば解決ですね。

あと『挫折の弓』ってランクAなので持ってそうなもんなんですけど、原作では『離脱』についての言及ばかりで全然使う気配がないので、ゲンスルーが持っていた9種の中か、入手して無いかのどっちかだろうと睨んでます。本作ではゲンスルーが持っていた(集団での追撃を恐れて確保していた)という設定にしてます。
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