とある付与師の帰還録   作:さくさくの森

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〇〇魔法に適性がある。という作中表現は基本的に、得意・才能があるという意味です。
魔法適正さえあれば理論上はどんな魔法でも習得可能ですが、習得倍率は0.0001~100で変動します。

100が人類最高峰の才能なので、普通は得意分野でも20~80程度です。


54.グリードアイランド編⑫

 

 ──ツェズゲラ組との頂上決戦から一夜明け。

 

 さあNo002を狙ってのローラー作戦…と意気込んだのも束の間。勝手に先遣隊としてソウフラビで活動していた総勢20名の元ハメ組メンバーから吉報が届いた。どうにも10億の追加報酬に惹かれて勝手に動いたようであるが…確かな結果を持ち寄られてしまうとこちらとしても強くは言えない。とはいえ独断専行であることは事実として、10億は60人で山分けするように厳命した。

 

(正直ここまでの大人数の管理なんて無理だから、今後はニッケスさんに丸投げしよう…)

 

 ソウフラビにいる物憂げな顔をした女性NPCから聞き出せた情報は、様々な財宝が眠る海底洞窟の噂を聞きつけてやってきた海賊たち…『レイザーと14人の悪魔』。彼らを街から追い払ってくれれば、『一坪の海岸線』の場所を教えてくれるとのことだ。

 

(レイザー来た!! これでやっっっと、メンチさんの船の雪辱を晴らせる!! 序盤の情報収集と金策のモチベ源だったんだぞレイザー! もう一年近く前だけど、それでも許さんぞレイザー! どうせイベント発生条件は15人以上での『同行(アカンパニー)』とかそんなんだろレイザー! このゲームで15人以上が徒党を組むことなんて普通ある訳ないだろレイザー! そんなんだから誰からも発見されないんだぞレイザー!)

 

 15人以上の人間を求めているということは、最低でも15人が参加するイベントが控えていることは想像出来る。本音を言えば最初からこちらのフルメンバーをそろえた上で突貫したいところであるが…今はまだ12月29日。メンチさんとの合流には早いし、リールベルトさんのフロアマスター挑戦も31日の大晦日だったはず。

 

 ここはぐっと堪(こら)えて情報収集に徹するのが得策であろう。

 

「ということなので、私としては一秒でも早くレイザーの横っ面を叩(はた)きたいとこですが…今回は我慢です。勿論あんまりにも弱っちいならそのまま倒して終わりで良いですが、私の記憶が正しければ流石にそれはあり得ません。なので今回は『見』に回る方針で行きます」

 

「随分と因縁あるみたいだし、クー子がそう決めたならそれでもいいけどさ、今回のメンバーはどうすんの? 俺達+元ハメ組10人?」

 

「私たちがメンバーに入るにしても、あくまで形だけでいいでしょ? こっちの手の内を晒すのは避けたいわさ」

 

「流石に彼ら(ハメ組)じゃ露払いにもならないよ…♦ 誰か一人は表に立つ必要があるね♥ ボスにも会えずに帰されたら、それこそ僕らが馬鹿みたいじゃないか♣」

 

「じゃあ俺! 俺がやりたい!」

 

 最終的に皆の意見を取り入れることで、イベントに積極参加するのは私とゴン君の二人。ヒソカ、ビスケ、キルアの三人は完全に様子見に徹して、残りの10人は元ハメ組の人達で固めることとなった。今回は通常のゲーム攻略の一環ということで彼らへの追加報酬は約束していないが、それでもやる気は十分である。それもそのはず、恐らく歴代のどのプレイヤーも見つけていないであろうランクSSの激レアイベント…いちプレイヤーとしては参加したくなるのも人情だろう。

 

 ▽ ▽ ▽

 

 女性から海賊の根城を聞き出し、向かった先の酒場では頭にナイトキャップのようなものを付けた強面の集団が我が物顔で店を占拠していた。どうやら彼らが海賊の一味のようだ。一応ロールプレイに乗っ取り、さっさとこの街から出て行くように要求するが、面白い冗談だと笑われてしまう。

 

(う~ん、転がってるのは見たところ安酒だね。お約束のやり取りをしてくれるけど、多分この人達はNPCじゃなくて人間かな? そこまで生活水準は高くなさそうだけど、毎日お酒が飲めるのは良い御身分だね!)

 

 などと私が考えていると、海賊の中でも一際巨漢の男がおもむろに酒瓶の中身を振り撒き、それに火を付けることで即席の土俵を作り出す。どうやら彼をこの即席土俵の外に出せば、ボスに合わせてくれるのだそうだ。それも一度に何人でかかって来てもいいという大盤振る舞い! 他の海賊たちも手出しはせず、大人しく観戦してくれると随分とサービスが良い。

 

「あっじゃあオ「ゴン君ストップ!」

 えー!? お姉さんなんでよー!?」

 

『可能な限りは様子見って言ったでしょ? 大丈夫、多分出番はあるから』

『…本当? ならちょっと待つけど……』

 

 ゴン君への耳打ちは済ませ、蹲踞の姿勢で待つ巨漢の海賊に向けて今度はよく通る声で宣言する。

 

「こちらからは先鋒・次峰・大将の三組に分けて挑ませて頂きます! それでも構いませんか?」

 

「あ? どうでもいいから早くしろや。何なら姉ちゃんからたっぷり遊んでやろうか?」

 

「分かりました。では元ハメ組の皆さん、『練』を維持して全員で挑んでください!全員ですよ!10人まとめて行ってください!何してもいいので彼を土俵の外に出しましょう!」

 

 私の指示に面食らう元ハメ組メンバーだが、クライアントの意向に背く訳にもいかず、指示通りに『練』をしてからまとめて土俵入りする。

 

(だめだこの人ら…全然修行不足だね。

 あの程度の『練』に時間かかり過ぎ、

 これじゃあ念なしの私でも楽勝…)

 

 なにやら議論を呼びそうな回想を挟んでしまったが、相手側もまさか一度に10人も参加するとは思わず、一瞬押し込まれてたたらを踏むが……俵を超えさせるまでには至らず、今度は逆に、一人、また一人と土俵の外へと放り出されてしまった。

 

「けっ!10人もいてこの程度かよ! ざまあねえな…。

さあどうした!ビビッちまったんならさっさと出て行きな!」

 

「いいえまだです! 次鋒、ゴン君!!」

 

「よーし! いくぞー!!」

 

「おいおいおい冗談だろ? 今度は小僧一人か? たく…ハンデとしてオレはここから一歩も動かねぇからよ。さっさとかかって来いや。」

 

「ではお言葉に甘えて、ゴン君は好きにやっていいよ!

あと、あなた達は動かないでくださいねー。身体に『闇』を付与。ついでに衣類に『風』を付与。」

 

 急に濃い暗闇が発生して倒れている人間を包みだすという不可思議な光景に海賊たちは驚き、多くの視線がそちらに集中する。ゴン君を前に油断している巨漢の男も同様であり、集中を欠いたのか『纏』すら揺らいでいる状態だ。

 

(元ハメ組の低レベルな『練』が悪いというより、そもそも素の肉体スペックに差があり過ぎるんだよね。念なしだと天空闘技場の80階に届くかすら怪しい肉体と格闘センスじゃ、『練』を使ってすら『纏』の強者には負けてしまうだろう。今の私なら素の肉体でもミニじゃない試しの門を開けられるはずだからか、彼らの非力さが余計に目についてしまうね……キルア目線だとずっとこんな感じだったのかな?)

 

『最初はグー…ジャンッケンッ!』

 

 マネーパワーで配下になったとはいえ、仲間扱いするにはちょっとアレな元ハメ組の方々。ゴン君の『発』の情報漏洩対策は、きちんとさせてもらう。『風』での防音も完備だから、これで情報は漏れない筈だよね?

 

『パー!!』

 

 …………あ。

 

 

▽ ▽ ▽

 

 

「ボ…ボポボーーー!!? 大丈夫か!? いやこれ完全に逝っちまってるぞ!?」

 

「だ、大丈夫…だと思うよ? 失敗しちゃったから、ただの押し出しだし…」

 

「……もし成功してたら多分死んでたよ、このボポボって人」

 

 どうにもゴン君は彼がNPCだと思っていたようで、やられたらカード化するものだと思っていたようだ。一応彼もこの島が現実の島であることは既に知っている筈だが…襲い掛かって来る門番がランクFのNPCだったりもするこのゲーム、イベントの敵さながらの言動をしていたボポボをNPCと勘違いしてしまうのも無理はない。

 

(パーの内臓破壊は流石に不味いって…ゴン君の失敗に加えて、異変を感じたボポボがギリギリでお腹への『凝』を間に合わせたお陰で致命傷までは受けなかったみたいだけど…あれじゃあ数時間はまともに動けないだろうね。

 ……それにしてもまさか『パー』を選ぶとは…必殺技を使うだろうとは思ってたけど、完全に『グー』だとばかり…いくらNPCと勘違いしていたとはいえ、躊躇いなく内部破壊技を試すその精神性は正直どこか危ういと思う。まあ今回については私の監督不行き届きで私が100悪いんだけどさ…。いやゴン君の師匠はビスケさんだから実際は50,50だね。よし、分散した!)

 

 その後、ゴン君にはボポボがNPCではなくほぼ確で人間であることを伝え、今後のイベントでは相手を選んできちんと手心を加えるようにと釘を刺す。ゴン君は心底驚いたようで、他の海賊達にも平謝りしていた。……彼らの人間特有のぎこちない反応からしても、今この場にはNPCがいないということが察せられる。

 

 とはいえあちらが提示した条件通り、ボポボを土俵の外に出したことは紛れもない事実。

 

 特にごねられるようなこともなく、ボス…つまりレイザーがいる灯台を改造した要塞まで連れて行ってくれることとなった。

 

(流石はランクSSカードの専用イベント。前座の下っ端戦でもNPCじゃなくて人間を使うし、決戦も特別フィールドって訳だね! 気合入ってるなあ…。)

 

 要塞の中に入り、案内された場所は体育館のような場所。…いや、ようなというよりそのまま体育館である。

 

 しかし私からすればそんなことはどうでもいい。

 

 体操服に身を包み、両手でダンベルを持ち上げて筋トレを続ける糸目の男…

 

 

 宿(・)敵(・)レ(・)イ(・)ザ(・)ー(・)が(・)そ(・)こ(・)に(・)居(・)た(・)!(・)

 

 

「レイザー!!覚えてますか!? 私です!イータさんに伝言をお願いした、『紫華の付与師』ことクーデリアです!!」

 

「ん? お前は確か……そうか、ついにここまで来たのか。ああ伝言は勿論聞いたとも……この俺を、完膚なきまでに叩きのめすと? ゲーム開始から約110日…驚異的なペースではあるが、敢えてこう言わせてもらおう。」

 

「待(・)ち(・)わ(・)び(・)た(・)ぞ?」

 

 その言葉と同時に、レイザーが纏うオーラが更に数倍に膨れ上がる。それこそ本気の師匠(ヒソカ)に匹敵する程の膨大なオーラであり、元ハメ組(かずあわせ)は完全に戦意を喪失しているが、当然私はこの程度では怯まない。

 

「私が完膚なきまでに叩きのめすのは、船が無事じゃなかった場合です! 故にまずは聞かせて頂きます! 私とメンチさんをアイジエン大陸に飛ばした後、あの船はどうなりましたか!?」

 

「完全に破壊した。保全等は一切していない…これで満足か?」

 

「ええ…大満足ですよ。正直予想はしてましたし…これで一切の遠慮無しにやれますからね。

 全治一年は覚悟しろよレイザー!!」

 

「俺を前にそこまで吐ける馬鹿は何年振りか…ただまあ、そろそろゲームを進行しても良いか? お前のお仲間も困惑しているぞ?」

 

「アッハイ。お願いします。」

 

 勝負は15人の代表者を出しての勝負で、1人1勝で先に8勝した方が勝ち。勝負方法はレイザー側が決めるということだが、勝負のテーマはスポーツだそうだ。下っ端海賊がそれぞれ得意なスポーツで挑んでくるので、こちらはそれに勝っていくことが求められる。そして負けても特にペナルティは無し。完全に同じメンバーでの挑戦だけが禁じられるというのが唯一の枷であるが、まあ無いに等しい枷だろう。

 

 もう戦意喪失している人間が10人もいるのでは、既に負け確。

 私たちはここからは予定通りにきっちり負け、勝負種目だけを確認してから撤退した。

 

「なんだ。息巻いた割には随分と拍子抜けだな。ビーチバレーは御嫌いだったか?」

「バレーのルールすら知りません! 勝てる訳ないのでさっさと負けました!」

 

 正直これについては事実である。元世界にこういうスポーツってあんまり無い…というかプロスポーツ選手って概念もない。それだけの身体能力があるなら探索者になるなり国を守る兵士になるのが普通なのだ。興行も主に闘技場とか剣技の大会とかだしね…子供がボールを蹴って遊んだりはするが、サッカーという明確なスポーツとして定義されている訳でもないのである。

 

 一応この世界に来てから一通りの知識は仕入れたので、名前と超ざっくりな概要くらいは知っているが、それぞれのスポーツの細かなルール等は調べてもいない。つまり何が言いたいかというと…

 

(ヤバい…全然分からん! 普通に戦闘とかしてよ!? なんでスポーツ? まだボクシングと相撲とレスリングは良いよ!接触するし!攻撃も出来るし! リフティング?ボウリング?卓球?フリースロー? …いやどうしろと? 別に全部私がやる必要はないけど、レイザーが選択するのがバレー固定だとすると、最低でもバレーのルールは完璧に把握する必要がある。一応付与を駆使すればアタック?とブロック?はなんとかなるとは思うのだけど……)

 

「……………ドッジボール」

「え?」

「ドッジボールは知っているか?」

「えと…ボールを投げて、キャッチ出来ずに当たったら負けのスポーツですよね?」

「本気のメンバーを最低10人は揃えてこい。そしたら俺は8人制のドッジボールで戦ってやる。選手への直接攻撃は禁じるが、道具の持ち込みも自由な特殊ルールだ。」

 

 レイザーのいきなりの提案に、近くにいた下っ端海賊も「ボ…ボス?」と困惑の色を強めているが…それはそうだろう。これは情報の開示という意味では完全なる利敵行為、それこそ暴挙とも取られかねない提案であるため、私の方でも理解が追いついていない。

 

「やる気のない茶番が続くのも面倒でな。そもそも10人揃えられるなら、どうせ遅かれ早かれそうなる話だ。言っただろう…待(・)ち(・)わ(・)び(・)た(・)と。」

 

 これ以上話すことは無いとばかりに続きの話は下っ端海賊に引き継がれ、私たちは8戦全敗で彼らの要塞から追い出されてしまった。今回参加した元ハメ組メンバーはあまりの実力差にすっかり意気消沈しているため、仮に数合わせで入れるにしても別の人間に頼むことになるだろう。

 

「最低あと5人か♠ ああ、僕も早く彼とやりたいねぇ♥ 人員については当てはあるのかい?」

 

 レイザーのオーラにあてられたのか、ここまでゾ(・)ク(・)ゾ(・)ク(・)しているヒソカを見るのは久しぶりな気がする。まああのオーラを受けて師匠がこうなることは半ば当然のことなので、それについては特に言うことはない。こちらの最上の戦力として存分に期待させていただくとしよう。

 

「2人はいますが…それでもあと3人足りませんね。一応その他の候補としては5人、いや6人いますが、全員が都合よく参加してくれるとはとても思えません。こちらとしては最低10人を目指して、地道に声掛けしていくしかありませんね。」

 

 そもそも8勝先取のルールで8人制のドッジボールは露骨過ぎない?という思いはあるが、あのレイザーからの真正面からの挑戦状だ。あれだけの啖呵を切った手前、引くという選択肢は流石に無い。

 

 

「丁度新年が近いですし、皆で外に出ましょうか。ビスケさんは…その…合流するならフリーのカードを預けてから天空闘技場まで来てくださいね? 次が最終決戦(ラストバトル)ですから、しっかり準備して挑みましょう。」

 

 

▽ ▽ ▽

 

――海賊達の根城の要塞。

 

 レイザーは一人、自室にてとある書物を読み耽っていた。

 

 待ちわびていたという言葉は、他ならぬ彼の本心である。なにせここ十年以上、誰一人として自分に挑むプレイヤーなどいなかったところを、接触から僅か一年にも満たない期間で、宣戦布告まで添えて挑んで来た女がいたのだから、意識するなという方が無理筋であろう。

 

 しかし彼が待ちわびた理由は、決してそれだけではない。

 

 レイザーにとってクーデリアという存在は、ただ己に因縁をつけて来ただけの謎の不法侵入者ではなく、もはや己の師と言える存在でもある。彼女であれば…今の己の全力を、ゲームマスターという立場を超えてぶつけることが許されるかもしれないという、仄かな期待があった。

 

 それを裏付けるかのように彼の手元には……何(・)度(・)も(・)読(・)み(・)返(・)さ(・)れ(・)、(・)す(・)っ(・)か(・)り(・)く(・)た(・)び(・)れ(・)た(・)『紫華の魔法理論』があった。

 




レイザー超強化入ります。
ヒント 28→105

ゴンとレイザーの会話は最終決戦前を予定
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