憑依転生アンパンマン(中身32歳、独身住所不定無職) 作:地霊殿の壁
宇沢レイサを家に返してきたのだが、その道中、丁度トリニティの自治区とやらに入ってすぐ辺りで白髪に赤い目の女の子が閃光弾とアサルトライフルを構えて出待ちしていた。
どうやら宇沢レイサのお友達らしい。蜂の巣にされるかと思ったら、普通に『解放してほしい』と言ってきたので宇沢レイサをその場に下ろして、撃つ暇すら与えず超音速で退散する。
さすがに地上でAR持ちと戦うのはキツい。連射で先撃ちされたらどうしようもないからな。
そうしてトリニティから去った俺は空を飛び回り、アビドスという土地を探していた。
帰る道中で宇沢レイサからトリニティゲヘナ含む、三大校を含めて聞いた話だが、アビドス自治区は広大な砂漠地帯らしい。砂漠ってことは滅多に雨が降らないってことである。
『雨』とは空気中の水分が気体となって上昇し、それらが雨粒となって地上に落ちてくる現象のことを指す。物理攻撃で避けようのない雨という天候はアンパンマンにとって最大の敵だ。
もしも雨が降らない土地が地上になければ空の上にでも引きこもるしか無かったため、この情報は極めてありがたい。これで活動の拠点は決まったも同然。
あとは金を稼ぐ手段を確立したい───などと思い、実際にやってきたものの幾ら歩き回っても売り物件と廃墟しかない。
自販機なんかも電源が通っていないし、本格的に過疎集落のようで……どうやって金を稼いだものか。
結局あの後白衣ロリことコードネーム『THE・性癖(俺のではない)』とも連絡先を交換していないからな。逃げたと思われてないか不安だが……一度切り上げてゲヘナに向かうか?
うーむ、せめてスマホの一つでもあればと思うが───
などと、そんなことを考えながらふらふらと歩いて早9日、いよいよ以て浮浪者じみてきた頃合いだ。夜だと尚更不審者にしか見えない。うーん誰かそろそろ助けてくれ。
「クックック、其処の方、少しお待ちいただけますか?」
背後から声をかけられる。
「……君は?」
「自己紹介が遅れました、私は黒服と申します」
そこにいたのは黒いスーツに黒と青白い亀裂が入った顔をした不審者。
「僕、アンパンマン!!(ガチ)」
「クク、もちろん存じていますよ?」
……もちろん、存じている?
「貴方がアビドスに来てから貴方のことを暫く観察させていただいておりました」
「……で、僕を観察して何か得られるものはあったかな?」
「ええ。ですが、やはり観察だけでは十分とは言えません……そのため、これは提案ですが───」
黒服は人差し指を立てる。
「私のところで短期的なアルバイトをしませんか?給金としては検査一つにつき5万円、全部で12項目あるため全て行えば60万のクレジット収入となります。拘束時間は2〜3時間程度、内容としてはちょっとした身体検査のようなものです」
一瞬だけ考え、俺は───
「なるほど。丁度お金に困っていたんだ。僕なんかで良いのなら、謹んで受けさせてもらうよ」
「ククッ、契約成立ですね?では此方の書類にサインを───」
俺はボードに挟まれた二枚の紙の内容を確認し、サラサラと渡されたペンでサインを書く。
まぁ稀によくある契約した先に何があってもこちらは責任は取りませんよっていうがあったが、それ以外は普通だった。
「クックック、では場所を移しましょうか」
───というわけで60万円ゲットだぜ。
身体の方の検査は全てパス。血圧なんてパンの妖精にあるわけないじゃろ。血液検査の方はスキップする代わりに代替としてあんぱんの提出を求められたため大人しく少量だがサンプルを取らせてやった。次に行ったのは身体測定とドローンを使った擬似的な戦闘試験のようなもの。
当然、デカブツは雑なアンパンチ遠当てで一発。
大量に数を出されたら音速で動くだけで殲滅できる。ソニックブームを起こして纏めてスクラップにした。
別の契約として何やら怪しげな治験を提示されたが止めておいた。既に60万もあれば十分だしな。
そんなこんなでサクッと終わらせて現ナマをポケットに入れて、実験室を出る。
この世は所詮金とコネ、それから戸籍。それがなきゃね、結局何も救えないんすよ……
で、その帰り道───すっかり朝方だが、そんな道のド真ん中でオルガ・イツカよろしく、ぶっ倒れている大人が居た。
「大丈夫かい?僕の顔をお食べ」
あっやべ、脳死で頭ちぎっちゃった。絶対水分不足の方が先だろ。
〝うぅ……───〟
うーん、どうする?ゲヘナまで行って適当なコンビニで飲み物買ってくるか?
そうやって少し頭を悩ませていると───
「……ん?」
(キキーッ)
困惑したような声とともにブレーキ音が鳴る。
「……拷問中?」
まぁ砂まみれの土地で行き倒れに水じゃなくアンパン差し出してたらそうなるか……そうなるか?
「いや、道端に遭難者が居たからつい……」
「遭難者なんだ……えっと……ちょっと待って───はい、これ」
差し出されたのはボトルに入った飲み物。
「エナジードリンク。ライディング用なんだけど……今はそれくらいしか持って無くて───えっと、コップは……」
(ゴクゴク)
あ、おい……まさかの即直飲み。
「……!あ、それ……ううん、なんでもない」
関節キスか。まあ俺のあんぱんの方が数倍ディープだから安心してほしい。
関節キスならぬ直接喰いとかいう状態だからな。
〝ふぅ……ありがとう、助かったよ〟
「うん」
「あんぱんは居るかな?」
〝……お腹は減ってるけど……えっと、それ食べても平気なの?〟
俺の顔を見てそう問いかける。
平気って何だ?危険物かどうかってことか?
「別に危険性はないよ?」
〝……いや、そういう意味で聞いたんじゃないというか……まぁいいか。じゃあ、貰うね?〟
ぱくりと一口で食べて咀嚼し、呑み込む。
〝!!うわ、なにこれ……おいし……〟
「……それで……見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど……お疲れ様。学校に用があってきたの?この近くだとうちの学校しか無いけど……もしかして───」
「───『アビドス』に行くの?」
こくりと頷きを返す。どうやら互いに色々と事情があるようなのでここいらでシレッとおさらばするか。
というか、なるべく早めにあの白衣メスガキに再開して事情を説明しないと面倒事になりそうな予感がする。
「じゃあ僕は此処ら辺でいいかな?」
〝あっ、ちょっと待っ───〟
トンっと後ろに下がるように軽く地面を蹴り、くるりと半回転しながら空に飛び立つ。
さ、ゲヘナ目指してれっつらごー!(死語)