『オタクに優しいギャル』の陰キャ役に選ばれたけど、俺に好きな人がいると知った日から幼馴染のギャルが壊れてしまった。 作:花染彩葉@幼馴染ハーレム2巻発売中!
ベッドの縁に座り、罪悪感に苛まれながらティッシュに包んでゴムを捨てる。途端、後ろから花蓮がしなだれかかるように俺を抱いた。
素肌と素肌。背中に柔らかい感覚が宿る。
そのまま花蓮は耳元でこう囁いた。
「あたしで童貞捨てちゃったね」
「花蓮こそ、初めてだったんだな……」
それも罪悪感が募っていく要因のひとつだった。
花蓮ほどの女子なら相手は選り取り見取りだったはずだ。だからてっきり、どこかのイケメンなりと済ませていると俺は思っていたのだが――ゴミ箱に包んで捨てたあれには僅かに鮮血がこびりついていた。
「その言い方は酷いよ。あたしが誰とでもこういうことするって思ってたことじゃん」
「…………」
「奏斗だけだよ。絶対、初めては奏斗って決めてたから」
やめてくれ……。
そんなことを言われたら俺はこの関係に甘えてしまう。
花蓮は俺になにも要求していない。責任を取れとも、付き合えとも言っていない。だが、人間は覚えたものを忘れられない生き物だ。
こんな……あんな感覚を知ってしまったらのめり込んでしまうかもしれない。次に花蓮が「またシよう」と言ったとき、そのときの俺は断らない理由を騙し騙しで見つけようとするだろう。
寂しかったからとか、花蓮がそう言ったからとか、断る方が傷つけるからとか――そうやって都合よく甘えて、都合よく抱いて、都合よく好きだと言われ続ける。花蓮の気持ちを、消耗品みたいに使い潰していく。
それは、俺が花蓮にしていい仕打ちじゃない。
「花蓮……」
「んっ?」
名前を呼びながら目をやった顔は驚くほど穏やかな表情をしていた。これっきりにしようと言いかけて、その言葉は喉の奥に消えていってしまう。
「今日は帰るよ……」
結局なにも言えずに、先延ばしにするような選択を取ってしまった。
我ながら卑怯な人間だ。それでも、今の俺にはこれが限界だった。
肩に回された腕に手をかけると、花蓮の体は呆気ないほど簡単に離れていった。
「それがいいよ。あたしもちょっと、ひとりになりたい気分だし」
拍子抜けするぐらい、あっさりした声だった。
ベッドから立ち上がり、床に転がったままの服を拾い上げる。
寝室には先ほどまでの空気が澱んで残っている。聞こえるのは自分の衣擦れの音と、外から聞こえる自動車の走行音のみ。激しく名前を呼び合っていたのが遠い出来事のように思えた。
服を着終えると後ろから声がした。
「あのさ、奏斗」
振り返る。
花蓮はベッドの上でシーツに包まったまま、上目遣いに俺を見た。
「すぐに返事が欲しいなんて言わないから」
「……え」
「あたしの告白。答えてとか、考えといてとか、そういう面倒なことは言わない。奏斗が今どう思ってるかも聞かない。でも――」
一拍挟み、花蓮は続ける。
「覚えておいて。あたしが奏斗を好きだってこと。それだけは忘れないで」
「……っ」
なにか言え。自分に向かってそう命令するが、指先だけが意味もなく動いて声にならない。結局、俺は曖昧に頷くしかなかった。
そんな情けない俺を見て、花蓮が苦笑する。
「ごめんね、困らせるようなことばっかり言っちゃって。でも、それぐらい奏斗のことが好きだから」
「…………」
「あっ、それとさ」
まだなにかあるのか。身構える俺を他所に、花蓮は乱れた金髪を耳にかけながらなんでもないことのように言った。
「また練習したくなったらいつでも言ってくれていいよ。生理のとき以外なら相手するからさ」
「……なんだよ、それ」
「据え膳だよ、据え膳。奏斗も気持ち良かったでしょ? あたしは、頭の血管切れちゃうんじゃないかってぐらい幸せだったよ」
俺の卑怯さなんて全部お見通しだと言わんばかりの軽口だった。だが、それを指摘する資格も、受け容れる勇気も今の俺にはない。
「……帰るよ。おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
背を向ける寸前、シーツからこちらを覗く目がゆっくりと細められる。
溶けたように目尻が落ちた、先ほど間近で視線を交わしたときと同じ表情だった。可愛いとか綺麗とかそんな言葉では形容しようのない、射抜かれたら最後、理性が吹っ飛ぶような女の眼差しだ。
「またね、奏斗」
甘く掠れた声が、俺の背中に絡みついて離れなかった。
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