運命の赤い糸が見える俺、運命の相手は魔王様でした 作:Toaria
どちらも初めてもらえたこともあり、楽しみにしてくださってる方がいるとわかって本当に励みになりました!
俺から伸びた赤い糸の内の一本を追っていくと、やがて名もない小さな町に着く。
町は小さく、どこにでもあるような辺境の町だった。
だが俺の指先から伸びる赤い糸は、迷いなく町の奥へと続いている。
「ほんとにこの町にいるのか?」
「少なくともマキアの魔力はこっちに続いている」
リコリスは淡々と言った。
俺たちは糸を追って歩き、やがて一軒の店の前で止まった。
看板には簡素にこう書かれている。
『魔導具修理』
「……魔法使いっぽい店だな」
「入れば分かる」
俺は扉を押した。
カラン、と小さな鐘が鳴る。
店の中には魔導具や工具が所狭しと並んでいた。そして奥のカウンターで、一人の少女が何かを分解している。
「いらっしゃーい」
その瞬間、俺の心臓が跳ねた。
(……似てる)
年齢は俺たちと同じくらい。少し乱れた髪、作業用のローブ、集中すると眉を寄せる癖。
全部、記憶の中の誰かと重なる。けれど――彼女の目には、俺を知る様子はない。
「修理?それとも魔導具の購入?」
普通の店員の声だった。
俺は少し戸惑いながら答える。
「いや……その」
言葉を選ぶ。
「アネモネ、か?」
少女はきょとんとした。
「違うけど」
即答だった。変な発言をした上で、急に動揺する俺を見て彼女は機嫌を損ねたのだろう。あからさまに顔をしかめる。
「急に名前を尋ねてきて何?客じゃないなら帰りなさい」
彼女の様子を静かに見つめていたリコリスが静かに言葉をこぼす。
「魔力の流れが人とは思えないほど綺麗だな」
「あら、いい目してるわね」
ふとリコリスがこぼした言葉に満足したのか表情を笑顔に変える。
だがその話しを聞いて俺は一つ気になったことを聞く。
「そんなに魔力の操作が上手ならもっといいとこに店建てれたんじゃないか?」
「それはそうかもね。実際に王都から宮廷魔導士のスカウトもあったもの。でも私はここから出る気はないわ」
「何で」
「ここがおばあちゃんの形見の家で、私が守るべき場所だからよ」
彼女は語り始める。
「生まれた時から私は何故か魔力の操作が上手だったみたいね。それが災いして、周りの人達は私のことを魔族だ何だと非難してきたのよ。おかげで幼いころは牢屋暮らし」
思い出すのも辛いのだろう。彼女は悲痛な表情を浮かべる。
「そんな自由のない生活から私を救ってくれたのがおばあちゃんだったってわけ」
優しい表情に変わる。
「みんなが私を冷遇する中、おばあちゃんだけが私を人間扱いしてくれたの。私はその恩に報いるためにもおばあちゃんの家であるここを私は守ってるのよ」
「……そっか。その人は今どこに?」
「私の話から察しなさいよ。寿命よ」
「えっ、ごめん」
「いいわ、もう何年も経って吹っ切れたからね。というか客じゃないならさっさと出ていきなさいよ!」
ずっと会話しかしない俺たちにものを買う意思がないとわかった彼女は、痺れを切らし、俺たちを追い出そうとする。しかしーー
「雑談中のところ悪いが、多くの魔力を持つ誰かがこちらに向かってきているようだ。用件を急ぐぞ」
「まだ何も事情話してないけど大丈夫なもん?」
「……まぁ記憶を戻せばわかるだろう」
「いきなり?」
少女は完全に置いていかれている顔をした。
「ちょっと待って、何の話?」
リコリスは一歩前に出る。
「問題ない」
「いや問題あるでしょ」
「今から解決する」
そう言うと、リコリスは少女の額に指先を向けた。
「ちょ、何――」
少女が言い終わる前に。淡い紫色の魔法陣が展開する。
「《記憶解放》」
空気が震えた。少女の身体がびくりと揺れる。
「っ……!」
額を押さえる。
「なに……これ……」
呼吸が乱れる。
「知らない……いや……違う……」
声が震える。
「これ……私の……」
魔法陣の光が強くなる。
そして、少女の瞳が見開かれた。
「――マキア」
俺の名前だった。数秒の沈黙。
少女――アネモネは、俺をじっと見つめていた。まるで信じられないものを見るように。
「……生きてる」
小さな声だった。
震えている。
「なんで」
俺は口を開こうとして――次の瞬間、頬に衝撃が走った。
パン、と乾いた音が店に響く。
殴られた。思い切り。
「……っ」
アネモネの肩が震えている。
「なんでよ」
声が掠れていた。
「なんで置いてったのよ」
俺は言葉を失う。彼女は続けた。
「最後の戦い」
拳を握る。
「私たちも行くって言ったじゃない」
目から涙がこぼれる。
「なのにあんたは」
声が震える。
「私たちに黙って」
嗚咽を噛み殺す。
「勝手に行って」
一歩近づく。
「勝手に死んで」
俺の胸を叩く。
「残された側の気持ち考えたことある!?」
その一言が、胸に刺さる。俺は何も言えない。
アネモネはしばらく俯いて――そして震える声で言った。
「……ずっと」
涙が落ちる。
「ずっと、後悔してた」
俺を見る。
「私がついて行けば」
声が壊れる。
「あんた死ななかったんじゃないかって」
沈黙が落ちた。店の空気が重い。
横でリコリスが静かに言う。
「……なるほど」
腕を組む。
「重いな」
「あんたは黙ってて!!」
俺はゆっくり息を吐き、そして言う。
「……悪かった」
アネモネの肩が止まる。
「でもさ」
俺は苦笑する。
「すまんがあまり状況が理解できん」
「……は?」
「俺、前世の記憶あんま把握できてないんだよね」
「何でよバカ!!」
今度は本で殴られた。
◆
「つまりそこの魔王の電気ショックのせいで中途半端なのね」
アネモネがリコリスを強く睨む。
「というか何で魔王がここにいるのよ!あんた前世でマキアを殺したんでしょ!?どの面下げて!!」
彼女の周りから魔力が溢れる。俺は慌てて彼女を止める。
「ちょ、ちょっとまて!今は争ってる場合じゃないんだ!!説明したろ!?」
「確かに聞いたわよ!新しい魔王が誕生して暴れてるんでしょ!でもそんなの私たちだけで倒せばいいじゃない!!」
「ふん。こいつを仲間にしようとしたのは失敗だったか」
「なによ!?」
空気がどんどん重くなって行く。誰か胃薬持ってこい。
口喧嘩はヒートアップする。
アネモネの周囲に淡い光の魔法陣がいくつも浮かび、リコリスの足元には黒い魔力が滲む。
このままだと町ごと吹き飛ぶ。
俺は慌てて両手を上げた。
「ストップストップ!!タイム!!」
「どいてマキア!」
「黙れ」
二人同時に言うな。
俺は額を押さえた。
「頼むから落ち着いてくれ……今は本当に内輪揉めしてる場合じゃ──」
その瞬間だった。
ズゥン……
地面が揺れた。三人同時に黙る。
「……今の」
アネモネが眉をひそめる。続けて地面が揺れる。
ドォォォォン!!!
町の外れで巨大な爆発が起きた。黒煙が空に上がる。
「なっ……!?」
人の悲鳴が遠くで聞こえる。リコリスの目が細くなった。
「……来たか」
低い声。アネモネが振り返る。
「何がよ」
「……嫌な予感しかしない」
すると町の通りの奥から、ゆっくりと人影が現れた。
背の高い男に黒い鎧。頭からはただ無骨なツノが一つ伸びている。肩には巨大な戦斧。歩くたびに石畳が割れる。そして何より──桁違いの魔力。
アネモネが息を呑む。
「……あいつは」
男は俺たちを見ると、口元を歪めた。
「お、ビンゴ」
リコリスを指さす。
アネモネが小声で聞く。
「……何であんたが?」
短く。
「魔王軍四天王グラディウス」
俺は顔をしかめる。
「誰あのおっさん」
グラディウスがニヤリと笑う。
「命令はシンプルだ」
斧を持ち上げる。
「裏切り者の魔王を殺せとのことだ」
「何であんたがここに!?あんたは前にマキアに負けて二度と人類と関わらないって言ってたじゃない!!」
アネモネが怒りのまま叫ぶ。
「あん?んなもん俺が死なないための言い訳に決まってんだろ?魔王様が解放された今、死んだヤツの言うことなんざ聞くわけないだろ?」
アネモネの発言にむしろ満面の笑みで答える。
「命令のついでだ」
牙のような歯を見せる。
「裏切り魔王の恋人も一緒に殺してやるよ」
「……ん?もしかして俺のこと!?」
「お前以外に誰がいるんだ?」
アネモネが一歩前に出る。
「は?」
魔力が膨れ上がる。
「ちょっと待ちなさいよ」
グラディウスを見る。
「マキアは──」
指を突きつける。
「私のものなのよ!!」
リコリスも一歩前に出る。
「残念だが」
黒い魔法陣が浮かぶ。
「こいつは私のだ」
俺は叫んだ。
「わたしのために争わないで!!」
「ハハハハ!!」
グラディウスが腹を抱えて笑う。
「いいねぇ最高だ」
斧を構える。目が完全に狂っている。
「今日は当たり日だな!!」
そして戦いが始まった。かと思った。
次の瞬間。
アネモネの魔法陣が一斉に展開された。
「《フレアランス》」
十数本の炎と風の槍が空中に現れ、一斉に放たれる。
それと同時に、リコリスが静かに呟いた。
「《シャドウランス》」
炎と影の強烈な貫通魔術が同時に展開される。
グラディウスが目を見開く。
「は──」
槍と棘が全弾直撃し、巨大な煙が上がる。
俺はぽつりと言った。
「……なんかすごくない?」
煙の中からグラディウスが飛び出す。
「効くかぁ!!」
戦斧を振りかぶり突進。だが、
「《エアロバインド》」
大気中の風が収束し、男の足に鋭い暴風の鎖となって絡みつく。
「なっ!?」
動きが止まる。その瞬間、リコリスが手を軽く振った。
「《シャドウグラビティ》」
ズドン!!
グラディウスが地面にたたきつけられる。
「ぐはっ!?」
俺が目を丸くする。
「今の誰の魔法?」
「私」
「私だ」
二人同時に答えた。グラディウスが立ち上がる。
「チッ……舐めるなぁ! 忘れたか!?魔族にはなぁ、生まれ持った固有の“能力”があるんだよ!」
グラディウスの全身から、どす黒い闘気が噴き出す。
「オレの能力は《無敵》! 受ける全てのダメージの無効化だ! これでお前らなんてすぐに倒してやるよ!」
俺は「うわ、詰んだわあんなの」と戦慄した。
「おい、マズいって二人とも! あんなのどうやって止め──」
「知っている」
「知ってるわよバカ」
リコリスとアネモネが、同時にため息をついた。
「え?」
「大方そんなところだと思ったわ。前世でも同じことをやってたわ」
アネモネが冷ややかに指を鳴らす。
「《フロストバインド》」
「がはっ!? 痛くは……ねぇが、動け……っ!?」
「確かにダメージは入らないわね。もっともそれ以外の状態異常は全て通る上、魔力の消費が激しい能力だったかしら」
筋肉を膨張させたグラディウスの全身が、一瞬でガチガチに凍りつく。ダメージではない、ただの物理的なフリーズだ。そこにリコリスが、追撃の呪文をボソリと呟く。
「《シャドウバインド》」
凍ったグラディウスの影から無数の黒い影腕が伸び、彼をそのまま地面の底へと引きずり込んでいく。
バキバキと氷が砕ける音が響き、四天王は頭だけを地面に出した状態で完全にホールドされた。
土煙が静かに収まる。
「更に言うならそいつの魔力量を見て、大方30秒が持続の限度だろう。能力は強力だが使い手がこれだと対処も容易だな」
リコリスが地面に拘束されたグラディウスを憐れんだ目で見つめながらそう言う。
「……お前ら」
「何だ」
「何よ」
「なんでそんな連携いいの?」
二人は一瞬黙る。そして。
「簡単だ」
リコリスが言う。
「こいつの魔術は大雑把だ」
「はぁ!?」
アネモネが睨む。
「威力だけで制御が甘い、だから私が補助している」
「ちょっと待ちなさいよ!」
アネモネが叫ぶ。
「今の全部あんたの魔力干渉のせいで威力上がってるんだけど!?」
「当然だ」
「私の魔力制御は完璧だからな」
「何よその上から目線!!」
俺は頭を抱えた。
「戦闘中にケンカすんな」
瓦礫が動く。
「……ククク」
グラディウスが立ち上がる。顔がボロボロだ。
「いいねぇ」
斧を握り直す。
「やっと楽しくなって──」
「《フロストバインド》」
再びアネモネの超高速氷結魔術。男の体が凍る。そこに。
「《シャドウグラビティ》」
リコリスの魔術。バキィン!!
氷ごと地面にめり込む。
俺は言った。
「……」
「まだ戦闘始まったばっかなんだけど」
グラディウスが顔だけ出して叫ぶ。
「ちょっと待て!!」
「何だ」
「何よ」
「お前ら初対面だろ!!」
俺が頷く。
「そうだよ」
グラディウスが怒鳴る。
「なんでそんな連携完璧なんだよ!!」
アネモネとリコリスが同時に言う。
「「マキアの所有者として普通でしょ」」
一瞬沈黙。
俺は顔を覆った。
「胃が痛い」
グラディウスがぼそっと言う。
「……あー、降参ってあり?」
リコリスが即答する。
「ダメだ」
アネモネも言う。
「ダメよ」
そして、二人同時に魔法を発動した。
「《エアロフレア》」
「《シャドウカタストロフ》」
俺は空を見上げた。
「さすがにかわいそう」
ドゴォォォォォン!!!!
町外れで巨大な爆発が起きた。
◆
「で?裏切りの魔王って何?」
リコリスは特に動じる様子もなく答える。
「勇者が死んだ後、戦争を放棄した」
アネモネの眉がピクリと動く。
「……は?」
俺は嫌な予感がして口を挟む。
「ちょっと待っ「黙ってなさいマキア」はい」
怖い。アネモネは再びリコリスを見る。
「つまりあんた」
指を突きつける。
「前世でマキアを殺したくせに、その後は何もしなかったって?」
リコリスは一瞬だけ沈黙した。そして、静かに言う。
「……世間ではそうなっているな」
「はぁ!?」
アネモネの声が裏返る。
「世間ではって何よ!!勇者を殺したのはあんたでしょ!?」
俺は頭をかく。
「いやその辺俺もちゃんと聞いてなくて――」
アネモネが叫ぶ。
「ちょっとマキア黙ってて!!」
「すみません」
怖い。アネモネは一歩リコリスに近づく。
「聞くけどなんであんたマキアをやたら評価してんの?」
確かにこいつはやたら前世の俺を持ち上げる。
勇者とか英雄とか唯一尊敬してるとか。なのに――
「殺したんでしょ?」
アネモネが言う。矛盾している。しばらく沈黙が流れた。そしてリコリスが小さく息を吐き、話し始める。
──────
魔族には、角がある。
それは単なる身体的特徴ではない。力の証であり、血の格を示す象徴だ。
魔族の多くは一本ツノ。それは戦士としては優れていても、王の器ではない。
だが――二本ツノの存在が一人だけいる。それが魔王だ。
魔王は自身のツノだけではなく、初代魔王の能力である《継承》により、歴代魔王の魔力が込められたツノを引き継いでいる。
そして歴代魔王のツノを継承できる器のもののみ、魔王の資格を持つ。
角はただの骨ではない。
それは魔王の力そのものを受け継ぐ器だ。
そして、その器となれる存在は――滅多に生まれない。
その時代、魔王の器と呼ばれた者は二人だけだった。
一人は私、リコリス。もう一人は――バハムート。
バハムートは、暴力の化身だった。
圧倒的な魔力。生まれながらにして戦場を支配する力。
だが、その力には理性がなかった。
壊す、殺す、支配する――それ以外の概念を持たない。
もし奴が魔王になれば、世界はただの戦場になる。
それは魔族にとってすら破滅だった。
だから私は、決めた。魔王の座を奪うと。
◆
その日、魔王城の玉座の間には血の匂いが満ちていた。
前代の魔王が死に、王座は空いた。次の魔王を決める戦いが始まる。
「ハハハハハ!!」
バハムートは笑っていた。
「結局お前も来たのか、リコリス!!」
巨大な体に歪んだ一本角。
その瞳は、ただ戦いを楽しんでいた。
「来たに決まっておる」
私は答える。
「お前を魔王にするわけにはいかんからな」
「お前はなぜ魔王の座を狙う?」
バハムートは何気ない雑談として疑問を投げかける。
リコリスは答える。
「お前が暴れ出すことが目に見えているからだ」
「当たり前だろう。我は強きものとの戦いを望んでいるんだ。しかし、お前は魔王になりたいわけでは無いのか?」
「当たり前だろう」
その瞬間、空気が裂けた。バハムートの拳が城壁を砕く。
私は避ける。魔力を込め、重力に干渉する。
「ならば邪魔をするなぁ!!」
「遅い」
バハムートはなす術なく、地面に沈む。だが奴は笑う。
「いいぞォ!!お前の《干渉》はどう戦うのかずっと知りたかったんだ!!」
狂った歓喜。だが、その喜びもそこまでだった。
「俺も能力を行使してやる!!」
そうして奴は力尽くで重力に抗い立ち上がる――が、次の瞬間その姿は天井にめり込んでいた。
「無駄だ。貴様が能力を使うならその瞬間に重力を逆にすればこうなるのは必然だろう」
結局奴は私の《干渉》を前に対処ができず、手も足も出ないままに終わった。
最後に立っていたのは、私だった。
「最初の一撃で終わらせなかったのが貴様の敗因だ」
「くそ!!望んでもいないくせに、このような卑怯な手で魔王の座を奪うなど、許さんぞぉ……」
そう発言を残し、バハムートは倒れた。
その日、私は魔王になった。魔族を守るために。
月日は流れた。
魔族は私の支配の下で安定し、人間との戦争も最低限に抑えられていた。
私は暴君ではない。だが、甘くもない。それが魔王という立場だった。
そんなある日、勇者が一人で魔王城に現れた。
◆
やがて世界に勇者が生まれた。
勇者は強かった。
人間とは思えないほどの剣。戦場の流れを読む目。
だが、魔族を殺さなかった。
それが理解できなかった。
「なぜ」
私は聞いた。戦闘の最中だった。
「なぜ殺さぬ」
「できれば殺したく無い主義でね!おかげで王様に背く形になっちゃった!」
簡単に言う。
「というか戦いじゃなくて話し合おう!そのためにも俺一人で来たんだ!共存、しようぜ!」
その言葉は、軽さとは反対に妙に心に残った。
しかし、私は国を背負っていた。
軽い判断で行動を決するなど許されない。
戦いは魔王城の前で行われていた。
勇者の剣が私の魔法を斬り裂く。
魔族を背負う以上勝負には負けられず、一方で勇者ともっと話してみたいという感じたことのない気持ちに挟まれ、実力が出しきれずに戦いが長引く。
だがその瞬間――空気が歪んだ。
「うおぉぉぉ!!」
聞き覚えのある咆哮。背後から現れたのは――バハムート。
「魔王の座を、返せぇ!!」
奴は一直線に突っ込んでくる。
狙いは私だ。魔王の座を奪ったことへの復讐だろう。
感じたことのない感情に困惑していた私はこの奇襲に気づけなかった。
だがその瞬間――勇者が動いた。
剣を捨て、私の前に立つ。
「なっ――」
バハムートの剣が、勇者の体を貫いた。
血が噴き出す。勇者は、私を庇った。
「……なぜ」
「流石に、無茶だったか……」
その言葉を最後に――勇者はその場で倒れた。
◆
私は怒った。怒りで、世界が震えた。
「バハムート……なぜ邪魔をした!!」
魔力が溢れる。城壁が崩れ、空が裂ける。
「貴様を――殺す」
「黙れぇ!!」
バハムートが全速力を持ってこちらに向かってくるが、その前にバハムートの脳に《干渉》する。
思考力を奪われたバハムートはその動きを止め、立ち尽くす。
「こんな奴に邪魔されるとは、やはりあの時にでも殺しておけば……」
だが、その瞬間。私は思い出した。勇者の言葉を。
『無駄には殺さない』
あの男は、敵である魔族を誰一人殺さなかった。その信念を、私は知っている。……だから。
「やめだ」
私は手を掲げた。魔法陣が広がる。
「貴様は――封印だ」
光が爆発する。《干渉》を解除されたバハムートの体が鎖に縛られる。叫び声が響く。そして――沈黙。
バハムートは、深い封印の中へ消えた。
◆
私は、倒れ伏す勇者の前に立つ。
しばらく、何も言えなかった。そして小さく呟く。
「……馬鹿者」
風が吹く。勇者の髪が揺れる。
私はその背中を見下ろしながら、静かに言った。
「私と貴様は敵だったはずだ。なのに何故私を庇ったのだ」
それは独り言のつもりだった。だが――
「……何度でも、また君に……」
その返事とは言えないような返答に私はふと微笑んでしまう。
「ならば今度はこちらから迎えに行ってやる」
その私の一言を最後に、勇者は死んだ。
それが、私と勇者の物語の終わりだった。
──────
リコリスが話を終える。
アネモネがゆっくり言う。
「つまり世間から見たら」
リコリスを指差す。
「勇者を殺した魔王」
リコリスが頷く。
「そうだ。でも実際は」
「勇者に庇われた上、途中で戦争から逃げた裏切りの魔王だ」
沈黙。
そして。
アネモネが頭を抱えた。
「……何それ」
俺も言う。
「ややこしすぎない?」
リコリスは平然と言った。
「だから言っただろう。説明が面倒だと」
アネモネがため息をつく。
「……はぁ」
そして小さく呟いた。
「まぁ大体わかったわ」
リコリスを見る。
「いいわ、そのバハムートとやらを倒すまではついてってあげる」
「ついてくってアネモネ、あの魔道具店はどうするんだ?おばあちゃんとの大切な家なんだろ?」
「もちろんそっちも大事だけど今はいつ死ぬかもわからないバカを助けないとだからね!」
俺は少し引っ掛かりを覚えたが、すぐに忘れることにした。
まあ結果として仲直りしてくれたようでなによりだ。
こうして俺たちは再び北を目指して歩みを進める。
まずはここまで読んでいただきありがとうございます!
次回からは二人目の仲間との再会や真面目な戦闘シーンも書く予定なので、また楽しみにしていただけたら僕も嬉しいです!