運命の赤い糸が見える俺、運命の相手は魔王様でした   作:Toaria

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 今回もこの作品を見に来ていただいて、ありがとうございます!
 いつも感想いただけてめっちゃ嬉しいです!
 僕はハッピーエンドで終わるタイプの曇らせ作品が好きで、思いつきで書き始めて見たんですけど、曇らせには戦闘シーン必須では……?と気づいてしまいました……
 というわけで今回と次回はガチ戦闘(完全手探り)になりますので、わかりにくい箇所があるかもしれませんが、初心者が書いたからなぁ、と温かい目で見てもらえたら助かります!


決戦の城門

 黒い城門の前。

 そこには、すでに三つの影が立っていた。風が止まり、空気が重く沈む。

 アネモネが小さく呟いた。

 

「……お待たせしたみたいね」

 

 その中央。黒いローブの男が拍手した。

 パチ、パチ、と乾いた音が響く。

 

「いやぁ」

 

 軽い声だった。

 

「思ったより来るのが遅かったね……いや本当に遅かったね!?おかげでシュラから「ムラクがずっともうすぐ来ると思うって言ってたから付き合って待ってたのに、全然来ないじゃない!!」ってキレられてしまったじゃないか!!僕の予想では一日で来る、誤差含めても二日以内と踏んでたのに!!何故!?」

「マキアが監禁されてたくせに、その後で宴を始めたからね」

「勇者が監禁!?そしてその後で宴!?」

 

 男が頭出を抱える。細身。紫色の瞳。楽しそうな笑み。

 

「……まぁいいや、改めて自己紹介を。四天王」

 

 軽く頭を下げる。

 

「ムラクだ」

 

 隣で女がくすりと笑った。長い黒髪に白い肌。指先に紫の魔力が絡みついている。

 

「私はシュラ」

 

 ゆっくりと言う。

 そして三人目。何も言わず、ただ立っているだけの存在。なのにこの場では最も存在感を放っている。

 身体は鎧で固められており、頭から伸びる一本のツノは漆黒だった。背中の巨大な大剣はシオンよりさらに大きい。呼吸すら聞こえない。だが――空気が歪んでいる。

 リコリスが静かに言った。

 

「……ゼルガ」

「知ってるの?」

 

 アネモネが眉を上げる。

 リコリスは短く答えた。

 

「バハムートの直近の部下だった男だ。当時、バハムートを封印してやった時に姿を消したはずだが…」

「どんな奴だ?」

「魔王軍最強の前衛とでも考えろ。なるほど、おそらくバハムートの封印を解いたのもあの男だろう」

 

 その言葉にシオンが盾を握り直す。

 ムラクが楽しそうに笑う。

 

「さすが元魔王、情報が早い」

 

 あっそうだ、と一言呟き、ムラクは言葉を続ける。

 

「一つ情報をあげよう。ゼルガの能力は《切断》。ありとあらゆるものを切断できる能力だよ。参考にするといい」

「っへ!どうせ嘘だろ?俺だって学習すんだよ!!」

「いや、奴の能力はそれで間違いない」

「本当なんかい!!」

「ごめんね?僕も嘘をつきたいけど彼、生粋の武人でねぇ」

 

 軽い雑談を交えつつも、空気は常に張り詰めている。

 突然、シュラが指を鳴らした。

 地面が、ゆっくり揺れ始める。

 城門の奥から、巨大な影が現れた。腐った翼。露出した骨。巨大な顎。空洞の目に紫の炎。

 リナリアが息を呑む。

 

「……ドラゴン」

 

 シュラが嬉しそうに言う。

 

「正確にはドラゴンゾンビよ」

 

 シュラが笑う。

 

「わざわざ聖属性のドラゴンを探して、蘇生したのよ?聖女一人で簡単に倒されないようにね」

 

 肩をすくめる。

 

「今回のために特別に準備しておいたわ」

 

 ドラゴンゾンビが咆哮する。腐った翼が広がり、地面が揺れる。

 アネモネが低く言う。

 

「……趣味悪いわね」

 

 シュラがにやりとする。

 

「従順で良い子なのに」

「……なるほど」

 

 ドラゴンゾンビを見る。

 

「四天王三人にドラゴンゾンビ、潰す気満々ってか」

 

 ムラクが笑う。

 

「そういうこと」

 

 俺は少し笑う。

 

「四天王はしばらく任せててもいいか?」

 

 シオンが盾を地面に叩きつける。

 

「マキア様」

 

 俺は振り返る。

 

「信じてもいいんですね?」

「あぁ。もう置いていかない」

「なら、時間稼ぎは任せてください」

 

 ただし、と一言。

 

「約束、守ってくださいね?」

「あいつは任せたわよ?」

「絶対倒して」

 

 シオンの言葉にアネモネとリナリアも続く。

 俺は頷いた。

 

「任せろ」

 

 シュラが楽しそうに笑う。

 

「君が一人で?」

 

 ムラクも笑う。

 

「無理だろ」

 

 俺は剣を構える。

 

「残念なことにドラゴン相手はもう──」

 

 石畳を強く踏み鳴らし、俺は前傾姿勢で一気に加速する。

 

「予習済みだよ、リコリスのせいでなぁ!!」

 

 眼前で巨躯を蠢かせるドラゴンゾンビ。腐臭を撒き散らしながら、天を裂くような重低音の咆哮を轟かせる。

 同時に、背後で激しい戦闘の火蓋が切られた。

 四天王たちが一斉に動き出し、刃が激突する高音と、空気を灼く魔術の衝突音が嵐のように響き渡る。

 信頼する仲間に背中を完全に預け、俺は極限まで踏み込んで跳躍した。

 目指すはドラゴンゾンビの左翼。ぬかるむ腐肉を踏み抜き、骨の節々を蹴り上がって首の付け根へと一気に肉薄する。

 

「久しぶりの活躍の場なんだ!」

 

 柄を握りしめる両手に、全身の筋力を叩き込む。

 

「大人しくくたばれ!!」

 

 鋭く刃を振り下ろす。手応えもなく肉が裂けた──が、巨体は微動だにしない。

 

「……あー、そうかゾンビだもんなぁ!」

 

 ドラゴンゾンビの巨大な頭部が反転し、骨の覗く顎が凶悪に開く。死角からの噛みつきが容赦なく迫る。

 

「ねぇ対処法やっぱわかんないんだけど!?」

 

 身を捩って間一髪で空中退避。噛み砕かれた石畳が爆散する。

 俺は空中で翼のフレームとなっている太い骨を蹴り、さらに上方へ跳ねた。

 

「いや、まだだ!」

 

 咆哮とともに腐肉の翼が振り払われ、圧縮された強風が刃となって空気を裂く。

 俺は剣を竜の背に突き立てて衝撃に耐える。その瞬間、竜の口からどす黒い息吹(ブレス)が吐き出された。

 

「腐った体でも打てんのかよ!?」

 

 全方位を覆う毒の霧。空中では避けきれない──そう直感した瞬間、全身の肉体が驚くほど軽く弾けた。

 

「身体強化の魔術か!」

 

 遥か下方から、リコリスの鋭い叱咤が届く。

 

「そう長くはもたんぞ!!」

「助かる!」

 

 加速された反応速度で翼の上を駆け上がる。崩れかける腐肉と骨の足場を踏み分け、ついに頭部へと到達。

 

「頭潰せばどうせ止まる!!」

 

 全身の体重を乗せ、脳天へ剣を深々と突き立てる。骨の砕ける鈍い音が響くが──巨躯の暴走は止まらない。

 激しい首振りによって、俺の体が豪快に振り回される。

 

「頭でもダメなの!?」

 

 力尽き、遥か高所から叩き落とされる。地面への激突。絶望的な衝撃に肺の空気が力ずくで絞り出された。

 

「ぐっ……!」

 

 血の味を噛み殺しながら顔を上げると、ドラゴンゾンビの濁った眼球がこちらを捉えていた。次の瞬間、圧倒的な質量が突進してくる。

 

「嘘っ!?」

 

 泥臭く横へ転がり、間一髪で回避。直後、俺がいた場所の地面が派手に粉砕された。その時──悲鳴に近い叫びが届く。

 

「マキア!!」

 

 湧き続けるアンデッドの群れを白光で灼き払いながら、リナリアが叫んでいた。

 

「多分胸の奥……心臓の部位に魔石が組み込まれてる!!」

 

 息を乱しながらも、彼女は的確に構造を看破する。

 

「あの魔石から死霊魔力を送って体を無理やり循環させてるだけ!!」

「なるほどな! じゃあ狙うべきは心臓ってわけか!!」

 

 跳び起き、足裏に魔力を集束させる。

 ドラゴンゾンビが再び咆哮し、巨大な翼を広げた。離脱して空へ逃げる気だ。

 

「逃がすか!」

 

 地を蹴る。跳躍。露出した肋骨を足場にさらに限界を超えて跳ぶ。首の下、心臓の位置へ。

 

「これで……!!」

 

 剣を逆手に持ち替え、刃の先端を巨躯の胸腔へと照準する。

 

「終わりだ!!」

 

 渾身の一撃を叩き込む。刃は腐肉を切り裂き、肋骨を粉砕して、最奥に眠る漆黒の魔石を芯から穿った。

 ドラゴンゾンビの巨体がピタリと硬直する。次の瞬間、魔力の循環を失った腐躯がガラガラと音を立てて瓦礫のように崩れ落ちた。猛烈な土煙が舞う。

 俺は剣を引き抜き、大きく息を吐き捨てた。

 

「……よし」

 

 安堵しかけ、戦場へ振り返る。その瞬間。

 

「マキア!」

 

 アネモネの悲鳴。

 視界の端で、四天王ムラクが放ったナイフが極小の直線となって俺の頸椎へ迫っていた。

 身体が硬直する。死を予感した一瞬──眼前で重厚な金属音が鳴り響き、黒銀の大楯がナイフを弾き飛ばした。

 

「マキア様は殺させません!!」

 

 前に滑り込んできたシオンの背中。俺はふっと笑った。

 

「悪い、助かった!!」

「結局ドラゴンゾンビ相手でも命懸けじゃないですか!! 後で説教です!!」

 

 俺は再び握り直し、剣を鋭く構える。

 

「待たせたな」

 

 アネモネが頭上に広大な魔術陣を展開。リナリアの聖光が戦場全体を清涼に包み込み、リコリスが薄く唇を歪めて笑う。

 

「では」

 

 リコリスが細い指の関節を鳴らした。

 

「第二ラウンドだ」

 

 四天王の三人が同時に動いた。ムラクが足元に幾重もの闇の魔術陣を重ね、シュラは禍々しい髑髏の杖を地へ突き立てて死霊を湧かせる。武闘派のゼルガが地盤を砕いて地を蹴った。

 

「来るぞ!!」

 

 俺の叫びと同時に、巨漢ゼルガが一直線に突進してくる。山が動くような圧倒的な質量。だが、その突撃の渦中に──シオンの盾が一直線に叩きつけられた。

 

「ここは通しません!!」

 

 ゼルガの身の丈を超える大剣が振り下ろされ、空間を狂わせる衝撃波が爆発する。シオンの脚が石畳を削りながら数歩滑る。

だが──その巨躯の突進を完全停止させた。

 

「マキア様!!」

「分かってる!!」

 

 俺はゼルガの側面へ高速で踏み込む。だが、

 

「甘い」

 

 頭上からの冷徹な声。ムラクだ。黒い魔力の槍が俺の首筋をめがけて刺突される。その一瞬前、暴風が真横から駆け抜けた。

ムラクの投槍が空中で軌道を逸らされ、砕け散る。

 

「背中は任せなさい」

 

 アネモネの超精密な風刃だった。ムラクが忌々しそうに舌打ちする。

 

「あの魔法使い、意外と一番厄介だね……!」

 

 その隙にも、シュラが狂気的な笑みを浮かべて死霊の召喚を続ける。

 

「《ネクロレギオン》」

 

 地面が一面黒く染まり、無数の腐肉の腕が這い出てきた。

 

「あいつらを足止めしなさい!」

 

 襲いかかる無数の死霊。しかし、それを上回る神聖な光芒が戦場を塗りつぶす。

 

「《セイクレッドオーラ》!」

 

 リナリアの祈り。溢れ出た聖光に触れた死霊の腕が、一瞬で灰となって雲散霧消していく。

シュラが苛立ちに目を細めた。

 

「あの聖女……っ」

「相性は最高、ですね?」

 

 影が足元から激しく伸縮し、シュラの足元に描かれていた術陣を内側から崩壊させた。

 

「今です!!」

 

 シオンが叫ぶ。盾の底部でゼルガの巨体を力任せに跳ね上げた。空中で体制を崩す巨体。

 

「いけ!!」

 

 俺は踏み込み、一閃。だがゼルガは空中で驚異的な反応を見せ、大剣の腹で受け止めて体勢を立て直す。

 刃と刃が激突し、足元の地面が蜘蛛の巣状に割れた。だが──ゼルガの能力が発動する。

 

「やべぇ!!」

 

 刃同士がぶつかって数瞬後、突然俺の剣がぶった斬られる。反射的に横に飛び、攻撃から逃れる。すると、

 ブオォォォォン!!

 とてつもなく大きな音と共に大地が裂け、強烈な風圧が周りに飛ぶ。

 

「もうあいつが魔王やれよ!?ってかよくさっきまでお前ら4人で戦況変わらずにいれたね!?」

「何故か、ゼルガだけ動かなかったんです!」

「奴は昔から戦闘狂かつ武人でな、場が対等になったと判断して動き出したのだろう」

 

 シオンが答え、リコリスがより詳しく伝えて来る。

 なるほど、確かにゼルガは単体で見たら最強スペックであり、能力を使われるだけで全滅の可能性を秘めていると言っても過言ではない。

 

「だけど、今回はパーティ戦なんだ!いけぇ!」

 

 横合いから鋭い影の棘がゼルガの隙へ叩き込まれる。リコリスだ。ゼルガの体勢が大きく揺らぐ。さらに──

 

「《エアロバースト》!」

 

 アネモネの放った圧縮風圧が下から爆発。ゼルガの巨体が完全に宙へ浮いた。ゼルガはそこから無理矢理体勢を整え、再び刀を振り抜こうとする。しかし、俺はニヤリと笑う。

 

「悪いな」

「させません!」

 

 シオンが盾でゼルガの抜刀を根本から止める。

 俺は全身の魔力を剣身に集束させ、一瞬で斬り上げる。

 

「これがパーティ戦だ!!」

 

 閃光の如き一閃。ゼルガの重鎧が粉々に砕け散り、圧倒的な衝撃とともに巨体が地面へと叩きつけられた。激しい土煙の沈黙。ゼルガが意識を失う。

 ムラクが冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべた。

 

「うそぉ……」

 

 シュラも呆然と頷く。

 

「本来なら絶対負けない相手なのにぃ……!」

「戦術と連携の差が出ちゃったねぇ」

 

 俺は剣を再び静かに構え直す。

 

「今更気づいたのか?」

 

 シオンが正面で盾を構え、アネモネとリコリスが両翼で極大の魔法陣を展開。リナリアの光が俺たちの背後を温かく照らし出す。全員が完璧な陣形をとった。

 ムラクが深くため息をつく。

 

「やっぱりさ、パーティって面倒だよね」

 

 シュラが不気味に微笑む。

 

「でも」

 

 彼女たちの全身から、諦念を打ち消すようなドス黒い魔力が膨れ上がる。

 

「それでもこっちも、もう引けないんだ」

 

 俺は剣の柄を固く握り直した。

 

「なら、連携の差ってやつを──」

 

 切っ先を突きつける。

 

「最後まで叩き込んでやるよ」

 

 次の瞬間、戦場が再び爆発した。

 気配を完全に消し、ムラクの姿が視界から掻き消える。

 

「来るぞ!」

 

 俺の警戒と同時に、真後から空間を割る殺気。だが──鋭い短剣の刃は、既にそこへ配置されていたシオンの盾に完璧に阻まれた。

 

「もう見えています」

 

 シオンが揺るぎない声で言い放つ。

 ムラクが目を剥いた。

 

「え、嘘!? この瞬間移動は初出しの技術だよ!?」

「策士が相手なんです。隠し球の一つか二つは警戒中です」

 

 瞬間、その隙を見逃さないアネモネの声が響く。

 

「今よ!」

 

 アネモネの魔法陣が烈光を放ち、圧縮された風の槍が連続で投擲される。

 

「《エアロランス》!」

 

 無数の風槍が襲いかかり、ムラクが悲鳴を上げながら後方へ跳び退く。

 

「危なっ!?」

 

 だが、着地した瞬間の影から黒い鎖が蠢いた。

 リコリスの手が固く結ばれている。

 

「捕まえた」

 

 黒影の鎖がムラクの両足を完全に拘束する。

 

「うわっ!?」

「マキア様!!」

 

 シオンの叫びと同時に、俺は地を蹴った。一瞬で間合いを詰める。

 ムラクの顔が恐怖に歪む。

 

「ちょ、ちょっと待っ──」

 

 一閃。渾身の踏み込みから振り下ろされた絶剣がムラクを捉え、彼は激しく吹き飛んで石畳を転がった。

 

「ぐっ……!」

 

 血を吐きながら立ち上がろうとしたその頭上に、天空から白銀の聖光が降り注ぐ。

 

「《セイクレッドジャベリン》!」

 

 リナリアの聖なる槍が突き刺さり、ムラクの魔力回路を完全に打ち砕いた。ムラクの体が崩れ落ちる。

 

「……まじかよ」

 

 うつ伏せのまま、ムラクは意識を失った。

 シュラの顔から完全に余裕が消え去る。

 

「ニ人とも……やられた……」

 

 シュラの全魔力が狂暴に暴走を始める。足元の地盤が鳴動した。

 

「舐めないで!!」

 

 髑髏の杖を力任せに地へ突き立てる。

 地割れが走り、これまでとは比較にならない密度の死霊軍勢が溢れ出した。

 

「《ネクロハザード》!!」

 

 数百、いや数千を超える腐肉の嵐。

 

「こっちはもう味方の巻き込みを考える必要はないの!!」

 

 アネモネが顔を顰める。

 

「多すぎる……!」

 

 だが、リナリアが一歩前へ踏み出してきた。

 

「大丈夫」

 

 両手を天へ掲げると、清らかな聖光が津波のように押し寄せる。

 

「《セイクレッドパニッシュ》!!」

 

 光の波が大地を清め、無数の死霊たちが声もなく浄化されていく。シュラが歯を強く食い縛った。

 

「……この聖女……っ!理不尽すぎるのよ!!」

 

 リコリスが不敵に笑う。

 

「最後まで、私達との相性が最悪だったな」

 

 アネモネが幾重もの風の多重陣を重ね合わせる。

 

「終わりにしましょう」

 

 暴風の渦が収束していく。俺は剣を深く引き、踏み込みの体勢を整える。

 シオンが最前線へ躍り出た。

 

「道を作ります!!」

 

 巨大な盾を掲げ、シュラが狂乱の末に放った黒い魔力の槍をすべて正面から破砕、霧散させる。

 

「今です!!」

 

 シオンの合図とともに俺は加速した。直線上の突撃。シュラが慌てて防壁の陣を描こうとするが──遅い。

 足元の影から伸びた黒い腕が、シュラの腕を強固に縛り上げた。リコリスの制御だ。

 

「止まれ」

 

 術式が不発に終わる。その瞬間、頭上からアネモネの爆風が叩きつけられた。

 

「《エアロバースト》!!」

 

 空中に打ち上げられ、完全な無防備となったシュラ。

 そして──集束したリナリアの光が俺の剣身を黄金に染め上げる。

 

「マキア!」

 

 リナリアの叫びに応え、俺は跳躍した。

 

「終わりだ──!!」

 

 黄金の一閃が空を切り裂き、シュラの体が地面へと激しく落破した。

 静寂が降り立つ。

 蠢く敵は、もう一匹たりとも残っていない。

 シオンがゆっくりと大盾を下ろした。

 

「……終わりましたね」

 

 俺は荒い息を吐き出し、剣を鞘へと収めた。

 アネモネが疲れたように肩を回す。

 

「ふぅ……疲れたわね」

 

 リコリスも息を整えながら、薄く微笑んだ。

 

「あぁ。なかなかに手強い雑兵どもだった」

 

 リナリアが小さく息を呑み、視線を先へと向ける。

 

「でも」

 

 視線の先──巨大な黒の城門。

 

「ここからが本番だよ」

 

 全員の視線が一箇所に集まる。

 不気味な圧迫感を放つ巨門が、ギギギ……と重い音を立てて、ゆっくりと開き始めた。

 門の奥から漂うのは、これまでとは比較にならない、世界そのものを圧死させるような絶対的な魔王の気配──。

 俺たちは互いに顔を見合わせ、言葉無く強く頷き合うと、開かれた絶望の奥へと歩みを進めた。




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
 この一話全部戦闘シーンにするっていうのは初めてなんですけど、やっぱり難しいですよねぇ……
 色々調べてたら普段よりも文字数減っちゃいましたし、書いていても「僕が書きたいことってこれで伝わるかなぁ」と何度もなりますし……
 おそらく察している方もいると思いますが、次回は魔王戦になります!
 読んでて面白い!って思ってもらえるように頑張って書きますし、後二話で完結するこの物語に、是非最後までお付き合いください!
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