運命の赤い糸が見える俺、運命の相手は魔王様でした   作:Toaria

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 今回も読みに来ていただき、ありがとうございます!
 感想送って下さった方も、本当に感謝しています!
 さて、これで完結です!
 最後まで、楽しんで読んでもらえてたら幸いです!


終わらない英雄譚

 床の冷たさが、ゆっくりと体に染みてくる。

 視界はぼやけているのに、不思議と仲間の顔だけははっきり見えた。

 

「頼む、しっかりしろ!」

 

 リコリスが俺に意識を強く保つよう声をかけてくる。だが、

 

(全身が、痛ぇ。それに記憶も…)

「マキア様!!」

 

 シオンがすぐ横に膝をつき、俺の体を支える。いつも戦場で前に立っていた大きなーー今では大きくひしゃげた姿となっている盾が、床に転がっている。

 

「しっかりしてください!」

 

 震えていた。あのシオンの声が。

 俺は小さく笑った。

 

(……そうだな、せめてみんなに)

 

「……そんな顔するな」

「笑い事じゃありません!」

 

 シオンの目には涙が溜まっていた。

 俺は少し息を整えてから言う。

 

「シオン」

 

 名前を呼ぶ。

 シオンが顔を上げる。

 

「ありがとう」

 

 シオンが固まった。

 俺は続ける。

 

「お前が盾を構えてくれたから、何度も生きて帰れた」

 

 思い出す。

 四天王相手にも、前に立っていた背中。

 魔法を受け止めた盾。

 そして、さっきの戦いでも。魔王の剣を、あの盾で止めた。

 

「正直さ、何回も思った。“ああ、シオンがいるなら大丈夫だ”って」

 

 シオンの唇が震える。

 俺は言った。

 

「俺、前に出るばっかりだったろ。無茶もした。でも、お前がいたから怖くなかった」

 

 シオンの涙がこぼれた。

 

「……それは」

 

 声が詰まる。

 

「ガーディアンとして当然です」

「違う、当然じゃない。お前だったからだ」

 

 シオンの肩が震える。

 

「最後まで」

 

 俺は言う。

 

「背中、任せられた。最高の盾だった」

 

 シオンは俯いたまま、必死に声を絞り出した。

 

「……約束、忘れたんですか?」

「忘れてない。まだ生きてるし、これからも生きる予定さ」

 

 嘘だ、確かにまだ生きてはいるが脳の痛みがまるでこれで最後の時間だと言うように俺の意識を蝕み続ける。きっと――もう長くない。

 

「……また、私を置いて行くんですか?」

「置いていかない。ただ感謝を伝えているだけさ」

 

 本当だ、例え俺が死んでも俺が生きたという意思はこの世に残る。事実前世は魔王に看取られる形で一人寂しく散ったが、今は仲間みんなに看取ってもらえる。それだけ俺が起こした行動に意味があり、俺が残した痕跡となる。きっと俺の意思も継いでくれるだろう。

 

「……でも」

 

 いくらかの問答を終えてなお、シオンは言葉を紡ごうとする。だから俺はーー

 

「約束しよう」

「……約束?」

「ほら、俺って約束を守れる男だから。こうすればシオンも信じられるだろ?」

「……勝手に死なない約束は?」

「あー、約束通り努力はしたろ?」

「……一人で突っ込まない約束は?」

「実際にみんなで来ただろ?いや、バハムートとの戦いでは少し微妙なラインか…?」

「……じゃあダメじゃないですか」

「いやまぁそう言われると弱いな……。けど理由もなく、約束の放棄はしなかっただろ」

 

 俺は一息整えると、改めて告げる。

 

「約束する、俺はシオンたちを置いていかない」

 

 俺たちの力で魔王を討伐したんだ。

 

「だから約束してくれ。シオン、君が幸せになってくれ」

 

 シオンは、俺が死んだら後を追おうとするかもしれない。実際に約束の際にも彼女はそう言っていた。ーーだが、せっかく世界が平和になったんだ。決めるにはまだ早い。

 

「……マキア様がいないと、私は……」

「なら約束を守るために努力してくれ」

「……それは、命令ですか?」

 

 どこか既視感を感じる質問に、俺は苦笑し、そして同じ言葉を返す。

 

「いや、お願いだよ」

「……最後までずるいです」

 

 涙が床に落ちた。

 

 次にアネモネが歩いてくる。

 腕を組んで、いつもの不機嫌そうな顔。だが目は赤い。

 

「ほんと」

 

 ため息をつく。

 

「最後まで無茶する男ね」

「だが無茶した甲斐があるだろ?」

「世界の平和のために、仲間の平和を犠牲にしちゃったらまぁ世話ないわね」

 

 アネモネからの皮肉に、胸が痛む。あぁ、その通りだ。誰よりも仲間の幸せを願ったはずなのに、みんなを泣かせてしまった。これは俺のせいだろう。だが、悔いはない。

 

「アネモネ、いろいろ助かった」

「あら、随分ざっくばらんね」

「お前って、そんな皮肉屋だっけ……?」

「誰かさんのおかげね」

「ほら、いつもみたいに何でよ!?とか叫んでよ」

「マキアの私への印象がどんなのか一度しっかり書きたいけど、今はいいわ。それと流石にこんな空気で元気で居られるほど、私も図太くないわよ……」

 

 俺はゆっくり言った。

 

「最初に会えた仲間がアネモネで、よかったよ」

 

 アネモネの眉が動く。

 俺は続ける。

 

「仲間の中で一番うるさくて、一番怒ってて、一番俺に対して薄情で」

「もしかして喧嘩売ってる?」

 

 俺は言葉を続ける。

 

「そのくせ一番勉強熱心で、一番仲間思いで、一番心配症で、一番誰かに寄り添っていて、そして――一番俺に対して誠実で居てくれた」

 

 アネモネがそっぽを向く。

 

「……当たり前でしょ?私、天才なんだから」

 

 だが声が少し震えている。

 俺は笑う。

 

「知ってるさ」

 

 少し沈黙してから言う。

 

「あとアネモネさ。絶対言わないけど」

「……なによ」

「お前って、さみしんぼだよな」

 

 アネモネの目が見開く。

 俺は続ける。

 

「夜眠るときに誰かの腕を抱きしめて寝てたり、たまに俺の部屋に勝手に入って来て一緒に寝てきたり」

「気づいてたの!?」

「まぁ夢かと思って何回かスルーしてたけど、流石に気づくさ」

 

 笑う。

 

「全部バレてる」

「……うるさい」

「でも、そんなお前が俺は好きだったよ。誰よりも頼りにしてた」

 

 小さく。

 

「本当に」

 

 アネモネの肩が震えた。

 

「お前はもう、1人でも大丈夫だよ」

 

 アネモネは手で顔を覆い、膝から崩れ落ちた。

 

 次にリナリアが来る。膝をつき、俺の手を握る。温かい光が流れる。

 だが。治癒の力は身体は治せても脳の異常までは治せない。

 俺にも分かる。もう治らない。

 それでもリナリアは魔法を止めない。涙を流しながら。

 俺は言う。

 

「リナリア」

 

 彼女が顔を上げる。

 

「ありがとう」

 

 リナリアが首を振る。

 

「違う……私がもっと……」

 

 声が震える。

 

「もっと強ければ、もっと早く治せれば……」

「そんなことない」

 

 リナリアの手を軽く握る。

 

「お前がいたから何回でも立ち上がれた」

 

 思い出す。戦場で倒れた時。傷だらけで歩けなかった時。

 いつも光があった。

 

「戦いってさ」

 

 俺は言う。

 

「怖いんだよ。誰か死ぬかもしれない。仲間が死ぬかもしれない」

 

 少し息を吸う。

 

「でも、お前が後ろにいると安心できた」

 

 本当だ。特に人間よりもずっとスペックの高さを誇る魔族が相手だったんだ。常に油断の出来ない戦場の中、仲間の命を救ってくれる存在がどんなに眩しく見えることか。

 

「それに……」

「……それに?」

「ほら、町から出ていくときがあったろ?それで町の人たちから見送られるときに見せた笑顔が、さ?あー、くそ。恥ずかしい」

「?」

「俺が!……俺が今までどれよりも綺麗だったんだ――だから」

 

 一拍。

 

「だからリナリアには、常に笑顔で居て欲しいって思ったんだよ」

 

 リナリアが口を両手で覆う。

 俺は言う。

 

「お前は俺の光だった」

 

 リナリアは泣きながら頷いた。

 

 そして最後に。

 リコリスが立っていた。少し離れた場所で。

 腕を組み、静かにこちらを見ている。

 俺は言う。

 

「リコリス」

 

 彼女がゆっくり近づく。

 膝をつく。

 

「……馬鹿者」

「なんだよ」

「言っただろう、どうなるかわからないと」

 

 俺は笑う。

 

「まだ生きてる」

 

 リコリスは小さく息を吐く。

 

「時間の問題だ」

 

 沈黙。俺は少しだけ視線を上げる。

 

「なぁ」

「なんだ」

「俺、お前のこと好きだ」

 

 空気が止まった。

 リコリスの目がわずかに見開かれる。

 俺は続ける。

 

「最初、運命探知が発動した時、勇者と魔王の関係だから」

 

 リコリスは黙って聞いている。俺は言う。

 

「だから発動したと思った」

 

 少し笑う。

 

「でも違ったわ」

 

 静かに言う。

 

「そもそも、前世戻る前は実質ただの一般人だったんだ。アネモネやリナリア、シオンとの運命も俺が前世を取り戻してからだし。そんな俺が魔王と結ばれる理由がない」

 

 リコリスの瞳が揺れる。

 

「だからそれは勇者とか魔王とか関係なくて」

 

 俺は言う。

 

「それでも、運命で結ばれた」

 

 本格的に意識が朦朧とし始め、息も苦しくなってきた。それでも言う。

 

「それは多分前世からとかじゃなく、もっと前、というよりもきっと」

 

 リコリスを見て。

 

「魂から、心の底から俺はお前に惚れてたんだろう。つまり――また別の意味で運命だったってこと」

 

 静寂。

 リコリスは何も言わない。

 ただ俺の手を握る。強く。

 俺は小さく笑う。

 

「まぁ、今言うのも、遅いか」

 

 視界が暗くなっていく。意識が遠くなる。

 呟く。

 

「でも、伝えたかった」

 

 温かいものが頬に落ちた。涙だった。

 リコリスの声が震える。

 

「……馬鹿者」

 

 俺の手を握る。

 

「私も愛している」

 

 後悔が溢れる。

 

「……あぁ、まだ生きてたいなぁ…」

 

 そう、最強を目指して冒険者になったのにまだ最高ランクになっていない。この冒険もやがて英雄譚となるのだろう、その本を英雄譚好きを自称するこの俺が直々に読みたい。この広い世界の一端しかまだ知らないんだ、もっとこの仲間で色んなところをまた冒険したい。――しかし、何よりも

 

「もっと、みんなと一緒に…」

 

 しかし俺の意思とは反対に、俺の意識は深い闇へと向かっていく。

 

「悪い、少し寝る」

「……あぁ、ゆっくり眠るといい」

「うん、そうさせてもらうよ」

 

 そして赤い糸は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途切れた。

 

 

 マキアは動かなくなった。

 シオンの啜り泣く声、リナリアの震える声で呟かれる祈りだけが響く。

 アネモネはその場で俯き、小さく肩を振るわせていた。

 しかし、リコリスだけは動かなかった。

 ただ、勇者を見ていた。数秒。いや、もっと長かったかもしれない。

 そして静かに口を開いた。

 

「……なぁマキア」

 

 囁くように言葉を紡ぐ。

 

「起きたら何をしようか?」

 

 一歩、前に出る。

 

「王都に英雄として凱旋か?」

 

 もう一歩。

 

「今度はマキアが夢にしてた最高ランクをまた目指すのもいいかもな」

 

 声が少しだけ震える。

 

「《全記憶解放》後も戦えていたんだ、リスクは避けれたのだろう?」

 

 勇者の前で膝をつく。その肩を掴む。

 

「だから――」

 

 そこで、声が止まった。呼吸が乱れる。

 

「……目を覚ましてくれ」

 

 返事はない。

 

「マキア」

 

 揺らす。

 

「何故」

 

 揺らす。

 

「何故」

 

 理性が切れた。

 

「何故!!」

 

 そして、叫び声が戦場に響く。

 

「ふざけるな!この私に告白しておいて!挙句勝手に死ぬとは何を考えてるんだ!!」

 

 拳で勇者の胸を叩く。

 

「私はまだ――」

 

 言葉が止まる。唇が震える。

 

「……まだ」

 

 声が小さくなる。

 

「何も」

 

 涙が落ちた。

 

「何もお前と、出来ていないんだ……」

 

 リコリスは勇者の胸に額を押しつけた。そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で言った。

 

「……だから、置いていかないで……」

 

 静寂。ついには誰の声も聞こえなくなる。泣き声も。祈りも。怒号も。

 ただ、戦場の風が瓦礫を転がす音だけが、かすかに響いていた。

 リコリスは動かない。勇者の胸に額を押しつけたまま。

 シオンも。リナリアも。アネモネも。誰も言葉を発しない。その沈黙の中で――ふと。

 シオンの耳が、小さな音を拾った。

 

「……?」

 

 シオンの眉がわずかに動く。何か聞こえた。とても小さい。だが、確かに。

 

「……待ってください」

 

 シオンが呟く。

 リナリアが顔を上げる。

 

「シオン……?」

 

 シオンは手を上げた。

 

「静かに」

 

 全員が息を止める。風の音。瓦礫の転がる音。そして――

 

「……すぅ」

 

 かすかな音。

 

「……ぅ……」

 

 とても弱い。だが確かに――呼吸の音。

 シオンの目が見開かれる。

 

「……皆さん」

 

 アネモネが顔を上げる。

 

「何?」

 

 シオンが震える声で言う。

 

「今……聞こえましたか?」

 

 リナリアが首を振る。

 

「え……?」

 

 もう一度。

 

「……すぅ……」

 

 今度は、全員が聞いた。

 リナリアの目が一瞬で見開かれる。

 

「……え?」

 

 アネモネが固まる。

 リコリスの肩がぴくりと動く。全員の視線が――勇者へ向く。静寂。そして

 

「……すぅ」

 

 小さな。とても小さな、寝息。

 リナリアが息を呑む。

 

「……え」

 

 シオンが震える声で言う。

 

「……寝てますね」

 

 アネモネが一瞬固まり。次の瞬間。

 

「はぁ!?」

 

 リコリスがゆっくり顔を上げる。

 信じられないものを見るように。勇者の顔を覗き込む。

 マキアの顔。血だらけ。傷だらけ。だが――

 

「……すぅ」

 

 気持ちよさそうに寝ている。沈黙。数秒。そしてアネモネが叫んだ。

 

「本当に寝てるだけじゃないのよこのバカァァァ!!」

 

 シオンが膝から崩れ落ちる。

 

「……生きている……」

 

 リナリアの涙がさらに溢れる。

 

「よかった……!」

 

 場に温かみが戻る。

 リコリスはじっと勇者を見る。

 ただ、震える手で――

 マキアの胸に、耳を当てた。

 

「……生きている」

 

 自身の涙を拭い、ゆっくりと言葉を発する。

 

「……マキアに仕置きがいると思わんか?」

 

 先程までの醜態をなかったかのように振る舞う。その場の誰もリコリスに深く触れない。ただ

 

「えぇそうね!!人に心配をかけすぎよ!!」

 

 アネモネが同調する。

 

「一度しっかりと話し合うべきよね!!」

 

 リナリアも共感を示す。

 

「また私たちを置いて行こうとした罰です!!」

 

 シオンが怒り気味で言う。

 しかし、その場の全員が笑顔で溢れていた。

 戦場に。今度は違う意味の騒ぎが響き渡った。

 

 

 勇者マキアが倒れてから――数日後。

 王都。城の一室。静かな病室に、朝の光が差し込んでいた。

 目を覚ます。

 

「……ん?ここ、どこだ?」

 

 身体を起こし、周りを見回す。

 

「……あれ、俺生きてね?」

 

 状況をまとめようとベッドに腰掛ける形で姿勢をただし、手を顎に当てる。

 

「ふむ。……ふむ?」

 

 そして――思い出す。

 

「嫌ぁぁぁ!!その場のテンションって怖ぇぇぇ!!」

 

 恥ずかしさで転げ回る。

 仲間一人一人に言った言葉。

 

『最高の盾だった』

『頼りにしてた』

『お前は俺の光だった』

『俺、お前のこと好きだ』

 

 マキアの顔が一瞬で真っ赤になった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ベッドの上で悶える。

 

「なに言ってんだ俺ぇぇぇ!!」

 

 枕に顔を埋める。

 

「普段なら絶対言わないのにぃぃぃ!!」

 

 バタバタ暴れる。

 

「ワンチャン夢でしたとかない!?」

 

 枕を抱えて転がる。その時。ガチャ。

 病室のドアが開いた。

 マキアが凍りつく。

 ゆっくり振り向く。

 そこには――シオン。アネモネ。リナリア。そして。リコリス。

 四人ともがしっかりと全部聞いていた。

 沈黙。

 マキアの顔から血の気が引く。

 

「……」

「……」

 

 アネモネが口を開く。

 

「へぇ」

 

 ニヤリ。

 

「起きたのね」

 

 リナリアは涙目で笑っている。

 

「マキアさん……!」

 

 シオンは腕を組んでいる。

 

「元気そうで何よりです」

 

 そして最後に。

 リコリス。じっとマキアを見る。沈黙。

 

「どうやら重度の脳疲労と、魔力切れから来る気絶だったみたいよ」

 

 アネモネがマキアに伝える。

 マキアはゆっくり布団を被った。

 

「……帰りたい」

 

 布団の中から声。

 アネモネが吹き出した。

 

「何それ」

 

 シオンが肩を震わせる。

 リナリアも笑いを堪えている。そして。

 リコリスが小さく言った。

 

「残念だな」

「……何が?」

 

 マキアが布団から少しだけ顔を出す。

 リコリスは言う。

 

「私は」

 

 少しだけ口元を緩める。

 

「もう少し聞きたかったんだが」

 

 マキアの顔が再び爆発した。

 

「止めろぉ!!」

 

 病室に絶叫が響いた。こうして。

 魔王を倒した勇者は――恥ずかしさで死にかけていた。

 マキアが恥ずかしさで転げ回ってからしばらく後。

 

「……で」

 

 アネモネが腕を組む。

 

「一応確認するけど全部本気だったの?」

「……何が?」

 

 アネモネは指を折る。

 

「シオンへの“最高の盾”」

「リナリアへの“俺の光”」

「私への“頼りにしてた”」

 

 そして。

 ニヤリと笑う。

 

「リコリスへの“好きだ”」

 

 マキアは布団を頭まで被った。

 

「もう許してぇ」

 

 シオンが咳払いする。

 真面目な顔。

 

「勇者としての覚悟の言葉でした。恥じる必要はありません」

 

 リナリアもうんうん頷く。

 

「そうだよ!とても……素敵だった」

 

 マキアは布団の中で呻いた。

 

「頼むから蒸し返すなぁ……」

 

 ある程度からかい、満足したリコリスが発言する。

 

「ふん。これに懲りたら簡単に命を賭けるのを止めるんだな」

「そうね。反省しなさい」

「本当に、心配したのよ?」

「私との約束を破ろうとした罰です」

 

 仲間たち全員からの罰だと言われると、俺は何も出来ない。

 

「悪かった。いや本当に」

 

 その時。コンコン。

 病室の扉がノックされた。全員が振り向く。扉が開く。

 入ってきたのは――王国の近衛兵。

 

「勇者マキア様」

 

 敬礼。

 

「陛下がお呼びです」

 

 部屋が静かになる。

 シオンが小さく言う。

 

「……ついに来ましたか」

 

 マキアが顔を出す。

 

「何が?」

 

 アネモネが肩をすくめる。

 

「魔王討伐の褒章よ」

 

 マキアは少し考えて。

 

「金?」

 

 アネモネが即答した。

 

「黙っときなさい」

 

 

 ちなみにだが、あれだけ無茶をしたため、後遺症は残ってしまった。

 しかし、脳へのダメージはどうやら最小限で済んだようでただ日常を過ごす分には問題は無さそうで、身体の痛みも時間が直してくれるとのことだ。

 問題は……まぁこの後すぐわかることとなる。

 

 兵士に連れられて数時間後。王城。大広間。

 マキアは仲間たちと並んでいた。目の前には王。そして貴族たち。大勢の人間。

 王が立ち上がる。

 

「勇者マキア」

 

 重い声が響く。

 

「よくぞ魔王を討った」

 

 周囲は静かだ。王が満面の笑みで語っている。しかし俺の心情は混沌としていた。何故かだって?だって……

 

(やべぇよ、なんかあのおっさんと運命の糸繋がってるっていうかこの場の全員と繋がってんだけど!?やだよこんなジジババハーレム!?)

 

 どうやらあらゆる前世の記憶を取り戻したことで記憶はないくせに、そこにあった運命だけはばっちりと受け継がれていたらしい。このままじゃ全人類兄弟と呼ばざるを得なくなりそうだ。

 だが、そんなリシマキアの心情を知らない王様は話を続ける。

 

「その功績、我が国だけでなく世界を救ったと言ってよい」

 

 マキアは頭を掻く。

 

「いやまあ……はい」

 

 混乱した心情を一度放置しておき、身が入らないながらも返事をする。

 王が手を上げる。

 

「よって、褒章を与える」

 

 マキアがぼそっと言う。

 

「金かな」

「黙りなさい」

 

 王が言う。

 

「貴殿の栄誉を讃え、冒険者ランクを特別にSSランクとする」

 

 それは、最強を目指した俺にとって最高の報酬だった。

 

「ありが「同時に我が娘である第一王女を」ん?」

 

 間。

 

「お前の婚約者とする」

「……は?」

 

 周囲がざわめく。

 リナリアの目が丸くなる。

 シオンが固まる。

 アネモネが吹き出す。

 

「ちょっと待てええええ!!」

 

 マキアが叫ぶ。

 

「話飛びすぎでしょう!!」

「うむ、気にするな」

 

 そう言う問題じゃない。その時。扉が開いた。入ってきたのは――金髪の女性。王女だった。優雅に歩き、マキアの前に立つ。

 

「初めまして」

 

 にこりと笑う。

 

「婚約者様」

 

 マキアの顔が引きつる。

 もちろん王女様とも、何故か運命の糸は繋がっている。

 

(やだぁぁぁ!!面倒事の予感しかしねぇぇぇ!!)

 

 1秒でも早く断りたい一方、王様からの褒賞という形のため断りづらく、せめて一度時間を稼ぐことを試みる。

 

「いやちょっと、俺まだ返事してない」

「大丈夫です。形式ですから」

「は?」

 

 王女はさらっと言った。

 

「私は勇者様が王族の一員となった事実が欲しいだけです」

「……は?」

「勇者が国の王になってもらった方が国民が安心して暮らせるのです」

 

 なので、と続ける。笑顔。

 

「子供さえいただけましたら問題ありません」

「え」

 

 王女は続ける。

 

「恋愛は自由ですから、邪魔はしませんし」

 

 王女はさらに言った。

 

「王族は複数婚約も可能ですよ♪」

 

 静寂。マキアがゆっくり振り向く。後ろ。

 仲間たち全員がこちらを見ている。

 シオン。真顔。

 

「なるほど、確かに複数人の方がかん…保護できますね」

 

 アネモネ。ニヤニヤ。

 

「へぇ、いいこと聞いたわ」

 

 リナリア。顔真っ赤。

 

「え、ええと……」

 

 そして。リコリス。腕を組み。静かに言う。

 

「ほう」

 

 マキアの背中に冷や汗が流れる。

 リコリスが一歩前に出る。

 

「マキア」

「……はい」

「貴様」

 

 ゆっくり言う。

 

「誰を好きだと言っていた?早速浮気か?」

 

 マキアの心臓が止まりかけた。

 アネモネが笑う。

 

「逃げ場ないわよ」

 

 シオンが頷く。

 

「責任は取るべきです」

 

 リナリアも小さく言う。

 

「そ、そうだね……」

 

 マキアが叫ぶ。

 

「なんで全員圧かけてくるんだよ!!」

 

 王女が楽しそうに言う。

 

「仲が良いですね」

 

 リコリスがマキアを見つめる。そして言った。

 

「安心しろ」

「……何が」

 

 リコリスが微笑む。

 

「ただ、ゆっくりと話し合うだけだ」

 

 マキアは天井を見上げた。

 

「魔王より怖ぇ……」

 

 こうして。

 世界を救った勇者は――しかし、魔王からは逃れられなかった。

 

 

 数百年後。

 王都のある家。暖炉の火が静かに揺れていた。

 小さな男の子がベッドに座っている。

 その横で、母親が一冊の本を閉じた。

 

「――こうして」

 

 優しく微笑む。

 

「勇者マキアは仲間たちと共に魔王を倒し、再び世界を救いました」

「すごい!」

「そうね」

 

 母親は頷く。

 

「だからこの物語は、今でも王国で語り継がれているんでしょうね」

 

 本の表紙には金色の文字。

 『勇者マキアの英雄譚』

 男の子は少し考えてから言った。

 

「ねえねえ」

「なに?」

「リコリスさまってまぞくだったんでしょ?」

 

 母親はくすっと笑う。

 

「そうね」

「じゃあいまもいきてるの?」

「どうなのかしらね?彼女はみんなを見送った後、何処かへ行ってしまったみたいよ?」

 

 母親は布団をかけてやる。

 

「今日はもう遅いから、寝なさい」

「はーい」

 

 灯りが消え、部屋が暗くなる。

 やがて、静かな寝息が聞こえ始めた。

 

 

 翌日。王都の通り。

 男の子は友達と走っていた。

 

「まてー!」

「おそいぞ!」

 

 笑いながら石畳を駆ける。その時。ふと。

 男の子の足が止まった。

 

「……あれ?」

 

 男の子はゆっくり振り向いた。通りの向こう。一人の少女が立っていた。黒い髪。赤い瞳。年齢は同じくらい。

 少女は静かにこちらを見ている。

 男の子の視界の奥で。何かが、かすかに光った。細く。赤い光。まるで糸のような――だが。すぐに消える。

 

「……?」

 

 男の子は首をかしげる。

 少女がゆっくり歩いてくる。

 そして目の前で止まった。男の子を見る。

 

「……ねえ」

 

 少女が言った。

 

「貴方」

「なに?」

 

 少女はじっと見つめる。まるで確かめるように。そして。

 

「名前は?」

 

 男の子はまた首をかしげる。

 

「僕の名前は――」

 

 答える。

 

「マキア」

 

 少女は少しだけ空を見上げる。遠い空。まるで、ずっと探していたものを見つけたように。

 そして小さくつぶやいた。

 

「……そうか、いい名前だ」

 

 その声は、誰にも聞こえなかった。

 ただ。

 解けた糸は、再び結ばれた。




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
 いやー、2週間かけての更新は長かったようで短かったですね!
 完結まで書けたのは、こうして最後まで読んで下さった方や、お気に入り登録をして下さった方、感想を送っていただいた方々のおかげです!
 こうして自分で物語を作るとなると、出てくる娘たち全員好きになっちゃった♪
 ここにいる娘たちが幸せになるにはマキア君、君に頑張ってもらわなくちゃならないようだ…まぁ、きっとマキアも幸せになるでしょ(適当)
 冗談もさておき、本当はこの作品を連載版にして、もっと話を書いていこうかなともこのネタを思いついた時に考えてたんですよ!
 ですけど僕にとって大事なのって色んな人に80%くらい好きって思ってもらうよりも特定の一人に120%好き!って言ってもらうのが目標なので、僕的に綺麗に終わらせられそうな短編に致しました!
 まぁ初めての作品なのでまだまだ文章力が足りず、至らない点も多かったかもしれませんが、それでも誰かの記憶に残る作品になってたら幸いです!
 後書きも長くなってしまいましたが、以上となります!
 改めて最後まで、ありがとうございました!

 なお、最後にマキアたちの名前の由来を下に書いておきます!

花言葉

シオン――忍耐、君を忘れない
リナリア――微笑み、希望
アネモネ(白)――信じて待つ
リコリス――思うはあなた一人、また会う日を楽しみに

特性

リシマキア――切り戻すことで再び花を咲かせる性質=何度でも、繰り返し
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