人を食べるヒーロー   作:エトエトエト

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試験会場は焼肉屋ぐらいいい匂いだよね





頑張った後はいっぱい食べよう

 

 

 

 

 名声に価値など無い。

 

 ヒーローはよくインタビューでこんな言葉を言う。いかにもな正義の味方の台詞で、当時の私は鼻で笑った記憶がある。

 

 自分達の行いは名声を得るためではなく、あくまでも人々を助けるためにある。そんな意味が込められた言葉なのだろう。

 

 なんとも殊勝な心掛けだ。そこまでの奉仕精神を私は持てそうにはないし、初めて聞いた時は感心もしたと思う。

 

 だけど、名誉や賞賛くらい素直に受け取ればいいのに、なんて。人から誉められるのが大好きな私はいつもそう思っていた。

 

 人は心が原動力。

 

 なんて言う人もいるけれど。人間の原動力は大きく分けて二つしかないだろう。

 

 死にたくないという生存本能と、誰かに認めて欲しいという承認欲求だ。

 

 食事も睡眠も生きるために行われる。努力や善行、悪行であっても、突き詰めれば承認欲求からくる行動でしかない。

 

 オールマイト? あれはもはや人間の枠組に収まらないからノーカンでしょ。

 

 

 人から誉められるのは気持ちの良いことだし、あまり卑下しすぎるのは自分を認めてくれた相手にも失礼だ。

 

 

 『名声に価値など無い』。

 

 

 私にはこれがどうにも自己満足の偽善者の言葉にしか聞こえない。

 

 所謂、「名声なんて気にしない俺かっけー!」である。スカしてるとも言える。いらないなら全部私にくれてもいいんだよ?

 

 まぁ、これは私がひねくれているだけなんだけど。

 

 

 「名声に価値など無い」

 

 

 とても素敵な言葉だ。

 

 ありきたりすぎて聞き飽きたけどね。

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 試験会場は大いに賑わっていた。

 

 これから自己犠牲に身を投じるヒーローの卵達が、その輝かしい未来に期待を抱いているのだ。

 

 いったい彼、彼女の内の何人が『人を助けるため』にここに来たんだろうね。

 

 ん? 私は『ヒーローになるため』にここに来た側さ。

 

 正確には『人を食べるため』なんだけどね。ヒーローとして活動を続けなければ、私に食事の提供は来ない。そういう契約なのさ。

 

 幼い頃は私にその肉を提供してくれた人達も、時間が経つにつれて結局いなくなってしまった。今の私の主な食は身元不明者の遺体の一部と、脱皮や体の一部が生え替わる異形型個性を持った人の身体の一部だ。

 

 新鮮な肉と比べたらそりゃもちろん不味い。幼い頃に食べていたヒーローの肉は、鍛えられた人間の肉なだけあって、相応の美味しさがあった。

 

 

 私がここ数年で感じたことは、ヒーロー達は本質的に人を助けることを目的としていない人が多いということ。そりゃあもちろん例外だって存在する。けれど大抵のヒーローは、富、名声、どこかの海賊王が好きそうな俗物的なものを追い求めている。

 

 『人の肉しか食べれない哀れな少女』。『そんな少女を自分の身を削ってまで救おうとするヒーロー』。

 

 生かしてもらっている身だ。贅沢はあんまり言わないけどね。

 

 けれど今、周りを見渡せばどこもかしこも美味しそうな匂いを発している人間が溢れている。

 

 やっぱり、ヒーローを目指している子達なだけあって─────どの子もとっても美味しそう。

 

 

「……ダメだなぁ。我慢、我慢っと」

 

 

 ここに来る前に缶コーヒーを買っておいて正解だった。口の中に溢れている涎をコーヒーと一緒に流し込む。

 

 まったく本当に、喰種の食欲には困ったものだ。

 

 

 大学の講堂のような場所でプレゼントマイクの圧倒的声量による実技試験の説明を聞き、私達はついに実技試験の会場へと案内された。

 

 説明の途中で、緑谷君が飯田君に注意される原作お馴染みの事件もしっかりと発生した。

 

 初めて飯田君の生声を聞いたけど、あんまりにも学級委員長にぴったりな正統派イケメンボイスでびっくりした。石川界人ってすごいね。でも私は天下の坂本真綾ボイスだぞ。恐れ慄けよ君達。

 

 

「さてと、ここでひとつまみ」

 

 

 更衣室の中で。私は荷物の中のタッパーから、アルミホイルに包まれたソレを取り出した。

 

 エトちゃんお手製の肉団子だ。

 

 アルミホイルを剥がすと、香ばしい匂いが鼻腔を満たす。コーヒーで無理矢理抑えていた食欲が再び私の脳内を支配する。

 

 

「いただきま〜す」

 

 

 名前もわからない死人に感謝の言葉を告げ、私は少し大きめの肉団子を口に含んだ。

 

 口の中の体温が急激に上がり、肉汁と涎が混ざり合う。十分に味わってから飲み込むと、体の芯から燃え上がるような熱がこみ上げてきた。

 

 うん、やっぱりあんまり美味しくないね。

 

 

 つまみ食いがバレないように、私はそそくさと着替えて更衣室を後にした。意外にも私は早めに支度を終えた方だったようで、スタート地点として定められていた場所に着いた時は、まだ数人しか集まっていなかった。

 

 ざっと周りを見渡すが、原作キャラらしき人物はいなかった。そりゃこんなに人数がいれば難しいか。

 

 あわよくばここでお友達を一人か二人は作っておきたかったのだが、致し方ない。ぼっちにはなってしまうが、逆に言えばこれで思う存分暴れられるということだ。

 

 ぞろぞろと人が集まってきた。彼等の緊張が匂いで伝わってくる。

 

 私はぜんぜん緊張してないけどね。何故なら私はこの試験がどういうものか知っているから。敵ポイントだけで合否が決まるとは説明されたものの、実際は救助ポイントでも点は稼げるし、なにより喰種の身体能力があれば並大抵の受験生は話にならないからね。

 

 まぁ私もヒーローにならないと食にありつけなくなるかもだからさ、申し訳ないけどかっこいいところを先生達に見せるためにも、美味しいとこはもらっちゃおうかな。

 

 

『ハイ、スタート!!』

 

 

 その音と同時に、私は駆け出した。原作知識様々である。知らなかったら数秒は困惑して固まってしまっただろうから。

 

 実践にカウントダウンは無い、とは実に当たり前な話だけど、それをまだヒーローを志しているだけの一般人に求めるのは少し酷ではなかろうか?

 

 現に今やっと動き出した子達すら集団の中では早い方だ。私だけが合図と同時に飛び出すことができたから、これをアドバンテージにポイントをじゃんじゃん稼いでいきたいね。

 

 

「さて、なるべく赫子は使いたくないが……」

 

「標的捕捉!! ブッ殺す!!」

 

 

 1ポイントかぁ。まぁ小手調べには悪くないかな。真正面から向かって来るロボットに対して、私も拳を握りしめて突っ込む。

 

 

「よい、しょっ!!」

 

 

 拳を振り抜く。

 

 この世界には私以外にも異形型、それこそもっと剛腕な人間もいるだろうから、喰種の私とてそこまで容易に破壊できる代物ではない、と予想していたのだけれど。

 

 私の予想とは裏腹に、私の拳はいとも容易くその装甲を貫通し、仮想敵はバチバチと音を立てて動かなくなってしまった。

 

 どうやら喰種はこの世界でも案外強いらしい。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

「お腹が空いてきたなぁ」

 

 

 試験時間も残り一分ほどになっただろうか。目の前に出てくる仮想敵を壊し続けていると、仮想敵を探している受験生とよく出会うようになってしまった。

 

 彼等を倒してもポイントが貰えるようにしてくれたらいいのに。現場を彷徨く一般人なんて、CCGなら囮にしてそのまま殺そうとする捜査官だっているよ?

 

 私は彼とは違って市民の味方をする善良なヒーローなので、見かけ次第人助けもしっかりしている。これで救助ポイントも心配無し。彼等が私に惚れていないかだけが心配だよ。

 

 と、ついに来たね。

 

 もう合格は無いであろう受験生達が尻尾を巻いて逃げて来る。そんな彼等とは逆方向に走って行くと、今までのロボットとは比にならないほど大きな敵ロボットがいた。確かに、逃げ出すのも仕方がない大きさだ。

 

 私は元来、巨大化だったり暴走形態だったりが好きだった。『巨大化は負けフラグ』なんて酷い言葉もあるし、彼等は大抵の場合その言葉通りに負けてしまうけれど、それでも大きいってのはロマンじゃないかい?

 

 

 だから、私は『赫者』が好きだった。

 

 

 ssレートとは一線を画したsssレートの喰種達が主に使用する形態であるソレは、赫子で全身を覆った、まさしく人間離れした姿のことだ。

 

 ほとんどの赫者は理性を失うというデメリットがあるけども、そんなところも含めてただただロマンに溢れていて、『東京喰種』という作品の中でも大好きな要素の一つだった。

 

 そんな赫者の発動条件は、喰種が共食いを繰り返すこととされている。だがこの世界には、私以外の喰種は存在しない。

 

 喰種という単語や、人食いの症状で調べてはみたが、それらしき事例は見当たらなかった。私の両親は、と思ったけれど、二人は喰種とは全く異なる個性だったから…………

 

 私が単に異常なのだろう。

 

 

「うぁ……ぐ……」

 

 

 赫包からジュクジュクと音が聞こえる。強烈な空腹と、世界がひっくり返るような感覚に意識がどんどん削られていく。

 

 彼女にそっくりな翡翠色の髪も、右目だけの赫眼も、全てが赫子に包まれていく。

 

 

「ケハハッ」

 

 

 出血大サービスさ。私が役に立つ怪物だってちゃんと証明しとかないと、ネ。

 

 デカいロボットに向かって飛び上がる。やることはまだちゃぁんと覚えてる。アノ赤い目玉をほじくって、中からぶち破るンだ。

 

 

「ギャハハハ!!!!」

 

 

 バキバキ、バリバリ、グチャグチャと。脆い装甲を食い破っていく。ぜんぜん美味しくない。ムカつくなァ。ムカつくから、ゼンブブッ壊してヤル。

 

 羽赫が、ギャリギャリと音を立て始める。頭の中から、せんぶ全方向に。汚い、花火に、なレ。

 

 バキバキ、バリバリ、グチャグチャ。バキバキ、バリバリ、グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ──────

 

 

 

 

 

 

 

「あー…………しんど」

 

 

 羽赫から放たれた結晶が0Pロボットの頭を貫き終わって、私は肉の装甲から身体を解放した。意識はまだ少し曖昧だが、『終了〜〜!!!!』というプレゼントマイクの声が聞こえる気がする。ギリギリ間に合ったみたいだ。

 

 穴だらけになった機械の箱屑の中で、天井から差し込む光に目を細める。

 

 穴だらけになったロボットの外には、監視カメラだろうか。小さな機械がフワフワとこちらの様子を映している。

 私はファンサ精神が高いからね、ひらひらと手を振ってあげた。

 

 これだけ大暴れすれば、私のことを不合格にはさせられないでしょ? 手元に置いておかないと危なくて仕方がないでしょ? 

 だからさ、ちゃんと飼ったペットには餌を与えてよね。それさえしてくれたら、何も文句は言わないからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芳村 愛支

 

 個性『喰種』

 

 

 敵ポイント  81点

 救助ポイント 43点

 

 

 実技総合試験では頭一つ抜けた得点で一位。学力試験でも合格基準点を満たしていたため、首席合格とする。

 

 ただし、個性使用に際する食人欲求、実技試験の際の異形な形態を加味して、個性使用時には担任『イレイザーヘッド』の許可を義務付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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