人を食べるヒーロー 作:エトエトエト
AFOはいらない個性因子でクインケみたいなのを作ったらいいのに
雄英高校の入試から数ヶ月後、無事私は雄英高校ヒーロー科に合格して、晴れて雄英生として初登校の日を迎えていた。
ちなみになんと首席合格らしい。途中から面倒くさくなってポイントを数えるのをやめたんだけど、私ってそんなに頑張ってたんだ。
爆豪くんの77Pを超えるなんて、彼に目をつけられそうで嫌だったんだけど。超えてしまったものは仕方がないか。大人のお姉さん枠として初期の荒れた彼を優しく宥めるとしよう。
鼻歌交じりに廊下を歩く。今の時間は予定されてる登校時間よりもだいぶ早い。人が多い通勤ラッシュ時に登校してしまったら、朝から食欲に悩まされることになるので、人がいない早めの時間に登校することにしたのだ。
「おっはよーございま…………す」
「おはよう。早いな、芳村」
一人テンションのまま教室のドアを勢いよく開けると、そこにはなんと寝袋を抱えた我らが相澤先生がいらっしゃった。なんと恥ずかしいことか。
しかも相澤先生はあんまり気にしていない様子。恥ずかしがる私もあまり見ないようにしてくれている素晴らしい配慮もお持ちで。
私はエトらしくない振る舞いはあまり見られたくないんだよね。せっかくあの子の容姿と赫子を貰ったんだから、せめてあの子らしく振る舞っていたい。
先生には後で全てを忘れてもらおう。そうしよう。
「ごほん……先生もお早いお勤めだね。雄英の教師というのは案外ブラックなのかな?」
「教師はどこもブラックだぞ。雄英が特別なわけじゃない」
「へぇ。にしては色々資料らしきものを見つめて忙しそうだね」
「あぁ、今日は個性把握テストをするからな」
「…………それ私に言っていいやつ?」
『個性把握テスト』。雄英高校入学初日、相澤先生が担当するクラスで行われる個性を使用してもよい身体能力テストのことだ。
原作ではクラスの皆に予告無しで行われる感じだったので、こんな簡単に教えてくれて驚いた。先生って案外聞いたらなんでも教えてくれるタイプ?
「お前は少々特殊だからな」
そう言って相澤先生は一枚の紙を私に見せてくれた。そこにはカルテのように私の出身校や個性の詳細についてびっしり書かれていた。
驚きなのは最後の一行。
「『個性の使用は担任教師の許可を必要とする』……?」
「お前の個性は危険すぎる。実技試験で見せたあれは特に、な」
「でも私の個性は一応異形型に分類されるんだけど……」
「『背中から生やせる固有の捕食器官』……確か『赫子』だったか? それを出す時は俺の許可がいるってことだ。頭に入れといてくれ」
ふむ。これはまぁ、有難いことではあるのかな? 赫子を出したり赫者になったりすれば、いつもより格段にお腹は減るし、疲れるしでいいことはあまりない。であるならば、雄英の許可無しに赫子を出せないことにすればお腹が減る機会も当然減る。
赫子さえ出さなければ少しの食事でもそれなりの期間生きることはできる。それに、いざと言う時も『許可が無かった』で戦わずして逃げることも合法化されるということだろうか? いやぁ、やっぱり赫者化しといて良かった。
「わかったよ。先生に逐一許可を求めることを誓う……これでいい?」
「それと今日の放課後生徒指導室に来てくれ。個性についてもっと詳しく聞いておきたい」
「入学初日に生徒指導室か。悪いことをしたみたいで緊張するね」
「用件はそれだけだ。俺は全員が揃うまであっちで仮眠を取る。時間になって俺が来なかったら呼びに来てくれ」
「まったく生徒使いが荒い先生だ。わかったよ」
自分の用件を伝えるだけ伝えて、先生はそそくさと教室を出て行ってしまった。なるほど先生もしっかり仕事をしてから寝袋にくるまってたわけだ。こっちの世界も教職が忙しいのは変わらないんだな。
自分の席を確認すると、廊下側の一番後ろ。原作のお茶子ちゃんの席だった。お茶子ちゃんは私の隣だったので、おそらく砂糖君がいないのかな。席はちょうど20個のまんまだし。
ごめんね砂糖君。お菓子屋さんでも開いてくれよ。私は食べに行けないけど。
◆◇
相澤先生と話してから暫くして、何人かの生徒が教室に入って来た。やっぱり飯田君は早い方だったし、爆豪君もそれなりに早い方だった。
皆優等生だなぁ〜と思いつつ、私はコーヒーを飲みながら読書に勤しんでいた。飯田君は席に荷物を置きに来た時に自己紹介はしたけど、すぐさま他の人のところへ行ってしまったので、会話相手がいないのだ。つまるところボッチだね。とほほ。
教室の前の方では飯田君と爆豪君が原作通りの机の話をしているので、そろそろ我らが主人公サマが登校して来る頃だろう。あとお茶子ちゃんもね。
「あっ、そのもさもさ頭は! 地味めの!」
お、噂をすればお茶子ちゃんが来たみたいだ。女の子の声だけは聞き逃さんよ。へへ。
ということはそろそろ相澤先生もやって来る時間かな。最後にコーヒーを一口飲んで、本と一緒に鞄の中へと仕舞う。
「お友達ごっこしたいならよそへ行け。ここはヒーロー科だぞ」
きたー。ここからは角度的に見えないけれど、寝袋のチャックを下ろす音が聞こえるよ先生。
それと合理性がどうとか言ってるけど、合理的に考えてもっと健康的な食事を取った方がいいよ先生。だって先生からはぜんぜん美味しそうな匂いがしないからね。ちょっと不健康すぎると私は思うよ。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
よろしくー、と私の可愛い声は皆のざわめきにかき消されてしまった。確かにこんなやさぐれた浮浪者みたいな格好をした人がプローヒーローで雄英教師とは思えないよね。
もっと外観は気にしたほうがいいんじゃないかな? その方が怖いとか思われないと思うんだけどね。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
「はーい」
私の声は今度はしっかりと教室に響き渡った。ちょっとだけ恥ずかしいな。
『個性把握テストォ!?』
さてグラウンドで。私達は一クラスだけ入学式をブッチして授業を行うわけだが。ぶっちゃけ私にとってはいつもの身体能力テストと変わらない。私の個性は異形型で、喰種の身体能力は常であるわけだから、「個性使ってもいいよ」なんて言われても……って感じだ。
先生が言った「最下位は除籍」ってのも合理的虚偽なわけだし、どうせ私は最上位は行かないにしても最下位ではないし、皆の個性を見る以外に面白味がないのだ。
たった今目の前で爆豪君が「死ね!!」とかヒーローらしくない掛け声ですんごい距離ボールを飛ばしていった。流石に腕力だけじゃあそこまでは飛ばせないかな。
喰種の身体能力、筋力は人間のおよそ4から7倍とされているけど、どうにも私の身体能力はそれ以上のように感じる。
それは私が天然の『半喰種』に分類されるからというのもあるが、おそらくこの世界の人間のレベルに合わせて喰種も強化されているのだと思う。
個性で強化された人間も捕食できるように。そんな神様の無駄な配慮を感じるよね。
「芳村、次だぞ」
ということでちゃちゃっとテストを終わらせよう。
◆◇
結果的に私は総合二位だった。一位は百ちゃん。やっぱりクインケ然り、科学力には敵わないってことだね。
「あの、芳村さんでしたよね?」
「ん? あぁ、私が芳村愛支だけど……クラスメイトなんだ。下の名前で呼んでくれたら嬉しいな」
「わかり、ました。では……愛支さん」
更衣室を出て教室へ向かっている途中、百ちゃんに話しかけられた。名前呼びをお願いするとすごい照れながら呼んでくれてほんとに可愛いよ。おいちゃんはぁはぁしちゃう。
「うん。それで、百ちゃんは私に何を聞きたいのかな?」
「百ちゃん…………え、えっと、先ほどの個性把握テストで愛支さんの個性が何か気になって……」
「あー! それ私も気になってた! ぜんぜん個性使ってる感じしないのにすっごい記録出してるからさ!」
「私も気になるな」
「お、おぉ。大人気だね」
いきなりの美少女達からの熱烈なインタビューに流石の私もたじろいでしまった。これが顔面の暴力か。
答えてあげたい気持ちは山々だけど、この後相澤先生と個性についてのお話が控えてるし、そこで個性のことは内密にな、とか言われたら不味いよね。それにエトとしてミステリアスお姉さんキャラでいたいから、ここはちょっと誤魔化させてもらおう。
「んー、個性については内緒かな。色々あって説明するのがちょっと恥ずかしいんだよね」
「そうですか……ごめんなさい。失礼なことをお聞きしてしまって」
「また時間がある時に聞いてよ。その時はじっくり……教えてあげる」
百ちゃんの耳元で囁くようにそう告げて、教室へと逃げ込む。もしこの世界を見ている読者がいるなら、面白いミスリードになったんじゃないかな? 存分に考察してくれよ。
人を食べてることを話すのは、もう少し仲良くなってからかな。彼女達だってヒーローの卵だし、あからさまに避けたりはしないと思うけど、ほぼ初対面の今の時期に、第一印象として『食人』のイメージを与えたくないんだよね。
それに百ちゃんには期待してるんだ。私の食事を創ってくれないかな、って。
その後、ホームルームで連絡事項等を伝えられ、波乱の入学初日は幕を下ろした。しかし、私にはこれから特別ステージがあるわけで。
軽やかとは言えない足取りで、私は生徒指導室へと向かった。
「失礼します」
「早かったな。その椅子に座ってくれ」
西日が差し込む室内で、私はパイプ椅子に深く腰掛け、目の前に座る相澤先生と向かい合った。彼は机の上に置かれた数枚の書類……多分私の個性諸々に関するものに目を通しながら、充血した視線を私に向けてくる。
何を考えているのか、その表情は真剣そのものだ。お腹空いたなぁ、なんて考えてる私が恥ずかしくなってきた。
「改めて確認だ。今後の管理体制、及び事故防止の観点から、お前の個性『喰種』について幾つか詳細を聞いておきたい」
「どうぞどうぞ。私は秘密主義だけど、この場では包み隠さず何でも答えることを誓うよ」
私はニコニコと笑みを浮かべて、来る途中に購買で買ってきた缶コーヒーのプルタブを引いた。カチリ、と香ばしい匂いが立ち上がる。
相澤先生が一瞬何かを言おうとしたけれど、ため息一つでどうやら許してくれたみたいだ。
「まず、食事についてだ。本当に一般的な食べ物は一切受け付けないのか?」
「一切、だね。ハンバーグもラーメンも高級フレンチも、私にとっては腐った生ごみと同じでしかない……だけど」
そこで一息ついて、缶コーヒーを口元に運んで一口ちびりと味わう。
「コーヒーだけは美味しく飲める。だからお腹が空いた時はこれで誤魔化してるんだ」
「それ以外は?」
「無い。基本的に私の喉を通るものは人肉とコーヒー。これ以外は不味すぎて無理だね。栄養も摂取できないし、食べても体調を崩すだけさ」
「……わかった」
相澤先生の表情が少し重くなった。やはり、彼等人間からすると『人肉を食べる』という私の行為は、どうしても直視し難い行いなのだろう。それがヒーロー、そして自分の教え子がそうなら尚更だ。
「次に身体能力についてだ。今日測定した通り、お前は人間を遥かに凌ぐ肉体スペックを持つ。これは空腹度に関係なく常時発揮できるということで間違いないか?」
「……お腹が空いていたら多少スペックは落ちるけど、概ね間違ってはいないよ。この身体能力は個性が発現した時からの体質だからね。先生の個性で消すこともできないと思うけど……試してみるかい?」
「……やらん。『抹消』が効かないのはもう知っている」
そりゃ初めて会った時も、なんならさっきの個性把握テストの時も私に『抹消』を使ってたからね。ま、なんとも無かったけど。
相澤先生はため息をつき、手元のペンの頭で机をトントンと叩いた。ペラリと書類がめくられたので隣から覗き見てみると、なんとそこには私のかっちょいい赫子の写真が。
「次だ。お前が背中から出している捕食器官、『赫子』について教えてくれ」
「私の赫子は肩甲骨辺りから出るんだけど、ブレード状のものと、自分の細胞を結晶化させて中遠距離にも攻撃できるショットガンみたいなものの二種類があるよ」
私の説明を聞いて先生はふむ、と相槌を打ちながらメモを取る。メモを書き終わるのを私が待っていると、先生は意外そうな表情をして私の方を見つめた。
「やけに協力的だな」
「当然だろう? 私は真っ当にヒーローを目指す良い子だからね。それに、そっちが私の体質を知っていないと、後々困るのは私の方だ」
違うかな? と首を傾けて聞くと、「そうだな」と素っ気のない返事が返ってきた。
だが実際、何か私が問題を起こしたら困るのは雄英側だろう。雄英が生徒の個性の問題を『知らなかった』なんてことがあれば、それこそ問題だ。
知っていたのに生徒を抑えられなかった、そういう建前ができるから情報開示は私にとっても都合が良い。
「『赫子は使用に伴って食欲が増加する』これは合ってるか?」
「合ってるね。だから入試終わりはペコペコだったよ」
「食事の頻度と、具体的にどれくらいの量が一度の食事に必要なのか教えてくれ」
「先生。まさか私が人を食べるからって、毎日食事を必要としていないと思っているのかい?」
「……それもそうだな。すまない」
「冗談だよ。一キロ強もあれば一ヶ月は大丈夫かな」
「お前な……」
相澤先生が何か言いたそうに私を睨んでくるが、抹消は私には効かないので全く怖くない。ニコリと笑い返すと、先生は諦めたように書類に何かを書き込んだ。良い子です、って書いてください。
「最後だ」
先生は手元の書類を隅に置いて、パソコンの映像を見せてきた。
それはつい先日、私が赫者となって大暴れした実技試験の時の映像だった。その映像には私が赫者となり、ロボットの装甲を食い破って、中から羽赫の結晶を全方位に撃ち放った部分がばっちりと映っていた。
「これは何だ? 明らかにこの書類と、お前がさっき説明した赫子とは違うモノに見えるが」
「それは……」
赫者の説明はとても難しい。何故なら私も何故赫者になれるかを理解しているとは言えないからだ。
赫者とは本来、共食いを繰り返した喰種の中から稀に現れる変異種である。共食いによって大量のRc細胞を取り込み、濃度が上がることで発生する……という設定だったはずだ。
仮説ではあるが、個性因子そのものがRc細胞の代わりになっていると私は考えた。つまり、個性を持った人間の肉を食べる行為が、共食いとして赫子を強くした……のだと思う。きっとたぶん。
まぁつまり、いっぱい食べて強くなったってことだ。
「使用に伴う強烈な食欲を代償に発動できる『赫者』という形態さ」
「……『赫者』ね。強烈な食欲ってのは、どのくらい?」
「意識が朦朧とするくらいかな。でも使用の前後に食事ができたら問題無いよ」
それができたら苦労しないんだけどさ。せめて敵ならちょっとくらい食べてもいい許可をくれたら、もっと楽になるんだけど……それができないからヒーローなんだよねぇ。
「赫者は今後暫く使用禁止だ」
「え? どうして?」
「危険だからだ。赫者状態のお前を止められるのは、今の生徒の中には誰もいない。もしもお前が食欲を抑えられなくなって、誰かに襲いかかったらお終いだ」
「轟君や爆豪君ならいけると思うけど」
「無理だ。だから確実に制御できるようになるまで絶対に使うなよ」
「フリではなく?」
「絶対に!」
ビシッと指を指されて、思わずたじろいでしまう。そんなに危険だろうか? と一瞬思ったが、確かに『隻眼の梟』がヒーローの卵に負けるわけが無いと納得した。
同級生の誰かを食べでもしてしまったら、除籍どころか最悪の場合刑務所まっしぐらなので、赫者はしばらくの間封印するとしよう。そうしよう。
「……わかったよ。赫者にはならない。今まで食べてきた全ての人達に誓おう」
私の返答を聞くと、先生はようやく満足気にパソコンを閉じた。その顔をまじまじと見てみると、目の下には薄っすらと隈があった。彼は元々不健康気味だが、私のせいで余分な心労をかけてしまったのなら少し申し訳ないな。
これから先生は大変なわけだし、ちゃんと大人しくしておこう。そう私は自分の心に誓い、生徒指導室を出るのだった。
「そうだ……明日は戦闘訓練がある。ちゃんと手加減しろよ」
「おやおや? でも? もしかしたら頑張ればご褒美が?」
「………………用意しておく」
「流石先生、話が速い」
去り際の先生の顔は、さっきよりもひどかったことをここに記しておく。
筆が進むよ
書く度に字数が増えてるけど