人を食べるヒーロー 作:エトエトエト
みんなエトのことが好きみたいで嬉しい
『正しい行為』と『正しく見える行為』は違う。
絶対的に正しい行為は何かと聞かれたら、人は何と答えるのだろうか。
人助け? 親孝行? 募金活動?
だけど、助けを求めているのが極悪人だったら? 孝行しなければならない親が敵だったら? その募金が悪用されていたら?
どれも絶対に正しい行いとは言い切れない。場合によっては正しくないし、何なら間違っていることもある。
逆に、絶対的に正しくない行為は何かと聞かれたら、大半の人はきっと『殺人』と答えるだろう。
人の命は最も尊く、他者の都合や、理不尽によって奪われてはならない。そんな一般常識レベルの思想が、我々人間には備わっているからだ。
だが、我々は『殺人』ですら、条件さえ整えば『正義』と呼ぶ。
正当防衛は、その最たる事例だ。自分の命を守るために相手の命を奪う。命を奪った側が被害者であり、その『殺人』には多少の罰は課せられど、世論的には容認されることが多い。
ヒーローもそうだ。人の命を簡単に奪う極悪人を殺したところで、少なからず批判はあるだろうが圧倒的に賞賛の方が多いだろう。
『正義』が『悪』の命を奪う。これこそが許される『殺人』の形である。人間は、正義という名前を付けることで殺人すら許容する生き物なのだ。
つまり、人間は何をしたかだけを見て善悪を判断しているわけではない。『誰がそれをしたのか』『どのように見えたのか』まで含めて、それを正義と呼んでいる。
ヒーローであれば、命を奪うという悪行も善行のように見えてしまう。ただただ正しいだけでは正義足り得ないわけである。誰が何を行うか、それ次第で悪は善に成り得る。
奪う行為は等しく『悪』であるのに。
我々は産まれ落ちたその瞬間から、何かを奪い続ける。食物、かかわりあう人々、肉親からですら、生きる限り屠り、殺し、奪い続ける。
命とは、罪を犯し続けるものの事。
命とは、悪そのもの。
私達ヒーローですらも例外ではない。私達は悪でありながら、正義の皮を被っている偽善者だ。
だからこそ、せめて人々にとっては真に正義の味方であるために、私達は取り繕うのだ。
笑顔を貼り付け、努めて優しい声で語りかけ、誰が見ても安心できるように。
正義の味方は、一目見て『正義側』だと分かる見た目じゃないとダメなんだ。
……結局何が言いたいのかって?
ヒーローコスチュームは大事だよって話さ。
◆◇
「私が!! 普通にドアから来た!!!!」
雄英入学後、初めてのヒーロー基礎学。担当教員は我らが英雄オールマイト。ヒーローの卵なら誰もが憧れたことがある『平和の象徴』、生きる伝説そのものだ。
皆が彼を見て歓喜してる中、私は……私だけは別のことに胸を躍らせていた。
今日の授業で行われるのは2vs2の実戦形式の戦闘訓練。この前相澤先生から予告されていたし、それに相澤先生には申し訳ないが、私は知識として既に知っていたこともあって然程驚くことはない。
「そしてこれが今回の訓練に合わせて、入学前に送ってもらった個性届と要望に沿った君たちの戦闘服だ」
そうこれだよこれ!
ヒーローといえばコスチューム! コスチュームが無いとヒーローになった気がしないよね。
正直最近はこのことで頭がいっぱいだった。雄英に受かるかどうかよりも、私の要望がコスチュームにしっかり反映されているかどうかが心配だったくらいだ。
エトの服装と言えば、満場一致で『全裸包帯』だろう。付け加えるなら、血色で滲んだ垂れ耳付きフードがあるワンピースと、花柄のスカーフ。
だが全裸包帯スタイルこそがエトの真骨頂であり、紛れもなく彼女のコスチュームとして相応しい服装だと私は考えていた。
そう……『考えていた』のだ。
崩れ行く赫者の死にかけの店長の傍に、その身に巻き付けた包帯を解かせながら降り立つ原作のあのシーンは、神々しくも不気味で、まさしくエトを象徴する名場面だ。
その後の『おと〜〜さん♡』という台詞は、多くの読者の心を鷲掴みにしただろう。全裸包帯スタイルも相まって。
だが、しかしだ。これはエトが『東京喰種』という世界で絶対的な『悪』として存在していたからこその良さではないだろうか。
人々を救う存在として、全裸に包帯を巻き付けただけの美女が現れたらどうなるか……君達は想像したことがあるか?
そう、幼気な青少年少女達の性癖を捻じ曲げてしまうこと間違いなしだ。かつての私のように!!
こっそり試しに自宅で全裸に包帯を巻いて姿見の前に立ってみたが……流石にエッチすぎました。
なので────
「エトちゃんのコスチュームかっこいい!」
「そうですね。とても綺麗ですわ」
「敢えて真っ白にしたの?」
「うふふ。そうだよ、着るなら白のコスチュームがいいってずっと思ってたんだ」
参考にしたのは白鳩の諸君の制服だ。
一番外に羽織っているのはこの世界のレザーのような強化素材で作られたノースリーブのパーカー。腹部で左右に分かれており、外側の大きなポケットと、内側にもある複数のポケットには軽食を入れるつもりだ。
中には黒のホットパンツを履いており、そして露出するはずの両腕両足には捕縛布を巻き付けた。どうしても包帯は捨てきれなかったよ……。
特徴的なのは、上半身の背中部分はぱっくりと穴が開いていて、素敵な肩甲骨が露わになっているのです。これは赫子用で、赫子を出し入れした時に、服や上着まで巻き込まないようにという細やかな配慮である。
そしてこの全ての色は白。やはり正義は『白鳩』のイメージが私の中に強くある。喰種にとっての正義ではなく、人間にとっての正義ではあるけれどね。
「さぁ、行こうか」
気分はまさしくクインクス。このコスチュームなら、ヴィランにとっての『白い死神』にもなれるかな。
ということで、私達は久しぶりに入試の実技試験会場に来ていた。あれだけ受験生とロボット達が暴れ回ったというのに、以前と変わらない市街地の姿がそこにはあった。
「さぁ、始めようか有精卵共!!」
前回と違うのは、私達は受験生ではなく雄英生で、オールマイトと共にヒーローコスチュームに身を包んでこの場に立っているということ。
それと、私のお腹が空いていないこと。それも非常に大事だ。
「今回の戦闘訓練は屋内での対人戦だ。君たちはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれてもらい、2対2の屋内戦を行ってもらう」
ではくじ引きを行う! そのオールマイトの掛け声で、皆がぞろぞろとくじを引き出す。
正直ここの展開は原作のだいぶ序盤だし、あんまり組み合わせとかは覚えていない。緑谷君と爆豪君が戦ったことは覚えてるんだけどね。あと轟君がヴィラン役を瞬殺したこと。
まぁ私は無難に砂糖君の穴埋めかな。役割的にも、個性的にもほぼ同じでしょ。砂糖君は砂糖を、私は人肉を食べてパワーアップ! ほら、何か違う?
「俺尾白ってんだ。よろしく」
「私は芳村愛支。よろしくね、尾白君」
平和の象徴の下、実に公平なくじによって、私のペアは尾白君になった。
うん、何とも言えないかな。障子君か百ちゃんと仲良くなっておきたかったんだけど……まぁ人にどうこう言うのも失礼だからね。
尾白君が握手を求めて手を差し出してくれたので、私もにこりと微笑んで握り返した。これでもう君は友達さ。
初っ端は原作通り緑谷君ペアと爆豪君ペアなので、私達は観戦ルームへ移動した。結果は分かりきっている。今の爆豪君の精神状態じゃあ、成長の最中の緑谷君は倒せない。
力で何もかも解決するには、彼の力はあまりにも小さすぎる。絶対的な力とは、それこそ我らがオールマイトや……『隻眼の王』のような実力がないとね。
今まさに緑谷君へ感情をぶつけに飛び出した彼を、私はモニター越しに冷ややかに見つめた。彼から学ぶことは無さそうだ。
「さて、私達の作戦はどうする?」
「……ヴィラン側になった時のか? 確かにこっちは先に考えておいた方がいいな」
「話が速くて助かるよ。それで、君は個性で何ができる?」
私が肩を組んで部屋の隅に押しやると、尾白君を顔を赤く染めながら頬をぽりぽりと掻いた。
流石1-Aのラッキースケベ担当。反応も既に一流のそれだね。
「俺は見た通りこの尻尾で近接格闘とかができるかな。ていうか芳村はどうなんだ? この前の個性把握テストでもどんな個性かまるで分からなかったんだけど」
「私はちょっとだけ身体能力が高いだけのか弱い女の子さ。まぁ、尾白君が戦ってくれるなら、今回は後方に回ろうかな」
「後方? ターゲットの守備ってことか?」
「いや? 遠距離攻撃だよ」
相澤先生のご褒美が何か分からないが、赫子の使用許可はくれたからね。渡す気のあるご褒美なのは間違いない。
誰もがモニターに夢中の最中、二人の秘密の作戦会議は気づかれることなく幕を下ろした。
「私は貰えるものは貰う主義なんだ」
緑谷君ペアの勝利を収めたモニターを前に、私は一人舌先で唇を湿らせた。
「ふむ。結局私達はヴィラン側だったね」
「作戦決めといてよかったな」
「あぁ、ではその通りに」
「応!」
尾白君は元気よく返事をして建物の中へ走って行った。いいね、体育会系男子。私は文学少女だけど、やっぱり男の子は快活な子が喋りやすいと思うよ。タイプはもちろん悲劇の主人公系文学少年。
私も彼の後に続いて建物の中へと入り、一作業をパパっと終えた。尾白君にはドン引かれた気がするが、乙女の秘密を知った彼には後でキツく口止めをしておかないといけない。
私はやることやったら始まるまで一階で待機なので、ぼけっと轟君と障子君を入り口前で待つことにした。どうせやることは変わらない。
この授業が終わったら是非とも障子君とは仲良くしたいものだ。彼の個性は本当に素晴らしい。同じ異形型のよしみで一口頂けないだろうか。一口、一口でいいんだけどなぁ。
百ちゃんと障子君とは本当に仲良くしておかないと、私の雄英での食生活に大きな影響が出る。QOLは常に上げることを意識しないと変わらないんだよ?
他にも雄英には何人か美味しそうな……じゃなくて素晴らしい個性を持った人間がたくさんいるから、落ち着いたら雄英漁りをしてみてもいいかもね。
やば、涎出てきた。
「……いきなりお出ましか」
「ん? あぁ、もうそんな時間か。それじゃあ──おっと」
出会い頭早々地面を凍らせて拘束してくるとは……中々やるじゃないか轟君。もっとお喋りしてくれると思ってたよ。
「呆気ねぇな。ほんとに首席合格か?」
「それを君が言うのか?」
「……まぁいい。そこで大人しくしてろ」
そう言ってコツコツと私に近付いて来る轟君。そして彼に釣られて障子君も建物の中へ足を踏み入れた。
その瞬間、隣を歩く轟君へ回し蹴りを食らわせた。
もう片方の足も凍りついた床から強引に引き剥がし、襲いかかってくる障子君の多腕を避けて入口の前に立った。
足の裏は皮が剥がれ、ピンクの肉を赤黒い血が伝っている。だが、それが見えたのも少しの間で、みるみるうちに皮膚は新しくなり、元通りの足へ回復した。
「テ、メェ……痛くねぇのかよ……!」
「いた〜い♡」
「大丈夫か? 轟」
「問題ねぇ……が、馬鹿力だ。気をつけろ」
「わかった。俺が彼女を抑えるから、轟は目的の物を頼む」
「任せろ」
ふむ。目の前でテキパキと会話をする二人だが、そういうのは準備期間に話しておいた方がいいぜ? いくらコミュニケーションが苦手とは言っても、核爆弾を前にそれは言い訳にはならないだろう?
「おいおい。逃げるのか?」
「……ずいぶん演技が上手いな」
当たり前だろう? だって、この姿は本来なら正義側に立つべき姿ではないのだから。
臨戦態勢に入った障子君を前に、私は背中から一本の赫子を顕現させた。
「ッ……それは」
「赫子。綺麗でしょ」
「ますます個性が何か気になるな……!」
「そんなこと気にしてる暇ある?」
使うのは右のブレードと羽赫の遠距離攻撃だけ。赫者にはならないが、これでも使うのはもったいないぐらいかな。
「二秒で殺せるよ?」
その言葉を告げ、私は彼の懐に入り込んで赫子を振り抜いた。
障子君はスーパーボールのように何度か壁や床を跳ねた後、階段部分に激突した。遠目から見てもめちゃくちゃ痛そう。数秒経っても起きて来ないので、きっと気を失っているのだろう。
「二秒もいらなかったな」
さて、音的に轟君は今三階だろう。そこまで追い付いて彼を撃破するのも悪くないが、そろそろ彼が来る頃だ。
噂をすればなんとやらだね。
「……これ障子大丈夫なのか? 気失ってるけど」
「大丈夫大丈夫。異形型はタフネスが強みなのさ」
彼には私が赫子で削った壁の穴から、核爆弾を最上階から一階まで尻尾を使い、壁を伝って建物の外から持って来てもらった。
今から轟君は核爆弾の無い三〜最上階を探索する無駄な時間を過ごすことになる、ってわけさ。それが終わったら私と尾白君が相手をしてもいいかな。是非とも彼には障子君の分まで頑張ってもらいたい。
そんな私の思いも虚しく、無情にも制限時間が来て私達ヴィランチームが勝利した。ちなみに終わり際には障子君は目を覚ましていた。タフネスだねぇ。
「手加減しろと言ったろ! 褒美は無しだ!」
「えぇ〜そんな〜!」
私のご褒美も取り消しになったよ。とほほ。
日間4位って日間4位ってこと?
ひえー