人を食べるヒーロー 作:エトエトエト
みんなたくさん読んでくれてありがとう
翌日、いつも通り早めに登校した私は、日課となっている読書に夢中になっていた。机の上には既に空っぽになった缶コーヒー。このままだとカフェイン中毒まっしぐらだろう。
「おはよっ、エトちゃん」
「おはよう、お茶子ちゃん。そんなに息を切らして何かあったのかな?」
後ろのドアからパタパタとお茶子ちゃんが教室へ入って来たので、本をめくる手を止める。
お茶子ちゃんはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、腕をぶんぶんと振って話してくれた。
「校門前でめっちゃインタビューされたんだよ! エトちゃんもやられなかったの?」
「私は朝早くに来てるからね。記者もいるにはいたけど、インタビューはされなかったよ」
「うへぇ……そんな早くに来るのしんどくない?」
「人混みが苦手だからね。皆と登校時間が被るのが嫌なんだ」
「それでちゃんと朝早く来れるのすごいな〜。尊敬だよ」
うふふ。お茶子ちゃんは可愛いなぁ。良い匂いもするし。
私がお茶子ちゃんにメロメロになっている間に、いつの間にか相澤先生が教室へ入って来たみたいだ。お茶子ちゃんは慌てて席に座ったのを見て、相澤先生はホームルームを始めた。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見せてもらった」
そう言って手元の紙束をペラペラとめくる。ピタッと紙をめくる手が止まり、爆豪君へと視線を向けた。
「爆豪、お前ガキみたいなこともうするなよ。能力あるんだから」
「……わかってる」
ほんとにわかってるのか……? まぁ彼は性格以外は優秀だからなんとでもなるのか。原作でも最後には良い奴にはなってたしね。この時期はぜんぜんだけど。
相澤先生は次に緑谷君へと視線を向けた。
「緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か」
相澤先生にそう言われて悔しそうに視線を落とす緑谷君。でもまぁ流石に先代で蓄えられた力が大きすぎるから仕方がない気はするけどね。
「個性の制御ができるようになればやれることは多い。焦れよ緑谷」
「っ……はい!」
相澤先生は落として上げるスタイルなんだね。緑谷君もそれにまんまと乗せられちゃってさ。ほんとに、いい教師だよまったく。
「それと、障子はもう怪我大丈夫か?」
「……はい、問題無いです」
「そうか。念のために今日の放課後も保健室寄ってけ」
障子君にそう優しい言葉をかけた相澤先生と目が合った。キッと鋭い視線をぶつけられたが、これに関しては私もかなり申し訳ない気持ちがあったりするので、素直に受け入れよう。
障子君にもあの授業の後に謝ったけれど、これは自分の実力不足だからと言って頑なに謝罪を受け取ってくれなかった。ほんとに真面目だよね。
「さてHRの本題だ。急で悪いが君らに……学級委員を決めてもらう」
学校っぽいのきたー。
学級委員ね。まぁ、私からしてみれば飯田君以外あり得ないわけだけど。取り敢えず最初は緑谷君になるわけだから、てきとうに自分にでも入れとくか。
「学級委員だって! 私やってみようかな……」
「お。なら私はお茶子ちゃんを推すよ」
「そんな簡単に!? というかエトちゃんは? 学級委員とか興味無いの?」
「私はべつにいいかな。面倒だし」
「面倒!?」
いやはや、お茶子ちゃんは本当に可愛いなぁ。ということで私はお茶子ちゃんに投票することにした。可愛いは正義なのだ。
その後飯田君主導の下、学級委員を決める投票が行われたが、結果は原作と変わることなく緑谷君が学級委員、百ちゃんが副委員となった。前でガチガチに緊張してる緑谷君は面白かったよ。糞ナードの称号も納得だ。
そしてやってくる、一日の中で最も憂鬱な時間。
「エトちゃん、一緒に食堂でご飯食べない? 緑谷君と飯田君が一緒なんだけど、女子一人だと心細くてさ」
「あー……ごめんね。個性の関係で普通のご飯は食べられないんだ」
「そう、なんだ……ごめん! 嫌なこと言っちゃった!」
「ふふ、気にしないでよ。ほら、緑谷君達が待ってるんじゃないかい? 私の分まで美味しく食べておいで」
「っうん! また後でね」
う〜ん、本当に良い子だ。流石メインヒロインなだけはあるね。でも私のタイプはちょっとダウナーな文学系えちえちお姉さんなんだよね。あれ……それ私?
まぁこんな感じでお昼は皆ご飯を食べるから、必然的に私は一人になってしまうのだ。とほほ。食堂に付いて行けたらいいんだけど、人が多すぎてちょっとね。
バッグの中から缶コーヒーと本を取り出す。暇な時はこれがないとやってられない。カフェイン中毒と一緒に、活字中毒にもなりそうだ。
さて、今日の朝まで読んだところは……
「芳村」
声がした方に顔を上げると、少し気まずそうな顔をした障子君が立っていた。教室には私達以外には誰もおらず、所謂男女二人っきりというやつだ。
「やぁ障子君。お昼ご飯はいいのかい?」
「……あぁ、ダイエット中なんだ。そう言う芳村こそ、何か食べないのか?」
「私はこれで充分さ」
そう言って、手元の缶コーヒーをころころと揺らして見せる。実際、昨日は帰っていつも通りの量を食べたのでまだあんまりお腹は空いてない。
食べれるなら食べちゃうけどね。
「それで、二人っきりの教室で私に声をかけるなんて……何か特別な用でもあるのかな?」
「そう、だな。芳村の個性について色々聞かせてほしい」
「……ふむ。それは特別な用だね」
「言いたくなかったら構わない。ただ、戦闘訓練で使っていた『赫子』だったか? 何か強くなるヒントが得られると思ったんだ」
つまりだ。障子君は私と自分の個性が似たようなものだと考えたのだろう。そこでより強くなるために、私に教えを乞いに来た、と。
「いいよ。今なら何でも話してあげる」
「……いいのか? その、芳村が自分の個性をあまり話したがらないのは……何となく知ってるが」
「あぁ。だから今から話すことは二人だけの秘密ってやつさ」
ゴクリ、と障子君の喉が動いたのがマスク越しでもよく見えた。クラスメイトの、それも女の子の個性の秘密を今から聞くんだ。それくらい緊張してもらわないと困る。
コーヒーで喉を潤して、私はそれを口にした。
「私の個性は『喰種』。人間離れした力を持った、異形型の個性だよ」
「っ……そう、だったのか」
『異形』はこの世界で最も差別される生き物だ。異形だから。異形のせいで。異形のくせに。そんな言葉がヒーローが守る社会で今も飛び交っている。
それを誰も止めようと言い出さないほど、今の社会は『異形』に対して厳しい。
私の場合は容姿そのものは人間のままだからまだマシだが、異形の彼らの中には人型ですらない『人』もいる。私は人の姿をした『化け物』なんだけどね。
「なら『赫子』も芳村の手足のようなものなのか?」
「赫子は私の捕食器官さ」
「……???」
「赫子は私の捕食器官さ」
「いや、聞こえてはいるんだが────
──何を捕食するための器官なんだ?」
ガタッ──
椅子から立ち上がり、困惑している障子君に近付く。彼は思わずといった様子で後退りしたが、すぐ後ろは壁だ。逃げ場所はもう無い。
「知りたいかい? 私が、何を食べるのか」
障子君の腕を撫でるように触る。筋肉質な腕だ。きっとヒーローになるためにたくさんのトレーニングを積んだのだろう。
「よ、芳村……?」
「どうして、私は食堂でご飯を食べないと思う?」
彼の腕を這っていた手は、ついに彼の肩へ、そして首筋へと辿り着く。身長差もあって、私は目一杯背伸びをしている状態だ。
マスクの布越しにも感じる彼の体温は、私よりもずっと温かかった。
「それはね」
「芳──」
その瞬間。
障子君が言葉を発し終わる前に、彼の頬を掴んで私の顔の前に持ってくる。
彼の揺れる瞳に、黒と赤に染まった私の右目がよく映っていた。
「コーヒーをたくさん飲むためさっ」
ぱっと手を離し、机の上に置いていたコーヒーを流し込む。ほろ苦い匂いとまろやかな味が私の脳を満たしていくのを感じながら、私はバッグから次の缶コーヒーを取り出した。
「ほら、見てわかるように私はカフェイン中毒だからさ。私の胃袋はコーヒーが独占中なんだよね」
「芳村……お前は…………」
ジリリリリリリリリリリリ!!!!!!
大音量の警報が二人だけの教室にも鳴り響く。
そういえば昼休みに入って暫くしてからだったな。マスコミ……いや、死柄木弔が校内に侵入してくるのは。
「障子君、どうやら何かあったみたいだ。私への告白はまた今度でいい?」
「告白じゃあないんだが……今は話してる時間じゃなさそうだな」
そうして私達は問題解決のために教室を飛び出したのだが、結局マスコミ騒動という何とも平和な原因で片付けられてしまった。
何もなくて良かった、と笑う障子君に私は激しく同意した。
あのまま教室にいたら、障子君の身に何かあったかもしれないから。
やっぱり肉団子一つじゃ物足りないよ、人間。
◆◇
「委員長は、やっぱり飯田天哉君がいいと思います!」
その後、なんやかんやあって緑谷君から飯田君に学級委員の座は譲られた。うん、やっぱり彼こそ委員長って感じだ。
隣でちょっとへこんでる百ちゃんが可愛かったよ。
「うふふ」
「……エトちゃん、なんかちょっとキモいよ?」
「失敬な。私はお茶子ちゃんも可愛いと思ってるよ」
「何の話!?」
うぉぉぉぉ!!!
エト好きだ!愛してる!