人を食べるヒーロー   作:エトエトエト

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プロットの大切さを知る


屍肉を啄む

 

 

 

 屍肉約20kg。

 

 

 それが私の一ヶ月の食料だ。

 

 もちろんこれに異形型の人間の一部や、体を複製したり切り離したりできる人間の部位が加えられることもある。

 

 だが、基本的には小学児童一人分程度の屍肉しか提供されない。一度提供機関に直談判しに行ったが、これが限界だときっぱり断られてしまった。その時はお腹が減っていたから、危うく食い殺しそうだったのをよく覚えている。

 

 雄英の入学試験のために勉強しかしていなかったあの頃は、まだ飢餓状態までいくようなことは無かった。だが、雄英の実技試験以来圧倒的に運動量が増えたことで、私の食欲は以前と比べて圧倒的に増加した。

 

 極めつけは二度の赫子の使用。

 

 そのうち一回は赫者にもなって、中学3年時から少しずつ貯めていた肉は、全て胃の中へと消えてしまった。

 

 缶コーヒーで空腹を誤魔化す日々……相澤先生の言葉を信じて、雄英から食料が提供されるのを待つ日々……なんで私だけが食事を我慢しなきゃならない?

 

 クソ喰らえだ。

 

 人肉なんて至る所にある。中には私が食べても問題無い肉だってあるだろう。どいつもこいつも、食人欲求を甘く見てるんじゃないのか? 次の瞬間にはお前達を食っていてもおかしくない化け物なんだぞ、私は。

 

 

 と、八つ当たりしたい気持ちは山々なんだけどね。

 

 

 赫子は使うべきじゃなかった。これは私のミスだ。今までの人生で赫子を使う機会など数える程しかなかったから、赫子の使用に伴う空腹感を舐めていた。

 

 しくじったな、と何度思ったことか。

 

 何度も家の冷蔵庫を開けて、何か残っていないか確かめた。缶コーヒーを常に持ち歩いて、襲ってくる空腹を紛らわした。

 

 頑張れたのは、今日があったからだ。

 

 ヴィラン連合……死柄木弔の初陣。チンピラ共を引き連れたUSJへの襲撃と、彼等が連れてくる『超再生』の個性を持った脳無の襲来。

 

 私達にとっての初めての実戦。プロヒーローはやられて、生徒の力をも頼らないといけない状況下でなら、私の食事もいくらかは容認されるだろう。

 

 食欲に支配された脳味噌で、なんとか私はそう結論付けた。

 

 足りない分は、この襲撃で補えばいい。幸いにも肉がわざわざ私のところへやって来てくれるんだ。またとないチャンスだろう。

 

 

 『屍肉約20kg』?

 

 

 足りるわけねぇだろ。

 

 

 

 

 一口だ。一口ずつ、返り討ちにしたヴィランから頂く。流れ出る血を、抉り取った肉を、欠損した身体の一部を。

 

 ヒーローらしからぬ行動だぁ? そりゃあ君、ずいぶんとまぁ酷いことを言うなぁ。それは私に死ねって言ってるようなもんだぜ?

 

 

「うまぁ」

 

 

 やっぱり生きてる人間の血肉は最高だ。ぜんぜん粘ついてないし、噛み応えがあってパサついてない。こんな味からどうやってあの変な味に劣化するんだ……? クソ、タッパー持ってきたら良かった。

 

 がぶっ、とこの倒れてる人からはふくらはぎの肉を頂戴する。美味しそうな部位だからじゃないよ? ちゃんと動けないようにするためでもあるさ。

 

 一口食べ終え、顔を上げて辺りを見渡すと、既に一口頂戴した人間ばかりだ。黒霧は何をやっているんだ?

 

 

「品切れ? 量も質も大したことないな」

 

「チッ……化け物が……!」

 

 

 反応を示したのは死柄木の方。苛立ったその感情のままに首をボリボリと掻く様はまるで子供のようだ。実に滑稽だね。

 

 それに、触れたら崩壊させるなんて個性を持った君の方こそ化け物じゃないか。

 

 まぁ、私の言った通り並のヴィランはもう品切れらしい。オールマイトもまだ来ないみたいだし、なら……うん、そうだね。

 

 デザートも頂こう。

 

 

「ソレも」

 

 

 指を差したのは、相澤先生を今も押さえつけている脳無。

 

 死柄木が何かを言う前に、私は赫子を顕現させて飛び出した。

 

 

「食わせろよ!」

 

「脳無!!」

 

「グギャアァァァ!!!!」

 

 

 死柄木の掛け声で脳無が二人の前に出て来る。その手は相澤先生の頭を鷲掴みにしていて、盾にするように私の前に突きだしてきた。

 

 動いたら殺す、なんて言葉は言わせない。

 

 

 既にその手は私の間合いの中だ。

 

 

「……………………は?」 

 

 

 何が起きたか分かっていない間抜けの声が聞こえた。脳無に『ショック吸収』が付いてるからって、オールマイト以外に……いや、誰かに脳無を傷付けられるなんて考えてなかったのだろう。

 

 だが、たった今。その脳無の両手は私に切り離され、その片腕と相澤先生は私の腕の中だ。

 

 簡単なことだ。死柄木の命令が脳無に届く前に懐に入り込み、二本の赫子を振り上げて脳無の両腕を切断。脳無が再び動き出す前に相澤先生をお姫様抱っこして離れただけ。

 

 ずっと思っていたけど、このブレード状の赫子は羽赫じゃなくて甲赫なのでは? 羽赫にしてはすんごい近接向きだし燃費も良いんだよね。

 

 閑話休題。

 

 『ショック吸収』が有効なのはあくまでも打撃系統だけだ。私の赫子には関係無い。どれだけ優れたラジコンも、操縦者が下手くそならそれはただのガラクタってことさ。

 

 とまぁ相澤先生も助けられたし、自分へのご褒美ってことで。

 

 

「いただきま〜す」

 

 

 脳無の片手を味わうとしよう。

 

 さっき黒霧を食べた時クソ不味くて、脳無は食えたもんじゃないと思ったんだけどね。

 

 食べてみないと分からないでしょ? ほら、気分はあれだよ。まさしくゲテモノを前にして、絶対に不味いとは思いつつも食べちゃうやつ。

 

 黒霧の味を思い出してじんわり口の中を震わせながら、真っ黒な脳無の手を────

 

 

「…………………………美味しくない」

 

 

 食べた。

 

 なんか微妙だ。黒霧よりかはまだ食える味だけど、さっきまで食べてた雑魚ヴィランの皆さんよりは絶対に美味しくない。

 

 こう、なんというかリアクションに困る。私としては黒霧より不味いか、逆に大穴でめちゃくちゃ美味しいかを予想してたんだけどな。

 

 

「がっかりだ。失望したよ、脳無」

 

「ざけんなよなぁ……! 脳無! その女をぐちゃぐちゃにしろ!!」

 

「ガァァアァァ!!!!!」

 

 

 その咆哮が終わるやいなや、脳無は一瞬にして私の前に現れた。いつの間にか私が切り落とした腕も再生済みで、新しくなったその手を私に振るった。

 

 その拳が到達する前に、相澤先生を緑谷君達がいる方に投げ飛ばす。あっちには梅雨ちゃんがいるから、うまく受け止めてくれるだろう。

 

 

「ッ……いってぇなぁ゛!!」

 

 

 ブレード状の……もう甲赫でいいや。甲赫を咄嗟に盾にして、なんとか直撃は免れた。だけどめちゃくちゃ痛い。流石は対オールマイト用兵器といったところか。

 

 羽赫を震わせて結晶を飛ばす。『ショック吸収』があるからダメ元で撃ってみたけど、ザクザク刺さってるあたり効果はあるみたいだ。

 

 それで脳無が止まるわけじゃないけど。

 

 

「喰わせろ!」

 

 

 真正面から突っ込んで来る脳無を甲赫で斬りつける。姿勢を低くして足を狙った私の一撃は、ちゃんと脳無の両足を切断することができた。

 

 だが、瞬きの間にその足は新しく生え替わる。

 

 

「ガハッ……!」

 

 

 横っ腹を思いっきり殴られた。私の身体は簡単に吹っ飛んだ。何度も地面とぶつかって、意識が薄れていく感覚がした。

 

 

 ボヤける視界に最後に映ったのは、脳無を連れて近付いて来る死柄木弔の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ。存外呆気なかったな」

 

 

 目の前で地に伏せる少女を見て、死柄木弔は溜め息を吐いた。

 

 確かに学生にしては強かった。実際集めたヴィラン共では相手にならなかったし、脳無相手でも少しは戦える実力はあった。

 

 脳無は対オールマイトに作られたのだから、少しとはいえ勝負になっただけでも学生としては充分だろう。

 

 最近の学生はすごいなぁ、と。そんなヒーローの卵が今から一人死ぬことに、喉の奥からクツクツと笑いが込み上げてきた。

 

 

「脳無、手足を引き千切れ」

 

 

 死柄木弔の命令を、脳無は躊躇うことなく実行に移した。ブチブチと、肉が引き裂かれる音が辺りに響く。四肢を全て引き千切ったところで、女の目が薄く開かれた。

 

 その姿があまりにも滑稽だったので、死柄木弔は四肢の無くなった女に近付いてその顔をペシペシ叩いた。

 

 勝ったら煽る。ゲーマーとしての性を抑えられなかったのだ。

 

 

「なァ? どんな気持ちなんだ? イキって出てきたくせにボコボコにされて……無様に達磨にされてよォ!!」

 

 

 これがヒーローの卵の姿か? 将来有望と謳われる生徒の姿か? これがプロヒーローが守る学校の生徒の姿か!?

 

 結局ヒーローは何も守れないんだ。オールマイトも来ないことだし、見せしめにガキを一人は殺しておけば示しは付くだろう。

 

 だからこの可哀想な女に、せめて最後はヒーローらしく綺麗事を吐いて死んでもらおう。

 

 

「なぁなぁなぁ!! どんな気持ちか教えてくれよヒーロー!」

 

 

 お得意の綺麗事を吐けよ。お前達は必ずオールマイトが捕らえる? 正義が赦さない? いつか必ず裁きが下る? 何でもいい。

 

 それを『無理だ』って言った時の絶望顔を崩して、ゲームクリアだ。

 

 

 女の唇がゆっくり、ゆっくり開かれる。か細い吐息が聞こえる距離まで耳を近付けて、女の言葉を待った。

 

 

 

 

 

「ムカつくなァ」

 

 

 

 

 

 死にかけの女の言葉にしては、あまりにも意志が強かった。ヒーローの卵の言葉にしては、あまりにも殺意に満ちていた。

 

 その瞬間、女の背中から溢れ出た赤黒い肉に吹き飛ばされる。頭を鷲掴みにしていた脳無もだ。

 

 女の身体を肉が包み込む。その身体はデカく、デカく……クソデケェなオイ。

 

 

「ガチの化け物じゃねぇか……!」

 

「死柄木弔! アレは危険です! 一度撤退を!」

 

 

 危険? そんなの見たら分かる。正真正銘の異形の化け物だ。

 

 女の上半身が、肉の化け物の首から飛び出していた。いつの間にかさっき引き千切った腕も生えていた。天然の『超再生』持ちかよ。

 

 こちらを覗き込むようにその巨体を傾けて、女はニヤリと笑った。

 

 

「私を殺そうとしたんだ」

 

 

 その顔は、到底ヒーローがしていいモノではなかった。

 

 

「私に殺されても仕方ないよね?」

 

 

 裏ボス戦の始まりだ。

 

 化け物の首からさらに肉が溢れ出して、女の上半身を包む。化け物の巨体に、一つ目の顔が現れた。

 

 

「キャハハハ!!!」

 

 

 化け物はけたたましい笑い声を上げて、別方向に飛んで行った。死柄木弔と黒霧に目もくれず、だ。

 

 目的は何か? そんなこと考えるまでも無い。

 

 

「黒霧、ワープゲート出せ! あの化け物は脳無を食う気だ!」

 

 

 一瞬の戸惑いはあったが、黒霧はすぐにワープゲートを繋げた。虚空に開いた黒い穴に飛び込む。

 

 

 そこには地獄が広がっていた。

 

 

 グチャグチャグチャグチャグチャと。

 

 化け物が必死に何かを食べていた。何か、ではない。脳無だ。無抵抗の脳無が頭から貪り食われていた。

 

 脳無には『超再生』がある。どれだけ食われようと、抉られようともその肉はすぐに再生し、反撃できるはずだ……その、はずだった。

 

 再生したそばから食べられている。一口、二口で上半身が無くなり、上半身が再生している間に下半身が食われている。

 

 脳無に反撃の命令を出すつもりだったが、それはもはや意味を成さないだろう。

 

 脳無の身体は数秒毎に上半身と下半身が生え替わり、その身体は化け物から生える四本の腕によってガッチリと掴まれている。たとえ脳無がオールマイト並のパワーがあるといっても、拘束から逃れようとすればすぐに食われるのがオチだ。

 

 

 死柄木弔は思考する。どうすればこのクリーチャーを倒せるのかと。

 

 個性『崩壊』は五指で触れたものを問答無用で崩壊させることができるが、あれほどの巨体を崩壊させるのにはそれなりに時間がかかるだろう。

 

 なにより、あれは肉の鎧にすぎない。『崩壊』が本体である女に行き渡る前にあの肉を脱ぎ捨ててしまえば、捨て身で触れることができたとしても無駄足に終わってしまう。

 

 あの化け物に触れるのは悪手だ。勘がそう告げていた。

 

 

「黒霧────」

 

 

 その時、本来ならばコンティニューを告げる音が。されど今は絶望を告げる音が、USJ内に響き渡った。

 

 

「もう大丈夫……!」

 

 

 ヒーローはいつも、遅れてやって来る。それは平和の象徴だって例外ではない。

 

 

「私が来た」

 

 

 遅い。遅いけれど、必ずやって来るのがヒーローだ。

 

 

「来るのが遅いんだよ……平和の象徴……!」

 

 

 ラスボスがやっと現れた。だが、こっちはもう裏ボスで手一杯なんだよ。切り札の脳無ももう使い物にならないし、万全の状態のオールマイトとやり合おうと思う程自惚れちゃいない。

 

 今度こそゲームオーバーだ。

 

 化け物が脳無を食べる手を止め、やって来たオールマイトの方を向いた。その頭の肉が解かれ、女の身体が露わになる。

 

 

「あ、あ、あー……オールマイトじゃ〜ん。コレいる? 中々不味くて笑えるぞ」

 

「芳村少女……! その姿は……」

 

「乙女の食事姿さ。あんまりじっくり見られると恥ずかしいなぁ」

 

 

 オールマイトは化け物を一瞥した後、死柄木弔と黒霧に視線を戻した。

 

 

「さぁ、ヴィラン共。2対2だが、そっちは随分ひょろっちいな?」

 

「チッ…………もう、いい。帰るぞ黒霧」

 

「しかし……」

 

「無理だ。あの化け物に加えて無傷のオールマイトまでいるんだぞ。勝てるわけない」

 

 

 死柄木弔の一声で黒霧の個性が発動される。だが、ヴィランの逃走を許すほどオールマイトは甘くない。

 

 

「逃がさん!」

 

 

 一瞬にしてオールマイトと死柄木達の距離はゼロになる。だが、それを待っていたと言わんばかりに死柄木の口元が歪んだ。

 

 触れたものを崩壊させる手がオールマイトに向かって伸ばされる。

 

 

「生徒はちゃんと見とけよ? ヒーロー」

 

 

 その手がオールマイトによって弾かれる寸前、ワープゲートによって肘から先が転移した。

 

 

「へぇ」

 

 

 その手が向かう先は肉の鎧を解き、上半身を露わにした女の顔面。

 オールマイトは急ブレーキをかけて、女に向かって一気に飛んだ。

 

 だが流石のオールマイトも間に合うことはなく、死柄木弔の手が────女の顔を掴んだ。

 

 

「芳村少女!!」

 

 

 女の顔面がボロボロと崩れていく。

 

 

「ハハッ! 残念だったなオールマイト!」

 

 

 最後に平和の象徴を煽る言葉を残して、死柄木弔はワープゲートに吸い込まれて消えてしまった。

 

 その場に残されたのは、生徒を守れなかった平和の象徴と、顔が崩れていく芳村愛支。

 

 

「クソッ……気をしっかり持つんだ芳村少女! すぐにリカバリーガールを連れて来る!」

 

「あ゛〜…………大丈夫。自分で何とかできるよ」

 

 

 どうやって、とオールマイトが言う前に、巨体の手が愛支の頭を握り潰した。

 

 

「…………………………な」

 

 

 開かれた巨体の手は真っ赤に染まっていて、愛支の頭部は完全に潰れて跡形も無くなった。

 

 生徒の『死』。それを目の前で防げなかった己の弱さ。そんな現実から脳を守るために思考を止めていると、オールマイトの目の前で信じられないことが起こった。

 

 ぐちゅぐちゅと音を立てて、愛支の首から新たな頭が生えてきたのだ。新たに生えてきたその頭部は、以前と何ら変わりない姿だった。

 

 

「…………きもちわる」

 

 

 その一言だけ発して、少女は死んだように倒れた。

 

 

 

 

 






たぶんまだ続く
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