「兎に角...お前は色々聞かねぇとならねぇ....先ずは不同意の手術に関してしょっぴくからな」
「....どんな手術ですか?」
「.....あ?」
「え?さっちゃん?」
「具体的に、どんな手術を勝手にしたことになるんですか?」
こてんと首を傾げたさっちゃんの問いかけに、思わずグッと言葉に詰まる。
「どんなって……それは…」
「......てめぇ....さっきまでペラペラ喋ってたじゃねぇか…萩をこんな姿にしといて、しらばっくれてんじゃねぇぞ」
「えぇ?首だけになったのは爆発のせいですよね?さろめのせいじゃありません」
「........自分にはこの状況に責任がねぇって言いてぇのか?カルテなりなんなり出せや」
陣平ちゃんが睨み付けながら一歩前ににじり寄る
「元気に何の支障もなく生活していたじゃないですか?.....現役警察官の萩ちゃんは…どんな手術を、どうやって、どこで勝手にされて?....ふふふっ....私は何の罪に問われるんでしょーうか?裁判になったとしてぇ、首だけになっちゃう手術!なーんて?……何かしら立証できる人いますぅ?やだなぁ....冗談を真に受けてもらったらぁ....ふふっ♡」
幼気な顔に不釣り合いな妖艶な笑顔にゾッとする
「.....なんて言って裁判にかけるんですかぁ?」
「....」
張り詰めた空気の中ガラリと戸が開いた
「あぁ…現状、君の言うとおりだな」
「あぁっ?.....ちっ......お前らか」
「おいおい…松田、舌打ちたぁご挨拶じゃねぇか?」
「ほんとに身体がない....萩原、松田も久しぶり....。お腹空いてない?何か食べられるの?」
「降谷ちゃん諸伏ちゃん!班長も!」
ーーーー
部屋の隅で陣平ちゃんと降谷ちゃんが端的に情報のやり取りをしている。
「取り調べの調書は読んだよ...現在の状況との因果関係や手術の具体的な内容が立証できなければ罪に問うことは難しいだろうな…現状、世迷言のような話だ」
「…お前らから見てもあの女これ以上引っ張んのは無理か?....パパとやらは?」
「調べたが戸籍上は孤児という扱いになっていて誰も紐づいていない…彼女の口から聞き出すより他はないが…強硬手段に出るにも、もう少し情報が欲しいところだ......」
2人がちらりと鋭い視線をよせた当のさっちゃんは、まるで気にした様子もなく諸伏ちゃんがテーブルにタッパーを並べているのを物珍しそうに眺めていた。
「食べられるか分からないけど、一応....萩原が好きな物いろいろ作ってきてて…」
「....俺ずっと点滴…食事ってどうしたらいいんだろ…絶食してるわ」
「腹がねぇからなぁ……おい、さろめって名前だったか?…どうしたらいいんだ?」
「え?えっ?食べられるよ?…アレから萩ちゃんずっと食べてないの?かわいそう!ダメだよぉ!食べないと!ガリガリになっちゃう!」
「.....だってよ?作ってきてよかった…」
さっちゃんは慌てて俺を持ち上げ、ハンカチを敷いたテーブルの上にそっと置く。するとハッと何かに気がついたように驚いた顔をして、何やら感心したように四方八方から眺めだした。
「………なに?」
「え?あぁ、萩ちゃん、直置きでも首長いから口開けても顎がテーブルに当たらないんだねぇ!スタイルいいんだなぁって!」
「……スタイル…?」
「警察官は身体が資本なんだから。しっかり食べないといけないよ?」
「……いや…だから身体無いんだけど…」
ニコニコと機嫌のいいさっちゃんに苦い顔をすると取り皿と箸を持った諸伏ちゃんが割って入る。
「萩原……取りあえず一度食べてみよっか?」
口元に差し出された煮物の一辺、俺はそれをゆっくり咀嚼して恐る恐る飲み込んだ。
「.......食えてる....美味い....」
「.....どこに消えてるんだろうね....」
「……いよいよオカルトの世界だなぁ」
班長の呟きにゾッとしたが、まずそれよりも腹が減った。
食べられたという事実を認識すると急激に飢えを自覚する。
ぐきゅ~
「…………何?お腹すいてるの誰!」
「おいおい、イラつくなよ。俺じゃぁねぇぞ?」
間抜けな音にイラッとして思わず周囲をじろりと睨む。班長に諫められるが、訳の分からない状況と空腹で沸点が低くなってる俺のイライラは修まらない。俺のが腹減ってるんだよ!何日食ってないと思って…………
「………………萩原の首の辺りから聞こえたけど……」
諸伏ちゃんの控えめな指摘に、さっちゃんが気遣わしげに覗き込んでくる
「萩ちゃんお腹すいてるんでしょ?鳴っても恥ずかしくないよ?」
「怖い怖い怖い!だって俺もうお腹無いのに!?」
「…まぁ腹が減ってるなら食ったらどうだ?ヒロの料理旨いだろ?こっちの人参も食え」
「おら、口開けろ萩…詰まらせんなよ?よく噛め」
「あぁ…もう俺、腹減って訳分かんない………肉…そこの肉食わせて……」
部屋の隅で様子を伺っていた降谷ちゃんと陣平ちゃんも緊張を解かれたのか輪に加わってそれぞれ箸を手に取ると次々口元に差し出してくる。野郎によるあーんの大渋滞だ。
「萩ちゃんの好きな料理ってどんなの?」
「昔よく宅飲みで出してたような物だけど....よかったら君もお箸どうぞ。取り皿も」
「あ、すみません。ちょっとお味見失礼しまーす!」
俺が差し出される物にヤケクソで次々食らいつく横で、さっちゃんも諸伏ちゃんから受け取った取り皿片手にタッパーの中身をつつきだす
「.......美味しい....コレも.....あ…こっちも美味しい」
「さろめちゃん....さっちゃん、で良いのかな?....気に入ってくれたなら嬉しいよ。もっと食べる?取り調べから直接ここに来たならお腹空いてるでしょ?」
「優しい....料理できる男の人....素敵かも…♡」
さっちゃんが諸伏ちゃんを上目遣いに見上げてぽっと顔を赤らめるのを呆然と見上げる。
「え…?ねぇ待って....待って待って!」
「あのぉ…諸伏さんてぇ…下のお名前なんて言うんですかぁ?連絡先交換したいなぁ♡.....さろめみたいな女の子ってどう思います?」
「乗り換えようとしてるじゃん!?私が飽きるまでって言ってたのに早速飽きようとしてない?俺死ぬの!?」
「....諸伏景光っていうんだ。宜しくね?萩原を助けてくれたんだよね?....君には色々聞きたいことも多いから連絡先交換出来たら俺も嬉しいよ」
「景光さん♡あの....景ちゃんって呼んでもいいですか?」
諸伏ちゃんは一瞬、降谷ちゃんと目配せするとスマホを取り出した。
ロミトラ?俺のためにロミトラでさっちゃんから何かしらの情報引き出そうとしてる?
「諸伏ちゃんこの子と口聞いちゃだめだよ!曲解されて大変なことになるからね!」
――――そう、大変なことになった。
「ヒロ…………ヒロ…すまない…俺が…間に合わなかったせいで……」
バーボン……いや、ゼロが……泣いてる……どうして……。ゆっくりと瞼を開けるとぼやけた視界に見覚えのある女の子の悲しげな顔が映る。
「景ちゃん……………どうして自殺なんてしちゃったの?」
「さっ……………………ちゃん?…………………俺………」
「ヒロ!っ」
横から視界に現われたゼロが頭を掻き抱いてくる。
あれ……俺……拳銃で…
「どう?痛いとこある?」
「いや………………っ!それより何で!?こんなとこに居たら組織に!……あれ…動けな。……まさか!?」
「あはっ!…きづいちゃった?…首だけでーす!」
「身体はあそこだ……ライは帰った………心臓は…止まっている………」
ゼロが痛みを堪えるような顔をする。
「萩原……松田に続いて………俺も………うわぁ……………」
「………俺らもいるよ………うわぁとか言わないでよ!諸伏ちゃん!」
「…………………気持ちは分からんでもねぇけどよ」
カションカションと蜘蛛の足ようなメカを首下から生やした松田と萩原が下から恨めしそうに半目で見上げる。普段使っている首をはめ込めるボディではなく今日は小型バージョンの装備のようだ。
「ごめん………萩原…松田…つい……」
「景ちゃんの場合、身体はリサイクルできなくもないんだけど、偽装工作に使うんだって。だから首だけね。まぁ…皆お揃いだからいいよね?ボディ装備も首回りのサイズ調整だけで転用しやすいからこのスタイルが一番いいと思うよ!」
「ははっ……うん……これから…いろいろお世話になるよ………」
「元気出して!どんな形でも生きてたら、きっといいことがあるよ?多分ね?」
さろめのニッコリ笑顔に何と返すべきか答えが見つからず
俺は力なく笑顔を返した。