ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら 作:りんごりら
トマ視点
「…………………ん…」
ぼんやりとした意識の中で薄く目を開ける。
のそのそと石畳の床から体を起こして、深く息を吸い込みながら両腕を頭上に伸ばし、ぐっと背筋を伸ばす。
伸ばし終わったら、ふぅと息を吐いて部屋全体を見渡す。
目の前には上の扉に続く階段、それ以外の三方は石壁のみ、床には光る魔方陣。
うん。
囚われてから何も変わってない。
お腹の空き具合から半日経ったかな?ぐらいの時間は過ぎているはず。
いつもなら宿や店でご飯を食べるところだけど、生憎それはできない。
捕まるって不便だなと思いつつ、わたしがやるべき事を黙々と考える。
王子が来たらアイシャの居場所をしつこく聞く。
もしにいさま達が来たらここからリーリャを連れて脱出する。
そのどちらも今は不可能である。
よって、このまま待つべきである。
わたしはぺたんと脚を崩して床に座った。
1時間経過、めっちゃ暇である。
王子がいつ入ってくるかわからないため、おいそれと無為転変で遊ぶことはできず、ただただ魔方陣を眺めたり見えない壁にキックをお見舞いしたりしていた。
というか、よく考えたらあの王子がマメにわたしの様子を見に来るなんてしないかもしれない。
アイツはロキシー先生にしか興味がない。
その証拠に綺麗なリーリャに何もしてないし。
どんな経緯でロキシー先生を好きになったのかは知らないが、好きな人の振り向かせ方が最悪なのはわかる。
わたしはこの城に囚われることがアイシャを探す手掛かりになると思ったが、そうでもないような気がしてきた。
こんな受動的な姿勢じゃなくて、能動的に探しに行った方がよくない?
王子にかけるか自分にかけるか。
…………ふむ。
自分だね。
そうと決まれば
「無為転変」
グニャリと両足を変形させて高く伸ばす。
そのままアドリブで体を変形させ結界の外へ脱出完了。
あとは階段を登って部屋から出るだけだ。
その時、コツ……コツ……と足音が耳に届いた。
兵士か?王子か?
どうでもいいか。
術式に魔力を流し、階段の先を見つめる。
扉が開き、コツコツと1人の男が降りてくる。
「む?……結界から出ているが……どうでもよいか」
そのまま彼はわたしの前に立った。
眼鏡に面長の茶髪の男だ。
その装いから王子であることが伺える。
どうでもいいって言ってたし、パックスとは関係ない勢力か。
「シーローン王国第三王子、ザノバ・シーローンである」
「……どうも、トマ・グレイラットです」
悠々と自己紹介をしたあたり、わたしと争う気はないっぽい。
まぁ戦った所で、この痩せ気味の男に負ける気はしないが。
「用があってここに来た」
「そうですか、何のご用でしょうか」
ザノバは手に持った袋を掲げた。
そして袋を地面へ置いて、慎重な手付きでそれを取り出した。
「この人形をどこで手に入れた?」
ザノバが持っているそれは、首を傾げ上目遣い気味にこちらを見つめていて、ダボついた寝間着によって右肩が露出している。
きゅ…と胸を付き出しながらぺたりと女の子座りをし、その惜しみ無く露出された太ももの間に両腕を緩く挟み込んでいる。
これは……これは……!
わたしのロキシー先生人形じゃん!!!!!!
「それわたしの人形なんだけど!!!!!!返して!!!!!!」
「わかっている。どこで手に入れたのだ?」
「にいさまに作って貰ったの!!!ほら早く返して!!!」
「作って……もらっ……た……?」
ワナワナと震えるザノバの手から傷つけないように人形を奪い取り手に納める。
そして360度隅々までロキシー先生人形をくまなく見て、以前の状態と何の変わりもないことにホッとした。
とりあえず、安心した。
人生で一番大きな声を出したかもしれない。
それほど焦っていたのだ。
「きさ……ま、いや、あなたは、この像の製作者の妹……であるか?」
「……そうだけど。一応わたしも人形作りを修行中」
ほら、と掌に簡単な人形を作る。
顔もない体も雑で質感もイマイチな出来だが、即興で作ったならこんなもんだ。
「では!この人形を見てくだされ!」
ザノバは興奮した様子で床に置いた袋に手を突っ込み、人形を披露した。
これは、ロキシー先生人形!?
ローブをたなびかせながら杖を突き出している。
このクオリティ、質感、そして作者特有の癖……間違いない。
にいさまの作品だ。
「にいさまが作ったやつだ」
「やはり!あなたの兄上がこの像の製作者であらせられるか!!!」
「うん…………それにしても、この人形いいなぁ」
人形を作る側になってから、さらににいさまの凄さがわかった。
服や肌の質感、髪の毛の細かさ、顔のバランス。
そのどれもが一級品だ。
「そうでしょうそうでしょう!特に驚くべきはこのローブが着脱式だということ!」
「えっ!?そのローブ脱げるの!?」
「はい!繋ぎ止める部分を外すと……ほら!」
「わぁ!!!すごい!!!……あれ?これ……左手は杖を持ってたはずなのに、今は胸を隠してる」
「気付きましたか!?この像には腕が3つあるのですよ!ローブを着た姿と、下着姿。このギミックで二つの像が一体化している!まさに天才です!」
「へぇー!!!それにこれ、ローブの着脱で表情の意味が変わってくるね」
「ええ、そうなのです!凛々しさから恥じらいへ、この2つの解釈ができる絶妙な表情!まさに至高!」
わかってるじゃないかザノバ君!
にいさまの作った人形を日頃から矯めつ眇めつ見てその魅力を細かく分析しないとでない発想・考えだ!
「じゃあわたしの人形の素晴らしさはわかる?」
敬意を表してわたしの寝間着姿のロキシー先生人形をザノバに手渡す。
ザノバは丁重に受け取り、くるりとわたしに人形のお尻を見せた。
「素晴らしい所は多々あるのですが……特に余が感動したのは、この下着とヘソの浮き具合ですな」
「そう!下着とヘソの浮き、それによって服の薄さがありありとわかる!服の皺も最高で、太ももに深く挟んだ腕はあえて皺を少なくすることで、服の下にある艶やかな肌を強く、肉感的に表現してる!」
「ほほうわかってますな!」
「あとね、このダボついた服を上から見るとむね───」
わたし達は人形の素晴らしさを思う存分語り合った。
話題の中でわたしの人形作りの話になり、出来具合を批評して貰う中で、ザノバの立場やなぜ人形が好きなのかまでも教えて貰った。
ザノバはわたしと同じ神子なんだとか。
怪力の神子だ。
初めて同じ神子に会ったことと、人形好きの同士というのでわたしの力も全て話してしまいたかったが、ザノバの王子という立場がわたしを止めた。
ちょっと気が引けてしまったが、切り替えて人形をについて歓談しよう。
まだまだ話し足りないのだ。
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ザノバと和気あいあいと人形談議をしていたら突然階段上の扉が空いた。
城内が騒がしくなっていたので、そろそろ混乱に乗じて出ていこうかなと考えてたところだ。
扉に目をやるとにいさまがいた。
にいさまは城にリーリャがいることを突き止めたのだ!
思わず声を上げると、歓喜極まったザノバがにいさまへ駆け出した。
そしてにいさまを天井に投げ飛ばした。
わたしは満身創痍のにいさまを治し、ザノバは平謝りした。
にいさまが自己紹介を求めると、彼は地に手を置いたまま、名を名乗った。
「ザノバはにいさまが作った人形を後生大事に愛でてるの。弟子にしてあげてもいいと思う」
「ええ…そう言われてもな」
「何卒!人形制作の極意を我が身に教えてくだされ!」
にいさまはザノバの態度に困り果てているようで、とりあえず屈んで五体投地の状態を解こうとしている。
また、屈んだことで部屋の外からにいさまが見えなくなったからか、3人入ってきた。
エリスさんとリーリャに、アイシャだ!
「アイシャ!」
「トマ姉!」
アイシャに駆け寄り抱き締める。
2年離れただけでもこんなに大きくなって。
おそらくパーティーのみんなが見つけてくれたのだろう。
「リーリャも無事でよかった」
「はい、それよりトマ様はどうやって結界の外へ?」
「あー……後で話すよ」
城の中で無為転変のことは話したくない。
どこから聞かれているかわかったもんじゃないからね。
わたしはエリスさんの方へ向いた。
そして頭を下げる。
「エリスさん、わたしの家族を助けてくれてありがとう」
「気にしないでいいわ!仲間なら当然よ」
エリスさんは腕を組みながらそう言ってくれた。
言葉の通り、さも当然の事のように。
本当に、感謝してもしきれない。
後見つかってない家族はかあさまだけだ。
「リーリャとアイシャを救出したから、もう城から出る?わたし達シーローン王国じゃ指名手配になってそうだし」
「そうだな、出るか」
「おや?それなら余がなんとかできますぞ」
にいさまと話していたザノバがこちらを振り返った。
確かに、ザノバは王子かつ神子でこの国での立場は強めだ。
でもどうやって城内への侵入者を無罪にするのか。
「この結界を用意したのはパックス。ならばなんとかなるでしょう」
「本当にできるの?」
「ええ。師匠……この事態を解決することで、あなたの弟子になることをお許し頂けますか?」
「いいですけど……大丈夫なんですか?」
「ご安心を!余に全て任せておいてください」
そう言うと、ザノバは確固たる意思を感じさせる歩みで部屋の外へ出ていった。
「にいさま……大丈夫だと思う?」
「わからん……」
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結論から言うと、ザノバはすごかった。
パックスを掴んで他の王子に脅しをかけ、見事にわたし達を無罪にした。
その上、パックスに兵士の人質の場所を吐かせ、わたし達と協力し救出に成功。
最後にこの顛末を聞いた王はパックスを王竜王国あたりへ留学(国外追放)。
ザノバも留学という形で国外追放になってしまった。
わたしはせめてもの餞に寝間着ロキシー先生人形と、わたしが作った竜に跨がるロキシー先生を送った。
ザノバは涙を流して喜んでくれた。
お気に入りの物が手元に無くなるのは寂しいが、同士との別れにはこれくらい必要だ。
にいさまは次に会ったら人形の作り方を一から教えると約束した。
家族を全員見つけ出したら、ザノバに会いに行こうかな。
また一緒に人形について語り合うのだ。
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リーリャとアイシャ救出から数日経った。
シーローン王国にある小さな町。
行き先の関係で明日、ここでリーリャ達と別れる。
リーリャとにいさまはテーブルを挟んで話していて、わたしとエリスさんとアイシャは別で会話を楽しんでいる。
「にいさ……カイヌシは魔術の規模と繊細さが卓越してるの!」
「そうよ!ルーデ……カイヌシは凄いんだから!雨がザーザー降る森もカッチカチに凍らせられるのよ!」
「わぁ!すごい!」
袋から丁寧に出して机に3体の人形を置く。
アイシャは身を乗り出して人形をまじまじと見つめる。
「見て、これはカイヌシが作ったわたし達の人形」
「ポーズは私とルイジェルドの意見も入ってるわ」
「すごい……細かな部分まで再現されてる」
感動するアイシャを横目に見ながら、わたしは袋に残った最後の人形を取り出す。
エリスさんに目配せをして、作戦を実行する。
「わかったわ!」
「えっどうしたんですか?」
困惑するアイシャにエリスさんが手で目隠しをする。
そして目の前に机に人形を置いて、合図を送る。
「見なさい!」
「わっ……これは…!」
わたしが置いたそれはメイド服のアイシャ人形だった。
にいさまに頼んで夜な夜な作って貰っていたのだ。
お礼に無為転変で美味しくした焼き魚を作った。
身が引き締まり骨が無くなって美味しくなる。
骨無しサンマだ。
サンマじゃないけど。
「カイヌシが作ったアイシャの像だよ、どう」
「……すごい!嬉しい!ありがとうトマ姉!エリスさん!」
「んふふ、ありがとうはあっちにいるカイヌシに言ってね」
「うん!ありがとーーーう!!!」
にいさまはフリフリと手を振って、笑顔を見せた。
翌日、出発直前に馬車の点検をしていると、アイシャがやってきた。
「トマ姉、ちょっといい?」
「いいよ、何か用?」
しゃがみこんでアイシャと目線を合わせる。
アイシャは口に手で輪っかを作って、わたしの耳に当てた。
内緒話かな?
「カイヌシさんって……あたしのお兄ちゃんだよね」
「んん!!??やっ、いや!それは……」
「今の反応でわかった、ありがとうトマ姉!」
言いたいことだけ言って颯爽とわたしから離れてしまった。
さらににいさまの裾を引っ張って茂みに連れていった。
にいさまごめん。
でもまぁバレるよね、あれだけにいさまって言っちゃったし。
アイシャはにいさまと長い事話していた。
わたしは目を離して、点検に戻った。
馬車に乗って改造魔獣を弄っていると、声が聞こえた。
「じゃあね、お兄ちゃん! また会おうね! 約束だよ!」
バレたね。
呆然とした顔のにいさまが馬車に乗ってきた。
「……仲良くなってるなら、いいと思う」
「やっぱりバレバレじゃないのよ」
ルイジェルドさんが手綱を引き、馬車が動き出した。