ルーデウスに無為転変みたいなのを使える妹が増えたら   作:りんごりら

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第28話 ターニングポイント2

トマ視点

 

 

 

 わたし達はアスラ王国を目指し、西へ向かう。

 もうすぐ赤竜の下顎へ着く。

 別に改造竜に乗って山脈を抜けてもよかったんだけどね。

 にいさまいるし空で赤竜に絡まれても魔術で倒してくれそうだと、みんなに話して空ルートを提案したが、エリスさん以外賛成してくれなかった。

 

 エリスさんといえば、前にルイジェルドさんが戦士と名乗っていいいと言っていた。

 彼女はルイジェルドさんに一人前だと認めて貰えたのだ。

 わたしは素直にすごいと思った。

 それと同時に、当然の事だとも。

 転移させられて魔大陸を生き抜いて、今ではもう中央大陸にまで辿り着いて。

 辛い事もあっただろうに、エリスさんの心は輝く太陽みたいに綺麗なままだ。

 

 凍える風がわたしの体にぶつかって、髪がバサバサと揺れる。

 カチューシャを整えて、前を歩くルイジェルドさんとエリスさん、隣のにいさまを見る。

 あと少しでフィットア領に到達する。

 到達、してしまう。

 あの何もない草原に。 

 それを見たとき、わたしの心は失意の泥沼に沈められ、声も上げずに涙を流して、一人じゃ立ち上がれなかった。

 エリスさんは、どうだろう。

 泣くのだろうか。

 絶望するのだろうか。

 もう一度、立ち上がれるのだろうか。

 

 燃えるような赤い髪が目に写る。

 雪と冷たい岩に囲まれたエリスさんは、その冷たい世界の中で唯一燃ゆる灯のようだ。

 それが無くなったら、どこへ行けばいいかわからなくなってしまう。

 ……なんて

 エリスさんがいなくなるなんて、想像できないな。

 でも、フィットア領で別れるかしれない。

 

 ……考えていることがある。

 にいさまは、エリスさんと一緒にフィットア領に残るんじゃないかって。

 エリスさんはにいさまの事好きそうだし、にいさまも好きだと思う。

 エリスさんが挫けてしまったら、きっと優しいにいさまはほっとかない。

 そこに留まってしまうだろう。

 …………でも、わたしはそれでもいいと思う。

 別に1人でもかあさまは探せるし、冒険者だって1人でできる。

 にいさまは、にいさま自身のやるべきことをやってほしい。

 

 

---

 

 

 命を潰えさせる凍て風が纏わりついて、肩からブルッと震える。

 腕を擦って熱を起こしても、震え止まらない。

 凍て風はどんどん冷たく……恐ろしくなった。

 

 (……………………?)

 

 いや、寒さは変わってない。

 なのに、鳥肌が立って悪寒が止まらない。

 

 (…………なんだろう……)

 

 隣のにいさまの顔を見ても、なんともなさそうだ。

 じゃあ気のせいかな……

 でも、なんか怖いな。

 にいさまにくっついとこ。

 

「ん……?どうした?」

「…………怖い」

「怖いって、何が怖いんだ?」

「……わからない」

 

 ギュッとにいさまの服の裾を掴む。

 そして顔を上げた。

 

 

 

 瞬間、肌は粟立ち体は固まり心臓がドクンと脈打った。

 無骨な白いコートを見に纏う銀髪の男。

 それが無差別に発する死の気配。

 あの転移空中落下(とき)よりも濃密な不安、恐怖、絶望。

 足に力が入らなくなり、にいさまの服を掴みながらズルズルとへたり込んだ。

 

 わたしは今まで命の危機というものを2回味わった。

 一回目は転移した直後の空中落下。 

 二回目は、今だ。

 

 勝てない

 逃げられない

 絶対に殺される

 そう思わせるだけの、絶対的強者の威圧感がわたしの肌を刺してくる。

 

 吹雪く景色とは裏腹に、ポタっと汗が流れ落ちる。

 全身に冷や汗を滲ませながらも男に目を離せない。

 男の動きを見ていないと、いつ殺されるかわからないからだ。

 

 男は一歩一歩こちらに近づいてくる。

 (いや…いやだ!)

 その一挙手一投足全てが恐ろしい。

 (こないで……おねがい……!)

 視界は霞み、音は遠く……もう眠ってしまいたい。

 (……だれか………たすけて……!)

 こんな現実、見たくない。

 

 されど、歩みは止まらず、男はわたし達を通りすぎた。

 ………え………通り……すぎた……?

 

 緊張は途切れないけど、幾分マシになった。

 停滞していた血液が一気に流れ出したような、ポジティブな生命活動を実感する。

 後はこのまま何もなければ……

 

「知り合いです……か……?」

 

 嘘……なんで話し始めたの……?

 知り合いって可能性はない訳じゃないけど、今じゃないでしょ……!

 にいさまはアイツが怖くないの?

 

「ルーデウス、絶対に動くな、エリスとトマも、動くな」

「ん? その声、ルイジェルド・スペルディアか。髪が無いから一瞬わからなかったぞ。なぜこんな所にいる?」

 

 恐る恐る振り返ると、男が無造作に近づいてきていた。

 ルイジェルドさんが槍を構えた。

 わたしはポケット手を入れてに改造魔獣を握り締める。

 

「ん? そっちの赤毛はエリス・ボレアス・グレイラットか。

 金髪の方は、トマ・グレイラットだな。

 もう一人は……誰だ? まあいいか。

 なるほど、読めたぞルイジェルド・スペルディア。

 子供好きの貴様は、例の転移によって魔大陸に飛ばされたこの三人を、ここまで送り届けたということだな」

 

 何でわたしの名前を知ってるの!?

 まさか、覚えてないだけで本当に知り合いなのか。

 こんな怖い人忘れないと思うけど……

 

「な、なんで私の名前を知ってるのよ!」

「貴様は何者だ! なぜ俺の名前を知っている!」

 

 2人共男を知らないようだ。

 なんなんだコイツは。

 わからない、怖い……!

 

「奇妙なところで会ったが……元気そうだな。ならいい」

「……いいの?」

「いい、仕方がない。邪魔したな」

 

 そう言うと男と……いたことに気付いて無かったが、仮面の女も背を向けてゆっくりと歩き出した。

 

「俺の事は……そのうち分かる」

 

 またバクバクと鳴っていた心臓が落ち着きを取り戻してきた。

 あの男に襲われていたらひとたまりも無かっただろう。

 腰が抜けたのも徐々に治ってきた。

 

「待って下さい!」

 

 ……………………にいさま…………怒るよ…

 

 にいさまとオルステッドと名乗る男は要領を得ない会話を続ける。

 とおさまに息子はいないはずってなんだ。

 お前と出会った記憶がないってどういうことだ。

 そして、オルステッドは最後にこう言った。

 

「お前、もしかして、人神(ヒトガミ)という単語に聞き覚えがあるんじゃないのか?」

 

 ヒトガミ様?

 この人もあの白い場所へ招かれたのか?

 

「あります、夢にヒトガミってのが出てき……」

「ルーデウス!」

 

 ───────刹那

 

 オルステッドは文字通り瞬く間ににいさまに貫手を食らわせる。

 しかしルイジェルドさんが間に割り込んだお陰で間一髪防いだ。

 呆然としているわたしの耳に入ったのは、恐らくオルステッドの敵対宣言。

 

「そうか、人神(ヒトガミ)の……使徒だったか」

 

 

---

 

 

 

「逃げろ! ルーデウス!」

「邪魔だ、ルイジェルド」

 

 目の前でバケモノとルイジェルドさんが戦っている。

 ルイジェルドさんの叫びでハッと我を取り戻した わたしは、にいさまの手を無理矢理取って走る。

 

「にっ逃げるよ!!!」

「えっ…あ……ああ」

 

 半ばにいさまを背負い、岩の地面を思いっきり脚で蹴りながら疾走する。

 そうだ!エリスさんは!?

 そう思って振り返ったとき、ルイジェルドさんが吹っ飛んだ。

 

 幻覚を見たのかと、わたしは思った。

 だって、あのルイジェルドさんが、わたし達3人を相手にしても余裕で戦えていたルイジェルドさんが、10秒もせずに倒された。

 

「さて」

「う、うあぁぁぁ!」

 

 叫びながらオルステッドに向かうのはエリスさん。

 また思考停止したわたしをその声で動かした。

 

「にいさまっ!走って!!!」

「っ!?」

 

 わたしはにいさまを放り投げ、ポケットに手を入れた。

 撥体(ばったい)を撃つか?

 いやダメだ。ルイジェルドさんエリスさんにまで当たる。

 ならば、エリスさんの援護に最適な戦術は……!

 

多重魂(たじゅうこん)幾魂異性体(きこんいせいたい)!!!」

 

 重ねた掌から飛び出した2体の改造魔獣。

 四足歩行で顔は歯茎剥き出しの口しかない。

 魂を燃やし尽くし、アイツを殺せ!

 

無為転変(むいてんぺん)

 

 改造竜をにいさまの守りに回す。

 背中に2対の翼を生やし、大剣を抜刀する!

 このまま突っ込んでもエリスさんの邪魔になる。

 わたしは連携が上手くない。

 エリスさんと一緒に戦った経験が少ないのだ。

 だから、横から攻撃する!

 

衝撃波(エアバースト)!』

 

 1対の翼で1本道の外側、空中へ飛び出す。

 衝撃波を使い続けながら、オルステッドの右側へ回り込んで残りの翼と左腕で魔術を放つ。 

 

岩砲弾(ストーンキャノン) 氷霜撃(アイシクルブレイク) 氷霜刃(アイシクルエッジ)!』

 

 エリスさんと幾魂異性体の攻撃を防ぎながらわたしを見ていたオルステッドは、なにもしなかった。

 

 わたしの魔術は、全て当たった。

 しかし、オルステッドには傷一つつかなかった。

 

「無詠唱……さらに神子、それとも呪子か……これも、お前の影響か」

「があああああ!!!」

 

 そう言いながらにいさまを睨むオルステッドは、右手に噛みつこうとした幾魂異性体の頭を難なく潰し、エリスさん渾身の一閃を左手で受け流し、最後の幾魂異性体を脚で吹っ飛ばした。

 エリスさんは、岩壁にぶつかって呻き声を上げている。

 

 あの受け流し、(ながれ)だ。

 とおさまの流よりも、ずっと研ぎ澄まされたそれを自然体のまま使った。

 あれじゃわたしの剣術は絶対に通らない!

 くそっこれならどうだっ!!!

 

「っ…多重魂(たじゅうこん)撥体(ばったい)!!!」

 

 魂の融合、それによって生まれる拒絶反応。

 爆発的に増加した魂の質量が、そのままこの技の破壊力になる!

 合わせた掌がバンッ!と弾き出され、表皮が剥けた。

 オルステッドを喰らうように放ったそれを、そのまま一本道の地面を拡張するように広げる。

 どうせこれじゃ殺せない。

 せめてわたしに有利なフィールドを作る!

 

「多彩だな」

 

 オルステッドは仮面の女を抱き抱えていた。

 そして女に耳打ちしてこの場を離れさせた。

 あの女、オルステッドにとって大事な人なのだろうか?

 まぁ攻撃を向ける余裕は無いが。

 

 わたしの手札は残り一つ。

 直接触れて無為転変を喰らわせる。

 完全な変形だと治癒も効かないが、そうなるほどの時間触れられるのか?

 そもそも、この戦力差じゃ絶望的だ。

 

 オルステッドは明らかに手加減している、いや、観察している。

 一瞬の睨み合いの最中、キュイイインと、聞いたことの無い音がした。

 そして

 

「今のは岩砲弾か……凄まじい威力だな。こんな魔術で俺の体に傷をつけるとはな……」

 

 オルステッドの手の甲の皮が、ベロンと剥がれている。

 ガランゴトンと、鋼鉄のような岩が音を立てて転がった。

 咄嗟にそれが飛んできた方を見ると、にいさまが次点の……恐らく岩砲弾を構えている。

 

 オルステッドがゆらりと動いた。

 

「にいさまっ!!!」

 

 オルステッドが赤熱の岩砲弾を左手で防ぎながら、瞬間移動したかのようににいさまに接近する。

 速すぎる!?追い付けない!!!

 

「ごはっ!」

「魔術師は肺を潰すに限るな……」

 

 オルステッドの技術の極みのような双掌打(そうしょうだ)を受け、にいさまが血反吐を吐いた。

 まだ生きてるっ!

 はやく触れろわたし!

 2対の翼全てで衝撃波(エアバースト)を放ち、にいさまに急接近、

 改造竜を壁のように膨張させ視界を遮る。さらに背中から2本の触手を生やしにいさまを掴んでオルステッドから距離を取る。

 

 

「ごべっ……ひゅ…………」

「にいさま!!!」

 

 にいさまは無詠唱で治癒魔術を扱えない。

 わたしが治さないと、にいさまが死んじゃう!

 やだっ死なないで!

 

「…………ド…………ぁ……」

「無為転変!」

 

 魂の形状を弄って内蔵を修復、骨も治した。

 これで大丈夫なはず……

 

「ごはっごふっ!ふっふぅー……」

「治った!?」

「ごほ…………治っ…た?…」

 

 よし……

 わたしの魔力が尽きない限り、このパーティーに死は存在しない。

 だが、あのバケモノからどうやって逃げればいい。

 取り敢えず、ルイジェルドさんとエリスさんを治さないと。

 そのために隙がいる。

 わたしはポケットにある最後のストックを使い、幾魂異性体を1体作った。

 

「にいさま、コイツがにいさまを守るから逃げて!わたしはエリスさん達を治してから逃げる」

「治すことも出来るのか」

 

 ──────え

 

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 

 白、という色を認識した直後、わたしの体は固い氷に覆われていた。

 やはりにいさま以外には手加減しているのか、呼吸が出来るように顔はあまり凍らせられていない。

 

 無意識ににいさまを翼で守ることは出来たようで、右足以外に多く凍りついた部分は無い。

 

「無詠唱魔術、意外と難しいな。だが、これで終わりだ」

「に……さま……にげ、て……」

 

 わたしの声が届かなかったのか、それとも予見目で見た未来はもう詰んでいたのか。

 にいさまは火魔術を使ったまま動かず、オルステッドに腹を貫かれた。

 

 視界が赤く染まった。

 びちゃっと、わたしに何かが付着した。

 赤い液体が、凍りついた地面に広がった。

 にいさまが、動かなくなった。

 

 

 

 …………………………にいさま?

 

 なんっ……………………………………あ

 

 動かない

 

 あるはずのお腹にはぽっかり穴が空いている。

 お腹がないと、人は、死ぬ。

 死ぬ。

 ひと、いや、にいさまが、しぬ。

 

 

 

「あああああああああ!!!!!」

 

 腕を、脚を、腹を、背中を、顔面を変形させる。

 魂を弄くり回して氷の牢獄を破壊する。

 ハタハタと視界が黒くなったり赤くなったり。

 

 ブチブチぶちぶちぶちブチぶちブち

 グチャぐチャチュチャぬちゃチャグチャ

 ゴキゴキ……グゴガ……ゴキャギギミシし

 

 痛みなんて、この心の絶叫からしたら、カスみたいなもんだ。

 今のわたしがどうなってるかわからないけど、剣山のように生やした腕を使って火球弾(ファイアボール)を滅茶苦茶に乱射する。

 目を翼の至るところに作ったら、気絶してるルイジェルドさんと驚愕の表情をしたエリスさんを見つけた。

 やはり、2人は凍らされていなかった。

 狙いはにいさまだけなのだ。

 たった一つの灰色の魔眼で魂を見て、2人を治す。

 直ぐに目を覚ますだろう。

 ギョロリと蠢く瞳の一つが白コートの男を捉えた。

 

 オルステッドが目を見開いてる。

 

 それもそうだ。

 人がいきなりバケモノになったら驚くだろう。

 こんなに急速に体を弄ったんだし。

 治癒魔術で負荷を軽減してるとはいえ、わたし、死ぬかもしれない。

 

 腕と脚と背中だった部分に目を生やす。

 キョロキョロ動かしてにいさまを探す。

 そしたら、わたしが紫色になってるところににいさまがいた。

 灰色の魔眼をここに移動させて、祈るように覗き込む。

 ……魂が、まだある!!!

 原型の掌を押し付けて、治す。

 無為転変は対象の形状と質量を無視して変形できる。

 故に、質量は関係ない。

 失った血の問題も大丈夫ということだ。

 起きた直後でも貧血にならずに動ける。

 

 にいさまを治しきった突如、増えた視界がばつんばつんって切れてきた。

 急激な変形に耐えきれずに、わたしが死にかけているのだろう。

 もはや肉体の感覚は薄れて……魂だけを強く感じ始めた。

 

 聴覚は機能を失いつつあり、誰かが叫ぶ声も遠く。 

 触覚は体積が増えたことで、脳が沸騰するくらい色々な感触を同時に感じていたけど、それももう無い。

 嗅覚と味覚は……消したんだっけ?

 みんなを助けるのに必要ないから。

 

 最後の視界がぶつんって切れた。

 感じるのは魂だけ。

 そして、死だ。

 

 

---

 

 

 それとても長く、しかし一瞬のようにも感じた。

 死にかけているせいか、魂を、術式を、ヒトガミ様の白い空間の時と同じくらい強く感じたのだ。

 

 そしてツギハギの人の記憶が、否、魂が、弱ったわたしの魂に滲み出す。

 魂が弱った理由はわからない。

 無為転変で滅茶苦茶に弄ったせいか、にいさまが死にかけたのを見て、心に……魂にヒビが入ったのか。

 

 ツギハギの人の魂とわたしの魂が、今までより、深く混ざり合った。

 

 そうなって 改めてわかった

 

 わたしの 本当の形を

 

 魂の本質 それを理解したことで

 

 わたしは初めて この世界に生まれ堕ちた

 

 

---

 

 

 気付けばわたしは人の形に戻っていた。

 視界に写る髪の毛は金髪ではなく、くすんだ水色。

 腕や体にはツギハギが走っている。

 

「…………トマ?」

 

 にいさまは隣で岩砲弾を構えている。

 呆気に取られたような顔で、虚ろな目をして。

 でも段々目に光が戻ってきた。

 正面を向くと、ルイジェルドさんとエリスさんがオルステッドと戦っている。

 大剣はない、ストックもない、魔力残量2割程度、あるのはカチューシャと破れた服だけ。

 

 それでも、気分は悪くない。

 にいさまに笑顔を向ける。

 

「絶対生き残ろうね」

「っ…わかった」

 

 オルステッドを見て、目を細める。

 この生まれ変わったような感覚……これが

 

遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)

 

 この姿でいる限り、魔力は減り続ける。

 やっぱり、わたしの術式は不完全なのだろうか。

 ツギハギの人は一回変身すれば維持に魔力?は必要なさそうだった。

 

 やるなら短期決戦だ。

 火球弾で氷は溶けたので撥体で作った足場はもう覆われていない。

 これでオルステッドを拘束する。

 

「無為転変、2人とも!離れて!!!」

 

 地面の改造魔獣から生えた触手がオルステッドに絡み付く。

 一応締め殺すつもりでやってる。

 どうせ死なないだろうけど。

 

 2人とも信じられないような顔をしてわたしを見たが、それも一瞬。

 直ぐにオルステッドから離れた。

 ……ん?仮面の女がオルステッドの後方に見える。

 

 にいさまの岩砲弾が放たれる。

 赤熱し回転を伴った死の砲弾は、やはり触手を引きちぎったオルステッドに防がれた。

 

 しかしその一手の間に、わたしはオルステッドの懐に潜り込んだ。

 これで終わらせる!

 

「無為転変っん!?」

 

 なんだ!?弄れない。

 魂を魔力?で守っている。

 粘土のように弄くり回せたはずの魂が、オルステッドは鋼鉄みたいに固く、形状を変形させ辛い。

 これじゃ手を握ってるだけだ。

 

「この感覚……まさか、魂か?」

 

 白いコートが揺れた。

 ガンッ!と音を立ててわたしは吹っ飛んだ。

 咄嗟に腹に右腕を挟んだお陰で、貫かれていない。

 おしゃかになった腕も直ぐに治した。

 

「……固いな、その姿のせいか?」

 

 右肘に漆黒のブレードを作り、背中に翼を生やして、バネのように脚を縮める。

 遍殺即霊体での全力の無音の太刀。

 衝撃波と足のバネを使い僅か1歩でオルステッドに肉薄する。

 

「剣神流奥義『光返し』」

「ぐっ!?いっだぁ!」

 

 右腕が魂ごと切断された。

 叫びそうになるほど痛い。ギリギリと、いやズキズキか?

 わたしは魂に負担がかかると痛みを感じるのだろう。

 

 コイツ、やっぱり魂を捉えられるのか。

 何で腕を切断したんだ?と思い視線を落とすと、オルステッドの手に握られていたのはわたしの大剣。

 盗みやがって……

 腕を生やしながら歯軋りをした。

 そして叫んだ。

 

「みんな!隙を作って!」

 

 返事はない。

 しかし、了承されたことはみんなの目を見れば分かる。

 ルイジェルドさんが全力で槍を振るう。

 エリスさんが回り込んでオルステッドの隙を狙う。

 にいさまが泥沼でサポートする。

 

 拮抗状態は5秒間すら持たなかった。

 されど、その中でも確かに存在したオルステッドの隙。

 そこへ、全身全霊全ての魔力を術式に流し込み、掌を押し付けた。

 

 倒れ込み、霞む視界で見えたのは、薄くなってくツギハギと真っ白に染まったわたしの髪。

 そして、右腕が破裂したオルステッドの、驚愕の表情だった。

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