【完】ラーメンハンター×芹沢 〜エンジョイ念能力寿司バトル♠〜 作:みゅう(蒼山みゆう)
「最初は、グー!!!」
さらにオーラが膨れ上がった。会場を壊す気か?
いや、試験官が制止しないのならば問題ない。そもそも変態込みの能力者全員でかかっても止められるかさえ怪しいレベル。下剤男のように気絶していないならば、その素人たちは大したものだ。俺でさえ足の震えが止まらない。
皆の手が止まっている間にこそ、俺は料理に専念するべきだ。
どうせこんなオーラを出しながら作る寿司なんてキワモノに決まっている。限られた時間で頭を回せ。俺は気にしない、もう見ないぞ。
チャーシュー案は撤廃だ。それにさっきの試験官の握りで正解がほぼバレている。論外なものは試食対象外だったが、これからは違う。試験官の腹がいっぱいになるまでの時間勝負だ。
「ウマヅラナマズの“硬”寿司だよ」
「うん、頂くわね────こ、これは握り寿司にて、押し寿司の性質を持っている! 本来水っぽくてふわふわなはずの身をここまで極限に固めたことで旨味が圧縮されているわ」
「そ、そんなことできんのかよ?」
「でも、なってるんだねぇ……♡」
俺の耳が悪いのか? アホみたいなオーラで馬鹿力使ったんだろうが、なんで弾け飛ばずに固まる?!
「まるで馬肉ジャーキーとオカキ。身だけなら焼くなり揚げればカリカリに仕上がるけれど、シャリまでここまで固い食感なんて。これは新しいジャンルの芽吹きよ。
2人目────ノイズが耳に入る。
あんなキワモノ寿司ばかりが合格であってたまるか。正攻法で叩きのめすぞ俺は。
だが、俺だけ合格ハードルが上がっている以上、先ほどの改善点はすべて踏まえた料理であるべきだ。
「ちっ、ゴンさんやるじゃん。オレも負けてらんねぇ。ジェリーダブルピースロブスターのエレキ寿司だぜ。食べてみなよ。ピリッと来るぜ」
「ロブスターがEDMで踊る姿が脳裏に浮かぶわ。ベリーソフトシェルで丸ごと食べられる個体を選んだのもよし。微炭酸よりも少し強めな刺激も新しいわね。それに動かし続けることで身の死後硬直も防ぎつつ、酵素の活性が高まり柔軟化も加速されている。
「よっしゃ!」
3人目────えぇい耳障りだ。思考がまとまらん。
触感、旨味、香りなどを多重レイヤーで綿密に計算し、トータルバランスの取れた寿司による新しい発見。
俺に期待されているのはそれだ。他の受験生たちに求められている合格ライン──鮮度がよく珍しい素材、味を損なわない調理と握り寿司としての最低限の体裁、それを踏まえたうえでの何らかの革新性、とは絶対条件が異なっているはず。
「は、ハリマンボン、の、丸ごと寿司」
「論外、ドサクサに紛れてヤバい針差しすぎ。出直してきなさい。アンタは次やったら失格ね
ラーメンで培ってきた技術や知識を活かさなければ合格できないことを考えた上で自身の得意分野、繊細な味の積み重ねをベースにするべき。それもできれば魚介系だ。
これまで道中で見かけた素材や他の受験生たちが持っている素材から想定される組み合わせをノートに書きだす。未知への挑戦が必要とは言え、素材の入手をするにしてもある程度の方向性を考えてからでないと時間ロスが怖い。
「鮎の煮干し寿司だ」
「熟成ならともかく、鮮度の真逆を行ってどうすんのよ。この形、口に刺さるし論外。それにそもそもどうやって入手困難なNGL産の鮎煮干しなんてここに持ってきてんの。あのハゲじゃあるまいし」
聞くまいと思っていたが、聞き逃せない言葉があった。なぜ俺の会社くらいしか輸入許可を得ていないはずの堅物国家のNGL産鮎煮干しを持っているんだ?
ウチの系列以外で入手できるとすれば、俺のガッカリ能力”
「ハハハッ、すっげぇ顔してんなクラピカ。そんな干からびた魚がうまいわけないだろ」
流石に看過できない状況ゆえに、あの奇襲野郎を見る。
「いや、そんなことはないぞレオリオ。新鮮な方よりもこっちの方が美味いと私が思ったからだ。もう少し大きい個体はたまたま釣れたが、この方が旨味が詰まっている」
足元のバケツには別種の鮎がここにもいるのか────いや、それよりも鎖野郎の右足の爪先だ。こ、これはまさか……
「ピッコーン!」
両人差し指を空に向け、あのバカ弟子と同じポーズを敢えて取る。あぁ、閃いたぞ!
手を叩き、
「おい、
「ペテン師? なんのことだクラピカ?」
「……くっ」
言葉に詰まった。わかりやすく図星だな。
手段はわからんが俺を一時的に操作して生成させたあたりだろう。
本来なら色々むしり取ってやりたいところだが、そんな暇はない。
「試験を汚したとして試験官に訴えてもいいが、1つ正直に答えれば見逃してやる。その魚どこで手に入れた?」
◆
「くっ、ずいぶん無駄な時間を使ってしまった」
しばらくキッチンを離れている間、あのペースだとかなりの寿司を食っているだろう。健啖家と想定されるとはいえども、ブハラ試験官ほどではないはず。おそらく次がラストチャンス、それも早急に仕上げる必要がある。
だが料理人として試行錯誤による最適解のない勝負は論外と諭された。手数を増やすにはまともに"
「タイマーを俺自身にセット────3倍速だ」
今の俺は料理マシーンとなり、釣り上げた魚たちを無数のパターンで切り付けていく。料理人の常識として飾り包丁は多少心得ている。寄生虫がいないことや小骨がとりきれていることは確認が取れているが、口当たり・香り・旨味の広がり方について俺は明らかに知見が足りない。
だからここで体当たり的に数を試し、“
リミットはこのスープが出来上がるまで。こちらはぶっつけ本番の1発勝負。だがこちらは当の昔に数をこなしきった既知の領域。今は未知の領域に全力を傾ける。
よし、おそらくこれが最適解の切り付け。
知恵熱か──前頭部が心なしか火照る感覚がする。
先ほど採取してきたとっておきの隠し味についても、準備は怠りない。少量しか採取する暇がなかったので通常の形状には整えられなかったが、味のバランスを考えればこれで十分。
あとはシャリとの最適バランスを見つけるだけだ。口内を寿司で満たしては、ゆすいで次の寿司を試食していく。
「────よし。これだ」
生意気な小娘め。先ほどは俺のプライドをよくもまぁズタズタにしてくれたもんだ。指摘はまっとうだったが、それはそれ、これはこれ。
アマチュアラーメンハンターとしての俺の集大成であるこの寿司にて、もう一つ食べたいと懇願させてやる。
「うーん、だいぶんお腹いっぱいになってきたわね。まだ合格は3人だけよ。そろそろ新しい発見が欲しいもんね」
「ならばこれを食べてもらおうか」
明らかに合格の見込みのなさそうな者たちを押しのけて、前へ持ってくる。
「リベンジ待っていたわよ
「ちょっ、オレたちが先じゃ……」
順番抜かしを肯定した試験官に対してか、俺に対してかはわからんが、並んでいた不合格候補
「ふん、キミたちよりは俺の寿司の方が絶対合格に近いはず。さっきも俺の寿司から完成形にアタリをつけたのだろう? 俺の合否はともかく、試験官の反応は絶対に参考にできるからな俺を先にさせて損はさせんぞ?」
「レオリオ、遅かれ早かれ絶対合格するだろう情報を搾り取るべきだと私は考えるぞ」
「た、確かにな」
鎖野郎に諭され他の受験者たちも退いたところで、
「ベニタンサンアユの握りだ」
「そうよ。これこれ。NGLの鮎ほどじゃないにしても、炭酸性の湧き水でしか育たない変種。なんでこれ探さなかったと思ったけれど、流石鮎マニア早速見つけてきたわね」
予想通りの反応。
ここに生息していることは知識としては知っていたが、俺にとっての
「でも、なぜ2貫用意しているの?」
「ふふ、きっと2貫目を食べたいと言って頂けるからですよ」
いかんいかん。自然と口角が上がってしまう。堪えて平静な顔を保たねば。
「へーっ、言うじゃない。なら講評を始めようかしら、見た目は合格者含め誰よりも綺麗ね。飾り包丁で塗り醤油のシミをよくしつつ、寄生虫の可能性を徹底的に排除しているのは好印象だわ。そして、かなりシャリコマに寄せているわね。それにこの香り、昆布締めかしら」
「昆布締めか、それは負けフラグじゃないかな……」
黙れ、自制心の足らない豚め。ブハラ試験官が野暮なことをつぶやくが、メンチ試験官は気にせず口に入れる。
そして咀嚼するたびに顔が変わっていった。
最初は集中するために目をつぶっていて咀嚼していたが、目を見開いて口を止める。そして口の代わりに瞬きを数度。
あぁ、その顔が見たかった。
「鮎特有の繊細なスイカのような香りが最大限感じられるように、薄造りの二枚重ねにし、鮎の香りを殺さないギリギリラインで施された昆布の締め具合。そしてかなりしまった肉質でシャリとの一体感が悪くなるからシャリコマにして包み込みやすいようにしつつ、海苔を接着剤代わりに間に仕込んであるわ」
「海苔? メンチ、でも会場には海苔は用意していないはずじゃ? 昆布はセイリュウコンブを取って、どうにか乾燥させればいいけど」
いい反応をしてくれるじゃないか。試験官も気づいていないとは。まるでサスペンスドラマの推理披露シーンのような快感だな。これほど種明かしというものが心地よいとは。
「カワノリの亜種、正式な品種は知らんがこの鮎はこれをよく食っていたようだ。食欲を減ずる青色寄りだから流行らなかったと思うがな。だがこれがスイカに似た鮎独特の風味を補強しつつ────」
「グアニル酸を補強したのね。でも本来海苔に含まれるイノシン酸は微量、多少この海苔は通常より量が多い種類だったとしても、ほぼ唯一の供給源とも言われているシイタケほどの味は出せない。でもこの弱さと、通常の海苔より粗くて口に残りやすい故にこそ、この繊細な鮎寿司は成り立つ」
過去のライバルとの戦いで得た3種の旨味の複合スープ。それを寿司で再現したのがこの作品だ。普通はラーメンでも寿司でも2種まで。異なる3種の旨味の相乗効果。
「ご名答。鮎からイノシン酸、昆布からグルタミン酸、海苔からイノシン酸を引き出しているがどれも引き立て過ぎないギリギリ最低限のバランスで成立させ、鮎の本来の繊細な旨味を損なわないようにしている。もちろんシャリコマにすることでその甘みや酸味を成り立たせているのも計算済のこと。────先ほどのご指導のおかげだな」
もちろん醤油の扱いも工夫した。付ける量を相手に委ねず、こちらで先に塗ることで制御する。高級寿司店ほど刷毛で塗る店が多いのはきっとそういう理屈なのだろう。
「旨味と香りの理論だった複層化、少し硬めなシャリの握り方にさえ多少目を瞑れば最適な口当たりも実現している。流石ね、専門外の料理でもここまですぐに軌道修正してくるなんて。同じ料理人として感服したわ。では……」
まだ言わせんぞ。右手を突き出し、その言葉を差し止める。
ただ合格だなんてのは俺は望んではいない。
「ちょっと待ってください。口にこの寿司の香りが残ったままでは次から正確な審査をできないでしょう。特製のお茶を入れたのでこちらもどうぞ」
清流房の名の刻まれた湯呑に、熱めのお茶を注いで渡す。
「それじゃもらおうかしら……」
そして受け取った試験官が素直に飲もうとしたとき、急にその眉間が険しくなる。
いい鼻をしている。もう気づいたか。
「この香りに、この温度。や、やってくれたわね。このハゲーっ!」
俺は決してマゾではないが、悪態さえも屈服の証だと思えばサウナ後の水風呂のような清涼剤。
試験官はぐっとそれを飲み込んだあと、大酒飲みの親父のごとく「くーっ」っと声を漏らした。
そして、狙い通り2貫目の寿司を口にする。
「ベニタンサンアユを香ばしく焼くことにより、煮干し以上に香りを引き立て、香味野菜を使った濃厚な出汁入りのスープを混ぜてあるわ。ほんのりと口に残っていた寿司の香りと混ざり合ったあの瞬間は、まさに旨味のオーケストラね。でもそれはお茶に流されて一瞬で終わってしまった……」
いいぞ。一瞬固く口を結んでから、苦しい吐息と共に言葉を吐き出す試験官。
「でもここにもう1貫があるなら、弱い寿司の旨味の後ではなく、強い出汁の旨味の後に繊細な寿司をもう一度食べれば」
そうだ。そうだ。お前の舌を信じていた。
先ほどはあまり信頼していなかったがゆえに馬鹿でもわかりやすい飛び道具として豚骨スープとチャーシューを出したが、今回はそうではない。舌が洗練されているほどにハマる香りと旨味のループ。
一瞬で過ぎ去る旨味のピークを感じ取ったがゆえに欲するその気持ち、それを待っていた!
「どうぞ。今、この瞬間が食べごろですよ」
「た、食べるわよ。これを食べなくて寿司ハンターは名乗れないわ……うーっ!」
先ほど客候補たちの前で散々恥をかかせてくれたな。
あぁ、完膚なきまでの復讐。これほど気分爽快、ストレス解消、自己の尊厳を回復させるものはないな。ロウリュや冷凍ジョッキの生ビールにも勝る快感だ。
そして寿司がほんの少し口に残っているときに再び最適量のお茶を少量だけ口にすれば────
「鮎寿司と専用の出汁によるマリアージュ。三度の快感による中毒性。これなら2貫目は多少の握りの硬さもほとんど気にならない、むしろ出汁茶漬けには最適。そして熱で身が変質し、ホロホロとほぐれやすく、出汁の清流で泳ぎやすくするための薄造り。なんてものを作ってくれたのよ。このハゲっ!」
「───で、美味しかったですか?」
「美味しかったわよ。ここ半年で最高の発見だわ。合格よっ、
「それは良かった」
頬を赤らめ、反目する気持ちと正直な舌との間で気持ちがぶれたのだろう、目尻には若干の涙。
よくわかってくれたらしい良い顔だ。
だがまだ俺の復讐は終わっていない。
「さ、流石だな294番。私が真っ先に目を付けただけある。ドロイルカのミンチ寿司だ。食べてくれ試験官!」
意気揚々と次の受験者が出そうとするが、そうか。このタイミングで
2貫目に加え、お茶も本来口を濯ぐのに必要なペース以上に飲んでしまっている。
『ようやく満たされた』気持ちと、『これ以上のものは出てこない』という理性、そしてお茶漬け文化がもたらす特有の習慣が
俺の計算によればそろそろ────
「
これが〆の料理になったというわけだ。
「残念だったね。料理を見てキミたちも腹が減っただろう。ぜひこれを食べていくがいい……何、これは気にしなくていい。何しろ未来のお客様たちだからね」
読んで頂きありがとうございました!
ぜひ感想頂けるとすごく嬉しいです。
■その後
原作通り会長による救済措置で他のキャラも追加合格。芹沢は最終試験でクラピカから
■オリジナル念能力について
知恵熱=毛根の死滅です。
■設定について
本来はクラピカ主人公の食戟ものでした。お遊び要素多めで念能力寿司に寄せるつもりで、バーボンとクラピカとポンズ、レオリオも案を作ってたけど蛇足かなと御蔵入り。
■料理について
本当は普通に1貫目で勝つつもりが、真面目に料理考えたら2貫目とか出してました。師匠要素は児島風味メンチで出したので割愛し、ギャグと割り切ってダーティに寄せました。
■オリジナル念能力杯について
拙作は異色かつオリジナル念能力がなくても成り立つような話ではありましたが、久々の執筆で楽しかったです。タグから他の力作も是非読んでください!