結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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紛争地帯の漆黒 前編

       【水無月 昼前】

  

       [烏森 墨村家]

 

「え~と、すみません・・・・・・余計なことを聞いて

 しまって」

「いや、事実だから気にしなくていい」

 

 正守さんは小さく咳払いをすると、気持ちを切

り替えるように俺へ視線を向けた。

 

「それより、今後の対応をどうするか決めよう」

  

 正守さんの言葉で、全員が頷くと、俺は、ふと

疑問を口に出した。

 

「あの〜。そういえば、良守さんは、なぜ居ない

 んですか?」

 

 すると、繁守さんはわずかに眉をひそめ、気ま

ずそうに咳払いをした。

 

「・・・・・・良守は、今回の会議には参加させぬ」

「えっ!? どうしてですか?」

 

 思いがけない答えに、俺は目を丸くする。

 繁守さんは、しばらく黙り込んだあと、重々し

く口を開いた。

 

「・・・・・・高木くん。君も良守に会ったことがある

 はず。だから、なんとなく、あいつの人柄はわ

 かるじゃろ?」

「・・・・・・人柄?」

 

 繁守さんは目元を押さえながら、深いため息を

ついた。

 

「・・・・・・あいつはな」

「はい」

「・・・・・・こういう場に出すと、話をややこしくす

 るんじゃ」

「・・・・・・・・・・・・え~と、あのそれ、どういう意味

 ですか?」

「あれは一度暴れ始めると、周囲の話など聞かな

 くなるからの」

「えっ?そ、それって・・・・・・・・・」

 

 高木くんが恐る恐る尋ねると、繁守さんはさら

に深いため息をついた。

 

「簡単に言えば・・・・・・良守は、暴走キャラじゃ」

「やっぱり、そういう人だったんですか!?」

「うむ」

 

 繁守さんは、なぜか妙にきっぱりと頷いた。 

 

「だから今回は、余計な混乱を避けるためにも、

 儂らだけで話を進める」

「なるほど・・・・・・」

 

 高木くんは納得したような、それでいて少し複

雑そうな表情を浮かべた。

 

「後であいつに話すにしても、もっと詳しく調べ

 てからにした方がいいのじゃ」

「・・・・・・もし、今の段階で話した場合、どうなる

 のですか?」

 

 俺の問いに、繁守さんをは額を押さえた。

 

「利守を助けに行くと叫び、次元ゲートを無理や

 り開けるはずじゃ・・・・・・」

 

 俺は「まさか」と言いたげな表情で、良守さん

の関係全員の顔を見渡した。

 すると、苦笑を浮かべながら頷いている。

 

「・・・・・・あの人、とんでもない人なんですね」

「ああ、昔からな」 

「わかりました。良守さんには、今回の一件に関

 して、むやみに話しません」

「ありがとう、助かるよ」

 

 正守さんは大きく咳払いをすると、一同を見渡

した。

 そして、静かに口を開いた。

 

「では、この一件については、夜行が対応する」

 

 その言葉に、その場にいた全員が頷いた。

 

「あの~・・・・・・正守さん」

 

 俺は、一つ頼み事を言った。

 

「なんだい、高木くん」

「いや~、その・・・・・・行方不明になった三人の家

 族への説明も、お願いできますか?」

「親御さんへの説明か・・・・・・・・・」

 

 正守さんは、少し考え込む。

 今回の件は、簡単に説明できるような内容では

ない。

 しかし、三人の家族に何も伝えないわけにもい

かないだろう。

 

「そうだな。それも俺に任せてくれ」

「はい。お願いします」

 

 高木くんは、ホッとしたように頷いた。

 すると、繁守さんが重々しく口を開く。

 

「正守、余計なことは話すな。何せ、まだ分かっ

 ておらぬことが多すぎる」

「分かっています」

 

 正守さんも頷き、今後の方針を口にする。

 

「まずは事実だけを伝えます。三人が超常的な現

 象によって行方不明になっていること。

 そして現在、墨村と雪村が協力して捜索と調査

 を進めていることをな」

「うむ、頼んだぞ」

 

 こうして、今後の対応について、少しずつ方針

が固まっていった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜         

     【甲龍暦412年 昼前】 

 

    [中央大陸南部 赤龍の下顎山脈] 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・なぜこうなった?」

 

 僕は目の前の光景に頭を抱えた。

 僕たちが森を抜けた先に広がっていた草原には

数千人規模の大部隊が戦列を整えていた。

 

 ――数時間前。

 

 僕が朝日で目を覚ますと、ギレーヌさんと黒木

くんが夜通し見張りを続けてくれていた。

 

 フィリップさんたちも目を覚ますと、ギレーヌ

さんは「三十分ほど仮眠を取る」と言い、壁に背

を預けて眠りについた。

 黒木くんも荷車の中で横になった。

 

 僕は非常食用の乾パンとインスタントスープを

用意し、フィリップさんとヒルダさん、それから

昨日助けた二人にも配った。

 

「なんだい、これは? ビスケットみたいだけど

 ・・・・・・・・・美味い!」

「そうね。このスープも、料理長が作るものより

 美味しいわ」

「本当だ。美味い!」

「本当に美味しい」

「気に入ってもらえてよかったです」

 

 全員が食事を終えるのを見届けた僕は、今後の

ことを考えた。

 当面の目的は、紛争地帯から脱出することだ。

 しかし、フィリップさんたちと同じように強制

転移させられた人々を助けながら目的地へ向かう

となると、現在の方法では限界がある。

 それに、僕たちだけで何人もの人々を守りなが

ら進むのは、決して容易なことではない。

 何か別の方法を考えなければならなかった。

 

 僕が二人に視線を向けると、金髪のエルフの男

性は、ハッとしたように頭を下げた。

 

「そういえば、まだ名乗っていませんでしたな。

 助けていただいたうえに、礼も遅れてしまい申

 し訳ありません」

 

 男性は胸に手を当て、深々と一礼する。

 

「私はロールズと申します。そして、こちらは妻

 のサーシェです」

 

 そう紹介されると、隣にいた灰色の獣人の女性

も、小さく頭を下げた。 

 

「サーシェです。このたびは、夫婦ともども命を

 救っていただき、本当にありがとうございまし

 た」

 

 二人の真摯な感謝の言葉に、僕は軽く首を振る

 

「気にしないでください。困っている人を助ける

 のは当然ですから」

 

 すると、ロールズさんは少し驚いたように目を

見開き、やがて穏やかな笑みを浮かべた。

 

「あなたは、不思議なお方ですな。このような状 

 況では、自分の身を守るだけでも精一杯だとい

 うのに・・・・・・」

 

 その言葉を聞きながら、僕は改めて考える。

 紛争地帯を抜けるだけなら、僕一人でも何とか

なるかもしれない。

 だが、救える人々を見捨てず進むのなら、今の

やり方では限界がある。

 

 もっと多くの人を安全に導く方法を、考えなけ

ればならないと。

 

「その通り、彼は勇敢な男だよ」

「「フィリップ様!?」」

 

 ロールズ夫妻は、驚いたように顔を上げると

深々と頭を下げた。

 

「まさか、このようなところで領主様にお会いで

 きるとは、光栄の極みです」

 

 ロールズさんがそう告げると、フィリップさん

は苦笑を浮かべた。

 

「すまない。今の僕は・・・・・・何の力もない。

 無力な男だよ」

「落ち込まないで下さい、フィリップさん」

「トショくん」

「今回の転移は、フィリップさんのせいではなく

 第三者によるものです」

 

 僕がそう告げると、フィリップさんは驚いたよ

うに目を見開いた。

 

「第三者・・・・・・・・・?」

「はい。僕たちが自分の意思で転移したわけでは

 ありません」

「だが・・・・・・・・・転移魔法は、とうの昔に失われ

 たはずだ」

「失われた?それは、どうしてなんですか?」

 

 僕が尋ねると、フィリップさんは少し考え込む

ように眉を寄せた。

 

「僕も詳しいことまでは知らない。ただ、転移魔

 法は、それを専門とする魔法使いの家系が代々

 口伝によって受け継がれていたらしい」

「口伝・・・・・・ですか?」

「ああ。だから、もともと使える者が少なかった

 うえ、術式そのものも複雑だったそうだ。

 長い年月の中で、少しずつ知識が失われていっ

 たんだよ」

 

 フィリップさんは、静かに息を吐く。

 

「そして、いつしか転移魔法を使える者も、正確

 な術式を知る者もいなくなった。

 そうして、失われた魔法になったと聞いている

 よ」

「なるほど・・・・・・」

 

 僕は十字路で感じた、あの不気味な残留思念を

思い出す。

 もし本当に転移魔法が失われているのなら――

 

「それなら、今回の転移を起こした者は・・・・・・」

「少なくとも、普通の魔術師ではないだろうな」

 

 フィリップさんは、険しい表情でそう答えた。

 僕は少し考えた後、太陽へ視線を向ける。 

 

「その話をここでしても意味がありません。それ

 より、赤龍の下顎山脈からフィットア領へ向か

 うことが先決です」

「ああ、そうだね」

 

 僕の言葉に、ロールズさんたちは驚いたように

顔を見合わせた。

 

「赤龍の下顎山脈!? それじゃあ、ここは紛争

 地帯なんですか!?」

「え? そうですけど」

 

 僕が何気なく頷くと、ロールズさんは愕然とし

た表情を浮かべた。

 

「バ、バカな!? いくら転移魔法で飛ばされた

 からって、そんな遠くに!?」

「僕も、この辺りを縄張りにしている傭兵たちに

 捕らえられたんだよ。

 そして、自分の名を告げた途端、全員に嘲笑さ

 れたんだ」

「え? フィリップ様が!?」

「その後、現在地を告げられたときは、呆然自失

 したよ」

 

 ロールズさんたちは、もはや言葉を失っていた

 当然だよな。

 

 冷静になって考えれば、どれほどの大災害に巻

き込まれたのか、誰にでも分かる。

 

「ともかく、そろそろ出発しましょう」

 

 僕が促すと、フィリップさんも頷いた。

 

「そうだね。まずは、この紛争地帯を抜け出さな

 いと」

 

 僕たちは出発の準備を始めた。  

 その最中、ふと疑問が浮かび、僕は口を開いた

 

「そういえば、ロールズさんは、パウロって人と

 知り合いなんですか? 

 ギレーヌさんは、その名前を聞いた途端、あな

 たたちに気を許しましたよね?」

「えっ? ああ。パウロは、ボクの村の駐在騎士

 なんだ」

「ギレーヌさんが言っていたブエナ村ですか?」

「そうそう、それとボクの母と冒険者パーティー

 を組んでいたらしいんだ」

「へぇ~」

 

 冒険者パーティー、か。  

 さすが、剣と魔法の世界だな。  

 ライトノベルやゲームでお馴染みの設定が、

当たり前のように存在している。 

 

「それに、あいつの息子とうちの娘は仲がいいか

 らね」

 

 その言葉に、フィリップさんは目を丸くした。

 

「ほう。なら、君の娘か?ルディが故郷に残して

 きた幼馴染は」

「えっ? あ! そうか。ルディはボレアス家の

 家庭教師でしたね」

「・・・・・・・・・家庭教師?」

 

 フィリップさんとロールズさんは、顔を見合わ

せた。

 

「ああ、トショくん。君は知らないよね。パウロ

 には息子がいてね。

 名前はルーデウス・グレイラット。優秀な子な

 んだ」

「そうなんですよね。ルディは、まだ幼いんです

 が、とんでもない天才なんですよ。

 だから、フィリップ様がお嬢様の家庭教師とし

 て雇ったんですね」

「ウンウン、うちの野獣を見事に貴婦人へと変貌

 させたよ」

「うちの娘もルディと出会ってから、変わりまし

 た」

 

 なんか、娘自慢大会に始めたよ。

 

「え~と・・・・・・そのルーデウスは、いくつなんで

 すか?」

 

 フィリップさんは、どこか自慢げな表情を浮か

べた。

 

「ルディは九歳だ」

「き、九歳!?」

 

 僕は、その年齢を聞いて驚愕した。

 九歳で家庭教師をしているのか?

 僕の世界でも、飛び抜けて優秀な子どもはいる

 けれど・・・・・・・・・。

 こちらの世界では、それほど珍しいことではな

いのだろうか。

 すると、ロールズさんが得意げに語り始めた。

 

「そうなんですよ。まだ九歳だというのに、魔術

 の才能は――」

「それだけじゃないぞ。ルディは――」

「おっと、フィリップ様。そこから先は――」

 

 今度は、『私の義理の息子はすごい』という自

慢話大会が始まってしまった。

 

「そのルーデウスなんだが・・・・・・」

 

 突然、目を覚ましたギレーヌさんが声をかけて

きた。

 

「ギレーヌ、まだ寝ていていいよ」

 

 フィリップさんの言葉に、ギレーヌさんは首を

横に振った。

 

「そういうわけにはいかん。ここを一刻も早く抜

 け出さねばならん」

「そうかい。ところでギレーヌ・・・・・・ルーデウス

 がどうしたんだい?」

「うむ。もし無事ならば、お嬢様と一緒にいるは

 ずだ」

 

 その言葉を聞き、フィリップさんとヒルダさん

は、ギレーヌさんの両肩を掴んだ。

 

「それは本当かい、ギレーヌ?」

「あの赤い玉が輝き出した瞬間、私は一人、お嬢

 様はルディに抱きついていた」

「あ! そういえば、ギレーヌ。あなたはルーデ

 ウスとエリスの三人で、空に浮かぶ赤い玉を見

 るため、草原へ出かけていたわね」

 

 ヒルダさんの言葉に、僕は引っかかった。

 

「空に浮かぶ赤い玉?」

「実は数年前から、領都の上空に突然現れたもの

 なんだ。

 何人もの優秀な魔法使いを雇って調べさせたが

 正体すら掴めなかったんだよ」

 

 フィリップさんが赤い玉の説明し終えると、僕

は考え込んだ。

 

「・・・・・・その赤い玉は、魔力を発していなかった

んですか?」

「いや。数年間、空に浮かんでいただけで、その

 間は魔力を少しも発していなかった」

「ギレーヌさん、どうしてそれを知っているんで

 すか?」

「私は生まれつき、右眼が魔眼なんだ」

「魔眼?」

「魔大陸には、特殊な力を持って生まれる者がい

 る。その一つが魔眼だ」

 

 ギレーヌさんは右眼を覆っていた眼帯を外し、

輝く瞳を見せた。

 

「ただ、私の場合、魔眼を制御できないから、普

 段から眼帯で隠していなければならないがな」

 

 ギレーヌさんは眼帯を元に戻すと、僕は赤い玉

が強制転移の原因ではないかと考えた。

 

「ギレーヌさんの言う通りならば、赤い玉には魔

 力のかけらもなかったと」

「そういうことだ」   

「・・・・・・だが、昨日の昼に、赤い玉は魔力を暴走

 させ、強制転移を発生させた?」

「ああ、もうわけがわからん」

 

 ギレーヌさんは、苛立たしげに歯ぎしりをした

 

「そして、あの光のせいで、私だけがこの紛争地

 帯に飛ばされた」

 

 ギレーヌさんの言葉を聞き、フィリップさんは

額に手を当てて考え込んだ。

 

「なら、エリスはルーデウスと一緒に、どこかへ

 飛ばされたということか?」

「その可能性が高い」 

 

 フィリップさんたちは、うーんと唸りながら頭

を抱えた。

 

「・・・・・・失礼ですが、ここでフィリップさんたち

 が自分の子どもたちのことを考えても、仕方が

 ないと思います」

「・・・・・・トショくん」

「今やるべきことは、あなたたちが故郷へ帰るこ

 とです」

 

 僕の言葉に、フィリップさんたちは頷いた。

 

「それでは、出発しましょう」

 

 こうして僕たちは、森の中を歩き始めた。

 やがて森を抜け、草原へ出ると――。

 そこには、何万もの兵士たちが戦列を組んだ

大部隊が待ち構えていた。

 

ーto be continuedー

 

 

 

 




次回 トショの本気
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