いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
最終話 時計仕掛けのオレンジ。
スメラギは、強かった。
最初の一撃だけで、それが分かった。
セフィアさんが、正面から受け止めようとした……が、強引に弾き飛ばされた。
あまたのエインヘリヤルを秒殺した世界最強の超人が、まともに攻撃を捌けていない。
それでも、セフィアさんは立ち上がり続けた。
無言で、無表情で、何度でも。
蝉原は、その横で、アベルに指示を出した。
「アベル! 極・異次元砲!!」
「にゃああああ!!」
神器で強化されたアベルの口から、これまでとは比べ物にならない光の奔流が放たれる。
神界の空気が、砲撃の余波で震えた。
スメラギは、それを片手で払う。
「……ノーダメか……思ったよりは強いらしいな」
そこで、蝉原は魔力を練り上げて、
「イビルノイズ・カンファレンスコール」
周囲に、無数の黒い球が出現した。
それぞれの球から、不規則なレーザーが迸り、スメラギの全身を同時に照射する。
スメラギの衣の端が、黒く焦げる。
「質の低い魔法ばかりだな」
吐き捨てたスメラギに、蝉原は、
「目くらましくらいにはなれた……と自負しているけれどね」
そう言った直後、セフィアさんが、周囲に飛び散った魔力を回収していく。
事前の打ち合わせ通り。
蝉原とアベルが放った魔力を吸収してもらうプラン。
みるみる底上げされていくセフィアさん。
目もバッキバキになっている。
そのまま、勢いよく、全ての魔力とオーラを込めた一撃を、スメラギに向かって放った。
けれど、
「ふんっ」
スメラギは鼻で笑いながら回避すると同時、鋭い回し蹴りでセフィアさんを吹っ飛ばす。
「私の人形でありながら、権限をあっさり奪われるとは。……消えろ、虫けら」
スメラギの手のひらに、光が集まっていく。
アベルの異次元砲と同じ性質の光。
しかし、神が放てば威力が桁違いなのは明らか。
あれをまともに受ければ、セフィアさんは跡形もなく消し飛ぶ。
光が放たれるより速く、蝉原が動いた。
セフィアさんをお姫様抱っこで抱え上げ、一気に後退する。
光の奔流は、二人がいた場所を焼き払った。
「……流石に、コスモゾーン相手だと、セフィアは使いものにならないか」
そう言いながら、蝉原は、神界の白い地面にセフィアさんをそっと寝かせた。
「仕方ない」
蝉原は、立ち上がりながら、スメラギを見た。
「ここからはタイマンといこうか。裏をかかないまっすぐな殴り合いは不得手だが……」
「ふん」
そこで、スメラギは、静かに胸の前で手を合わせた。
「貴様とのお遊びはもう飽きた。……神の高みを知るがいい。我が究極の力を前に震えるがいい」
祈りではなかった。
心を整えているだけ。
「――神化」
次の瞬間、スメラギの全身から、光が爆発した。
神気が溢れ出す。
地面が、足元から波紋状に砕けていく。
神界の空気が、別の色に染まっていく。
(蝉原……な、なんかやばくない? 異常なほどのエネルギー量……)
具体的な数値は分からない。
けど、大きいか小さいかくらいは分かる。
電球と太陽、どっちが力強いかくらい、虫でも分かる。
蝉原は、その光を正面から浴びながら、ニっと笑い、
「使ったな」
「……あ?」
「俺はこの世界に降臨する前、自分自身に多くの縛りをかけた」
蝉原は、静かに言った。
「神化しない者には神の力を行使しない……というのも、その制限の一つ」
「……」
「魅せてやろう」
蝉原は、胸の前で、手を合わせた。
「悪神セミハラユーゴの……真の姿……その一端を」
心を整えていく。
蝉原の全てが、驚くほど静かに、そして静かなままで沸騰していくのを感じた。
熱くなっているのに、冷えている。
沸騰しているのに、凪いでいる。
矛盾した感覚が、全身を満たしていく。
「――究極超神化――」
音が、消えた。
光も、一瞬、この世から消えた。
神界の全てが、静止したように見えた。
次の瞬間、蝉原の全身から、黒い炎のようなものが溢れ出した。
神器が、限界を超えて輝きだす。
アベルが、蝉原の肩の上で、全身の毛を逆立てながら、
「にゃ……あ……」
と、小さく震えた。
――スメラギは、その光景を見て、後退した。
一歩……いや、数歩。
ただただ恐怖のままに距離をとる。
唯一神とは思えない無様な姿。
「ば……ばかな……」
その声は、初めて、揺れていた。
絶対者然としていたのに。
すべてが、あっけなく崩れ落ちた。
「なんだ……その強さは……」
その問いに、蝉原はいつもの笑みを浮かべながら、一歩、前に踏み出した。
「心に刻め、コスモゾーン・スメラギ・ゼントーカ……この俺が貴様ごときに震えることなどありえない。本物の英雄神と比べれば、貴様など虫と変わらない」
遥かなる高みから、
蝉原は、
「アリを殺さずに踏むのは苦手なんだ。……頼むから、死んでくれるなよ」
言い終わるより早く、蝉原の姿が消えた。
次の瞬間には、もうスメラギの懐にいた。
「殺神覇龍拳」
静かな声だった。
それに似合わない、途方もない速度のアッパーが、スメラギの顎を真下から打ち抜く。
スメラギの身体が、神界の空へ、まっすぐに吹き飛んだ。
遠ざかっていく。
どんどん小さくなっていく。
やがて、見えなくなった。
――しばらく、静かだった。
1分ほどたった頃、遠くから何かが落ちてくる気配がした。
どしん、と、重い音。
白い地面に、スメラギが激突していた。
ぴくぴくしている。
死にかけのスメラギを見下ろしながら、
蝉原は、僕に、
「皇……こいつの全てを奪い取れ」
そう命じられた直後、肉体の主導権が僕に戻った。
「……おっけー」
そう言いながら、僕はスメラギの身体に手をあてる。
「僕という脆弱な部分を切り捨てた……か。それにしては、めちゃくちゃ弱かったな、お前……」
そこで、首を振って、
「違うか……蝉原が強すぎただけだ。僕らごときが蝉原に勝てるわけがない」
そうつぶやいてから、僕は、スメラギの体を自分の中へと取り込んでいく。
具体的なやり方は理解していない
けど、なんとなく『こうすればいい』というのが、自然と分かった。
まるで、ずっと忘れていた何かを、思い出すみたいに。
スメラギの身体が光の粒子になって、僕の中へと溶けていく。
温かくもなく、冷たくもない。
ただ、静かに、満ちていく感覚だった。
蝉原が、僕の中から、
(君は誰だい?)
と、尋ねてきた。
僕は、その問いを飲み込んで、咀嚼して、
――そして、
「……僕の名は……コスモゾーン・スメラギ・ゼントーカ……この世界の神だ……」
(完璧に治ったね)
「え……ああ、うん……うん? こ、これは、治ったっていうのかな……戻ったの方が……いや、厳密には、戻ったとも違うような……」
(……『時計仕掛けのオレンジ』すら見ていないとはね、まったく、イヤになるね……)
「もしかして、映画のセリフかなんかだったの? やめてよ。僕に、その手のネタを振るの」
ため息交じりにそう言ってから、僕は空を眺めた。
七色の光が次々にまたたく。
深呼吸をして、自分の肉体を確かめる。
明確に質量が増している。
手のひらを開いて、握って、また開く。
指の一本一本に、以前とは違う力が宿っているのを感じた。
しかし、僕は僕のままだ。
僕は、ここからどうしたいか考えてみる。
どんなに考えても、答えはたった一つだけ。
だから、
僕は、片膝をついて、自分の手の甲にキスをしながら、
「……ともになってください、ゴッドファーザー」
蝉原に、そう懇願した。
蝉原は、
(もちろんだ、ともよ)
と、受け入れてくれてから、
(……ようやくだよ、センくん……これで、俺もコスモブラッドになれた……)
「センくん?」
(俺の目標。全世界最強の英雄神センエース。彼を殺すことだけが俺の全て。しかし、これが難しい)
「君ならできる。君は最強だ。センエースを殺すことがその証明になるというなら、僕はなんでも協力する」
(ふふ……)
蝉原は不敵に微笑んだ。
そこにどんな感情が含まれているかはわからない。
けど、確信できた。
ここから、とても長い旅になる。
僕は最後まで蝉原についていく。
彼が最強だと証明するために。
END
ここまで読んでくださって心から感謝します!
なんとか、描きたかったところまでは描き切れたかな、と思っております!
少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです!
本当に、本当にありがとうございました!
だいぶ込み入った続編である、新作「センエース(クラス転移に巻き込まれなかった教師は首になるが、『タイムリープできる権利:100万円』を得る」を今日(2026/8/19)から連載開始しておりますですので、もし、よろしければ、そちらの方も見ていただけたら幸いです!
この後の蝉原とセンエースが同居する話です。
「蝉原勇吾は怖すぎる」を楽しんでいただけたのであれば、新作の方も楽しんでいただけると思います。
リンクを貼っておきますので、よろしければチラ見だけでも<m(__)m>
https://syosetu.org/novel/423517/