「う、うらやましい〜〜〜〜」
清継くん……顔が怖いよ……。気持ちは想像出来るけどさ。
いつものように私は清継くんの強引な誘いにより清十字怪奇探偵団の会議に参加していた。
そこでゆらちゃんと顔を合わせると彼女は改めて私に謝罪をしてきた。私がその謝罪に対して気にしていない、謝罪を受け入れるといったやり取りをしていると──清継くんの好奇心を刺激してしまい、なぜ私の呼び方が「花開院さん」から「ゆらちゃん」に変わったのか、どうしてゆらちゃんが私に謝罪しているのか説明するように求められた。
私は一瞬、
ありがとうゆらちゃん! 別に道具自体は教えることはできるけど、清継くんに教えたらどうなるか分からないもんね! 今以上に無茶をしそうだし!!
「いや、全然羨ましくなんてないよ……すっごく怖かったんだから!」
「だけど……だけど……ッ! ちきしょう! なんで君らだけ!! ボクも一番街に行けばよかった!!」
「き、清継くん……」
ほら〜、島くんもドン引きしているじゃない。危ない目なんて会わない方がいいんだから!
私たちの昨夜の出来事を聞いて今にも地団駄を踏みそうな清継くんの様子に私たちは呆れるしかなかった。清継くんの主さんに対しての気持ちはここ一ヶ月でよく伝わってきているけどさ……。
「だがしかぁーしっ! 君らがピンチだからこそ彼は現れた!! それでこそボクの憧れる夜の帝王!! 妖怪の主なんだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
数年振りの憧れの人の情報を得た清継くんはそれはもうフィーバー状態に入っていた。その後、何やら不穏な表情で何かをブツブツと言っているみたいだけど……私は清継くんの言葉をよく聞こうとせず、眠気に従って机の上に突っ伏していく。
時間だけ考えたら旧鼠に捕えられてから明け方ぐらいまで気を失っていたんだから、眠っていたと言ってもいいんだけど……寝床があの硬いケージの上だったからよく休んでいた気にならないのよね。後、フツーに緊張状態だったし。
「はぁ……眠い……」
「大丈夫? 昼休みも寝ていたみたいだけど」
「ん……実は寝ずに学校に来ちゃったから眠くて眠くて……」
「あちゃー……じゃあ寝とく?」
「んー……」
鳥居さんと巻さんの言葉に甘えるように返事をして目を閉じる。
実は昼休みの時もあまり寝れなかったのよね。視線が痛すぎて。
「あ!! こら寝るな! もっと話を聞かせろ! ったく、貴重な時間を……!
清継くん……よくそんなマイナー妖怪を知っているね……。
うつらうつらと船を漕ぎながら考えていると、清継くんは何かに気がついたのか言葉をそこで止めていた。
「なんか……今日は人が足りなくないか?」
「え? そう……?」
「いや〜、こんなもんでしょ? 清十字団って元々少ないし……」
「ん〜、みんな……どうしたの?」
何か欠けているものを探すようにキョロキョロとしだした皆の様子を肌で感じ取った私は寝ぼけ眼のまま顔を上げる。
「リクオくんなら今日、風邪でお休みだよ」
◆◆ ◆◆ ◆◆
私がリクオくんが風邪で休みだと伝えると──清十字団のメンバーは本当に気がついていなかったらしく大きな声が教室に響いた!
皆……本当にリクオくんの存在を忘れていたのかな? それとも傍にいることが当たり前すぎで気が付かなかったのかな。……そういえば、お昼休みの時もリクオくんが休みだって気付かず探している子がいた気がする……。
メンバーのリクオくんの扱いに対して不審に思っていると及川さんは何やら焦った様子でいの一番に教室から出ていき、それを見た清継くんはリクオくんのお見舞いに行こうと提案してきたのだ。
リクオくんの家に興味があった巻さんと鳥居さんは賛成し、私とゆらちゃんは大勢で押しかけるのは失礼になるんじゃないかと辞退しようとしたけど……伝えたいことがあるから是非一緒に来てくれと頼まれてしまったため、一緒に行くことにした。
ちなみにゆらちゃんは修行を行うといってお見舞いを断っていた。ゆらちゃんがこの街に来たのは修行のためだと知っている清継くんはゆらちゃんに無理強いをすることはなかったよ。
メンバーが決まり、荷物をまとめてリクオくんの家に行こうとする清十字団メンバー。私は鳥居さんに勧められて学校を出る前に顔を洗った。
──大丈夫、だよね? 疲れた顔はしていないよね? クマとか……ない、よね?
リクオくんに心配を掛けたくない一心で鏡に映った自分の顔と睨めっこをしていたけど、化粧道具を持ち歩いていないため素の状態で行くしかないと私は腹を括った。その後、校門の前で待たせているみんなに合流してリクオくんの家の前に到着し──備え付けのインターホンを押した。
『は〜い、どちら様ですか〜?』
「りく……
『!? わ、若のお友達……!? ちょ、ちょっと待っててくださいな〜』
インターホン越しに少し慌てた様子の女の人の声が聞こえ、通話が途切れた状態になった。
代表で私の名前しか出さなかったけど……リクオくんの具合が悪かったら皆をなんとか説得して帰らせよう。病人に無茶をさせるものじゃないし。
「はえ〜、これが奴良ん家か……」
「おっきー……小学校の頃から見ていたけど、近くに来ると圧巻だね」
初めてリクオくんの家にきた巻さんと鳥居さんは感心したように感想を述べていた。そのままインターホンに出た女の人を待っている間に妖怪トークとか雑談をしていた私たち。インターホンを鳴らして、しばらくすると──門が開いて、昨日見た長髪ポニーテールのお姉さんが出てきた!
「えと……家長さんと若のお友達の皆さん、大変お待たせして申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ急に押しかけてきてごめんなさい」
「いえいえとんでもありません。若のお見舞いなんて何せ初めてなもんで……」
お姉さんは少し苦笑しながら会話を続ける。
それにしてもリクオくん、家ではお手伝いさんに若って呼ばれているんだね。そりゃこの広いお屋敷に住んでいるんだから、なんら不思議じゃない気がするけど…………待って? そういえば及川さんもリクオくんのことを若って呼んでいたような……? 家が同じ方向でお弁当を渡す仲……更に学校で若って呼んでいた理由って……。
まさか及川さんって、このお姉さんと同じお手伝いさんの立場ってこと……?
「それで、ですね。若のご友人を通しても良いかとお尋ねしたところ、容体も安定しているみたいなのでお見舞いは大丈夫です。ただ……」
「ただ?」
お姉さんのリクオくんの呼び方から変な連想ゲームが始まっていた私の横で、清継くんがお姉さんの言葉を促す。お姉さんは周りをキョロキョロしてから私たちに向かって手招きをした。その手招きに素直に従ってお姉さんの近くに行くと、お姉さんは私たちに少し顔を近づけて小声で言う。
「実は今、この屋敷の主人──若のお爺様にたくさんのお客様がいらっしゃいましてね? 気難しい方が中にはたくさんいらっしゃるので……」
「分かりました! 迷惑にならないように静かにします!!」
お姉さんの言いたいことを理解したらしい清継くんが元気よく宣言し、私たちはそれに続くように頷いた。
リクオくんのおじいさん、人気者なんだね。大きな家だし、きっと色んな人がおじいさんと知り合いだからお話をしたいんだろうな。邪魔をしないように静かにしないと……。
私たちの反応を見てお姉さんはホッと一息をついた。
「それじゃあ案内しますね。お見舞いの人数は……こちらにいる5名で間違いありませんか?」
「間違いありませ〜ん!」
お姉さんの言葉に巻さんが手をあげて肯定した。それを見たお姉さんは微笑ましかったのか口元に笑みを浮かべると門を大きく開いて、私たちを招き入れた。
「皆さん、あちらが若の部屋です」
「ありがとうございます、お姉さん! ──さ、家長くん!」
「私!?」
「当然だろう。ボクたちより仲のいい家長くんが奴良くんの部屋に一番最初に入るべきだろう!」
「えー……」
清継くんに背中を押されるように私は一歩前に出た。案内をしてくれたお姉さんも異論は特に無いのか止めるそぶりを見せなかった。
いい……のかな。何故か清十字団の皆は私が一番最初に部屋に入ることが確定しているみたいだし。──何かを言わなくても、皆からの視線が、そう言っているのよ……っ!
深呼吸をしてリクオくんの部屋の前に立つ。リクオくんの部屋なんて初めて入るから、ちょっと緊張するかも……。
息を整え、心の準備が出来てから障子を開ける。
「やっときた……つらら、これをどーにか──え!?」
「やっほ!」
「カ、カナちゃん!?」
障子を開けた先にいたリクオくんは──頭に漫画みたいな大きな
え……何? あの氷山みたいな氷嚢……。ていうか、どーやってバランスをとっているのよ……。
突然の訪問に驚いたリクオに、リクオくんの状況に驚いてじっと見ていた私だったけど……背後から待ちきれないと言った空気が流れてきたので大人しく前に出た。そのタイミングで清十字団のみんなが障子から顔を覗かせた。
「家長くんだけじゃないぞ!」
「わっ!! 清継くん!? それに鳥居さんに巻さん、島くんも……」
「よ!」
「じゃあ、私はここで……」
「ありがとうございました!!」
無事にリクオくんの部屋に私たちを送り届けたお姉さんはおじいさんのお客さんに給仕する仕事があるのか、足早に去っていく。
「ど、どうしたのみんな」
「どうしたの、じゃない!! 情けないぞ奴良くん!! 風邪を引くのはバカな証拠だ!!」
「ちょっと清継くん! ……大勢で押しかけてごめんね。みんなでリクオくんのお見舞いに来たのよ」
「ありがたいと思え、マイファミリー!! ゆらくんは残念ながら修行に専念すると言って欠席だ」
清継くんに軽く注意してからみんながリクオくんの家に来た理由を伝える。それに被せるようにまた清継くんが不遜な態度で話しかけていた。
清継くんったらまたそんなことを言って……。誤解されるような発言をするの、本当に勿体無いところだと思うんだけどな。このお見舞いだって清継くん発案なのに。
だけどリクオくんは清継くんの意図をちゃんと汲み取ったのか、どこかホッとした表情になっていた。うーん……人が良すぎる……。私だったら絶対ムッとしちゃうかも。
ちなみに私たちは今、リクオくんを中心にして各々がバラバラの場所に座っていた。巻さんと鳥居さんはリクオくんの頭上付近。清継くんと島くんはリクオくんの左側に座り、私は足元付近にいた。
位置的に話しかけるなら足元じゃなくて顔の近くなんだろうけど、リクオくんの頭には漫画みたいな氷嚢がのっているから……。
「リクオくん……大丈夫? お薬は飲んだの? まだ顔が赤いけど……」
「あ……実はまだ……」
「自力で治せ」
「情けない奴ね〜。カナやゆらは妖怪に襲われても学校に来たのに」
「ねー」
「もうみんな、体調不良はしょうがないでしょ? 意地悪を言わないで」
「「は〜い」」
みんな本気で言っていないのは分かるけど、病人にはそれが冗談なのか分かりにくいだろうし……。──まあ、リクオくんの表情を見れば今のは冗談だって受け取ってくれたみたいだけど。
「カナちゃん……
「うん?」
あのあと? あのあとっていうと……私がプレゼントを渡した後のことを言っているのかな? 一番街に行くなんて一言も言っていないから、リクオくんはそのまま帰宅したと思うはずだけど……。今、巻さんが私とゆらちゃんが妖怪に襲われたって軽く言ったけど、詳しい話はまだしていないし……。まあでも、過去に夕方と変質者に遭遇したこともあるし、そういう心配をしてくれたんだよね。
「じゃあちょっと待っててね。お薬をもらってくるから」
「さっすが幼馴染〜。いいお嫁さんになれるよ」
まだ顔が赤いリクオくんの様子を見てお薬が必要だろうなって思った私は立ち上がって、お家の人にお願いしようと室内につながっている襖に向かった。そんな私の行動に巻さんが冷やかしてきた。
巻さんってば、いつも少女漫画みたいな冷やかしをしてくるんだから……! 別に嫌じゃないんだけどね。寧ろ微笑ましい感じの冷やかしだって受け取っている。
私は苦笑して「そんなことないよ〜」といって否定しようとしたけど──私の目の前の襖が、突然開いたことで言葉を発することができなかった!
「お待たせ〜、リクオさ……」
そこには私たちより早く教室を出て行ったはずの──及川さんが立っていた。及川さんも襖の向こうに私がいるとは思っていなかったらしく、持っていたお盆を落とし、そのお盆にのっていた湯呑みも割れた!
「ハゥワ……家長さ……」
「あれっ!? 及川さん!? なんでここに!」
「ははーん!! さては先にお見舞いに来たな? お茶まで持ってきていて……気が利く子だ!」
「ほ……ホホホ……」
島くんと清継くんからの問いかけに対して目を泳がせながら愛想笑いをしている及川さん。そんな彼女を見て……私は今、どんな表情をしているのか分からなくなった。
怒っているのか、驚いているのか、無表情でいるのか──グルグルぐるぐると、私の内側で“何か”が蠢いているから。
「じ、実はそーなんだよみんな。ほんの十分程早く彼女は来ただけで……」
「そーですよ! 途中までは一緒だったでしょ」
「あー? そうだったかもな──?」
リクオくんがフォローするように口を開き、及川さんもそれにのるように言ったけど──それは、ぜっっっったい、嘘だ……。
だって、及川さんは私たちよりも早く教室を出ていったんだよ? 案内してくれたお姉さんだって「若のお見舞いなんて初めて」って言ったんだよ? 最後にリクオくん……私が部屋に入ってくるとき、なんて言ってた……?
──つららって呼んでいた! あのリクオくんが、同い年の女の子を呼び捨てに! つららって及川さんの下の名前じゃない!? 確かフルネームは及川
二人の関係性にモヤモヤしていると──清継くんがゴホンと咳払いをする。
「さあて!! 看病はさておき!! ここでゴールデンウィークの予定を発表する!!」
「へ?」
「ご、ゴールデンウィーク? 週末からの?」
「そうだ!! 君たちヒマだろう!! アクティブなボクと違って!!」
やっぱりさっき浮かんだ「及川さんはリクオくんの家のお手伝いさん」が有力候補なのかな!? それとも家同士が決めた婚約者とか……? ……十分にあり得る!! だってこんなに大きなお家なんだもん! 現世でこんなに大きなお家を持っているのはその土地の名家だって、相場が決まっている! それかシンプルにかの……いやいや! 今まで私が引っ付いていたんだよ!?!! なら私が気が付かないはずが……っ。でも……ッ! 休日まで一緒にいなかったし……!!
「ボクが以前からコンタクトを取っていた妖怪博士に会いに行く!!」
「え!?」
「な、何それー!? 合宿!?」
うーん、うーんと頭を悩ませていると周りが騒いでいることにようやく気が付いた。
「場所はボクの別荘もある
…………………………えと……………………本当にごめん。何の話? シンプルに聞いていなかった。