神を信じていなかった転生者は、最弱教団から世界を変える 作:むちゃうまご飯
受付嬢はギルドカードを机に置くと、微笑みながら言った。
「それでは、正式登録も終わりましたので、冒険者の仕組みについてご説明いたします。」
「お願いします。」
俺は椅子に座り直した。
「まず、冒険者にはランク制度があります。」
受付嬢は壁に掛けられた表を指差す。
「下からF・E・D・C・B・A・S・SSの八段階です。基本的には依頼をこなし、ギルドへの貢献度や実力を認められることで昇格していきます。」
「レベルだけじゃないんですね。」
「はい。レベルが高くても素行が悪ければ昇格は認められません。」
なるほど。
単純に強いだけじゃ駄目ということか。
受付嬢は続ける。
「そして、この世界には”レベル”とは別に”職業”という概念があります。」
「職業?」
「はい。レベル10になるごとに、一つ新しい職業を選択できます。」
「十ごと?」
「例えばレベル10で一つ、レベル20でもう一つ、レベル30でさらに一つという具合です。」
「職業って、一つしか選べないんですか?」
「いいえ。一度取得した職業は失われません。新しい職業を追加で習得できます。ただし、一度選んだ職業は変更できません。」
「なるほど。」
つまり慎重に選ばなければならないわけだ。
受付嬢は一冊の冊子を開いた。
「代表的な職業をご紹介しますね。」
「まず、魔術師。」
「魔力を使う魔法の威力や消費効率が上昇します。魔法使いの定番ですね。」
「次に、聖職者。」
「神力を使った聖法の威力や回復能力が向上します。」
「武闘家。」
「気を利用した身体強化や武技の威力が上昇します。」
「剣士。」
「剣を扱う能力が向上し、物理攻撃に補正が掛かります。」
「弓使い。」
「弓による遠距離攻撃に補正が掛かります。」
「他にも錬金術師、鍛冶師、暗殺者、商人など、多数の職業が存在します。」
「結構あるんですね。」
「はい。組み合わせは人それぞれです。」
俺は少し考える。
俺は物理、気力、魔力、神力を均等に持っていたい。
その方が応用が効くからだ。
だとしたら、一つに特化するより、全部を活かせる職業を選んだ方がいいな。
受付嬢はさらに説明を続ける。
「ちなみに、職業はレベル10になった瞬間、自動的に選べるようになるわけではありません。」
「え?」
「教会や神殿にある《職業の祭壇》へ行き、自ら選択する必要があります。」
「祭壇ですか。」
「はい。教団へ所属していれば、どこの祭壇でも構いません。ただし、一度選択すると取り消しはできませんので、皆さん慎重に決めています。」
そう言って受付嬢は笑顔を見せた。
「アステル様は先ほどレベル10になられましたので、最初の職業を選択できる資格を得ています。」
「そうだったのか……。」
俺はギルドカードを見つめる。
冒険者になったばかりだというのに、もう人生最初の選択が待っているらしい。
「アステル様は何処の教団に入るおつもりで?」
この世界では信仰が力になる
教団に所属していないと、神力が、手に入らない。
「まだ決めてません。」
そう答えると、受付嬢は少し驚いた顔をした。
「でしたら、お早めに教団へ所属されることをおすすめします。無所属のままでは神力を一切扱えませんし、魔力や気の成長効率も落ちてしまいます。」
「教団って、どこでもいいんですか?」
「もちろん自由です。」
受付嬢は壁に掛かった街の地図を指差した。
「アクセルの街には現在七つの主要教団があります。その中でも最も大きいのは、キリスト教団ですね。」
「キリスト教団はどれくらい大きいんですか?」
「信者は約二千名。さらに、この街で唯一のSランク冒険者が所属しています。」
二千人。
かなりの規模だ。
「そのため、加護も非常に強力です。多くの冒険者は最初にキリスト教団へ所属しますね。」
「なるほど……。」
強い教団へ入れば、それだけ恩恵も大きいということか。
「キリスト教団のホームは何処にあるんですか?」
受付嬢は机の地図を指差した。
「当ギルドをでて、そのまま真っ直ぐ行った所にあります。」
なるほど。
ギルドを出て教えられた住所へ向かうとしよう。
「ありがとうございます。また来ますね」
そう言って俺はギルドを出て、キリスト教団に向かった。
キリスト教団の位置は分かりやすかった。
建物が圧倒的に大きいからだ。
あまりの大きさに、立ち尽くしていると、
キリスト教団の門番が声をかけて来た。
「ここ、キリスト教団に何かようかね?」
「はい。この教団に入りたくて来ました。」
すると、門番は俺の身なり、体を見て表情を固くした。
「君、冒険者ランクは?」
「ランクはFでッッ.....」
言い切る前に門番に蹴飛ばされた。
「い、いきなり何すんだよ!」
脇腹を蹴られた。痛い。
すると、門番はニヤニヤして言った。
「貴様のような雑魚はウチには必要ない。」
倒れている俺を再び蹴ろうとしてきたので、
咄嗟に逃げ出した。
「フン。根性も無いか。やはりウチには要らんな。」
門番が低い声で吐き捨てるように言葉をぶつける。
クソッ....。
ここはダメだ。他の所を当たろう。
しかし、何処を行っても門前払いされてしまった。
残るは町一番小さい教団『ノクス教団』だけ。
場所は屋台のおばちゃんに教えて貰った。
大通りから外れ、細い坂道を登る。
豪華な教団のホームや神殿を横目に歩き続けると、
一軒だけ古びた建物が見えてきた。
レンガ造りの小さな教会。
壁にはひびが入り、看板も色褪せている。
入口の前には雑草が生え、誰も訪れた形跡がない。
「ここか……。」
ここはどうやら門番は居ないようだ。
扉を開ける。
ギィ……。
静かな音とともに中へ入ると、小さな礼拝堂が広がっていた。
長椅子は十脚ほど。
中央にある祭壇も質素で、豪華さは全くない。
「珍しいね。」
奥から女性の声が聞こえた。
振り向くと、一人の女性が椅子に腰掛けていた。
年齢は二十代前半ほど。
腰まで届く青髪。
切れ長の赤い瞳。
白い肌。
誰が見ても美人だと思うだろう。
しかし、その格好だけは愛らしくなかった。
黒い革ジャン。
鋲の付いたブーツ。
耳にはいくつものピアス。
首には鎖のようなアクセサリー。
まるでパンクバンドのボーカルのような格好だった。
「……貴方がここの教団の神?」
「そうだよ。」
女性は気だるそうに立ち上がる。
「私はノクス。」
「君が……神?」
「失礼だね。」
そう言いながらも笑っている。
「もっと威厳があると思った?」
「正直、はい。」
この世界で神に会ったのは初めてだ。
しかし、この神は神っぽく見えないな。
「よく言われる。」
ノクスは祭壇へ腰掛けると、大きく伸びをした。
「で? 何しに来たの?」
「教団を探しています。」
その言葉を聞いた瞬間、ノクスの目が少しだけ輝いた。
「へぇ……。」
「でも、正直に言うよ。」
彼女は指を一本立てる。
「うちは街で一番弱い。」
知っている。
知ってて来たんだ。
「……貴方はどういう加護を与えてくれるんだ?」
「加護は神力、魔力、気力が一・二倍になるだけ。」
十分強いじゃないか。
何も無いよりはマシだ。
どうせ行く宛も無いしな。
しかし、まさか一番弱い所を選ぶとは....。
普通なら迷うことなく強い教団を選ぶ。
俺だってゲームならそうする。
だが、目の前の神は自分の弱さを隠そうともしない。
見栄も張らない。
「断ってもいいよ。」
ノクスは静かに笑う。
その笑いはどこか寂しそうだった。
「私は無理に信仰してもらうつもりはない。」
その言葉を聞いて、俺はふと思った。
死ぬ前の自分なら、きっとこういう存在には見向きもしなかっただろう。
みんなが強いと言う神。
みんなが信じる神。
そんなものを選ぶのは簡単だ。
でも、この神には誰もいない。
だからこそ――。
「俺は.....。」
ノクスは黙って俺を見る。
「あなたを信じてみます。」
数秒間、礼拝堂は静まり返った。
ノクスは目を丸くしたまま動かない。
そして、少しだけ照れくさそうに笑った。
「……変わった人間だね。」
その瞬間、小さな祭壇が淡い金色の光を放ち始めた。佇んでいた。
祭壇の周囲には、4本の白い柱。
柱の頂上には、それぞれ違う色の結晶が浮かんでいる。
赤、青、緑、黄色。
どの結晶も脈を打つように淡く光り、神殿全体を幻想的な空間へ変えていた。
すると、ノクスがゆったりと祭壇の前に立った。
「まずは君をこの教団に登録するから、祭壇に上がって。」
「ああ.....分かった。」
そう言うと、ノクスは静かに頷いた。
すると、祭壇の真上にスクリーンが映し出された。
書いてあることは俺の個人情報、能力値などだ。
ノクスがスクリーンを操作して、所属の欄を作り出し、ノクス教団と入れた。
「おぉ....。」
思わず感心の声を漏らす。
「次に職業選択をしてもらうから私の前へ立って。」
ノクスの前に立った瞬間――。
ブォン……。
空気が震えた。
足元の文字が一斉に黄金色へ輝き始める。
同時に、天井から一本の光が降り注いだ。
暖かい。
まるで誰かに包み込まれているような感覚だ。
「目を閉じて、心を落ち着かせて。」
俺はゆっくり目を閉じた。
次の瞬間だった。
暗闇だったはずの視界に、無数の光が現れる。
一つ一つが星のように輝き、静かに俺の周りを漂っている。
すると、その光が次第に人の姿へ変わり始めた。
鎧を纏い、大剣を担ぐ戦士。
巨大な杖を持つ魔術師。
白い法衣をまとった聖職者。
拳だけで立つ武闘家。
黒衣に身を包む暗殺者。
鍛冶師。
錬金術師。
商人。
‥‥‥。
数え切れないほどの職業が、幻影となって目の前へ現れた。
言葉は発しない。
幻影たちは、それぞれ異なる輝きを放っている。
魔術師へ近付けば、温かな魔力が身体を包み込む。
武闘家へ近付けば、血が熱く燃えるような感覚。
聖職者へ近付けば、どこか懐かしく優しい光が胸を満たす。
剣士の前では、大地に根を張るような力強さを感じた。
どれも魅力的だった。
しかし、俺はまだこの世界へ来たばかりだ。
剣も満足に扱えない。
神力も使えない。
今、俺が唯一戦えたのは――魔法だけだった。
自然と足は、一人の魔術師の幻影へ向かっていた。
その瞬間。
幻影がゆっくりと右手を差し出す。
俺も手を伸ばす。
二つの手が触れ合った瞬間、眩い蒼い光が神殿全体を包み込んだ。
『職業《魔術師》を取得しました。』
どこからともなく、静かな声が頭の中へ響く。
同時に、身体の奥深くで魔力が大きく脈打った。
今までとは比べ物にならないほど、魔力の流れが鮮明に感じられる。
まるで世界そのものが、少しだけ近くなったようだった。
ゆっくりと目を開ける。
祭壇の光は静まり、幻影も消えている。
老人は穏やかに微笑えんだ。
「おめでとう。君、アステルの魂は、『魔術師』という道を選んだようだね。」
俺は自分の掌を見つめる。
転生してから初めて、自分がこの世界の住人になれた気がした。