神を信じていなかった転生者は、最弱教団から世界を変える 作:むちゃうまご飯
礼拝堂の空気が少し変わった。
祭壇の四隅に浮かぶ四色の結晶が、俺の加入に反応するように淡く脈打ち始める。
赤い結晶からは熱気。
青い結晶からは澄んだ水のような神力。
緑の結晶からは生命力を感じる風。
黄色の結晶からは大地を思わせる重厚な力。
四つの光が祭壇中央へ集まり、小さな魔法陣を描いた。
その光景を見ているだけで、自分が神の領域へ足を踏み入れたことを実感する。
「綺麗だろ?」
ノクスが誇らしそうに言う。
「これは教団ごとに違う祭壇なんだ。」
「違う?」
「うん。神によって魔法陣の形も、流れる神力も全部違う。」
「じゃあキリスト教団も?」
「もちろん。あっちはもっと豪華だよ。」
ノクスは苦笑した。
「祭壇だけなら、ね。」
その一言にはどこか皮肉が混じっていた。
俺は祭壇へ手を触れてみる。
すると淡い紫色の粒子が指先へ集まり、すぐに空気へ溶けていく。
「これは……。」
「神力。」
「所属したばかりだから少ししか感じられないけど、信仰を続ければもっと濃く見えるようになる。」
不思議な感覚だった。
魔力とは違う。
もっと優しく、温かい。
誰かに見守られているような安心感が身体を包み込んでいた。
ノクスは満足そうに頷くと、軽く手を叩いた。
「よし、それじゃあみんな呼ぶか。」
パンッ。
乾いた音が礼拝堂に響く。
「みんなー!新入りだよー!」
その一言で、礼拝堂の奥にある扉が次々と開いた。
「新入り?」
「マジで?」
「ノクス様が勧誘成功したの?」
「久しぶりじゃん。」
「どんな奴だ?」
足音が近付いてくる。
全部で九人。
俺は思わず姿勢を正した。
ノクスは笑顔で俺の肩を叩く。
「紹介するね。この子たちが今のノクス教団の仲間。アステルだ!」
最初に前へ出てきたのは、金髪を後ろで束ねた青年だった。
耳には銀色のピアス。
制服も着崩していて、片手をポケットへ突っ込んでいる。
「俺はレオン。二十歳。」
軽く手を上げる。
「職業は剣士。ランクはE。」
どこかチャラそうな笑みを浮かべている。
「よろしくな、新入り。アステルっち!」
続いて、小柄な少女が一歩前へ出る。
黒髪のツインテール。
目の下には濃い隈。
胸元には大量のお守りやぬいぐるみのストラップがぶら下がっていた。
「あ……私は……ミア。」
声が小さい。
「職業は呪術師……。」
俺が「よろしく」と言うと、
「べ、別に仲良くしたい訳じゃないから……。」
と言いながら少し頬を赤くした。
三人目。
赤いリーゼント頭の大男。
腕を組みながら俺を睨んでいる。
「ガイルだ。」
声が低い。
「武闘家。」
それだけ言うと黙った。
完全にヤンキーである。
四人目は銀髪の女性だった。
身長は百七十センチほど。
長い槍を背負い、姿勢も綺麗だ。
「私はセリス。」
落ち着いた笑みを浮かべる。
「職業は槍士。ランクEよ。」
礼儀正しい人らしい。
五人目。
茶髪で眼鏡を掛けた青年。
少し眠そうな目をしている。
「エリオです。」
柔らかく頭を下げた。
「錬金術師をしています。」
かなり真面目そうだ。
六人目。
肩まで伸びた水色の髪。
口には飴を咥え、露出の多い服を着た女性。
「私はリリィ。」
妖しく笑う。
「盗賊やってる。」
「盗賊?」
「職業名だよ。」
なるほど。
犯罪者じゃなくて少し安心した。
七人目。
オレンジ色のショートヘアの少女。
元気いっぱいに飛び出してきた。
「私はフィーナ!」
満面の笑み。
「弓使いだよ!」
元気が有り余っている。
犬みたいな子だ。
八人目。
黒いローブを深く被った女性。
顔はほとんど見えない。
「……アイリ。」
短く名乗る。
「魔術師。」
それだけだった。
無口らしい。
そして最後。
九人目は白髪交じりの老人だった。
立派な髭を撫でながら笑っている。
「わしはグラム。」
優しい笑顔だ。
「職業は聖職者じゃ。」
ようやく普通そうな人が出てきた。
俺は少し安心する。
ノクスが両手を広げる。
「以上!」
「これがノクス教団の全メンバー!」
改めて見渡す。
男三人。
女六人。
そして神様であるノクスを加えると、女性が圧倒的に多い教団だった。
しかもかなり、メンバーが濃い人ばかりだな。
レオンが俺の肩に腕を回してきた。
「しかし驚いたぜ。」
「何が?」
「この教団に自分から来る奴なんて初めてだからな。」
初めてだと….?。
「そうなのか?」
「普通はみんなキリスト教団に行く。」
ガイルも腕を組んだまま口を開く。
「わざわざ最弱を選ぶ物好きはいねぇ。」
ミアはおどおどしながら俺を見る。
「その……本当に辞めない?」
「え?」
「みんな最初は入るって言って……すぐ出て行っちゃうから……。」
礼拝堂の空気が少しだけ重くなった。
ノクスは苦笑いを浮かべている。
どうやら図星らしい。
俺は周囲を見渡した。
確かに建物は古い。
信者も少ない。
加護も強くはない。
普通なら選ばない教団だろう。
それでも――。
「俺は辞めないよ。」
全員がこちらを見る。
「せっかく信じるって決めたんだ。」
「簡単に変えるつもりはない。」
その言葉に、ノクスは少し驚いた表情を見せたあと、照れ隠しのように笑った。
「ふふっ。」
「変な人。」
レオンも笑う。
「気に入った。」
フィーナは両手を上げる。
「新しい仲間だー!」
グラム老人も穏やかに頷いた。
「ようこそ、アステル君。」
ノクス教団。
街一番の弱小教団。
だが、その礼拝堂には思っていたよりも温かい空気が流れていた。
そして俺はまだ知らない。
この九人全員が、それぞれ大きな事情を抱え、それでもなおノクスを信じ続けていることを――。
教団仲間の紹介も終え、ふらふらとホームの周りを歩いていた時。
教団仲間が出てきた奥の部屋の探索がしたくなった。
奥の部屋の扉を少し開けて、覗いてみると
礼拝堂の奥には、さらに一本の通路が続いていた。
「奥も見ていく?」
いつの間にか後ろにノクスがいた。
ノクスに案内されるまま歩いていく。
そこには共同生活用の建物が広がっていた。
木造二階建ての宿舎。
共同食堂。
鍛錬場。
魔法実験室。
小さな図書室。
薬草を育てる温室。
さらには地下へ続く石階段まである。
「随分と広い……。」
思わず声が漏れる。
「昔は大教団だったからね。」
ノクスは遠くを見るような目をした。
「昔?」
「五百年くらい前かな。」
「そんな昔?」
「当時は信者が一万人を超えてたかな。」
「えぇ!?」
思わず変な声が出た。
「今じゃ見る影もないけど。」
ノクスは笑っているが、その笑顔は少し寂しかった。
壁には歴代教皇や冒険者たちの肖像画が並んでいる。
どの人物も強そうだ。
中にはSSランクと刻まれた肖像画まで飾られていた。
「SSランクまでいたのか……。」
「いたよ。」
ノクスは壁へ触れる。
「でも、全部過去の話。」
俺は静かにその肖像画を見つめた。
この教団にも、輝いていた時代があったのだ。
なのに今はノクスを含め、十一人。
過去にこの教団に何が合ったのだろうか。
そんな疑問を頭に浮かべていたら、食堂から声がした。
「ご飯できたよー!」
どうやら夕食のようだ。
俺は声が聞こえた食堂のテーブルに座った。
夕食の時間になると、食堂の大きな木製テーブルへ全員が集まった。
焼いた魔鳥の肉。
薬草のスープ。
焼き立ての黒パン。
森で採れた木の実。
どれも豪華とは言えないが、不思議と温かい料理だった。
「いただきます!」
全員が一斉に手を合わせる。
その光景を見て、少しだけ胸が熱くなる。
前世では一人でコンビニ弁当を食べる毎日だった。
誰かと食卓を囲むことなんて何年ぶりだろう。
そんな時だった。
ドォォォォン!!
遠くで爆発音が響いた。
建物全体が小さく揺れる。
レオンが立ち上がって構える。
「またか。」
ガイルはため息を吐いた。
「最近やけに多いな。」
ノクスの表情から笑顔が消える。
「……西の聖壇付近。」
彼女は窓の外を見つめ、小さく呟いた。
「また教団同士の戦争が始まったみたいだね。」
俺はまだ知らない。
この世界では神を信じることは、同時に神のために戦うことでもあるという現実を――。