神を信じていなかった転生者は、最弱教団から世界を変える   作:むちゃうまご飯

6 / 10
教団戦と聖法

ドォォォォォン!!

再び爆発音が街へ響き渡る。

窓ガラスがビリビリと震え、食堂の木製テーブルまで揺れた。

「結構近いぞ。」

レオンが窓を開ける。

慌てて、俺も外を見る。

西の空が赤く染まり、煙が立ち昇っていた。

夜空には魔法陣が次々と浮かび、青や赤の光が花火のように弾けている。

「魔法戦……。」

思わず呟く。

あれは映画でもCGでもない。

本物の戦いだ。

「違う。」

ガイルが低い声で否定した。

「教団戦争だ。」

「教団戦争?」

俺が聞き返すと、グラムが静かに立ち上がった。

「アステル君。この世界では、神同士は直接争えん。」

「神は戦えないんですか?」

「戦えないよ。」

ノクスも頷く。

「神は信者へ加護を与えられる。でも、自分で剣を振るったり魔法を撃ったりはできない。」

「だから代わりに信者が戦う。」

セリスが言葉を繋ぐ。

「神の代理戦争ってこと。」

俺は思わず息を呑んだ。

「教団戦争では、相手の聖壇を壊した方が勝つんだ。」

リリィがテーブルへ地図を広げる。

「街の教団は全部、自分の聖壇を中心に勢力を築いてる。」

「聖壇を失えば神力は激減する。」

「信者も一気に弱くなる。」

「だから聖壇は命より大切なの。」

フィーナがパンを頬張りながら説明する。

「へぇ……。」

俺は窓の外を見る。

また大きな光が空へ昇る。

「毎日こんなことやってるのか?」

「いや。」

レオンが首を振る。

「本格的なのは数か月に一度。」

月一?思ったより多いなおい。

「でも小競り合いなら毎週ある。」

「神様って意外と物騒なんだな。」

「信者が増えれば神も強くなるからね。」

ノクスは静かに紅茶を飲む。

「だから皆、本気なんだよ。」

その時だった。

ドンドンドン!!

礼拝堂の入口を激しく叩く音が響く。

全員が一斉に立ち上がる。

ガイルは拳を握り締め、レオンは腰の剣へ手を添える。

アイリは無言で杖を構えた。

ノクスだけが静かに扉へ歩く。

「誰?」

扉を開ける。

そこには血だらけの青年が立っていた。

服はボロボロ。

肩には深い切り傷。

息も絶え絶えだった。

「助け……てくれ……。」

青年はそのまま前へ倒れ込む。

「エリオ!」

セリスが慌てて抱き起こす。

「キリスト教団の奴らに……。」

青年は苦しそうに息をする。

「ルーメン教団の聖壇が……。」

「落ちた……。」

その場の空気が一変した。

誰も口を開かない。

「まさか……。」

グラムが目を閉じる。

「今日だけでか。」

ノクスも表情を曇らせた。

「これで六つになったね……。」

「六つ?」

俺が尋ねると、レオンが苦い顔で答えた。

「アクセルの街には七教団ある。」

「つまり……。」

「今残ってるのは、キリスト教団と、うちだけだ。」

「え?」

思わず聞き返した。

「他は全部負けた。」

「吸収された。」

「信者も奪われた。」

「今、この街でキリスト教団に対抗してるのは俺たちだけ。」

俺は絶句した。

信者10人。

街最弱。

そんな教団が、街最大勢力と向き合っている。

どう考えても勝ち目なんてない。

「なんで……。」

俺はノクスを見る。

「どうして逃げないんだ?」

ノクスは窓の外に浮かぶ赤い光を見つめながら、小さく笑った。

「この教会はね。」

ノクスは祭壇へゆっくり近付く。

「私が生まれた場所なんだ。」

優しく祭壇へ手を添える。

「ここを失ったら、私はもう神じゃなくなる。」

その言葉には悲壮感はなかった。

あるのは静かな覚悟だけ。

「だから私は最後まで守る。」

その瞬間、祭壇の四つの結晶が淡く輝いた。

まるでノクスの決意に応えるように。

俺はその光景を見つめながら拳を握る。

転生してまだ数日。

だが、この世界で初めて信じると決めた神がいる。

そして、その神には守りたい場所がある。

なら――。

俺にも守る理由ができた。

 

翌朝。

礼拝堂の鐘の音で目を覚ました。

共同宿舎の窓から朝日が差し込み、昨日までとは違う気分になる。

「ここが俺の居場所になるのか。」

そう呟きながら食堂へ向かうと、既に全員が朝食を食べていた。

「おはよう、新入り!」

フィーナが元気よく手を振る。

「昨日はよく眠れた?」

「ああ。」

レオンはパンを頬張りながら笑う。

「今日から忙しくなるぞ。」

「忙しい?」

「お前、昨日見たろ?」

ガイルが腕を組む。

「教団戦争をやる上で今のままじゃお前は足手まといだ。」

言い方はきついが、その通りだ。

レベル10になったとはいえ、覚えている魔法は初級魔法だけ。

防具も布の服しかない。

これでは長く生き残れない。

すると、今まで黙っていた鍛冶師の男が立ち上がった。

「なら俺の出番だな。」

筋骨隆々の男。

ノクス教団唯一の鍛冶師。

「俺はドワーフ族のゴルド。」

昨日は名前だけしか聞けなかったが、近くで見ると身長は低いものの肩幅は俺の二倍近くある。

髭は胸まで伸び、腕には無数の火傷跡。

歴戦の職人という雰囲気だ。

「飯食ったら工房へ来い。」

 

教団のホームの地下。

そこには巨大な鍛冶場が広がっていた。

赤く燃える炉。

魔石を燃料にした炎。

壁には何十本もの剣や槍。

見たこともない金属が並んでいる。

「すげぇ……。」

思わず声が漏れる。

「驚くのはまだ早い。」

ゴルドは棚から黒い鉱石を取り出した。

「これは黒鋼。」

次に青白い石を持ち上げる。

「こっちは魔晶石。」

さらに銀色の糸のようなものを見せる。

「聖銀。」

どれも前世では見たことがない素材ばかりだ。

「新人だからな。」

ゴルドは腕を組む。

「軽くて丈夫な防具を作ってやる。」

「でも、金なら……。」

「いらねぇ。」

「え?」

「仲間から金なんざ取るか。」

そう言って豪快に笑う。

いい人だ。

「代わりに強くなれ。」

その一言だけだった。

ゴルドは炉へ黒鋼を放り込み、大きなハンマーを振り下ろす。

ガァァン!!

耳が痛くなるほどの音が地下へ響く。

火花が星のように飛び散り、赤く熱せられた金属が少しずつ形を変えていく。

6時間後。

完成したのは、黒を基調とした軽鎧だった。

胸当て。

籠手。

脛当て。

そして黒いローブ。

「どうだ、動いてみろ。」

装備してみる。

驚くほど軽い。

なのに身体が守られている安心感がある。

「これ……本当に鉄なのか?」

「黒鋼は普通の鉄の三倍軽い。」

ゴルドは得意げに笑う。

「新人には十分だ。」

「ありがとうございます。」

自然と頭が下がった。

金欠なので無料で防具をゲットできたのはデカい。

 

昼過ぎ。

ノクスが俺へ声を掛けてきた。

「次は街へ行こう。」

「何か買うのか?」

「うん。」

歩くこと10分。

昨日訪れた魔術書屋へ着いた。

「また来たのかい。」

相変わらず不気味な老婆が椅子へ座っている。

俺を見るなりニヤリと笑った。

「今度は何を買う?」

「聖法の教本が欲しい。」

その瞬間、老婆の笑みがさらに深くなる。

「ようやく神を信じたんだねぇ。」

「まあな。」

ノクスは店の本棚を見ながら口を開く。

「初級聖法をお願いするよ。」

老婆は奥の棚から、一冊の純白の本を持ってきた。

表紙には黄金色の十字にも似た紋章。

ページからは微かに光が漏れている。

なんだかとても高そうだ。

持ち金で足りるか不安だ。

「《初級聖法教本》。」

「神力を持つ者だけが読める本さ。」

「婆ちゃん、値段はいくらだい??

「銀貨一八枚。」

「高っ!」

思わず叫ぶ。

魔術書より2倍高いじゃないか。

老婆は楽しそうに笑う。

「神様の力は高価なんだよ。」

俺は財布を見る。

もちろん、そんな金はない。

すると。

カラン。

机の上へ革袋が置かれた。

「……ノクス?」

「貸してあげるよ。」

「え?」

「教団費から。」

「そんなのあるのか?」

「あるよ。」

ノクスは笑う。

「信者が稼いだお金を少しずつ貯めてる。」

「でも……。」

いいのだろうか、俺はまだ稼いできてもいないぞ。

仲間に文句を言われても別におかしくはない。

ノクスは不安な顔をした俺を見て、コロコロ笑った。

「仲間への投資だ。」

「強くなって返してくれれば、それでいい。」

俺は何も言えなかった。

前世では、こんな風に誰かへ期待されたことなんて一度もない。

老婆は銀貨を数えると、本を俺へ差し出す。

「毎度あり。」

本を受け取った瞬間、温かい光が掌へ伝わった。

神力が本へ吸い寄せられるような、不思議な感覚。

「読んでごらん。」

ノクスが微笑む。

俺はゆっくりと教本を胸にあてた。

白い文字が光となって宙へ浮かび上がる。

その光は無数の粒子となり、俺の身体へ吸い込まれていった。

頭の中へ、新しい知識が流れ込む。

今度はあまり頭が痛くない。

神力の巡らせ方。

傷を癒やす術。

光を放つ術。

そして、魔を祓う力。

『初級聖法ヒール《ライト》《ホーリーボルト》を習得しました。』

文字がが頭の中へ映し出される。

右手を見つめる。

掌には、淡い金色の光が静かに灯っていた。

俺はついに、この世界で魔法だけでなく、神力までも扱えるようになった。

金色の光が身体の中をゆっくりと巡っていく。

魔法を覚えた時とは違う。

魔力は自分の内側から溢れ出す感覚だった。

しかし神力は違う。

どこか遠くから、一本の細い糸を通して力が流れ込んでくるような、不思議な感覚だった。

「これが……神力。」

俺は静かに拳を握る。

すると胸の奥が温かくなり、呼吸が自然と落ち着いていく。

「気付いた?」

ノクスが隣で笑う。

「神力は魔力と違って、自分だけの力じゃない。」

「どういうことだ?」

「神様から借りてる力なんだよ。」

その言葉に思わずノクスを見る。

「借りてる?」

「うん。」

ノクスは店の外へ出るよう促した。

俺たちは人気の少ない裏路地へ移動する。

「ちょっと撃ってみて。」

「ここで?」

「大丈夫。」

ノクスは空き箱を十メートルほど先へ置いた。

「ホーリーボルトをイメージして。」

俺は教本の内容を思い出す。

右手へ神力を集中させる。

魔力とは違い、胸の奥から優しい光が右腕へ集まっていく。

「ホーリーボルト。」

パァンッ!

金色の光弾が一直線に飛び、木箱へ命中した。

箱は粉々になることなく、小さな穴が開いただけだった。

「威力弱っ。」

思わず本音が漏れる。

ノクスは笑った。

「今はね。」

「え?」

「聖法は神力だけで決まらない。」

「信仰の深さ。」

「神との相性。」

「教団の規模。」

「神自身の格。」

「全部が影響する。」

なるほど。

魔法とは全く違うシステムらしい。

「つまり、ノクスが強くなれば俺も強くなる?」

「その通り。」

「逆もだけどね。」

「逆?」

「君たち信者が強くなれば、私も強くなる。」

「だから神様は信者を集めるのか。」

「そういうこと。」

初めて神と人間の関係を理解した気がした。

神が一方的に力を与えるだけではない。

お互いに支え合っている。

そんな関係だった。

 

教団へ戻る途中。

大通りでは多くの冒険者たちが露店を眺めていた。

巨大な角を持つ魔物の角。

青く光る魔石。

魔法剣。

回復薬。

魔獣の革。

まさに異世界の市場だった。

「そういえば。」

俺は気になっていたことを尋ねる。

「武器にもレベルってあるのか?」

「あるよ。」

ノクスは頷く。

「武器にも等級がある。」

「普通級。」

「良質級。」

「魔具級。」

「英雄級。」

「聖遺物級。」

「神具級。」

「神具?」

「神が直接作った武器。」

「そんなものあるのか。」

「ある。」

ノクスは真剣な表情になる。

「でも世界でも数えるほどしか存在しない。」

「キリスト教団のSランクが持ってるのも?」

「英雄級。」

「神具じゃないんだ。」

「神具を持ってる人間なんて見たことないよ。」

思わず苦笑する。

そんな武器を手にする日は来るのだろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。