ようこそ実力至上主義の教室へ~女王の魂を宿す少女~ 作:仮面の観測者
私は生徒会の初日の活動を終えた。橘先輩と桐山先輩が親切に教えてくれたおかげで、大きな不安を覚えることもなく無事に終えることが出来た。……ただ、想像以上に疲れた。
そんな私の元に、1つのメールが届いていた。
『今日、部屋で会えないか』
私への個人チャットに綾小路からメッセージが来ていた。特に事前の用事はなかったはずだが、彼からの連絡は少し意外だった。
『どっちの部屋で会います? 私から足を運んだ方が良いですか?』
私はチャットを打ち終えると、静かな帰路を歩き始める。数分後、手にしていた携帯の通知音が小さく響いた。
『出来ることならオレの部屋が良い』
綾小路は丁寧に部屋の場所を添えて伝えてくれていた。
『分かりました。今から向かいます』
綾小路に短く返信を送り、私は目的地へと歩みを進める。
寮の中に入るとエレベーターに乗り込み、綾小路の部屋がある階へ移動した。廊下を静かに進み、彼の部屋の前まで到着する。
私がインターフォンを押すと、間を置かずにすぐ扉が開いた。中から綾小路が出迎えてくれた。
「来てくれたか」
「ええ、上がっても良いですか?」
「ああ」
「失礼します」
私は促されるまま綾小路の部屋に上がる。案内された綾小路の部屋は、同年代の男子の部屋にしては普通よりちょっと物が少なかった。
「取りあえず座ってくれ」
私は綾小路の言葉通り、床の上に正座で座った。対面するように綾小路も腰を下ろす。
さて、早速本題に入るのも良いですが、少し場を和ませましょうか。
「それで私を呼んだ理由はなんですか、と言いましたが、私も話したい気分だったのです。どんな話をしますか?」
「……そうだな。まずは生徒会に入れたことは本当におめでとう」
「ありがとうございます。あの時綾小路君が、池君と佐倉さんと一緒に背中を押してくれたおかげで入ることが出来ました」
「オレ達がしたことなんて背中を押しただけだ。入れたのは刀祢の実力があったからだ。そんな生徒会初日に呼び出して悪かった」
「まぁ、疲れているのは事実ですが、良いですよ」
綾小路自身も、私が疲れているのではないかと配慮してくれてはいたのですね。
「どうだった、生徒会は」
「やはり責任の重い仕事が多いですね。内容も高水準でした。それだけ期待されているのでしょう」
「そうか……」
そろそろ本題に切り出しても良いでしょう。生徒会で語れることはここまでということで。
「それでは、綾小路君。私をここへ呼び出した理由を教えてくれませんか」
「そうだな。オレの方からも切り出そうと考えていた。……先に謝っとく、すまん。刀祢の過去を聞いた」
「私の過去を?」
「ああ。茶柱先生がオレと堀北の前で、過去の一部を暴露した」
茶柱先生が私の過去を暴露したのか。どんな理由があってそうしたのかは、後で綾小路から聞くとして。取りあえず、耳にしただけなら問題はないか。
「別に過去を聞いたくらいで怒りませんよ。許します」
「そうか。いや、ありがとう。それで聞きたいことは、お前の過去と関係している」
「言って下さい」
綾小路は真剣な眼差しをこちらに向けてきた。これまでに見せたことのない鋭さがあって、私は彼がこんな顔も出来るのかと密かに驚いていた。
「刀祢はクラスを率いるつもりはあるか? もし率いるとして、それは恐怖での統治か?」
恐怖。……なるほど、私がかつて恐怖政治と揶揄された強硬な組織運営をしていたことを、茶柱先生の言葉から知ったのか。
私も真面目に答えましょう。一度瞼を閉じて深呼吸したあと、力強く目を見開いた。
「いいえ。私はDクラスを信頼で率いていきます。恐怖も場合によっては使うかもしれませんが、それでも私は信頼で率いてみせる」
「恐怖で統治した方が楽かもしれないぞ?」
「いじわるな質問だな。だが……楽な道、最短ルートが全てではない。どれだけ時間が経っても、どんなことが起きようとも、私は皆と共にAクラスで卒業する」
綾小路は分かりやすく目を見張って驚き、その後、こちらの覚悟が期待以上だと言わんばかりの表情を浮かべた。
「……期待以上だ。刀祢の覚悟、オレの心にも届いたぞ」
「綾小路君から心という言葉を聞くとは思いませんでした」
「オレもそれくらい言うぞ。そういう刀祢だって、途中からいつもの敬語が無かったけど、あっちが素か?」
「敬語もため口も素ですよ。どっちも私らしいから使っているだけです」
……ふふ、ちょっと話が逸れたな。
「……もし、誰かを犠牲しなければいけない時はどうする?」
またとんでもないいじわるな質問をしてきたな。だが、いずれ直面することになる現実的な問題だ。……この学校の仕組みや座席の数が少ないところを見るに、退学もあり得る。
「その時は誰も犠牲にならない方法を探します。そして、今を精一杯生きて、考えて、もしもの時のために貯めます」
「つまり、ポイントを貯める、ということか」
「それもありますが、ポイント以上に徳を貯めます。人と縁を作り、後悔しないように行動していく。……それがやがて、未来で役に立つことを信じてます」
「……そういう考えも出来るか。斬新だな」
不確実で目には見えないけれど、私はそういったものも大切にしていきたい。
「ですが、私一人なんでも出来るとは思ってません。だから……もしもの時は、私を助けて下さいね」
「ある程度はな。オレもどこまでいけるか分からんし、意見の衝突が起こるかもしれないからな」
「皆、それぞれの考えで生きていますから、別に衝突しても良いと思ってます。私は独裁者になるつもりは、これぽっちもありませんから」
「……なら、オレはオレの勝利のために動くだけさ」
綾小路の勝利、か。
「もしオレが暗闇にいたら……」
「一緒に暗闇に落ちます。そのうえで引き上げてみせましょう」
「……そうか」
綾小路の表情が、今まで見たことがないくらい穏やかなものになった。……案外、似合っている。
「じゃあ、まずは友達を助けないとな」
「そうですね。協力して下さい」
「しょうがないな」
私と綾小路は友達として、ここに改めて強い協力関係を築くのだった。
「……そうだ、もう一つ言っておくべきことがあるんだった」
もう一つ?
改まった綾小路の言葉に、私は静かに耳を傾ける。
「……堀北には気を付けろ」
「堀北さんを、ですか?」
「これは今日の放課後、オレが呼び出されたところでの会話だった」
綾小路は、放課後に茶柱先生から呼び出された際交わされた会話の内容を話してくれた。私という存在を意図的に持ち出すことで堀北のプライドと嫉妬を刺激し、彼女のやる気を引き出すための糧にしようとした茶柱先生の意図。そしてそれにより、堀北もまた私に対してあまり良い印象を抱いていないということ。さらに言えば、綾小路自身もなかば強制的にその協力関係の輪の中に組み込まれているのだという。
「堀北は憎んでこそいなかったが、あれは嫉妬しているな」
「嫉妬、ですか」
「ああ。刀祢には理由が思い当たらないかもしれないが、堀北にとって生徒会に入ったことが嫉妬の炎を燃え上がらせているのだろう」
「……生徒会に入ったことだけじゃない気がする」
「その考えにはオレも同意する。だが今は普通に過ごすほかないだろう」
堀北さんにどんな考えや感情があろうとも、私は自分の信じる道をまっすぐ進むだけだ。それに、客観的に見ても堀北さん自身は非常に優秀な人物だと思うのだが……。先日の小テストの点数も、頭一つ抜けて良かったはずだし。
「堀北さんが素直に協力してくれるのが良かったのですが、仕方ありませんね」
「堀北はプライドが高く、自分が正しいと信じている」
「それは素直に凄いことでは?」
「ただ、やっぱり性格に難があるんだろうな」
「……それで言うなら、綾小路君はよく付き合ってくれますね」
「……コキ使われているだけだ。ただ、入学初日からの縁ってやつなんだろう。ここには刀祢も含まれてるぞ」
「そうですか」
ふふっ、と胸の中で小さく笑う。
そこで私は、以前耳にした茶柱先生の発言をふと思い出していた。『最悪の不良品』という、このDクラスを形容する言葉。……確かに世間から見れば不良品なのかもしれませんが、だからといってそれを理由に諦めたり切り捨てたりすることは、私にはあり得ませんね。
少しだけ気になって、目の前の綾小路に問い掛けてみることにした。
「綾小路君は変わることに抵抗を覚えますか?」
「いきなりだが……そうだな。オレは思い切り抵抗を覚えるだろうな」
「なら私が変わります。私が良い方向に変われば、綾小路君も変わりやすくなると思いますから。その変わるという連鎖をクラス全体に広げていきたいです」
「それはクラスのためか?」
「はい」
まず自分自身が変われば、周りの景色や見える世界も自ずと変わっていくはずだ。
「オレも変われるだろうか?」
「自分を信じて。そうすれば変われると思うから」
「……分かった」
その言葉を最後に会話は静かに一段落を迎え、私はゆっくりと立ち上がると、綾小路の部屋を後にしたのだった。
最底辺からのスタート。けれどそれは見方を変えれば、ここから上に登っていく道しか存在しないということでもある。……なら、みんなで這い上がっていきましょうか。
・5000文字の壁が高い。
・工夫したり、話数を凝縮したりもしていかないといけませんね。
・FGOキャラとよう実のクロスオーバーを出すか迷ってます。
・取りあえず楽しんでくれたら嬉しい限りです。