食の質は士気に関わる。
たぶん古事記にもそう書いてある。
「だが兄貴、生産ラインはもうカツカツだぞ! ジオンは人も物も少ないからな……これ以上、現場に無理難題を押し付けるワケには」
「この私が、ギレン・ザビが自ら開発を行う」
「な……兄貴がッ?!」
「社員とは優秀な上司に管理・運営されることで初めてその能力を十全に発揮することができる。いまこそ社長である私が立ち上がらねばならんのだ」
「フッ……兄上も、存外甘いようで」
紆余曲折、具体的には空になったワインボトルを片手にパンイチでヘンテコな踊りを楽しげに披露する4徹越えのギレンとドズルに側近であるデラーズとコンスコンが氷水をバケツで頭からブッ掛けて正気に戻すという1幕を経て無事に保存性と味を両立させたインスタントが完成した。
ちなみに、それをどうやってザクのパイロットたちが食べるのかというと。
「なら、核融合炉の排熱部分を利用できるよう改造すれば、いつでも営業の人たちがあったかいご飯を食べられるね!」
技術開発部に勤務するとある少女のひと言で全て解決した。
これには同チームのケン班長もニッコリ、後日この少女は営業のパイロットたちの万雷の如き拍手に包まれてデギン会長直々にジオン十字勲章が授与され困惑することになる。
本人にしてみればパイロットたちが少しでも快適に仕事ができるように自分にできることを考え実行していただけなのだが、それこそがパイロットたちにとって最高の気遣いであることをあまり理解していなかった。
半裸で水浸しになった兄ふたりを回収するときガルマの目から若干光が失われていたこと以外は特に問題なく世に出された新商品、それを民間向けにさらなる改良を加えたのだから売れないはずはないと確信していたからこその第一次降下作戦だったが。
「……ふむ。悪くはない。値段を考えればボリュームもある。だが、些か……味気ない、とまでは言わないが」
報告ばかりで自身の舌で確かめるのは初めてだが、短期間でジオン食品の製品がこうも食い込める理由は確かにあったとマ臨時所長は理解することになる。
大量生産と大量消費。
それはきっと経済を循環させるには効率的なのだろう。
「ならば戦い方はいくらでもある。第二次降下作戦までにはド・ダイの開発も間に合うだろう。重力戦線における連邦の輸送力だけは脅威だったからな」
「ガルマ様のお人柄でしたら、ニューヤークの企業との会合も必ず成功なさることでしょう」
「フッ……数字しか見ていない連邦を相手に、ガルマ様が後れを取るなど有り得んよ。金儲けが上手いのは結構だが、消費者の喜ぶ顔を想像できない経営陣など、子どもたちが体験学習で作ったツボひとつぶんの価値も無いのだよ」
「本日正午、地球降下班の第一陣が、オデッサとその周辺の商業地帯と商品シェアの把握を完了いたしました。引き続き、地球営業作戦を予定通り推し進め、半年以内に連邦フーズの息の根を止めてご覧に入れます」
「過信のし過ぎは、自らの破滅と我が社の破産を招くぞ……。地球は、あの広大な土地での価格競争は、我々の手に余るのではないかな?」
「これはこれは! かつてジオン・ダイクン筆頭株主様から会長を任せられた方の御言葉とは思えませんな」
「……言葉が過ぎるぞ」
「いまさら値上げなど、世論が許しますまい」
「お前が煽った世論だろう。……どちらにせよ、引き返すことはできんか」
「要は、社員たちの努力を正しく評価しその働きに報いること、そしてなによりも顧客の幸福を第一に考えれば良いのです。心配することなどなにもありません……父上」