5月最初のHRで茶柱先生が言っていた事だ。7人が小テストで赤点を取ったにも関わらず、こんな事を言っていた。つまりなにか方法があるという事だ。そしてそれを知ったのは、テスト2日前のこと。放課後に平田が部の先輩から貰ったという1年最初の中間テストの過去問をクラスに拡散した。どうやら今回の中間テストに限って、毎年同じ問題がそのまま流用されているらしい。つまりこの過去問を丸暗記してしまえば赤点は回避出来るというもの。2日前に配布したのは、普段勉強しない馬鹿共に勉強を習慣づける為だという。確かにこれから先は勉強を習慣にしないとすぐ退学になりかねない。今回の対応は個々人にとっても良い変化があるだろう。そして当日。
「欠席者は無し、全員居るようで何よりだ。先生は嬉しく思うぞ。お前たち落ちこぼれの『不良品』にとって、最初の試練になるわけだがどうだ、しっかり勉強してきたか?」
「僕たちはこの数週間机に齧りつきながら勉強に向き合ってきました。このテストにおいてこのクラスから赤点者が出ることはありません」
「ほう、やけに自信があるようだな平田。その努力、しっかりと見極めさせて貰うとしよう」
チャイムと同時に始められるよう答案、問題用紙を裏側で配り始める。
「もし今回の中間テストと七月に実施される期末テスト。どちらでも退学者を出さなかったら、お前たち全員夏休みにバカンスに連れて行ってやる」
は?バカンス?
「バカンスって、あのバカンスですか!?」
「恐らくそのバカンスだ。そうだなぁ... い海、白い砂浜、そして照りつく陽ひの光。夢のような生活を送らせてやる」
ええ...行きたくねー...海って事は愛衣留守番じゃね?海にも入れないんだけど。でも置いていくとかもありえないんだけど。愛衣のやつ行くのか?海に近づかなきゃいいんだけど...
「先生、言質は取りましたよ!お前ら、死ぬ気で赤点を回避するぞ!!」
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
叫んでいるのは男子だけだろう。きっと女子はすこぶる嫌な顔をしているだろう。
「では、中間テスト...はじめ!」
問題用紙を裏返し、問題を確認する。そこには昨日まで眺めていた過去問と一言一句変わらない問題だけが並んでいた。つまり過去問を使うことが正解だったということだ。これなら平田の言う通り赤点を取る者はいないだろう。二限、三限、四限とテストは続くが、そのどれもが過去問と同じ問題だけなので難なく回答を記していく。見直しを繰り返し、回答ズレや名前の確認も怠らない。名前が無くて0点で退学とか笑えない。
5限目は英語。最後の休憩時間に最終確認をする者がちらほらいる。ギリギリまで回答を詰め込み、赤点から免れようと最後の足掻きをしている。須藤(例の不良筆頭)の席の周りになにやら人が集まって確認していたりもしている。そして英語の答案を持ってきた試験官によって試験が開始される。あそこまでやったなら退学者は出ないだろう。
「あー、やっとテスト終わったー」
ここしばらくはほぼ勉強しっぱなしで相当疲れたのだろうか、愛衣は部屋に戻ってくるなりテーブルに突っ伏した。
「打ち上げついでにケヤキモールにでも行くか?」
「えー」
「どの道買い物には行くんだけどな」
期間中でも買い物には行っていたが、時間を削らないよう最低限の買い物しかしておらず、無くなりかけている日用品もあったりする。だから結局買い物には行かなければいけない。
「じゃあ早く行って、早くダラダラしよー」
「次の期末の時はもっと計画的に買い物に行くか」
というわけでケヤキモールに来た。テスト後で明日は休みとあってか生徒たちが溢れている。まあ外で遊ぶってなったらここか外のレストランとかしか無いしな...。
「じゃあまずはどこ行くの?」
「食料品か日用品だが...二手に別れるか。その方が早く帰れるぞ」
「日用品は私が行くよ。そんなに多くないし」
「じゃあ俺が食料だな...1万もあれば足りるな」
愛衣の端末に1万ポイント譲渡する。
「足りると思うし、無駄使いもしないよ」
「欲しい物があったら買ってもいいんだけどな。お前の貰ったポイントなんだし」
「それでも。ここで無駄使い覚えちゃったら後が怖いもん。それじゃ1時間後くらいにここに集合で」
「時間過ぎたら連絡な」
「はーい」
ということで俺と愛衣は別行動になった。
ケヤキモール内の食料品売り場は一般的なデパートに近く、スーパーでは扱っていない食品や、海外製品なんかも取り扱っている。さらにポイントを使い要望を出すことでここで売っていない物も入荷してくれたり、買ったものが多い場合は配送もしてくれる。配送に関しては家電屋とかで大きい家電を買った時にも利用できるありがたいサービスだ。まあそんなデカイ物を買う予定は無いから使わないと思うが。
「こう広いと、色々見て回りたくなるな」
目的の商品を探しながら店内を散策する。
「火神か?1人とは珍しいな」
「ん?葛城か」
散策中に葛城と遭遇した。お前だってだいたいいつも誰か連れてるじゃないか?
「愛衣は日用品売り場に行ってる。手分けして買い物中だよ」
「そうか。こういう時2人いると便利だな」
「葛城も誰かに頼んでみたら?手ぇくらい貸してくれるだろ。戸塚とか」
「俺の個人的な用事に誰かの手を借りることは好まん。きっとどうしようもない時でないと借りようとしない」
「でもホントに困ったら言いなよ?手遅れになったらそれこそどうしようもないぞ」
「そうだな、忠告として受け取っておこう。それと お前の妹の事だが...」
「また派閥の話か?それはそっちのクラスの問題だろ?」
「そうではない。夏休みのバカンスの件だ。彼女は水恐怖症だろう?大丈夫なのか?」
葛城とはAクラスの生徒で1番よく話す男だ。愛衣の水恐怖症や、俺の女性恐怖症についても理解してくれている。
「それなぁ...まあ海や川に近づいたり入らなければ問題無いんだけど、そうもいかないかな...」
「どうしてそう思った?」
「4月の水泳の授業でさ、『後で必ず役に立つ』的な事を言われなかったか?そこにバカンスときた。これって泳ぎが必要になる場合があるって事じゃないか?」
「確かに言っていたな...もし泳ぎが必要な場面があったら彼女は戦力にならない」
「知ってる通り愛衣は水に入れない。それがどう影響するか...」
「...相変わらずのシスコンだな」
「大切な妹の命に関わるかもしれないことなんだ。当然だろ。まあ今あれこれ考えても仕方ない、もしその時がきたらフォローは頼むな」
「男の俺より神室とかの方が適任ではないか?」
「彼女にも話はするさ。この話題振ったの葛城だろ」
「そうだったな」
神室真澄、愛衣がクラスで仲がいい女子生徒の1人。所謂ダウナー系というか口では面倒くさがりな女子だが、なんだかんだで付き合いはいいらしい。普段は足の不自由な坂柳有栖という女子の片腕代わりをしている。なんでも弱みを握ってるとか?
「そろそろ買い物に戻らないと。愛衣を待たせちまう」
「それはすまない。なにか言われたら俺のせいにしてくれ」
「気にするな。ちょっと遅れたくらいでなんかする奴じゃない。じゃな」
葛城と別れ買い物を再開する。確かに夏休みのバカンスは懸念があるが、今考えたってしょうがない。本人だっていないのだし。おっ、キャベツが安い。買ってこ。
お兄ちゃんと別れ、私は日用品売り場にやってきた。買いに来たのは私とお兄ちゃんのシャンプー類。髪質が違うのでそれぞれにあったシャンプーを使う必要があるから、いつも2種類購入している。
「えーっと、あったこれだ」
お兄ちゃんがいつも使っているシャンプーをカゴに入れ、女性用シャンプーのコーナーに来た。女性用の方が種類が多いので、探すのはちょっと大変だ。
「あれっ、神室さんだ」
「ん?ああ、火神も来てたんだ」
シャンプー売り場にクラスメイトである神室真澄さんが立っていた。彼女もシャンプーとかを買いに来たのだろう。
「珍しいわね。火神が1人で買い物してるの。いつも兄と一緒だと思った」
「神室さんこそ、今日は坂柳さんと一緒じゃないんだね」
「あいつの話はしないで。私だっていつも一緒って訳じゃないわ」
よく一緒にいるのを見るけど、別に仲がいい訳じゃないんだよね。なんというか、都合のいい女みたいな?よく命令されて動いてる気がする。なんで従っているんだろう?
「そんなことよりシャンプー探しに来たんでしょ?さっさと選びなさいよ」
「そのつもりだよ。...ちなみに神室さんはどれ使ってる?」
「なんで聞くのよ?」
「だって神室さん、髪綺麗だし。同じ女としては気になっちゃうんだよね」
「髪なら火神の方が綺麗だと思うけど?...これよ」
聞かれたら一応答えてくれる。そういう所が神室さんの可愛いとこなんだよね。本気で嫌なら答えないみたいだけど。
「私はこっち。これが1番しっくりくるんだ」
「はいはい。取ったならさっさと行きなさいよ」
「はぁい。じゃまた学校でね」
そう言って神室さんと別れる。雑に追っ払われた感じだけど彼女はいつもこんな感じだから気にしない。多分1人が好きなタイプなんだろう、というのがAクラス内での彼女への認識となっている。
後はティッシュとか洗剤とかも買い貯めしておく。ポイントが無くなって買えなくなったら不衛生だし、水だけじゃ汚れは落としきれないからね。他に足りないものは...うん、これくらいで大丈夫なはず。まあ無かったらまた来ればいいだけだもんね。こういう時歩いて来れる距離って便利だね。
「さーてそろそろレジ行こうかな。...あれ?これって...」
レジに向かう途中である物が目に入った。昔友達の家で見せて貰ったDVDで使われた物と同じ物だ。確かマッサージとかにも使われたっけ。お兄ちゃんには勉強いっぱい見て貰ったし、お礼に私が一肌脱ぐとしようかな。なんて思いながら、ソレを3つカゴに入れてレジに向かった。貰ったポイントは半分も減らなかった。節約は大事。
お兄ちゃんと決めた集合場所に戻って来たが、お兄ちゃんはまだ戻って来てはいなかった。やっぱりあっちの方が荷物とか多くなりそうだし、まだかかるかも。もうちょっとしたら連絡してみようかな。近くに自販機とベンチがあるのでそこに移動する。お茶を買ってベンチで一服。
「おっ、君可愛いね、俺たちと遊ばねぇ?」
はっ?
火神愛衣の秘密3
中学時代の友人はだいたい女子。たまに友人の家に遊びに行ってDVDとか一緒に見たりしていた。その友人には歳が少し離れた兄がいるらしく、愛衣はあったことは無いが、友人と見ていたDVDはだいたい友人の兄の私物だったりする。