テスト返却も終わり、今回の試験で退学になったバカはいなかった。Dクラスから1人出そうになったが、どうやってかは分からないが綾小路が動いて赤点退学は無くなった。ポイントが殆どない今のDクラスじゃ救済するのも大変だろうに、何を考えているのやら。まあそんな過ぎたことより次の問題に取り掛からなければならない。保険医の星之宮先生が俺達兄妹に話があると。トラウマによる恐怖症以外悪いところは無いはずなんだけどな...。
「保険医に呼び出されるって、なにかした覚えとかあるか?」
「お兄ちゃんが覚えてないなら無いよ。いつも一緒にいるんだし、怪我したさせた事も無いし」
だよなぁ...いったい何の話だろうか。
「それよりお兄ちゃん」
「ん、何?」
「今日は大丈夫?」
「...ああ、相手が1人なら何とか」
「キツかったら言ってよ?」
「その時はまた頼んだ」
「はーい」
保健室に着いて中に入る。呼び出したのはあっちなんだし、いると思ったがHRがまだ終わっていないのだろうか?そういえばBクラスってまだ殆ど知らないな。聞くところによると1年の中でも随分仲のいいクラスで団結力が強いと聞く。まあBクラスなんだから能力だけでなく協調性なんかも平均以上なのだろう。...Dクラスと比べてホントに同じ高校生か疑いたくなるな。
「あら?もう来てたのね。待たせちゃってごめんなさいね」
入口を向くと今来た感じで星之宮先生が立っていた。
「いえ、私達も来たばかりですので」
「そう?じゃあ早速お話しましょうか。内容は、あなた達兄妹についてよ」
俺達兄妹について。星之宮先生は俺と愛衣の兄妹という関係になにか引っかかる事でもあったのだろうか?至って普通の兄妹だと思うんだがな...。
「ハッキリ言うわ、あなた達は兄妹としてかなり特殊なケースにあるわ」
「特殊?どういう事ですか?」
「いきなりこんなことを言われてもピンとは来ないわよね。分かりやすく言えば2人は共依存に近い症状があると思われるの」
「共依存ですか?」
共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存し、お互いの自立や健全な境界線が損なわれている状態を指す人間関係の悪習慣。とされるのが一般的な解釈とされている。お互いが「相手なしではいられない」と強く依存し合い、自分のことよりも相手を最優先にしてしまう関係性を共依存とされる。
「まあ意味合いはちょっと違うかもだけど、あなた達を表すにはぴったりな言葉じゃないかしら」
「私はそうは思いません。依存って『ソレ無しではいられない』って状態ですよね?私もお兄ちゃんも、互いがいない状態で問題なく授業を受けれていますし、日常生活だって...」
「それは普段の生活を見ていればわかるわ。真嶋先生や茶柱先生からの報告も聞いているし、今の生活なら問題は無いでしょうね。でも私が気にしているのは先の事よ」
「先の事...将来ですか」
「ええ、最悪共依存は治らなくても生きてはいけるわ。...でもね、それは夫婦やカップルの場合の話。あなた達のような兄妹では、ずっと一緒という訳にはいかないでしょう?」
夫婦やカップルならば別れることがない限りずっと一緒にいられる。でも兄妹は違う。彼氏彼女が出来たり、進学や就職で家を出て離れ離れになるのが当たり前だろう。つまり、ずっと一緒にいられる保証が無い。それが私達兄妹にも当てはまると言いたいのだろう。
「ずっと一緒にいられる保証がない以上、依存は終わらせるべきと思うわ。これはあなた達の為と思って言っているの」
クラス間で闘争が日常となるこの学校で他クラスの生徒にここまで考えてくれる教師もなかなかいないだろう。それともこれも仕事としてこなしているのか、真意は分からないけど。でも私も、お兄ちゃんも、誰に何と言われようとこの答えは変わらない。
「私達はあくまで兄妹です」
何処にでもいる他所よりちょっと仲のいい兄妹。それが私達、火神兄妹。周りが共依存だとか、特殊だとか、異常だとか言われようが関係ない。これが、このかたちが、私達という兄妹のかたち。なにものにもこわすことはできない私たちの愛のかたち。
「...そう、まあ無理強いをするつもりはないわ。...今日はもう帰って大丈夫よ。ごめんなさいね、時間貰っちゃって。火神くんが大丈夫かしら?」
お兄ちゃんは話の間ずっと下を向いていた。時間としてはそこまで長くは無いが、星之宮先生の距離がテーブル1個隔てただけしか無いので、結構我慢しているみたい。
「部屋に戻る頃には元に戻ってますよ。ほらお兄ちゃん、行くよ」
「...お、おう...」
失礼しました、と2人は帰路に立つ。それを見送って星乃宮は考える。
(『アレ』はもう治らないかもしれないわね...)
共依存の完治とは行かずとも改善の余地に期待したが、『あくまで兄妹』。この発言によって、火神兄妹、少なくとも妹である愛衣は現状を兄妹の範疇と捉えていて、依存を自覚していないことを理解させられた。恐らくは兄も同じ考えなのかもしれない。となると手の出しようがない。
(やっぱり、過去の事件が関わっているのかしらね...)
2人を調べているうちに知った2つの事件。これが火神兄妹を『こう』した原因なのかと思い始めた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「流石にもう落ち着いた。ありがとう」
「どういたしまして」
部屋に着く頃には気分も落ち着いて気持ち悪さも無くなっていた。
「しかし『共依存』ねぇ...。気にした事なかったな」
「そうだねー。私達にとっては当たり前だもんね」
環境が違えば考えも価値観も違う。周りにとって異常に思える俺達兄妹のかたちは、俺達にとっては当たり前のかたちだ。何と言われようとも変わることは無いだろう。
難しい話は大変だぁ