最近平田から話を聞かされる。内容はCクラスの連中がうちのクラスメイトにちょっかいを出しているというものだ。直接手を出して来ることはなく、言いがかりや悪口、煽りやらなんやらと突っかかってくるそうだ。テストも終わって気が緩んできたのか、自分たちより格下の俺達をおちょくって来る。その事に不安を覚えたクラスの女子から平田に話がいき、対策としてしばらくは1人で行動しない事になった。それでも1人行動する者はいるが。
「おにーちゃん、おっとと。ごめんねぇ」
「こちらこそ、すいません...では」
俺を尋ねて来た愛衣が人とぶつかりそうになる。あれは...佐倉といったか。彼女も基本1人でいるみたいで、平田も心配していた。でもなんというか、自分からコミュニケーションを避けている感じではある。コミュ障とかではないみたいだし、ただ人といるのが嫌いなだけかもしれない。
「ねぇお兄ちゃん、今の子って...」
「佐倉がどうかしたか?」
「...部屋に戻ってから話すよ。プライバシーもあるし」
え何の話?誰の話?急に怖いんだけど。まあ気にしたってしょうがないか。後で話してくれるみたいだし。
「おいおい、Dクラスの不良品と一緒にいると、バカが移るぜぇ?」
「そんな不良品じゃなくて俺達と遊ばねえかぁ?」
昇降口付近でCクラス生に絡まれる。多分つけてきたか待ち伏せをしているのだろう。随分暇な連中だ。
「...今日はチキンな気分かなー唐揚げとか」
「じゃあ唐揚げにするか。弁当のおかずにもしやすいしな」
「おいっ!無視すんじゃねぇよ!」
「うるさいなぁ。私達は君達ほど暇じゃないの。ナンパなら他所でやって」
「お前ほどいい女、不良品のこいつにゃもったいねぇ。だから...」
「聞いたお兄ちゃん?いい女だって。やったね」
「そんなの昔から知ってるが?だけどこんなチンピラ風情に言われて嬉しいか?」
「実はあんまり...?というわけでごめんねぇ、バイバイ。...お兄ちゃんが不良品なら私だって不良品だよ」
Cクラスの連中を避けていく。しつこく突っかかって来ると思ったがそんな事はなく、誰かと連絡しているようだった。
「それで、佐倉がどうかしたのか?」
部屋に帰ってきて早々に問う。
「うん、これみて」
見せられたのは1枚の画像。写っているのはにこやかに笑う愛らしい顔と、同年代とは思えない豊満な肉体で見たものを虜にしてしまいそうなグラビアアイドル『雫』だった。
「雫と佐倉が同一人物と?」
「確証は無いけど。でも彼女のブログにこんな写真もあるの」
次に見せたのは部屋で撮ったであろう1枚。雫がアップで撮られているが、背景をよく見ると一人部屋の間取りに似ている部分がある。
「それに雫は今年に入ってからは活動を休止、理由は学業に専念するため」
「今年進学だったら可能性はあるか。で?佐倉が雫だとして、お前はどうしたいんだ?まさかバラすようなことはしないだろ?」
「そりゃもちろん、迷惑になるような事はしないよ?もし本人だったら...フフッ」
「...ほどほどにな...」
翌日。
「佐倉さん。ちょっといいかな?」
「えっ?あ、あの...」
「...私、貴方の秘密を知ってるよ?雫ちゃん?」
「う、嘘...!?」
「ばらされたくなかったら、放課後時間ちょーだい?」
よっぽど怖いのか恐る恐る首を縦に振る。
「ありがとっ。あとバラすつもりは無いから安心してね」
放課後に愛衣からメールが来る。
『佐倉さん部屋に呼ぶからお菓子買ってきて』
ポイントは俺が持ってるし、相手を待たせる訳にもいかないし俺が行くのが無難だろう。スーパー行って小分けの菓子を買うか。相手の好みなんて分からないし似たものは避けよう。スナック、せんべい、ミニドーナツなど、ここのスーパーは菓子類もバラエティ豊かで選ぶだけで時間がかかってしまう。それだけ企業も頑張っているって事だろうけど。
会計を済ませ部屋に戻る。部屋に入る時はなるべく音を立てて存在感をアピールする。
「買ってきたぞー」
「うっ...んぅ...ふっんぅ...」
リビングに入ると佐倉は息を切らしてテーブルに突っ伏していた。愛衣は自分の両手を眺めながらわなわなしていた。
「...お兄ちゃん」
「言おうとしてることはなんとなく分かるが、言ってみろ」
「この子、すごいおっぱいだよ」
言うと思った事をそのまま発した。
「なんて言うかね、私とは大違いだよ。肌も綺麗だし形もいい。さわり心地にも文句もつけられない。まさに理想のおっぱいだよ!」
「そんな佐倉の胸を正体バラすと脅して揉みしだいたってところか」
「こんな最高のおっぱい、揉まない方が無作法というものだよ」
「作法かどうかは知らんがとりあえず失礼だよお前」
愛衣の胸だって負けず劣らずの大きさと形の良さだとは思うが、その当人が言うなら相当なものなのだろう。揉む気はないが。
「そろそろ落ち着いたか?」
「はい、ありがとうございます」
少しして落ち着きを取り戻し、ちゃんと会話が出来るくらいにはなっていた。
「すまないな、うちの妹が。こいつ他人の胸が好きなんだよ」
「そうなんですか...好きなものがあるっていいと思います」
優しいなぁ。愛衣のこの話聞くと良く引かれたりするもんだから、こういう反応はありがたいもんだ。
「でも周りには言わないでね。私にもイメージってものがあるから」
「どんなイメージだよ」
「ブラコン妹」
「大丈夫です。話す相手もいないので...」
「あー...なんかごめんね」
「気にしてないです。...私も人に言えない秘密があるので」
生きてりゃ秘密や隠し事のひとつやふたつ、珍しいものでも無いだろう。俺達だって過去の事件についてはここに来てから話してないし。
「秘密を持つことは悪いことじゃ無いだろ。誰だって持ってる」
「そう、ですよね...私、そろそろ帰ります」
「うん、今日はごめんねいきなり。脅すようなことしちゃって」
「いえ、こうして誰かと話したのも久しぶりだったから、いい気分転換になりました、では」
そう言って立ち上がった佐倉のブレザーから1枚の紙が落ちる。俺はそれを拾い、渡そうとする。
「これ、おちた、ぞ...?」
ちらっと見えた内容的に何かの手紙だろうか、紙の最後までびっしり詰められた文章に目がいく。
「え?あっ、それ...」
「...なんだよ、これ」
書かれていたのは恐らく佐倉に宛られたと思える手紙。内容は...言葉にするには難しく、一言で言うなら。
「なになに?...うわ、キモ」
『気持ち悪い』それだけで説明出来てしまうほどの醜悪さが滲み出ていた。
「これ、佐倉が書いたものじゃないよな?」
「え、あっと...はい、今朝届いていて」
「犯人に心当たりは?」
「いえ...」
「他にあったりする?いつから来るようになったとかわかる?」
現状でわかる情報を集め、整理する。まとめると、
手紙はほぼ毎日来る。内容は殆ど一緒。
来るようになったのはカメラを買った日から。
ケヤキモールの店員が怪しい。
くらいだった。
「これ、学校に言った方が良くない?」
「そうすると下手に騒ぎになって佐倉は注目の的になる。彼女の性格上それは避けたい。あと学校がどこまで介入するか分からないから期待も出来ない。何処に犯人がいるかも分からない。だから...佐倉」
「は、はい」
「明日の放課後、ケヤキモールに行こう」
「は、はい?」
どうやって綾小路巻き込もうか...