第九十四話:極寒の裏方(コールド・スイーパー)
ユーラシア大陸の西の果て、イギリスから飛び立った大型軍用輸送機の冷たい貨物室の中で、瀬川空はただひたすらに暗がりに身を潜めていた。
断熱材の薄い無骨な機体を透過してくる高高度の冷気は、学園都市の完璧な気温管理に慣れきった少年の身体の芯までを容易く凍りつかせようとしてくる。巨大なプロペラエンジンが発する鼓膜を劈くような轟音と、機体を容赦なく揺さぶる乱気流の暴力的な振動の中、空は腕を組み、目を閉じて自身の奥底に意識を沈めていた。
大覇星祭の裏で
この数ヶ月間、限界のさらに向こう側まで酷使され続けてきた空の肉体は、すでに悲鳴を上げるのすら通り越している。絶え間なくバックグラウンドで稼働している『肉体再生』と『痛覚遮断』の処理がなければ、とうの昔に全身の細胞が崩壊し、ただの肉塊に成り果てていてもおかしくない状態だった。今もなお、千切れた筋繊維を無理やり縫い合わせる幻痛が、鈍いノイズとなって脳髄に送り込まれ続けている。
やがて、空の眼下には、見渡す限りの純白の地獄――第三次世界大戦の主戦場たるロシアの雪原が広がっていた。
厚い雲の隙間から見下ろす大地は、月明かりを反射して青白く光る、果てのない死と氷の世界だ。至る所で魔術と科学の兵器が激突する閃光が瞬き、世界が終わりに向かって突き進んでいることを無言で告げている。
「……ッ、寒ぃな、おい」
輸送機がロシア上空、目的の座標に差し掛かったタイミングを見計らい、空は強引に手動でハッチのロックをこじ開け、夜の空へと躊躇うことなくその身を躍らせた。
高度数千メートルからの自由落下。当然、パラシュートなどという気の利いた装備はないし、高高度用の酸素マスクすら身につけていない。
吹き付けるマイナス数十度という極寒の風が、無数の見えない氷の刃となって空の体温と体力を容赦なく削り取っていく。まつ毛は瞬時に凍りつき、肺に吸い込む空気は気管支を切り裂くガラス片のように痛い。
だが、その極限の環境下で、空の身体をギリギリのところで繋ぎ止めているものがあった。
(シノのやつ、本当に天才だな。保温材だけじゃなく、こんな極寒の向かい風でも動きが全く阻害されない)
学園都市の廃研究所で、空の帰りを待つ工学階担当の妹・シノ。彼女が徹夜で仕立て直し、送り出してくれた冬用の黒いロングコートが、物理的な防弾・防刃性能だけでなく、このロシアの異常な低温から空の生命活動を維持するための完璧な断熱層を形成してくれていたのだ。
コートの裏地にみっちりと仕込まれたチタン合金のペンや、タングステン内蔵のビー玉といった触媒の重みが、空に「帰るべき場所」があることを痛いほどに実感させる。
自分は空っぽの器だ。だが、この懐にある家族の不器用な愛情の温もりだけが、空の空洞化した胸の奥を、凍てつく死の空にあっても確かに温め、彼を人間たらしめていた。
地表が、凄まじい速度で迫ってくる。
落下速度はすでに終端速度に達しており、このまま激突すれば、いかに強固な防壁を張ろうともトマトのように弾け飛んで即死する。
『エミュレート――
落下しながら、空は空洞化された演算領域に二つの異なる法則を同時に走らせた。
極寒と疲労で動きの鈍い脳の毛細血管が、強制的な並列処理によってチリッと焼けるような痛みを放つ。だが、バックグラウンドの『痛覚遮断』の出力を引き上げ、その自壊の痛みを強引に握り潰す。
足元の大気を極限まで圧縮して、見えない流体のクッションを何十層にもわたって形成し、そこに『念動力』のベクトルで強引に上方向への反発エネルギーを発生させ、落下の速度を段階的に、かつ劇的に相殺していく。
急激なGの変化により内臓が口から飛び出しそうになるのを奥歯を噛み締めて耐え、空は地表すれすれの完璧なタイミングで最後のベクトルを調整した。
ズザザァァァンッ!!
雪煙を高く舞い上げながら、空はロシアの凍てつく大地へと、まるで一羽の鴉が舞い降りるように音もなく着地した。
一切の足跡を残さず、雪の表面を滑るような完璧な着地。
「はぁっ……はぁ……」
肺に吸い込む空気が、凍りつくように冷たい。吐き出す息は瞬時に白く濁り、空中で凍りついてダイヤモンドダストのようにキラキラと舞って消えた。
空はコートに付着した雪を軽く払い、ポケットから漆黒の暗部専用端末を取り出した。
学園都市の最深部のネットワークは、先日未知の存在によって一時的に遮断されたが、今は完全に復旧している。さらに、第六階層のコンピュータ技術担当である末っ子・イツキに管理者権限の一部を預けてあるため、ここからでも学園都市の監視ネットワークや、軍事衛星のデータ、さらには暗号化された各国の軍事通信にまで、裏回線から自由にアクセスできた。
「さて……主役たちは、どこで派手にやってる?」
血と汚れが染み付いた指先で画面をスワイプする。
表示されたロシアの広大なマップ。そこに、あらかじめ追跡コードを仕込んでおいたいくつか点滅する反応があった。
一つは、この雪原を当てもなく彷徨っているであろう、一組の少年と少女の生体反応。
学園都市の暗部組織『アイテム』の残党、浜面仕上と滝壺理后だ。
「浜面……。
空の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
だが、マップの情報をさらに深く解析すると、彼らが身を寄せているであろうロシアの小さな集落に向かって、多数の武装集団の反応が急速に接近しているのが確認できた。
名目上はロシア軍所属のプライベーティア――実態は、戦争の混乱に乗じて略奪と殺戮を楽しむだけの、正規軍から弾かれたゴロツキの傭兵どもだ。彼らの目的は、単なる道楽で非武装の村人を殺し、物資を奪うことである。
ただのチンピラや不良の群れであれば、元・
しかし、奴らは最新鋭のアサルトライフルや対戦車グレネード、さらには軍用の重装甲車にまで乗って、殺しを純粋に楽しむためにやって来ているのだ。いくらレベル5を二度も単独撃破した奇跡の少年・浜面といえど、広大な雪原という遮蔽物のない戦場で、重武装の軍隊を相手にするのはどう考えても限界がある。
「まずは、あいつらのフォローからか。……俺が手を下すまでもなく、あの不良少年は自力でどうにかしそうだがな。だが、万が一ってこともある」
空は、雪に足を取られないよう『摩擦ゼロ』と『空力使い』のベクトルを足裏に展開した。
新雪を踏み抜くことなく、大気との摩擦を極限まで減らした状態で、まるで氷の上を滑空するスケーターのように、空はロシアの漆黒の夜の雪原を集落の方角へと音もなく駆け出した。
♢
ロシアの小さな集落。
そこではすでに、プライベーティアの部隊と、浜面仕上の絶望的な死闘が始まっていた。
村人たちを守るため、そして何より愛する少女である滝壺理后を絶対に守り抜くため。何の異能も持たない、ただの不良少年が、奪った自動小銃を手に、数多の人間を殺してきた戦闘のプロフェッショナルたちを相手に、泥臭いゲリラ戦を展開している。
「……いい意地だぜ、本当に」
集落を見下ろす雪山の斜面。吹きすさぶ吹雪を遮る針葉樹の陰に身を潜めた空は、息を殺してその光景を暗視スコープ越しに見つめていた。
浜面は、地形の起伏、放棄された車両、建物の死角、そして手作りのトラップとハッタリを駆使して、圧倒的な戦力差を覆し、互角以上に渡り合っている。
彼のあの泥臭く、しかし決して折れない『生への執着』と『誰かを守るための意志』は、空の空洞化された胸の奥にも響くものがある。空が直接手を下さずとも、彼自身の力で目の前の困難を打ち破るだけのポテンシャルを、浜面仕上という少年は確かに持っていた。
だが、空の研ぎ澄まされたエミュレーターの眼が捉えた現実は、それほど甘くはなかった。
プライベーティアの戦力は、浜面が正面で相対している連中だけではなかったのだ。
浜面の死角となる集落の裏手――雪に覆われた丘陵地帯の向こう側から、増援の重装甲車と別働隊の兵士数十名が、無音で村を包囲しようと忍び寄っていた。
浜面がいかに奮闘し、目の前の敵をあざむこうとも、四方八方から一斉に重火器で制圧されれば、無能力者の彼には対処しきれない。村人たちもろとも、一瞬でハチの巣にされて終わる。
「主人公の背中は、いつだって隙だらけだからな。……だからこそ、裏方がいる」
空はコートの裏地に手を差し込み、シノがこの極寒の環境でも素材が劣化しないように特殊コーティングを施してくれた『トランプ』と、タングステンカーバイドを内蔵した比重の重い『ビー玉』を指の間に挟み込んだ。
視線だけで目標の空間座標を三次元的にマッピングし、脳内の空洞化されたパーソナルリアリティに、複数の致死的な演算をロードする。
『エミュレート――
手首の極めて軽いスナップだけで、音もなくトランプが夜の雪原を舞った。
空気抵抗を完全に無視して飛翔した数枚のカードは、肉眼では捉えられない速度で集落の裏手へと到達する。
そして、密かに接近していた装甲車のタイヤ、サスペンション、そして駆動エンジンのシリンダー部分の空間が、突如として十一次元的に『ズレ』て切断された。
ガクンッ!!
金属が軋む音すら立てず、不自然な音と共に重装甲車が雪に深く沈み込み、完全に沈黙した。エンジンの動力が根元から断たれ、もはやただの鉄の棺桶と化したのだ。
「な、なんだ!? 地雷か!?」
「いや、爆発音はなかった! 狙撃だ、散開しろッ!」
パニックに陥る増援のロシア兵たち。彼らが慌ててアサルトライフルを構え、暗視ゴーグルを下ろして周囲の雪原を警戒しようとした、その瞬間。
シュッ――!
空の親指の爪から弾き出されたビー玉が、大気との摩擦を完全に消し去った『
音速を遥かに超える不可視の弾丸。
だが、空の狙いは兵士たちの命ではない。
ビー玉は、兵士たちの持っていた自動小銃の機関部――レシーバーや銃身だけを正確に粉砕し、その強烈な衝撃波と運動エネルギーの余波だけで、彼らの脳を揺らして意識を次々と刈り取っていく。
「が、はァッ……!?」
「あ、ぐ……」
引き金を引く間も与えられず、雪の上にバタバタと倒れ伏す兵士たち。
浜面が村民達と共に正面から血みどろの死闘を繰り広げているその真裏で、彼を背後から蹂躙するはずだった数十名の増援部隊は、空の手によって誰一人として村に足を踏み入れることなく、完全に、そして静かに無力化された。
「……一つ、片付いたな」
空は、熱を持った自身の指先を冷たい雪に押し当てて冷やしながら、小さく白く濁る息を吐き出した。
多重並列演算の代償として、空の頭蓋骨の中で脳の毛細血管がパチンと弾ける音がした。鼻腔からツーッと赤い血が垂れ落ちるが、マイナス数十度の外気に触れた瞬間、血は瞬時に凍りつき、氷の粒となって雪の上にポロリとこぼれ落ちた。
空は、凍りついた血を無造作に手袋の甲で拭い去り、バックグラウンドの『肉体再生』を回して脳血管を強引に修復する。
やがて、集落の正面の方から巨大な爆発音が響き渡り、火柱が上がった。
浜面が、その機転と執念で見事にプライベーティアを退け、絶体絶命の危機を自らの手で打破したのだ。
さらに、遠くから別の巨大な影――かつて学園都市で空と激突した『神の右席』後方のアックアが現れ、その圧倒的な武力で残存するプライベーティアの部隊を容赦なく蹴散らしていくのが見えた。
(アックアまでロシアに来てやがったか。あの大男がいるなら……あの無能力者の安全は、ひとまず確保されたと見ていいな)
空は、浜面と滝壺が身を寄せ合いながら、無事に集落を離れて安全な場所へと向かっていくのをスコープ越しに見届けた。
あの不良少年は、学園都市の暗部で命をすり潰されるだけの存在から、自らの手で運命を切り開く本物の『主人公』の一人へと成長を遂げている。
その確かな歩みを見届けることができただけでも、ロシアの極寒の地まで足を運んだ価値はあったと空は思った。
空は再び暗部端末の画面に目を落とした。
次なる『主役』の足取りを、影から支えるために。
「次は……上条、お前だ」
♢
イギリスから上条を追ったのは、空だけでは無い。『新たなる光』の魔術師・レッサーもまた、単身で上条を追跡し、行動を共にしているはずだった。
空は、暗部端末のマップに表示される二つの生体反応と、彼らが向かっているであろう予測ルートを照らし合わせた。
彼らは今、第三次世界大戦の火種を消し、インデックスを救うための手がかりを求めて、エリザリーナ独立国同盟へ向けてロシア軍が展開する危険地帯を正面から突っ切ろうとしている。
「あのお人好しが、地雷でも踏んでミンチになったら、俺がわざわざロシアまで来た意味がねぇからな。あいつは右手の『幻想殺し』以外は、ただの不幸な高校生なんだ」
空は再び雪原を力強く蹴り、猛吹雪が吹き荒れる極寒の闇の中へと、音もなく消えていった。
♢
ロシアの広大な雪原を真っ二つに割るように、軍用車両や物資輸送の深い轍が走る荒野。
上条当麻とレッサーが通るであろうその最短ルートには、ロシア軍による強固な検問所が敷かれ、さらにはその周囲の雪の下に、凶悪な対人・対戦車地雷原が絨毯のように敷き詰められていた。
少しでもルートを外れれば、あるいは運悪く雪の下の信管を踏み抜けば、木っ端微塵に吹き飛ぶ死のトラップ。
「……エミュレート——『
空は、雪原の白に同化するように這いつくばって身を潜めながら、無機質な、あらゆる感情を排した眼差しで眼下の地雷原をスキャンしていた。
地雷の信管を物理的に破壊してしまえば、当然ながら大爆発が起きる。そうなればロシア軍の検問所がパニックに陥り、これからここを通過する上条たちに無用な警戒と戦闘を引き起こさせてしまう。
上条の体力を、こんな無意味な場所で消耗させるわけにはいかない。
だからこそ、空は『空間移動』の十一次元演算を用いて、雪の下に埋まっている地雷の『信管の撃鉄部分』だけを、数ミリ単位で空間転送して抜き取っていくという、神業のような、そして狂気じみた解体作業を黙々と続けていた。
一つや二つではない。
数百、数千という単位で雪の下に眠る殺意の塊。
それらをコンマ数秒単位で次々とロックオンし、撃鉄だけを安全な空間へと転送して無効化していく。
それは、人間の脳が処理できる情報量を遥かに凌駕する、地獄のような並列演算の連続だった。
「ッ……、ガッ……アァ……!」
極限の精密演算が続く中、ついに空の脳細胞が限界を迎え、物理的な悲鳴を上げた。
頭蓋骨の内部で、数え切れないほどの毛細血管がパパパンッ!と連鎖的に破裂する。
両目から、そして鼻腔から、真っ赤な血がドッと噴き出した。
強烈な吐き気を催し、空は口から大量の血反吐を雪の上へと吐き出す。
だが、マイナス三十度を下回る極寒の世界では、吐き出した血反吐は地面に届く前に空中で瞬時に凍りつき、真っ赤な氷の粒となって雪原にバラバラと乾いた音を立てて落ちた。
「はぁっ……はぁっ……!」
視界が血の涙で赤く染まる。凍りつくような痛みが全身の神経を苛み、指先の感覚すらとうに消失している。
それでも、空の指先は震えることなく、地雷の信管を抜き取る演算をただの一瞬も止めることはなかった。
(……上条。お前はいつも、誰かのためにボロボロになって戦っている。なら、俺はお前のために、この雪原を血反吐で舗装してやる)
自分がどれだけ血を流し、脳を焼き切ろうとも構わない。
あの馬鹿で真っ直ぐな親友が、安全な床の上を歩いて、真に倒すべき敵の元へと辿り着けるのであれば、これくらいの痛みなど安いものだ。
「本当に……世話の焼ける野郎だぜ」
数十分にも及ぶ孤独で壮絶な作業の末、上条たちが通るルート上の地雷は、すべてただの鉄の塊へと無力化された。
さらに、前方の検問所に配備されていたロシア軍の歩哨たちには、大気を操作して特殊な周波数の音波を届ける『催眠』を遠距離から放ち、深い眠りに就かせておく。
これで、舞台は完璧に整った。
空が血だまりの雪に埋もれるようにして物陰に身を隠し、しばらく乱れた呼吸を整えていると。
雪原の向こうから、身を縮こまらせながら歩いてくる上条当麻と、彼をからかうように付き纏い、やたらと距離を詰めるレッサーの姿が見えてきた。
「……っ寒ぃな! こんなことならイギリスでもうちょっとマシな防寒具を用意しておけばよかったな……」
「まあまあ、これも世界を救うための試練ですよ! ほら、私が温めてあげましょうか? 今なら特別なサービスですよ?」
「くっつくな! 余計に寒気がするわ! つーかお前のその尻尾、雪の上引きずってて邪魔じゃねぇのか!?」
相変わらずの、緊張感の欠片もないやり取り。
彼らは、自分たちが今歩いている雪の下に無数の地雷が埋まっており、それが全て事前に空の手によって信管を抜かれていることなど、知る由もない。
検問所の兵士たちが眠りこけているのを見ても、ただ「運良く見張りがサボっていて、安全なルートを通れた」としか思わないだろう。
「……それでいい」
空は、雪に背中を預けたまま、通り過ぎていく上条の背中を愛おしそうに見送った。
自分が血反吐を吐いて舗装した安全な道を、彼らは真っ直ぐに、英雄の足取りで進んでいく。
誰も自分の裏での死闘を知らない。誰も感謝しない。
だが、それでいいのだ。それこそが、瀬川空という『掃除屋』の存在意義であり、空っぽの器を満たしてくれる唯一の誇りなのだから。
空は、震える手でコートの奥深くのポケットから『あるもの』を取り出した。
イギリスの自動販売機で買っておいた、極甘の缶コーヒーだ。
すでにキンキンに冷え切り、振るとシャリシャリと音が鳴るほどシャーベット状に凍りかけている。だが、今の空には、この砂糖の塊のような甘さが唯一の『燃料』であり、限界を超えた脳を繋ぎ止めるための劇薬だった。
プシュッ、と凍りついたプルタブを強引に開け、シャーベット状になった甘い液体を喉の奥に流し込む。
「……ッ」
口の中に残っていた鉄錆のような血の味と、暴力的なまでの砂糖の甘さが混ざり合い、ひどく泥臭い味がした。
だが、凍えるような液体が焼き切れた脳髄に染み渡り、一時的な活力を確かに与えてくれる。
「俺は、お前たちが輝く舞台の床が抜けないように、裏から支えるだけだ」
上条当麻。
浜面仕上。
そして、この雪原のどこかにいるはずの、打ち止めを救うために血塗られた道を突き進む第一位・一方通行。
三人の主人公たちが、それぞれの『守るべきもの』のために、世界大戦という人類史上最大の理不尽に立ち向かおうとしている。
「存分にやってこい。……邪魔なノイズは、俺が全部掃除してやる」
空っぽの器の底に、確かな熱い炎を宿して。
極寒の雪原で、
彼が帰るべき、あの温かい廃研究所の日常を取り戻すために。
世界を巻き込む第三次世界大戦の真の絶望——右方のフィアンマの目論む大儀式や、大天使ガブリエルの顕現が、すぐそこまで迫っていることを。
その全てを裏から支え抜くという途方もない戦いが始まっていることを、まだ誰も知らなかった。