ヴェッチとミードに脳を焼かれたので初投稿です。

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もしもミード戦でチューンが気絶程度で済んでいたら。



『実像』と『虚像』

 

最初はちょっとした興味本位からだった。

 

『おれ…記憶が無いんだ』

 

『はあ?』

 

記憶も過去も無い、しかしこの冬はどうしても晴らしたい。

自分はどうすれば、なにをすればいいのか分からない。だけど歌を歌いたい。

何もかもが不明瞭な、そんな変なヤツ。

 

だけど、あいつと一緒だったから新しい仲間(ボット02 拍子型)ができた。ただのしがない奏士だったのに、ファン第一号(イエイエティ)もできちゃったりして。

 

あいつと一緒ならどこまでも羽ばたいていけるような気がした。今まで以上の自分(ギタリスト・チューン)にもなれた。

 

そして、あいつと一緒だったから…『実像(魔皇ミード)』と出会ってしまった。

 

それからだろうか、あいつの歌が何処か空虚なようになってしまったのは。

それでも、まだ信じたかった。

その歌と歌声だけは『実像(ホンモノ)』のハズ。

でも、聞こえちゃった。あたし、耳いいから。

 

『声が勝手に口を突く…』

 

まるで、地面が抜けたみたいな感覚。

 

あいつが『歌』を選ぶのはあいつなりの理由があるでもなく、まして自己表現のためでもない。ただ、歌えるから。たったそれだけの理由。

 

それを聞いて、理解して。今まで信じてきたものが全部崩れてしまった。

 

気が付けば、私の隣にあいつの姿はなかった。その代わりに立って、いや、座っていたのは……

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

『おれの唱に、酔いしれろ!』

 

『俺が、ミードだ…!』

 

寒い。手が悴んで、もう指も動かせない。

 

それでも、耳だけは聞こえる。

 

耳を通るのは、『実像(ホンモノ)』が奏でる(輪廻転唱)と、『虚像(ニセモノ)』が奏でる(ヴェッチ・ワールドツアー)の激突…いや、あんたはもう『虚像(ニセモノ)』なんかじゃなかったね。

 

『おまえの冬を終わらせる!そのためにおれは唱うんだ!』

 

その言葉にはどこにも()はなくて。それを否定する『実像(ミード)』の言葉を、ちょっとズレてるけど更に否定するボットも新しい姿(ボット03 弦楽型)になってて。

あたしは割って入ることができなかった。

 

だって、理解したから。今この場でハンパなのはあたしだけ。大した信念も覚悟もなく、その場の空気でコロコロ立場を変えて。上手くなったのはギターの腕だけ。『あたし(チューン)』はちっとも成長してないんだって。

 

もしもあたしがあんた達を見捨てないで、一緒に居られたら。そうなれた理由も聞けたのかな。

 

もっと聞かせて、あんたの、あんた達の唱を。

 

(ダメだよ…まだ、まだ聞かなきゃ…)

 

それなのに、あたしの身体はもう限界で。

瞼がゆっくりと降りてくる。

 

(…ヴェ…ッチ…)

 

もしもあたしが目を覚まして。あんたがまだあたしを許してくれるなら。そうしたら、今度は…

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

(…う、ん…)

 

全身を覆う寒気が消えて、目が覚める。

 

ここは…さっきと同じ、ミードの城。

 

「…そう、だ…二人は…!?」

 

急いで起き上がり、辺りを見渡す。そこに立っていたのは、白い衣装を纏った青髪の青年。間違いない、ヴェッチだ。

あいつが勝ったんだ。でも…それじゃあ、ミードはどこに…?

 

「チューン…」

 

「…ごめん、あたし…」

 

「いいんだ。それより聞いてくれ。おれ、ミードを倒したんだ。ようやく『実像(ホンモノ)』になれたんだ』

 

「…えっ…?」

 

何を、言ってるの?そんなことしなくても、あんたはもう疑いようもなく…

 

「ほら、ギター。前みたいに奏でてくれ、行くぞ…!」

 

混乱する私にギターを押し付け、マイクを握り息を吸う。そうして奏でられた歌声は…

 

まるで2つの声が重なったような、そんな歪な歌声だった。

 

「…なによそれ…」

 

どちらの声にも聞き覚えがある。片方はあたしが倒れる前に聞こえたヴェッチの声。でも、もう片方は…

 

「すご~い!遂にホンモノになれたんだね!ねっ!!」

 

「…トゥルース、ああそうだ。おれはようやくなったんだ、『実像(ホンモノ)』に…!」

 

(!?こいつ、いつの間に!?)

 

困惑するあたしを差し置いて、手鏡を持った変なヤツがどこからか現れる。

 

「ほらほら歌って!君の唱で冬を終わらせるんでしょ?ならもっともっと歌って、みんなを熱狂させなきゃ!」

 

「そうだ…あれ、チューン。大丈夫か?もし、まだ疲れてるなら、少し休んでからでも…」

 

「ひっ…!?」

 

差し伸べられた手に、つい怯えの感情が漏れる。

何も変わらないように見える目の前のあいつが、別の違う『何か』になってしまったような気がして。

 

「チューン…?」

 

「来ないで…来ないでよ!」

 

手を払い除け、一目散に城を出る。

ああ、また逃げちゃった。

 

でも、もう一秒だってここに居たくなかった。

 

これが、『実像(ホンモノ)』になるってことなの?

もしそうなら、あたしが追い求めてた『実像(ホンモノ)』は…

 

人生で二回目、全てが崩れ落ちていく感覚から必死に目を背け、あたしは冬の大地を走り続けた。

 





居ないあなたを探して 声を枯らす

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