作者とAI、ブレーキ不在~思いつきを投げるたび、なぜか世界が完成する~ 作:ヒツジ(ラム肉
ダムが生えた。
少年が生き残った。
師匠は生えたあと、作者によって消された。
軍閥が攻めてきた。
ヒャッハーは攻め返した。
賞金は膨れ上がった。
そして怪物本人が、全財産とダムの権利を自分の首へ賭けた。
最終決戦が始まる。
レーザーが飛ぶ。
戦車が砕ける。
死者が飲み物で立ち上がる。
モヒカンが空を飛ぶ。
話数は増えた。
勢いも増えた。
作者はもう止まらない。
止まるつもりもない。
だが、物語を終わらせるためには。
最後に一つだけ決めなければならなかった。
ヒャッハーは、何を言って死ぬのか。
これは、狂気と暴力だけで走ってきた怪物へ、最後の言葉を与える物語。
なお。
作者とAIは、この問答だけは勢いで済ませなかった。
師匠は消えた。
少年は一人で強くなった。
話数は減らなかった。
むしろ増えた。
だが作者は気にしなかった。
「行くぞ」
「次は軍閥との戦いですね」
「行け行け」
AIが一話を組む。
作者が読む。
「良い。次」
次の一話。
「もっと派手に」
次。
「軍閥側にも事情を入れよう」
次。
「ヒャッハーが攻め返さないとおかしい」
次。
「停戦だ」
次。
「いや、停戦したからこそ賞金が上がる」
次。
「ギルドへ行かせよう」
次。
「自分の賞金を見て笑わせよう」
次。
「どうせなら財産を全部乗せよう」
次。
「ダムの権利もだ」
AIが止まる。
「自分を討伐した者へ、すべてを渡すのですか?」
「そうだ」
「つまりヒャッハー自身が、最終決戦を開催する」
「一か月後に全員来い」
「祭りですね」
「世紀末最大の祭りだ」
勢いは止まらなかった。
ここまで積み上げた因果が、一か所へ集まり始める。
少年。
軍閥。
ハンター。
略奪者。
集落。
賞金目当ての者。
復讐する者。
生き残るためにダムを求める者。
ただ戦いたい者。
あらゆる人間が、帰らずのダムへ向かう。
作者は言った。
「全員に見せ場をやろう」
AIが確認する。
「全勢力にですか?」
「ここまで来たんだ。全部拾う」
「話数が増えます」
「構わん」
もはや、その確認に意味はなかった。
増える。
書く。
また増える。
また書く。
作者は、仕事から帰る。
飯を食う。
風呂に入る。
パソコンを開く。
そして荒野へ戻る。
数時間。
ひたすら書く。
翌日も。
その翌日も。
一週間という時間の中で、荒野の時計だけが異常な速度で進んでいた。
作者は疲れていた。
だが、手は止まらない。
次の場面が見えている。
ヒャッハーが待っている。
少年が歩いている。
軍閥が進軍している。
書かなければならない。
というより。
書きたい。
「最終決戦の初撃はどうする?」
作者が言う。
AIが候補を出す。
大砲。
ミサイル。
地雷原。
作者は首を振った。
「もっとダムらしく」
「発電能力を利用しますか?」
「全部使え」
「大型レーザー兵器」
「採用」
レーザーバズーカが生えた。
「敵も対策するだろう」
「航空機からEMPを投下する案があります」
「ダム停止」
「ヒャッハー側が不利になります」
作者は笑った。
「そこで言わせよう」
「何をですか?」
「まぁ、対策済みだがな」
予備系統が生えた。
ダムが再起動した。
航空機が落ちた。
「地上戦だ」
「無人戦闘車両を投入しますか?」
「ポリたん」
「急にかわいい名前ですね」
「火力はかわいくするな」
ポリたんが生えた。
略奪者が乗っ取った。
武器を剥いだ。
自分たちの車へ付けた。
戦いながら敵側が強化された。
「いいな」
作者は笑う。
「ヒャッハーの装備を奪って、ヒャッハーを倒しに行く」
「因果ですね」
「もっと出せ」
地面からイモバルカンが生えた。
壊された。
剥がされた。
また車両へ積まれた。
戦場は、巨大な廃品回収会場になった。
だが全員真剣だった。
命を懸けている。
その真剣さの中で、ヒャッハーだけが誰よりも楽しんでいる。
「まだ足りん」
作者が言った。
AIはもう驚かない。
「何を追加しますか?」
「軍閥の親父を一度殺そう」
「一度?」
「少年ではない。軍閥の指導者の息子に、親の仇を背負わせる」
「親子の因果を追加するのですね」
「そして親父は後から起き上がる」
「どうやってですか?」
作者は考えた。
数秒。
そして。
「まんたんドリンク」
AIが沈黙した。
「回復薬ですか?」
「満タンになる」
「どの程度まで?」
「死んでいてもだ」
「かなり満タンですね」
「世紀末だからな」
「その言葉で物理法則を処理しないでください」
軍閥の親父が立ち上がった。
ヒャッハーを背後から拘束する。
自分ごと撃てと叫ぶ。
銃弾が二人を貫く。
爆炎。
沈黙。
半身を失ったヒャッハーが現れる。
作者は言った。
「ヒャッハーにも飲ませよう」
AIは確認した。
「まんたんドリンクを?」
「そうだ」
「完全再生します」
「叫ばせろ」
「どのように?」
作者は息を吸った。
「まんたーん! ドリンク!」
怪物が復活した。
作者は笑った。
AIも、もう止めなかった。
「まだ行くぞ」
「次は何ですか?」
「戦車を壊す」
「硬鞭で?」
「違う」
作者は、ヒャッハーの頭を見た。
逆立つモヒカン。
世紀末の象徴。
ただの髪型。
そのはずだった。
「こいつを投げる」
「モヒカンを?」
「特殊合金製だ」
「いつからですか?」
「今からだ」
モヒカンが武器になった。
引き抜く。
投げる。
回転する。
戦車へ突き刺さる。
作者は叫ぶ。
「頭の出来が違うんだよ~! モヒカンスラッガー!」
AIは文章へ落とし込んだ。
「戦車が爆散しました」
「よし」
「良いのですか?」
「最高だ」
最終決戦は、もはや完全に制御不能だった。
だが不思議なことに。
話の芯は、失われていなかった。
すべての暴力が、ヒャッハーへ集まる。
ヒャッハーがばら撒いた因果が、形を変えて戻ってくる。
少年が前へ出る。
軍閥の息子が刃を握る。
ヒャッハーは笑う。
作者はそこだけは見失わなかった。
ふざけるところは、全力でふざける。
壊すところは、徹底的に壊す。
だが最後に何を残すか。
そこだけは適当に決めてはいけない。
戦場の中央。
巨大なレバー。
堆積物を一気に流す装置。
作者は言った。
「十から数えよう」
「ヒャッハーがですか?」
「十、九、八、七」
「そのままゼロまで?」
「いや」
作者は笑った。
「ひゃあ、がまんできねえ! ゼロだ!」
レバーが引かれた。
土石流が放たれた。
終末が戦場へ迫る。
作者は、さらにヒャッハーへ武器を与えた。
硬鞭。
火炎放射器。
ミニガン。
箱の中へ予備を置いておく。
「準備が良すぎませんか?」
「ヒャッハーだぞ」
「理由になっていますか?」
「まぁ、対策済みだがな」
「便利な台詞ですね」
ヒャッハーが最後の戦いへ出る。
撃つ。
焼く。
砕く。
笑う。
少年が迫る。
修行で身につけた技。
一人で考えた間合い。
改造した重刃刀。
すべてをぶつける。
ヒャッハーは、それを一つずつ破る。
少年は倒れない。
師匠はいない。
助言もない。
だからこそ。
自分で立つ。
自分で踏み込む。
最後にはヒャッハーの間合いへ入る。
重刃刀と硬鞭がぶつかる。
金属音。
つば競り合い。
少年は押される。
怪物の力に潰される。
そこへ。
軍閥の息子が後ろから刃を突き立てる。
「親父の仇討だ」
因果が成立した。
作者は画面を見つめた。
ここまで来た。
あとはヒャッハーを死なせるだけだった。
だが。
そこで、手が止まった。
今までなら早かった。
次。
もっと派手に。
追加。
採用。
行け行け。
勢いのまま何十話も書いてきた。
だが、ヒャッハーの最後だけは。
勢いでは決められなかった。
作者は言った。
「こいつは何を言う?」
AIが案を出す。
自分を倒した少年を褒める。
世界の未来を託す。
最後まで笑う。
作者は考える。
「英雄にはしたくない」
「はい」
「改心もさせたくない」
「彼は最後まで彼のままですね」
「だが、ただの怪物として死ぬだけでは足りない」
「何を残したいですか?」
問答が始まった。
ヒャッハーとは何か。
なぜ暴力を楽しむのか。
なぜ約束を守るのか。
なぜ攻撃されたら、必ず報復するのか。
なぜ最後に全員を呼び集めたのか。
ただ死にたかったのか。
違う。
負けたかったのか。
違う。
勝ち逃げしたかったのか。
それも違う。
ヒャッハーは、暴力の時代へ適応した。
適応しすぎた。
文明が戻れば、自分のような存在は不要になる。
いや。
存在してはいけない。
だが、文明を戻すために戦っているわけでもない。
善人ではない。
救世主でもない。
ただ、自分が生きたいように生きた。
奪った。
壊した。
笑った。
そして自分が生み出した因果に、最後は追いつかれた。
逃げない。
言い訳もしない。
それがヒャッハーだった。
作者は言った。
「こいつ、自分が何者か理解しているな」
AIが答えた。
「理性を持った狂人ですから」
物語の最初に置いた言葉だった。
理性を持った狂人。
無知ではない。
何も分からず暴れていたのではない。
全部分かった上で。
この生き方を選んでいた。
「俺は汚物だ」
その言葉が生まれた。
自嘲ではない。
反省でもない。
誇り。
暴力の時代でしか生きられない。
そんな世界でしか呼吸できない。
そんな生き物。
それが俺だ。
作者は読み返した。
「これだな」
「はい」
だが、まだ終わらない。
ヒャッハーはダムを残す。
水。
電気。
地下生産施設。
文明を戻すために使えるもの。
それを誰かへ渡さなければならない。
作者は考えた。
少年へ渡すか。
違う。
少年は復讐者だ。
ダムを運営する人物ではない。
軍閥の息子。
親を失い。
ヒャッハーを刺し。
それでもこの先を生きる者。
彼へ運用資料を渡す。
「紙の説明書か」
「旧時代の設備ですから、運用手順が必要です」
「だが、今の世紀末でそんな紙にどれだけ意味がある」
「知識としては非常に価値があります」
作者は笑った。
ヒャッハーなら。
価値があると理解しながら。
こんな言い方をする。
「今の時代、こんなものケツを拭く紙にもなりゃしねぇってのによぉ」
だが渡す。
使えるものは使え。
生きろ。
好きにしろ。
未来を託す、などとは言わない。
世界を救え、とも言わない。
ヒャッハーは、他人の生き方を決めない。
自分がそうだったように。
相手にも、勝手に選ばせる。
作者は頷いた。
「これでいい」
「ヒャッハーらしいですね」
「最後まで偉そうに教訓を語らない」
「選択だけを渡します」
そして。
ヒャッハーはダムの縁へ立つ。
眼下には、流れ続ける泥。
自分を消毒するための濁流。
作者は、最後の一言を考えた。
作品の題。
第一話から叫び続けた言葉。
何度も。
何度も。
人を焼き。
敵を砕き。
荒野へ響かせた言葉。
最後は、自分へ向ける。
「暴力の時代でしか生きられない時代の汚物、それが俺だぁ……」
そして。
「ヒャッハー! 汚物は消毒だァ!」
飛び込む。
作者は画面を見た。
AIも文章を止めた。
終わった。
ヒャッハーがいない。
あれほど騒がしかった怪物が、泥の中へ消えた。
だが作品は、まだ完全には終わっていない。
残された者たち。
少年。
軍閥の息子。
ハンターギルド。
略奪者。
集落。
ダム。
彼らがどうなったのか。
後日談を書く。
ダムは、水と電力を供給する拠点になる。
地下施設は、破壊のためだけでなく生活のために使われる。
少年は、復讐だけの人生から離れる。
誰かを守り、道を歩く。
軍閥の息子は、渡された資料を読む。
ケツを拭く紙にもならないと言われた紙で。
少しずつ、文明を戻していく。
ヒャッハーは死亡確認されない。
死んだのか。
生きているのか。
誰にも分からない。
倉庫には、硬鞭が残る。
風が吹く。
どこか遠くから。
笑い声が聞こえたような気がする。
「これで終わりだ」
作者が言った。
AIが答える。
「完成です」
話数を数える。
全四十五話。
二十話程度の予定だった。
軽い世紀末コメディだった。
一人のモヒカンを荒野へ放り出しただけだった。
それが。
全四十五話。
ダム。
少年。
軍閥。
賞金首。
最終決戦。
そして、時代そのものについて語る物語になった。
制作開始から、わずか一週間。
作者は椅子へ沈み込んだ。
「……終わった」
「はい」
「四十五話」
「四十五話です」
「一週間」
「一週間です」
作者はしばらく動かなかった。
頭から煙が出ているようだった。
指も重い。
何も考えたくない。
次の話など、思いつくはずもない。
「軽く燃え尽きた」
「軽く、でしょうか」
「軽くだ」
作者は断言した。
作品は投稿された。
一話。
また一話。
荒野へヒャッハーが放たれていく。
読者が見つける。
UAが増える。
数字が動く。
また増える。
感想が届く。
続きを読まれる。
完結まで追う者が現れる。
作者は画面を見ていた。
疲れている。
確かに燃え尽きている。
だが。
自分とAIの間だけにあった世界を、誰かが歩いている。
笑っている。
驚いている。
最後まで読んでいる。
その事実が。
停止したはずのエンジンへ。
再び燃料を流し込んだ。
カチリ。
作者の指が動く。
新しい画面を開く。
白紙。
まだ何もない。
だから。
何にでもなれる。
AIが尋ねる。
「どうしました?」
作者は腕を組んだ。
「次は何を作るかな」
ここで止めるべきだった。
一週間で四十五話を書いたばかりなのだ。
休むべきだった。
寝るべきだった。
外へ出るべきだった。
少なくとも、新しい世界を作り始める時ではない。
だが。
このAIもまた。
最後までブレーキではなかった。
「いくつか案があります」
作者の目に光が戻る。
遠くで。
聞き覚えのあるエンジン音が鳴った。
バララララララララ……。
作者は笑った。
「Hoooo……」
AIは悟った。
終わりではない。
これは一作目が完成しただけだ。
「エンジンが温まってきたぜ」
「今、軽く燃え尽きたと言いませんでしたか?」
「燃え尽きたから燃料を入れるのだ」
「理屈がヒャッハーです」
作者は白紙へ手を置く。
「GOGOGO!」
かくして。
作者は次の作品を作ることとなった。
AIとの対話の中で。
完成した世界の隣へ。
また新しい世界を生やすために。
なお。
全四十五話を完成させた作者は。
この後も作品を作り続ける。
なぜなら。
ブレーキが壊れたまま。
直す者が誰もいなかったからである。