ド田舎で魔術を修める転生者、人は彼女を魔女と呼ぶ 作:うぃっちくらふと
アレから、フレデリカは私の作った――作った……というか、錬成したというのが正しいけど――夕食を美味しそうに食べてくれた。
その間、私とフレデリカは村長やリノを交えて、ぽつりぽつりとお互いのことについて話したのだ。
どうもフレデリカは私と同じで親がいないらしく、私は少しだけ親近感を感じた。
彼女の場合は村ではなく、アルバート伯爵家に育てられた感じらしい。
「お互いに、守りたいものが似てるのですね」
「私は君ほど、強い信念を持っているわけではないけどね」
なんて話をした。
ずいぶんと謙遜をしているけれど、絶対そんなことはないと思うけどな。
アルバート伯爵のことを話すフレデリカは、尊敬する父を自慢したい娘そのものだ。
――何にしても、細かい話は明日しようということになった。
これはなんというか、フレデリカが一枚上手なんだろうな。
お互いのことを腹を割って話し、一日村に泊めた時点で――私としては、無視できない存在になったのだから。
「――ここ最近、大陸全体で魔物の出現が増加傾向になっている」
「ずいぶんと、規模の大きな話ですね」
「ああ、しかし君はピンと来ていないみたいだな」
「あいにくと、この辺りではまだそういった話は広まっていないものでして」
魔物の出現が増加傾向。
なんとも剣呑な話だ。
ともあれ、私とフレデリカは村長宅で話をしていた。
リノが出してくれたお茶に手を付けつつ、フレデリカからより詳しく話を効いていく。
「しかし――今回、君の村の近くにも魔物は出現した」
「まったくない話ではありません。私も過去、何度か魔物を退治してきたことがあります」
「それは勇敢だな。冒険者ではない普通の人間が魔物を討伐するのは、あまり褒められたことではないが……まぁ、君に関しては今更か」
なんだか、解っているといった様子でフレデリカは頷く。
含みのある言い方だなぁ。
悪い意味ではないのはわかるけれども。
「とはいえ、アレが先触れであるという可能性は否定できないだろう?」
「そうですね。といっても、今は様子を見るしかないのですが……ああそうだ、アレの更新はしておくべきか」
「アレ?」
「まぁ、ちょっとしたことですよ。リノ!」
言いながら、私はキッチンで片付けをしているリノに声をかける。
「はーい、なになに?」
「ちょっとこれ、いつものお守り。外に出る人に配っておいて」
「わかった! 私も持ってっていいよね!?」
「もちろん。っていうか外に出る人間で一番小さいのはリノだろ、ちゃんと持ってないとだめ」
「はーいはい」
いいながら、懐から取り出した大量のお守りをリノに手渡す。
これは魔物よけのお守りで、私が作ったものだ。
昨日の獣人相手には気休めかちょっとした時間稼ぎにしかならないだろうが、それくらいの力があれば十分である。
「定期的に、新しいものへ更新しています。長時間そのままにしておくと魔力が抜けて効果が薄れるので」
「なかなか便利なものを持っているな……それで、魔物の活性化についてなのだが」
「……解ってます。原因について、知恵はお貸しします」
正直、個人的には結構気になる題材だ。
魔物は魔力から生まれ、魔術とは類似性がある。
中には魔術を使う魔物だっているんだから、私の興味の対象だ。
ただし、だからといって”それ以上”の力を貸すとなると、私は尻込みしてしまう。
「ですけど……それ以上は難しいと思いますよ。魔物が活性化して多く出るということは、それだけ村の近くにも魔物がでるということです」
「解っているさ。君と一日話をして、君がこの村へ強い恩義を感じていることは、良く解っている」
「でしたら……」
「ああ、君を無理に外へ引っ張り出すつもりはない」
「ありがとうございます」
その言葉で、ホッとする。
話のわかるフレデリカ様でよかった。
これが普通の騎士や貴族だったら、絶対に問答無用で私を連れて行く。
だいたい、研究だったらここでもできるんだ。
それをどうして、わざわざ遠方まで足を運んでそこに滞在しなきゃいけないのだろう。
そもそも私は、本当にただの独学で魔術を学んだ魔女でしかない。
あまり期待されても、困る。
「ただ、私はもう少しこの村に滞在しようと思う」
「……と、いいますと?」
「少し気になるんだよ。もし魔物の出現が少しずつ”広がっていく”ものだとすれば、この村周辺での魔物の出現は今後増えていくはずだ」
「それを確認したい……と」
「そういうことだね」
それは確かに。
色々と合理的な判断だ。
この村で確認できることだし、何より私が側にいる。
私という専門家の力を借りつつ私の能力も測れるのだから、一石二鳥というやつだろう。
「まずは一旦、外に出ようか。建物の中で話をしていても始まらないだろう」
「……ですか」
そう言って、二人でお茶を飲み干すと、早速外へ出かけることにした。
○
それから、しばらく私とフレデリカは村の外周を歩いて回った。
話の内容は様々だが、今話しているのは魔物が出現しやすい”魔力の淀み”の話だ。
「この大陸には、いわゆる龍脈と呼ばれるマナの血管のようなものが流れているのは、フレデリカ様もご存知ですよね」
「まぁ、龍脈という言葉は聞いたことがある」
「血管には、良い流れの部分と悪い流れの部分があります。こう、血を流した時にすっと通る方と、障害物があって通らない方……みたいな」
私は左手を一直線に真っすぐ水平移動させ、次に右手をぐにゃぐにゃと揺らしながら移動させる。
「前者の場所には魔物が発生しにくく、そういった場所に人里は形成されていきます。そこに地理的な条件が重なって、街は発展していくわけですね」
「悪い流れの部分に、魔物が発生しやすい。……そうか、そういう部分にダンジョンが発生するわけだな」
「魔力は空間すら歪めますからね。それで、ええと。私が住むこの村を始めとした一帯は、散発的に極端に良い流れの場所が幾つか存在します」
それがこの村と、周辺の村だ。
一つ一つが小さな場所で、故に村は小さく点在している。
この極端に良い流れの場所でしか取れない薬草があって、それがこの辺りの特産品だ。
「魔物の出現が活発になっているなら、普通に考えて悪い流れの場所から、より多く魔物が出現し始めるはずです。この辺りは他の魔術師も調べてるとは思うのですが……」
「残念ながら、そういった傾向にはないようだ。もしそうなら、今頃ダンジョンで魔物が大量に発生しているはずだが、そうなってはいない」
つまり、本来の魔物の出現とは全く異なる流れで、魔物が出現しているということ。
ここまでは、どうやら外の人たちも調べているらしい。
いやそもそも、私が自分の知識だけで答えを出せる内容だ。
調べる以前の問題である。
「しかしまぁ、そういうことであれば私に話を持ちかけたのは、正解だったかも知れません」
「と、言うと?」
「この村周辺でしか、検証できないことがあります。これは私たちの住む村周辺特有の魔力的な現象で、おそらく知っているのは私だけです」
「なるほど……」
村人たちだって、このことは知らないだろう。
他所の村人なら、なおさらだ。
それにしても、他所の村人……かぁ。
「ただ、そのためにはちょっと面倒なことがあるんですよね」
「面倒……というと?」
「他の村にも協力を要請しないと行けなくて――」
私が、ちょっと憂鬱になりながら話を続けようとしたその時だった。
「――大変だ、ウィチタ!」
村人の一人が、息を切らせて叫びながら、こちらに寄ってくる。
「どうしたんだよ、ライルさん」
「それが――」
はぁ、はぁと何度か深呼吸をするライル。
その様子に、私は嫌な予感を覚えつつ――
「山菜を取りに行ったリノが、まだ戻らないんだ!」
私はフレデリカと外で話をし初めてから、すでに数時間が経過していることを、自覚した。
お読み頂きありがとうございます。
感想、評価いただけるとうれしいです。
特に高評価は非常に励みになります。
よろしくお願いいたします。