高校生にダウナー系の良さは分からないか 作:朝食はパン派
さあて、ようやく五月一日がやってきた。起きてから少しだけボーっとし、それからスマホを開く。残高を確認すると、約12万円。やっぱり6万ちょいしか増えてなかった。
それからチャットアプリを開くと、通知が五十件くらい溜まってた。全部クラス全体チャットだから、皆大慌てなんだろう。一之瀬、頑張れ。
『何これ』
ユキからもチャットが来た。今日は珍しく余裕を持って起きられたらしい、偉い偉い。感心しつつ、俺は返信を打ち込んだ。
『びっくらぽんだぜ』
『6万しか振り込まれてない』
『節約したのは正解だったな』
『知ってた?』
うーん、変に勘がいいのは止めて欲しい。君のような勘の良いガキは嫌いだけど、君は嫌いじゃない。
『まさか』
『それに俺が気付けると思う?』
『無理ね』
『悲しいけどそれが答だ』
別に、わざと馬鹿っぽく振舞ってるわけじゃない。それに学力だって平均よりはある。けど、この制度に四月中に気付ける奴なんてほぼいないだろ。それこそ、二次創作のチートオリジナル主人公くらいの筈だ。あと綾小路。と高円寺。
学校に行くと、最早五月一日の恒例行事となった『Sシステム関連+学校の制度説明』が行われた。クラスポイントやプライベートポイント、Aクラスの特権などについてだ。
俺は既に全部知っているので適当に聞き流していたけど、一之瀬とか網倉はめっちゃ真剣に聞いてて少し心苦しくなった。
「志摩くん結構点数高いね」
「網倉さんこそ、かなり頭いいんだ」
説明会の後に張り出された各個人の小テストの結果を見ながら、俺は網倉と会話をしている。当然赤点をとっている人もいなかったけど、それより平均点が高い。
「全然だよ。それに、帆波ちゃんとかもっと凄いし」
「………確かに。主席合格だったんだっけ? 凄いなほんと」
一之瀬の結果に目を移すと、全教科八十点代後半をとっていた。流石に最後の3問は解けなかったらしいけど、それは当然だから結局凄い。
「──────みんな~、ちょっといいかな?」
一日の授業も終了し、つい先ほど星之宮先生のSHRも終わったタイミングで、一之瀬が切り出した。
「今朝の話を聞いて、私がめちゃくちゃ困惑した。だって、聞いてた話と全然違うし、赤点とったら退学だなんて、普通じゃないもん」
「確かに」「私も~」
そんな声が聞こえてくる。このクラスは協調性が凄い、確か2年生編の途中で神崎も言ってたけど、正常性バイアスが作用していると言われても仕方ないレベルだ。
「だから、定期的に、試験期間以外でも勉強会をやろうと思うの。もちろん私も教師役として教えるし、できれば他の子にもやって欲しいんだよね。どうかな?」
勉強会、Bクラスがそんなことをやっているイメージはあまりないな。いや当然描写がないだけでクラスの意識を考えればやってるのは想像できるんだけども。
「──────っていうかさ。まずプライベートポイントの話しない?」
ある一人の生徒が言い出したことが発端だった。それからものの数分で、一之瀬にプライベートポイントを預けるっていう雰囲気になってしまった。
…………エグイッてぇ、流石にさ。いや知ってたよ? 原作でも最初期にその情報出てたけどさ、明らかに異常だよ、Bクラス。
プライベートポイントって言ったら自身のライフラインなわけよ、それを出逢ってまだ一か月かそこらの人間に半分預ける? え?
「みんなもいいよな?」「反対する人いないって~」「いたら遠慮せず名乗り出てね?」
最期の台詞は一之瀬のものだ。だが、当然そんな台詞は一切の効力を持たない。この空気間で「いや俺預けないわ」とか堂々と言えるのはきっと同学年では龍園か高円寺だけだろう。当然俺もそんな勇気はない。
『嫌なんだけど』
ユキからメッセージが来る。完全に同意しかないな。
『俺も』
『反対してよ。私もついでに便乗するから』
『ユキが言ってよ』
『無理』
『俺も無理』
そんなやり取りを数秒続ける。実際、数人は内心嫌だと思ってる生徒もいそうだ。だが、空気に飲まれて言えないんだろう。ここで俺の超高性能ハイスペック頭脳(IQ200)が、とある結論を導き出した。
それは、この場を乗り切った後に一之瀬に個人チャットで『さっきは言い出せなかったんだけど、実は金自分で持っておきたいんだよね。皆には黙っててくれる?』と送ることだ。
こうすればお人好しの一之瀬は当然返金してくれるだろうし、その上来月からは密かに徴収(実質)を免除してくれることだろう。天才すぎる発想だ。
『──────っていうのどう?』
『椿天才すぎる』
『でしょ?』
『調子乗んな』
えぇ………それはないですよ、ユキさん。俺のお蔭であなたも徴収を回避できるんですよ?一か月じゃ恩恵を感じないかもだけど、仮に毎月4万一之瀬に預けたら一年で48万よ?
『少し話があるんだけどいいかな?』
放課後、自室に帰ってから俺は予定通り一之瀬にチャットを送った。クラス全体チャットからゲットした連絡先だけど、これでユキ入れて女子の連絡先を三つも知れた。
『もちろん! 何かな?』
『さっき預けたプライベートポイントなんだけど、実は返して欲しいんだ』
『本当は預けたくなかったの?』
放課後はどこかへ遊びに行くだなんだと言っていた気がするけど、一之瀬の返信は早い。クラスメイトってだけで親身に話を聞いてくれるんだから依存するのも分かる。
『そういうこと。俺とユキの分を返してくれるかな? さっきは空気的に言えなくてさ』
『分かった! それじゃあ、二人の分は返金しておくね!』
『ありがとう。助かるよ』
『全然だよ~、望んでない人の分まで集める気はないからさ』
それから、ちゃんとさっき流れで渡した3万ポイントが返ってきた。金がないとどうしようもないからな、こればっかりは譲れない。
これから少なくとも一年半の間は大丈夫だろう。退学の危険があるのは赤点と、ペーパーシャッフルでの合計点数不足、それとクラス内投票と二年最初の特別試験と、無人島サバイバルだ。
これらは全部主人公綾小路清隆がピンチなだけであって実は他の生徒はあんまり関係なかったりする。だって赤点はないし、クラス内投票は裏でなんとなるし。一番ヤバいのは無人島サバイバルだけど、八神とかの暴行に巻き込まれない限り下位も決まってるしね。
俺はのんびりできればそれでいい。でも、流石に勉強とか体鍛えるとかは継続して行かないとね。いざってとき、そこらのチンピラからくらいユキを守れるような状態は維持しておきたい。
~約二か月後~
──────そう思ってた時期が俺にもありました。まさか、こんな面倒事に巻き込まれるなんて………原作改変するんじゃねぇよ!
「────証拠を見せて、話すだけ。大丈夫よ」
星之宮が優しく話しかけ、背中を押してくる。俺は今から起こるであろう面倒事を想像して憂鬱になりながらも、生徒会室に足を踏み入れた。
…………そう、俺は七月の須藤暴行事件に