【完結】キキョウより湿度の高い男 in キヴォトス   作:曇りのち晴れ男

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最終話 まつりのあと

 

 百鬼夜行連合学院のメインストリートは、今日も無責任なほどに賑わっていた。

 

 迫る『灯篭祭』の熱気を帯びた石畳には、カラン、コロンといつもより浮足立った下駄の音が響き、頭上には無数の真新しい提灯が連なって、晴天の空を極彩色に彩っている。

 前夜祭を祝うように風が吹き抜けるたび、桜の花びらが紙吹雪のごとく視界を横切り、軒先に吊るされたいくつもの風鈴が涼しげな音を鳴らして祝祭の旋律を奏でていた。

 

「ねぇ、前夜祭限定の新作スイーツ、もう食べた?」

 

「まだ! 売り切れる前に一緒に行こうよ!」

 

「明日から本祭の準備かぁ。うちの部活、今年は気合入れて出店するから、来てね」

 

 普段よりも色鮮やかな和傘を広げた茶屋、灯篭祭に合わせた特製の狐面を並べる土産物屋。甘辛いみたらし団子や香ばしい焼き鳥の匂いが、通り全体を非日常の熱気とともに包み込んでいる。

 すれ違う生徒たちの他愛のない会話や笑い声は絶えることがなく、まるでこの街のすべてが、永遠に続くお祭り騒ぎの中にあるようだった。

 

「……平和なものね」

 

 喧騒の隅。雑踏を眺めながら、私は誰にともなく小さく呟いた。

 

 あの地下施設での死闘、百鬼夜行の裏で起きた未曾有のテロ計画。あわや街全体が火の海になるかもしれなかった大事件から、すでに数日が経過していた。

 しかし、そんなことがあったなど微塵も感じさせないほど、百鬼夜行は熱狂と歓喜に包まれている。

 

 この街の日常の復元力は、残酷なまでに逞しい。

 

 あの一人の不器用な大人が、自らの命を燃やして守り抜いたことで。

 

「ねえ、そういえば最近、路地裏の遺失物預り所、ずっとシャッター閉まってない?」

 

「えー、そう? まあ、お祭りだからお休みしてるだけでしょ。それより聞いてよ、この後のライブなんだけどさ……」

 

 遠くから風に乗って聞こえてきた何気ない会話の切れ端が、私の胸の奥を鋭くチクリと刺した。

 街は何も変わらない。誰も、あの不器用で優しい大人の喪失に気づいていないどころか、彼が命を賭してこの街を守り抜いたという事実すら、当たり前の日常の端へと追いやられているかのようだった。

 

 この街の日常の復元力は、残酷なまでに逞しい。

 あの一人の大人がもうこの世界からいなくなってしまっても、何事もなかったかのように、百鬼夜行の時間は止まることなく目まぐるしく回っていくのだ。

 

 ■■■

 

 少し歩みを進め、大通りの交差点に差し掛かると、不意にジャーン! と威勢のいいギターの和音が響き渡った。

 

「みんなー! 前夜祭楽しんでる!? 公式のスケジュールにはないけど、ゲリラ出張ライブ、始めちゃうよー!!」

 

「いきなり押しかけでライブを開いたら迷惑だろー!!」

 

「でも音色はいいぞー!! もっとやれー!!」

 

 そんな元気なマイクパフォーマンスと共に歌い出したのは、見覚えのある生徒だった。

 以前、大切なギターのピックを無くしてしまい、遺失物預り所を訪れた彼女だ。

 彼女は公式の特設ステージではなく、交差点の空きスペースにアンプとマイクスタンドを勝手に持ち込み、完全に『押しかけ』の形でゲリラライブを始めている。周囲の生徒たちも咎めるどころか、手拍子をしてその突発的なお祭り騒ぎを楽しんでいた。

 

 彼女の右手の指先には、あの時見つけたピックは握られていない。当然だ。それは彼女の大切な相棒へと託されたのだから。

 

 提灯の明かりを反射してキラリと光る、新品のピックが、彼女の弾く軽快なストロークに合わせて、前夜祭の空気をいっそう華やかに彩っていた。

 

 そして、その押しかけライブの最前列には、彼女の晴れ姿を夢中でファインダーに収めている二人組の姿があった。

 

「ちょっと、もっと右! 提灯の明かりを入れた方が絶対にエモいってぇ!」

 

「分かってるってば! 押さないで、ブレちゃうでしょ!」

 

 文句を言い合いながらも、どこか楽しげに笑い合っている二人の生徒。

 

 一人は、大切なカメラを無くして途方に暮れていた生徒。そしてもう一人は、魔が差してそのカメラを盗んでしまった生徒だ。

 あの日、遺失物預り所で被害者と加害者として向き合い、泣きながら謝罪と許しの言葉を交わした二人は今、なんのわだかまりもなく肩を並べている。

 

 盗まれたはずのカメラは持ち主の手にしっかりと戻り、かつてそれを盗んだ少女は今、親友のアシスタントのように画角の指示を出しながら、一緒に平和な景色を記録しているのだ。

 

 無くしたものを見つけ出し、歌を取り戻した生徒。

 過ちを犯しても、許しを得て、もう一度笑い合えるようになった生徒たち。

 

 彼女たちは皆、陽介という一人の大人がお節介を焼き、その身を呈して寄り添ったことで、立ち止まることなく今日という日を迎えられている。

 けれど、ファインダーを覗き込んで無邪気に笑う彼女たちの頭の中に、彼が自分の命と引き換えにこの街を救ったことなど、露ほども存在していないだろう。

 

「……これは」

 

 彼女たちのゲリラライブを照らす、通りに設置された真新しい投光器。その太いケーブルの先を目で追うと、通りの隅に設置された大型の配電盤に行き着いた。

 

 ふと、その金属の扉に印字されている文字が目に入る。

『アカツカホールディングス』。

 巨大企業のロゴマークが、そこには確かに残っていた。

 

 アカツカは自らの犯した汚職をすべて自白して捕まったが、彼女らが敷設したインフラのすべてがこの短期間で撤去されるわけもなく、街の設備の一部として当たり前のように稼働し続けている。

 

 アカツカホールディングスに残された職員たちは、おそらく清廉潔白な正義だけで回っているわけではない。歪みも、傷跡も、悪意の残り香も、すべてをごちゃ混ぜにして百鬼夜行の日常は進んでいく。

 

「あ、そこの木箱、私が運びますよ! 結構重いんで気をつけてくださいね!」

 

 配電盤から少し視線を横にずらした広場の片隅で、元気な声が響いた。

 提灯の飾り付けや、屋台の資材搬入で慌ただしく立ち働くお祭り実行委員の大人たち。その中に混ざって、額に汗を浮かべながら一生懸命に木箱を運んでいる一人の生徒の姿があった。

 

 リサだ。

 

 ついこの間まで、芹澤という巨大な暴力の下に怯え、陰謀の渦中で震えていた彼女。

 しかし、重い荷物を運んで大人たちと笑い合う今の彼女の横顔には、あの時の怯えきった暗い影は微塵もなかった。

 

「ありがとうね、お嬢ちゃん。助かるよ」

 

「いえいえ! お祭り、絶対に成功させたいですから!」

 

 大人に利用され、絶望しかけていた彼女は今、健全な大人たちと声を掛け合い、自らの意志でこの街のために汗を流している。

 憑き物が落ちたようなその澄んだ笑顔は、彼女が自分自身の居場所をもう一度見つめ直し、自分の足でしっかりと歩き出した何よりの証拠だった。

 

「……本当に」

 

 失せ物を見つけた者も、罪を許された者も、傷を乗り越えた者も。

 誰も彼もが、あのお人好しな大人が命を賭けて繋いだ今日を、ただ無邪気に謳歌している。

 

 残酷で、無責任で、たくましくて。

 ──そして、息を呑むほどに美しい。

 

 これこそが、陽介が自身の命を天秤にかけてでも守りたかった『百鬼夜行』の姿なのだ。

 私は目を細め、胸の奥でチリチリと痛む喪失感を抱えながら、喧騒から遠ざかるように大通りを後にした。

 

「……本当に、残酷な街」

 

 悪態が止まらない自分に反吐が出る。

 

 誰も彼の死を悲しまない。誰も彼の犠牲を知らない。

 彼がどれほどの想いで、どれほどの痛みに耐えてこの景色を守ったのか、誰も知らないまま、ただただ楽しく賑やかに前夜祭は進んでいく。

 

 ■■■

 

 大通りの喧騒から離れ、少し静かな路地へと足を踏み入れた時のことだった。

 

「いたぞ!!」

 

 ふと、背後から大きな声で叫ばれ、私は反射的にピクリと肩を揺らして愛銃へと手を伸ばしかけた。

 しかし、振り返ったそこに立っていたのは、セリサワ組の残党でもヴァルキューレの警備網でもない。ヘルメットを被ったミノリ部長と、肩にハンマーや工具を担いだレッドウィンター工務部の面々だった。

 

「……ミノリ?」

 

 私が拍子抜けして声を上げる間もなく、数十人の工務部の生徒たちが怒涛の勢いで私の方へと突撃してきた。

 

「捕まえろー!!」

 

「よーし、持ち上げろー!!」

 

「きゃっ!? ちょ……っと! 一体どういう……!」

 

 有象無象の生徒たちに取り囲まれたかと思うと、一瞬にして目隠しをされ、複数人に担ぎ上げられる。作戦参謀としての計算など入り込む余地もない、完全なる数の暴力と物理的なパワープレイだった。

 

「探したぞキキョウ! まぁおとなしく運ばれていろ!!」

 

 ミノリ部長の豪快な笑い声が聞こえる。

 暴れれば抜け出せないこともなかったが、彼女たちに悪意がないことだけは分かっていたため、私は言われるがまま、大人しく神輿のように担がれてどこかへと運ばれていった。

 

 数分後。

 ワイワイと騒がしい足音がピタリと止まり、私を担いでいた手が一斉に離れる。

 地面に下ろされ、私は軽くため息をつきながら口を開いた。

 

「……拉致?」

 

「人聞きが悪いな! なんだと思う、キキョウ!」

 

 得意げなミノリ部長の声と共に、背後からバサリと目隠しが外される。

 

「さぁ、見ろ!! 我々レッドウィンター工務部が魂を込めて作り上げた、労働の結晶だ!!」

 

 直後、塞がれていた視界に強烈な光が飛び込んできた。

 突然の眩しさに、世界が真っ白に飛ぶ。私は目を細め、チカチカとする視界の中で何度か瞬きを繰り返した。

 ぼやけた色の塊が、少しずつ輪郭を取り戻していく。光に慣れてきた瞳が、目の前の景色を正確に捉え始める。

 

 そこに、あったのは。

 

 それは。

 

「……嘘」

 

 言葉が、出なかった。

 作戦参謀としての語彙も、思考も、地の文として情景を描写する頭の冷静さすらも、完全に吹き飛んでしまっていた。

 何から描写すればいいのか分からない。ただ、圧倒的な事実だけがそこにあった。

 

 何度も通い詰めた路地裏。

 経年劣化で屋根は錆びつき、壁も床もボロボロで、今にも崩れそうだったはずの『遺失物預り所』。

 

 しかし、目の前にそびえ立つその建物は、以前の寂れた面影など微塵もなかった。

 工務部の手によって完璧な修繕と補強が施され、真新しい木材と頑丈な鉄骨が組み合わさった、見違えるほど立派で真新しい建物として生まれ変わっていたのだ。

 

「これ、は……」

 

 もう、あの呑気な所長が「いらっしゃい」と笑って出迎えてくれることはない。

 主のいない、どこか寂しげで、けれど以前よりもずっと温かみを持って輝いているその建物を見上げ、私は立ち尽くした。

 

「陰陽部と話し合いをつけてきた。あいつらなりの気遣いらしいぞ」

 

 ミノリ部長が、誇らしげに腕を組みながら告げた。

 

「これまでの功績と、あの男の意志を鑑みて、この建物の所有権は正式に百花繚乱紛争調停委員会へと移された。お前たちには立派な調停室が他にあるだろうが、ここは別荘とでも思え。お前たちの、もう一つの場所だ」

 

「私たちの……」

 

「案ずるな、修繕費はすでに陰陽部から貰っている。ほら、鍵。スペアは一本、私が持ってていいな?」

 

「……えぇ」

 

 百花繚乱には、本来の活動拠点である調停室がちゃんと存在している。

 

 だからこれは、純粋に陰陽部からの最大限の敬意と優しさなのだ。

 彼が愛し、最後まで守り抜こうとしたこの場所を、ただの空き家として取り壊すのではなく、私たち百花繚乱が管理する『特別な居場所』として永遠に残してくれた。

 

「それと、修繕のために中の古い荷物を整理していたら、奥の机からこれを見つけてな。お前に渡しておくのが筋だろう」

 

 ミノリ部長が作業着のポケットから取り出し、私に手渡してきたのは、一通の古びた『手紙』だった。

 

 そこには、見慣れた少し不格好な字で、こう書き殴られていた。

 

『俺の大大大好きな百鬼夜行を、これからもよろしく』

 

『だから、自分の命を捨てようなんて、考えないで。これからも、元気でね』

 

『君の最高の相棒、向井陽介より』

 

 彼はずっと、分かっていたのかもしれない。自分がいつか死んでしまうことを。

 自分がいつ死んでもおかしくない、という覚悟を抱えながら、それでも悲壮感など微塵も感じさせない、彼らしい軽口のようなメッセージ。

 

「ぁ…………」

 

 その文字を見た瞬間。

 今まで張り詰めていた作戦参謀としての糸が、プツリと音を立てて切れた。

 私は手紙を胸に強く抱きしめ、天を仰いだ。

 

 涙が、とめどなく溢れて頬を伝う。

 

 工務部のみんなの前で声を上げて泣くことだけは堪え、私は唇を噛み締め、声を殺して静かに、静かに泣き続けた。

 

 愛娘を失い、深い絶望の中にいたはずの彼。

 それでも、私を娘のように想い、守り抜き、最高に優しい笑顔のまま散っていった『人生の先生』へ向けて。

 

 私は震える声で、真っ青な空へと誓いの言葉を投げかけた。

 

「当たり前じゃない……。あなたに、二度も娘を死なせるわけにはいかないもの……」

 

 この百鬼夜行は、私が守る。

 あなたが愛し、遺してくれたこの街と、ここに生きる生徒たちの日常を。

 

 ──あなたの娘として、絶対に。

 

 ■■■

 

 それから数時間。

 私は、勢いに乗ったミノリ部長たちレッドウィンター工務部の面々にすっかり巻き込まれる形で、新しくなった遺失物預り所の前でささやかな宴に付き合わされていた。

 

「う……、工務部の生徒たちは、パワーが……」

 

 大騒ぎする彼女たちを見送り、一人で帰路につく頃には、空はすでに燃えるようなオレンジ色に染まっていた。

 遠くの方から、ドンッ、ドーンと気の早い前夜祭の打ち上げ花火の音が、心地よい重低音となって響いてくる。

 

 私はゆっくりと歩きながら、制服の胸ポケットにそっと手を当てた。

 そこには、彼が最後に託してくれた春とのツーショット写真と、あの不格好な字でメッセージが書き残された一通の手紙がしまわれている。

 

 布越しに伝わってくる僅かな厚みが、今の私にとってはどんな防弾チョッキよりも心強く、温かかった。

 

 涙は、もう流しきった。

 憑き物が落ちたように澄んだ気持ちで、夕暮れの路地を歩いていた、その時。

 

 私の前方に、一人の影が立ち塞がった。

 

「……黒沼シオリ」

 

「……」

 

 夕日に照らされた長い影を落とし、シオリは無言でそこに立っていた。

 直後。私の制服のポケットの中で、ピコン、と無機質な電子音が鳴る。

 画面を開くまでもない。ヴァルキューレ警察学校から全生徒へ自動配信される、緊急の定例通知だ。

 

『緊急手配:矯正局行きの護送車から脱走した生徒が一人、百鬼夜行自治区を徘徊しています。見かけた方は至急ヴァルキューレへ連絡をお願いします。特徴は──』

 

 私はスマホの画面を伏せ、目の前に立つ好敵手に向かって静かに口を開いた。

 

「……逃げてきたんだ」

 

「芹澤よりは、拘束が緩かったからな」

 

 シオリは短く答えると、ふと真剣な眼差しのまま、口を開いた。

 

「遺失物預り所の、落とし物発見代金ってのは、現物支給でも構わないか?」

 

「……何言ってるの?」

 

 唐突な問いかけに私が眉をひそめると、シオリは背負っていたライフルをゆっくりと手元に引き寄せ、カチャリと冷たい音を立てた。

 

「……鉛玉で、代金を支払うって言ってるんだ」

 

 夕暮れの路地に、鋭い銃口が私へと向けられる。

 テロの片棒を担いだ凶悪犯。しかし、私に向けられたその銃先は微かに震えており、彼女はすぐに視線を足元へと落としてしまった。

 その顔に浮かんでいたのは、殺気や焦燥ではなく、深い後悔の念だった。

 

「あいつは……私が今回のテロに加担しなければ、死ななかったのかもしれない」

 

 絞り出すような、ひどく掠れた声。

 

「……私が何かを見失い、何かを落としてしまったせいで、そいつは死んじまった」

 

 彼女もまた、自分が道を違えなければ、彼を死なせずに済んだのではないかという自責の念に押し潰されそうになっているのだ。

 だけど、そんな仮定の話を、あの呑気な大人が喜ぶはずがない。

 

 私は静かに首を振り、彼女の言葉を切り捨てた。

 

「……くだらない。あの時こうだった、こうすれば助かった、なんて推測に過ぎない」

 

「てめぇ……」

 

「大切なのは、今を生きること。でしょう?」

 

「……あぁ。……あいつの見つけさせてくれた、私の落とし物。しっかり胸に生きていく」

 

 私のその言葉に、シオリはハッと息を呑み、ゆっくりと顔を上げた。

 過去の計算式を悔やむのではなく、残された私たちがどう前を向いて生きるか。それこそが、彼が命を賭けて繋いでくれた意味なのだから。

 

 迷いを断ち切るように、シオリは改めて銃を構え直した。

 

「……私にできる、唯一の謝罪、贖罪だ」

 

 シオリはそう告げた。

 それは彼女なりの、不器用すぎる宣戦布告。

 罪悪感に苛まれながらも、私の胸ぐらを掴んで無理やりにでも日常へと引き戻し、前を向かせるためにわざわざ脱走してきたのだ。

 

 その真意に気づいた瞬間、私は張り詰めていた空気を自ら破るように、思わず吹き出してしまった。

 

「……っぷ。ふふふふ……。あー、おかしい。私が彼の死に悲しんでいるだろうから、戦いで忘れさせてあげようって?」

 

 図星を突かれたのか、シオリはわずかに銃先を揺らし、バツが悪そうに顔をしかめた。

 

「……そこまで偉そうに言っちゃいないが」

 

「でも、真意としてはそうでしょう?」

 

 私はクスリと笑う。

 本当に、この街の生徒たちはどこまでも不器用で、世話が焼ける。

 

「……この戦いが終わったら、クロヌマ組は解体。ヴァルキューレに出頭するさ」

 

 観念したように息を吐くシオリへ向けて、私は作戦参謀としての思考を──悲しみではなく、前を向くための計算式を、極めて爽やかに組み上げた。

 

「……一つ、賭けをしない?」

 

「賭け、だと?」

 

「私が負けたら、ヴァルキューレへの出頭はしなくても構わない。敗者に何かを強制する力は無いから」

 

 私がそう提案すると、シオリは一瞬目を丸くした後、たまらないといった様子でニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

 

「……っへ、面白い」

 

「何度も戦ってるんだから、もうアンタのことは半分知ってる。こっちの方が熱くなるでしょう?」

 

 私も愛銃を軽やかに構え、シオリへ向けて真っ直ぐに銃口を合わせる。

 夕風が吹き抜け、オレンジ色の空に再び大きな花火が打ち上がった。

 

「やってやるさ……行くぜ! 桐生キキョウ!!」

 

「桐生キキョウ、その挑戦を受ける!!」

 

 夕日を背にした二人の少女の笑顔と、弾けるような銃声。

 それが、遠くで上がる祭りの花火の音と美しく重なり合い、どこまでも高く、青藍の夜へと向かう百鬼夜行の空へと溶けていった。

 

 

 

 ──大大大好きな百鬼夜行。

 

 

 

 不器用な大人が守り抜いたこの街で、私たちの日常は、これからもたくましく続いていく。

 

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