最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です 作:長夜月
「……ん」
──【ヘスティア・ファミリア】の本拠、教会の隠し部屋。
地中に作られているため朝日も鳥の鳴き声も届かないこの場所で、僕はしっかり早朝を認め、起床を定めている時間に目を覚ました。
生まれ故郷の田舎では、毎日お義母さんの
ん? お祖父ちゃんは? あの
一応、ソファーの上から頭を巡らして、壁に備え付けてある時計を確認する。
魔石技術により発明された『魔石灯』が天井でぼんやり燐光のごとく輝いていて、地下でありながら部屋は完璧な暗闇に包まれてはいない。周囲を見渡せる程度には肉眼がしっかり機能する。
この『魔石灯』を作り出したヒューマンの技術を、神様は「本当に手先が器用」とそうこぼしていた。あの神様達の舌を巻かせるほどなのだから、発明された当時『世紀の大発明』とまで言われた魔石製品のすごさがよくわかる。
流石、アスフィさんだ。 伊達にヘルメスのクソ野郎に振り回されてる理由じゃないってことなのだろう。
昨日、神様とささやかなパーティーを開いた後、僕はいつも通りベッドを神様に明け渡し、ソファーを寝台にして就寝した。結構狭いけどもう慣れたものだ。
瞬きを数度繰り返し、顔を洗うために体を起こそうとして……はたと気付く。
シーツ以外に、丸いものが僕の上にもたれるようにして乗っかっている。とても軽い。息苦しくないから全く気にもならなかった。
疑問を感じながらその丸い何かに手を伸ばすと……一発でわかった。神様だ。
僕の胸に顔を埋めるようにして眠りこけている。ぎょっとしたけど、すぐに苦笑した。
さあ、困ったゾ。ここからの対応で僕の中の
「(寝ぼけちゃった……のかな?)」
珍しいこともあるものだと思って、さぁ困ったと考える。
神様を起こさずソファーを抜け出すのには自信があるけど、なんだか、すごく温かくて抱き心地のいいこの存在を放したくない。最高級な抱き枕を超えた、まさに神作級の抱き枕。
強力な武器やアイテムを確保しているどんな【ファミリア】にも、これ以上のアイテムなんてないって断言できる。神様やっぱりスゴイ。
…チッ、なんだかお祖父ちゃんみたいになってる…はぁ、やめやめ。僕はああならないって決めたんだから。
そこからの僕の行動は迅速だった。神アイテムから劇薬アイテムに変貌した神様を直ちに除去し、場所を入れ替えるように寝かせソファーから脱出した。
「(神様が僕を殺しに来るなんて……!)」
初めて神様に戦慄を抱いた瞬間だった。
あと一秒遅かったら僕の呼吸は止まっていたかもしれない。
神様にシーツをかけ自らはいそいそと身支度をする。何だか居たたまれなくなった。
ささーっと速やかにドアを越え、僕は音もなく部屋を後にした。
あぁ、お義母さんがいたら僕、今頃ボロ雑巾にされていたよ。 駄目だ駄目だ、気が抜けすぎている!! もう一度気を引き締めて、最近は慢心が多いしな!!
「行って来ます、神様」
そう言って僕はボロっちい木造りの両手開きの扉をそっと開け、外に出る。
「(朝からとんだハプニングだったなぁ……。よもや、神様に殺されかけるなんて)」
少し肌寒くも感じる朝の空気に溜息を溶かす。
僕は昼間とは趣が異なったメインストリートを一人で歩いていた。喧騒も人ごみもない大通りはやけに広く感じられる。道の左右に軒を連ねる石造りの商店は、どこも鎧戸をぴっしりと閉めていた。
東の空は既に明るい。早朝といっても人影がまばらにあって、露店の準備をしているパルゥムもいれば、僕と同じ冒険者のドワーフ達が徒党を組んで何か話し合っている。これからダンジョンへ向かうんだろう。
僕もダンジョンへもぐる装備を身に付けて神様から逃げ出し……もとい部屋から出てきたから、傍から見れば彼等と似たり寄ったりかもしれない。
「あ~、朝ご飯食べてないや……」
くるくる、と体の内側から聞こえてきた音に、僕はとぼとぼ歩きながらへその辺りをさする。
参った、お腹の中に何も入れていない。ひもじい。
どうやらこの空腹感を何とかしないと、ダンジョン探索にも集中できなそうだった。
仕方ない、何か買って…あぁ、そう言えば神様のところのバイト先…『じゃが丸君』だったかな? そこに行ってみるのもいいかもなぁ。
「……?!(何か…いる。 いや、それ以上に僕に向かって殺気を放っている奴がいる!! 何処だ? 離れてる…かなり遠いが、相手は強いな、それもかなりのやり手だろう、僕が気づいて、それでも一瞬辺りを見回した瞬間に殺気を消して隠れた…気配を追えない…)」
ばっ、と振り返った。
立ち止まって、自分の背後を見る。
周り見回す。 何もいない。 だが感じる。 ただならぬ視線を。 品定めするかのように、もう一つは威嚇するようだった。 恐らく、気づかれたのは誤算だったのだろう。なんだ? 恐らく第一級冒険者だろう、お義母さん達よりは弱い、だけど僕との彼我の実力差は歴然。 当然、僕が勝てる相手ではない。
「(しかも…)」
この視線、人じゃない。人ならざる者、それ等を超越した存在。つまり、
昔、お祖母ちゃんに散々言われた言葉が頭をよぎり、違和感が形となって現れる。
『ベル、オラリオにはな、魂の色を見て自身の
『それって…誰?』
『それはな、───』
「───美神…フレイヤ?」
一人でカフェテラスの準備を行う店員、路地の角でたむろする獣人の二人組、商店の二階の窓から大通りを俯瞰する女の子……広がる景色の中、動くものに何度も視点を移ろわせる。半ば動転しながらぐるりと周りを見渡した。
本格的に目覚める前の朝の商店街、不審な影はない。むしろ通りのど真ん中で棒立ちになる僕に奇異の目が集まるけど、気にする余裕もなかった。
僕の勘違い……?
やけに耳にへばりつく心臓の音を聞きながら、ちっとも納得できない顔を浮かべてしまった。
あり得ない、こっちは5歳の頃からお義母さんとの命を賭けた鬼ごっこをしたり、目隠しして岩避けをさせられたんだ、こと視線に置いては感じ間違えるなんてことはあり得ない。
僕は内心焦りまくりながらもそう吐き捨てる。
「あの……」
「!」
後ろからの声に、すぐさま反転し身構える。周りから見れば大げさ過ぎだと思われただろう。
声をかけてきたのは僕と同じ、ヒューマンの少女だった。
服装は白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートに、その上から長目のサロンエプロン。
光沢に乏しい薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこからぴょんと一本の尻尾が垂れている。ポニーテールの亜種みたい。
髪と同色の瞳は純真そうで可愛らしい。ミルクのように白く滑らかな柔肌の顔は、僕の警戒じみた挙動に驚きを示していた。
明らかに無垢な一般市民……な、なんて真似を!?
だが、僕はそのときは一番大切な事を忘れていた。 気が動転しすぎて、一般人に剣を向けそうになったのもそうだが、僕はこの時、たかだが
「ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって……!(なんだ…この変な気配は。 この人…まさか人間じゃない? いや、じゃあ誰だ?)その、剣を向けてしまって申し訳ありません!!」
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」
慌てて謝るとあっちも頭を下げてきた。申し訳なさ過ぎる。
歳は僕より少し上くらいだろうか。一つ二つくらいしか離れてないようにも見える。
この人もしかして、さっきちらっと見た、カフェテラスで準備をしていた店員さんかな? テーブルを一人で頑張って運んでいた……。
「な、何か僕に?」
「あ……はい。これ、落としましたよ」
差し出された手の平に乗っていたのは、紫紺の色をした結晶だった。
「え、『魔石』? あ、あれっ?」
首をひねってお尻の上にある腰巾着を見る。僕はモンスターから得られる『魔石』を、この
いつも紐はきつく絞ってあるけど、何かの拍子で緩んでしまったんだろうか。昨日の換金の際に、魔石は全部ギルドに渡したんだけど。残ってたのかな?
冒険者じゃない人が魔石なんか持っている筈なんてないし……うん、きっとそうなんだろう。
「す、すいません。ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないでください」
ほわっとする微笑みが返ってきた。すまなさそうに眉を下げながらも、僕もつられて笑ってしまう。純粋な善意に触れて肩の力はすっかり抜けていた。
「こんな朝早くから、ダンジョンへ行かれるんですか?」
「はい、強くなりたいですからね……」
店員さんは間を繫ぐように話しかけてくれる。この場をどうまとめようか迷っていたので、正直助かった。あと一言二言交わしてから別れの挨拶を告げよう。
……なんて、そんなことを思っていた矢先、“グゥ〜”と僕の腹が情けない声を吐いた。
「……」
「……」
きょとんと目を丸くする店員さん。
顔を赤くする僕。
すぐに彼女はぷっと笑みを漏らした。痛烈なダメージ、僕はうつむいて頭の天辺から煙を出す。
もうそれは、何処ぞの『トマト野郎』へとなってしまったかのように。
「うふふっ、お腹、空いてらっしゃるんですか?」
「……は…、はぃぃい」
「もしかして、朝食をとられていないとか?」
恥ずかしくて堪らず、僕は店員さんに目を合わせられないままこくりと頷いた。
彼女は何か考える素振りをすると、急にぱたぱたと音を立ててその場を離れる。例のカフェテラス……そこを越えて一旦店内へと消え、ほどなくして戻ってきた。
ここを離れた際にはなかったもの──ちんまりとしたバスケットが、その細い腕に抱えられていた。中には小さめのパンとチーズが見える。
「これをよかったら……。まだお店がやってなくて、賄いじゃあないんですけど……」
「ええっ!? そんな、悪いですよ! それにこれって、貴方の朝ご飯じゃあっ……?」
店員さんはちょっと照れたようにはにかんだ。
うぐっ……この人、体の内から可愛さが滲み出るタイプだ。
この人あれだ、多分生粋の人垂らしだ。 わかる、関わり続けると骨まで溶かされるやつだ、魔性の少女だ。
チッ、内側にいる狒々爺の好々爺も『良質町娘キマシター』とかほざいてる。 マジで今は黙っててお祖父ちゃん。
「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が痛んでしまいそうなんです。だから冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?」
「ず、ずるいっ……」
そういう言い方をされたら断れるわけがない。その笑顔でそんな殺し文句、卑怯だ。
困り果てながら僕が返答に窮していると、店員さんはちょっとの間、目を瞑る。
次に瞼を開けた時、今度は少し意地悪そうな笑みを浮かべて、僕の目の前に顔をすっと寄せてきた。
ち、近い……。
「冒険者さん、これは利害の一致です。私もちょっと損をしますけど、冒険者さんはここで腹ごしらえができる代わりに……」
「か、代わりに……?」
「……今日の夜、私の働くあの酒場で、晩ご飯を召し上がって頂かなければいけません」
「……」
今度は僕が目を丸くする番だった。
言われたことの意味を、時間をかけてゆっくり呑み込む。
にこっと笑う店員さんを前にして、僕は初対面の人に対する壁みたいなものを、完璧に取り払われてしまった。
くしゃっ、と破顔する。
「もう……本当にずるいなぁ(ヤバい、もう溶かされかけてる…)」
「うふふ、ささっ、もらってください。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしなんですから」
遠慮することはありません、と店員さんは言ってくれた。
何だよ、この人、全然したたかじゃんか……。
「……それじゃあ、今日の夜に伺わせてもらいますっ」
「はい。お待ちしています」
最後まで店員さんは僕のことを笑ってくれた。終始やりこめられた感じなのに、紅茶を飲んだ時のように心地が良い。何だか急に照れ臭くなってしまった。
バスケットを片手に持って店員さんに見送られる。
長いメインストリートが続く先、都市の中央部、魔天楼施設が澄んだ朝空を突き上げている。あそこの下に、ダンジョンがあるのだ。
不思議そうに見つめ返してくる店員さんに向かって、言う。
「僕……ベル・クラネルって言います。貴方の名前は?」
瞳を僅かに見開いた後、彼女はすぐにぱっと微笑んだ。
「シル・フローヴァです。ベルさん」
笑みと名前を、僕等は交わし合った。
神様達が下界に降り立つ以前から、ダンジョンというものは存在していた。
迷宮の上には今ほどの規模ではないにしても街が築かれており、その時からギルドの前身の機関があったらしい。
何が言いたいかというと、古代には旧ギルドと連携して、神様の『恩恵』を受けずにモンスターと戦っていた人達がいたということだ。
凄いなぁ〜、僕もその古代の英雄達に片足突っ込んでるんだけど…。
『グオオオオオオオ!!!!!』
「──【
僕は目の前の巨大な竜を前に詠唱を唱え、体内の
精神力とは魔力のアビリティを上げることにより上昇する…神様達で言うところの『MP』?と言う奴らしい。
僕はその詠唱と共に現れた雷霆を身に纏い、目の前の竜に斬りかかる。
付与魔法の性質上、僕の身体を護ってくれるのは勿論、それ以上にスキル効果により全アビリティ能力が上昇する魔法。
神様達で言うところの
お義母さんの魔法無効化の付与魔法とは違い、僕のはあくまで強化、『雷霆』という性質上、『敏捷』などの俊敏系や反射神経などの強化は勿論、身体能力の向上なども行える魔法であり、その強化率をランクアップ位に相当する…筈だ。 まあ、その分身体への負荷も相当にあるが…。
僕はその魔法を遺憾無く発揮し、目の前の竜に肉薄し斬りかかる。
雷霆を長剣に纏わせることで武器自体の強化も行い、竜を屠りにかかる。
此処は十二階層。 『LV.1』の僕が単独で来れる範囲ではないが、そもそも鍛え上げられた技量と、叩き込まれたダンジョン内の知識によって僕は危なげなく此処に来れる。
そして目の前にいる竜…正確には小竜だろう、名は【インファント・ドラゴン】。 上層の実質的な階層主と言われており、出現する確率もかなり低く、出た際はLV.2の冒険者パーティでも壊滅する程の力を誇っている。
『グオオオオオオオ!!!!』
「───はぁああああああ!!!」
『──グアアア?!?!?!』
現在
迅雷の如きに雷閃が戦場を駆け抜け、小竜に肉薄する。その閃光が増える度に、小竜に肉薄する度に、小竜の身には焼けるような痛みと深い手傷を負っていく。
それがまた一つ、一つと増える。 それでも僕は加速する。止まることなく、振り返ることなく、竜の首を取るその時まで加速し続ける。
「終わりだよ、ありがとう」
『────グッ?!』
悲鳴すら上げさせず、最後は小竜の首をきり落とす。 そして地に伏した小竜の胸部を剣を刺し、抉るように斬り刻み、胸部の中心にある、小さく輝く紫紺の欠片を摘出した。
これが、『魔石』。
モンスターから獲得できる魔力のこもった結晶であり、これを換金する事で僕ら冒険者は稼ぎを得る。
不思議な力が宿った石っころ、お義母さん達はその程度しか教えてくれなかった…というか知る必要がないと言われた。
んまあ使うことはないだろうけど…それでも知っておいたほうが良いと思うのは僕だけだろうか? まあお義母さん達も面倒だったのだろう、実際に僕が“魔石についてもっと知っておけばよかった”なんて事態には一度も遭遇していない。
僕達のホームにあった『魔石灯』がいい例だけど、『魔石』はヒューマンの技術で加工することで色々な方面──発火装置だとか、食糧を保存する冷凍器とか──に活用できるから、貴重な資源扱いになっている。
この場合、
「ふぅ〜、魔石を取るのが面倒なんだよね〜」
僕はそう言いながら同じ動作を繰り返し先程狩ったに2体の小竜の魔石を抉り取る。
そして魔石を取り除かれたモンスター達は最後、灰となり消え去る。 これがモンスターの末路。
お義母さんが言っていた。魔石はモンスター達の『核』であり、これを基盤として彼等は活動しているのだと言う。故に魔石を狙うのはモンスターを倒す上で有効打にもなりうるのだと、お義母さんはそうも教えてくれた。魔石が砕けちゃったら換金もできないけど、生きるか死ぬかの瀬戸際だったら、四の五の言ってられないだろうし。
するとその3体のインファント・ドラゴンの灰燼の中から一つのドロップ品が出る。
「『インファント・ドラゴンの牙』かな? にしてもラッキー、…でも、今日はこれでパンパンだし、まあ潮時かな?」
どうやら『ドロップアイテム』のようだ。
魔石を除去したモンスターは時折、こうして体の一部の原型を残すことがある。そのモンスターの中で異常発達した部位らしく、魔石を失ってもなお独立するに至る力──この場合は魔力だろうか──が備わっているらしい。生きていた際にはそのモンスターの強力な武器としてさぞ活躍していたことだろう。
これも換金の対象になりうる。具体的には武器や防具の材料として使用するのだ。ものにもよるけど、ほとんどの場合魔石の欠片よりは高く引き取ってくれる。
僕は少し声を上げてドロップ品をバックパックにしまう。 本来なら魔石やドロップアイテムは『サポーター』と呼ばれる非戦闘員が回収して確保してくれるんだけど、【ヘスティア・ファミリア】の構成員は僕一人だけだから以下略。ソロでダンジョンにもぐる僕は、お金になる重い荷物を背負って戦わなければいけないわけだ。
フリーのサポーター雇おうかなぁ。エイナさんも今の僕の状況にいい顔してくれなかったし。
でも…足手まといにと言うわけではないが…僕、キラーアントの雌は殺さず瀕死状態に留めちゃうしなぁ。サポーターが逃げそうなんだよね、…うん、僕の中に居る叔父さんもそう言ってる。
魔石の存在もひっくるめて、ダンジョンは不思議に満ちている。
世界に一つしかないこの地下迷宮は、さっきも触れたように、神様が降臨する前から既に下界にあったのだ。
一説によると、ダンジョンの最下層は地獄やら魔界やらに繫がっているとかいないとか。神様達は何か知ってそうなものなんだけど、別段何も教えようとはしてこない。
『ダンジョンはダンジョンだろ。ダンジョンに他の何を求めてるんだよダンジョン』
とは神様達の名言らしい。どれだけダンジョン好きなんだ。
最初にダンジョンの話を聞いて最も驚くのが、ダンジョンは生きている、ということだろう。
別に生きているからといって肉厚の壁がひとりでに襲ってくることはないし、階層ごとの地形が変わるなんてこともない。証拠に、冒険者が踏破してマッピングした階層の地図はギルドに売られている(ただし下の階層に行くにつれて面積がありえないほど広くなって、マッピングしきれてない階層もちらほらとあるらしい)。
生きているとはつまり、修復されるのだ、破壊されたダンジョンの構造が、勝手に。
ダンジョンは魔石の下位、あるいは上位物質でできているらしい。迷宮の組成ばっかりは未だ学者達の間でも解明できていなくて、ただ発生する現象を見せつけられるにとどまっている。
また魔石に近い物質ということで、ダンジョンの中は日の光が届かずとも明るい。1階層なんて天井に当たる部分が照明のように点々と燐光を発しているものだから、時間を問わず馬鹿みたいに明々としているほどだ。
更にモンスター。あいつ等はダンジョンの中で産まれる。
冗談のような話だけど、迷宮の壁から雛が卵の殻を破るように這い出てくるのだ。実際見た人も沢山いる。冒険者がどれだけモンスターを倒しても、その数がつきないのはそういう理由。
また、階層ごとに壁面から産まれるモンスターは決まっている。たまに産まれたモンスターが下の階層から上ってきたり、逆に下りたりするイレギュラーがあるらしいけど、大体出てくるモンスターは階層で固定していると考えていい。ちなみに、下層に行けば行くほどモンスターの力は基本強くなる。
階層と階層を繫ぐポイントは階段だったり巨大な下り坂だったりと、まぁ色々。間違っても瞬間移動とかそんなでたらめな行為はできない。神様でもないのだから当たり前だけど。モンスターも僕達も、ダンジョン内を回るためには自分の足だけが頼りとなる。
モンスターはダンジョンの中でしか産まれない。
だからダンジョンを管理すれば、モンスターの脅威には晒されない。
そういった経緯で管理機関は太古から創設されていたのだ。今では迷宮から生まれる利益も大いに絡んでいると思うけど。
僕は子供の頃お義母さんに訓練の一環と称して、『ミノタウロス』との決死の
あいつ等はギルドが作られる前に地上へ進出したモンスター達の子孫だったのだろう。このオラリオの周辺地域を遠く離れた世界各地でもモンスターは散見されている。
つまり、モンスター達も生殖行動ができるというわけだ。
種の繁栄が十分に可能な数多のモンスターを生み出すダンジョンは、まさに
怖い想像をするけど、僕にはこのダンジョンが、下界にヒューマンと亜人を創造した神様達と同等のような存在に思えてならない。
口が裂けても、神様は勿論、誰にもそんなこと言えないんだけど……。
「ハァ!!」
『ブギィィイ!!!』
此処は5階層。本来なら僕がいるべき場所、だが此処のモンスター達では相手になるはずも無く、先程から群がってくるゴブリン達を一凪で倒し、魔石ごと砕いて地上へと僕は進軍していく。
ゴブリンからすれば僕はさしずめ『戦車』なのだろうか?
今日はシルさんのお店にも行く予定だから、早めに帰って神様も誘わなければならない。
約束の時間の前に一度本拠に帰るためにも僕は二振りの長剣を豪快に振り回してモンスター達に殺し周り地上へと帰還する。
「取りあえず……邪魔!!」
『ブベエッ!?(理不尽?!)』
粉砕!玉砕!大喝采!
【ベル・クラネル】
『LV.1』
《基本アビリティ》
力:A821→S900
耐久:B719→A824
器用:S977→SS1001
敏捷:SS1001→SS1103
魔力:A899→S994
《発展アビリティ》
《魔法》
【ケラウノス】
・
・雷霆属性。
詠唱式:【
《スキル》
【
・雷霆付与時、全アビリティ能力高域補正。
・雷霆付与時、『敏捷』のアビリティ高域強化。
「かなり無理をしたのかい? 今日はやけに上がっているように見えるけど…」
アビリティ熟練度上昇値405。
かなり多いだろう、んまあインファント・ドラゴンの連続討伐ならこんなものだろうな。
「今日はそこそこ無理をしましたからね。 でもまあこれだけ上がっているのは誤算でした、というか…このアビリティ上昇値って限界はどれくらいなんですかね?」
「さあ? きっと限界はないよ、でも殆どの
「…そうですね。 これがあるから僕は今も死なないだけですしね。すいません、これからはもう少し気をつけて冒険します」
「そうか、まあボクが言うことではないけど…君の夢を追うといい。 ボクは夢を見ている君のほうが好きだぜ!」
「あはは、ありがとう御座います、神様」
僕は小さくつぶやくように神様言う。 その言葉に神様はやや口角を吊り上げ、するとクローゼットの扉を開け、プルプル震えながら頑張って背伸びをして、神様用に採寸された特注の外套を取り出した。小さな体に不釣り合いな胸も覆い隠す
「ごめんねベル君、今日はバイトの打ち上げなんだ。だから君と一緒には行けない。 君も美味しいご飯を食べてくといい!」
「…はい、じゃあ今度は神様も一緒に行きましょうね!」
ああ、と言い残して神様は本拠を出た。 一人、静寂の中で僕は時間が来るまで静謐さに身を巻かれながら静かに眠りについた。
日は既に西の空へ沈もうとしていた。
消えかかっている紅い光の代わりに姿を現すのは、蒼い宵闇とうっすら輝く満月、そして数え切れない陽気な笑い声。
仕事を終えた労働者が、ダンジョンから無事戻ってきた冒険者達が、今日も一日の締めくくりとばかりに酒盛りに耽っている。ほうぼうの酒場で景気良く大声が打ち上がり、後から怒声や大笑の声が続く。開放された店の窓から漏れ出る
「(朝、シルさんと会ったのは、この辺りの筈なんだけどなぁ……)」
人の往来が絶えないメインストリートを歩みながら、僕は迷子のように顔を振っていた。
正直、色々ありすぎてあまり正確な位置は覚えていない。
周囲の光景は人気のなかった早朝とは様変わりしてしまい、記憶の中にあるお店を見つけるのも一苦労だ。本当に同じ場所だったとは思えない。
酒場を中心に盛り上がりを見せる大通りは熱気が漂い、足を進める
獣の耳と尻尾を生やした獣人の女性が大胆な服装で客引きをしていれば、それよりもっと過激な格好をしたアマゾネスの一行が、周囲の視線も気にせず談笑しながら闊歩している。
弦楽器や管楽器による大衆的な演奏がどこからともなく流れ、喧騒の隙間を泳いでは道を行く人の心を踊らせていく。
メインストリートはすっかり夜の顔に移り変わっていた。
「……ここ、だよね?」
僕は見覚えのあるテラスを見つけ、立ち止まる。
みなさん、お気に入り登録や評価ありがとう御座います。誤字脱字報告もありがとう御座いました!!
お気に入り登録やコメントをしてくれるとモチベに繋がるので是非お願いします!評価もしてくれると嬉しいです、コメントでのアドバイスも待っています!
それでは次回まで楽しみに待っていて下さい!