最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です   作:道化の作家

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 今回は多分、見る人によっては解釈違い?になっちゃうかも。

 そう言えば、【英雄追想(メモリア・フレーゼ)】はアルフィアやザルド、あと一応レオンなんかを想えば想う程に強くなり、尚且つ強さの指標がその3人を基準にしているので、『強くなりたいあの人達みたいに!』ってなってギュンギュン急成長します。

 つまり、【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】ではないので、ヒロインみんなに可能性があるってことです!!

【英雄追想(メモリア・フレーゼ)】「今作お前の出番ないってよ」
【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】「今からでもアイズさんに惚れません?」
ベル「すまん、黒竜討伐までそんなこと考える暇がねぇ」
【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】「んじゃあアルフィアに惚れるか?」
ザルド&レオン「止めろ?!世界が滅ぶわ!!ベルがあの女に『大好き!』なんて言ってみろ、彼奴ホントに囲むぞ?!」
アルフィア「【福音(ゴスペル)】」
ザルド&レオン&ゼウス「「へぶしッ?!」」「なんで儂まで?!」
アルフィア「で、お前。どうなんだ?」
ベル「僕…お義母さん大好きだよ」(親愛)
アルフィア「…そうか、なら良い」




第四話 僕、そんなに情けないかな?

 

 

 ようやく見覚えのあるカフェテラスを見つけ、僕はその店頭で足を止めた。

 他の商店と同じ石造り。二階建てでやけに奥行きのある建物は、周りにある酒場の中でも一番大きいかもしれない。

 

 シルさんの働いている酒場、『豊饒の女主人』。

 

 すごい名前だなと飾ってある看板を仰ぎながら、まず入り口から店内をそっと窺ってみた。

 最初に目についたのは、カウンターの中で料理やお酒を振る舞う恰幅のいいドワーフの女性──きっと女将さん──で、ちらりと見える厨房ではネコ耳を生やした獣人(キャットピープル)の少女達がてんてこ舞いに動き回り、そして客に注文をとる給仕さん達もさも当然のように全員ウエイトレス。

 

 まぁ何が言いたいかというと、店のスタッフがみんな女性なのだ。それもかなり強そうな人がちらほら。

 

 ……酒場の名前の由来をなんとなしに察した。

 

「(いや、でもこれ、僕には難易度高過ぎない……?)」

 

 店員の中にプライドの高いエルフまで紛れ込んでいることに驚きながら、僕はごくりと喉を鳴らした。

 

 昨日まで妄想していた美女美少女のお花畑が、疑似的とはいえ再現されちゃってる。ちなみに女将さんは除く。

 

 いや、こんな事思っていたら僕、殺される?!と言うか何を考えているんだ本当に!!静かにしてて、お祖父ちゃん!!

 

 僕のなかに宿るお祖父ちゃんが覚醒しそうになるのを必死に抑え込み、僕は緊張を誰にも気取られないようにしながらシルさんを探す。

 

 

 店内は本当に明るい雰囲気だった。店員さん達はみんなはきはきとして元気がいいし、飛び交うのは笑い声ばかり。客はほぼ男性の冒険者で鼻を伸ばしている人も一杯いるけど、みんな純粋にお酒を飲んで楽しんでいるし料理もとても美味しそう。

 

 内装は他の店と比べたら随分とシックな装いで、それでも酒場特有のイメージは崩れていない。

 入り口の脇にカフェテラスが設けられているところからわかるように、何だかこじゃれたような感じ。

 そういえば、さっきからテラスの客の視線が痛い。

 

 これなら、男の人だけじゃなくて女の人にも気に入ってもらえそうだ。

 

「ベルさんッ!」

 

「……?!」

 

 いつの間にか現れ、シルさんは僕の隣に立っていた。

 まだ正直朝方の緊張が抜けきってっていない僕は引き攣った下手くそな笑みを浮かべるしたできなかった。

 

「……やってきました」

 

「はい、いらっしゃいませ」

 

 シルさんは朝と同じ服装で僕を出迎えた。

 開きっぱなしになっている入り口をくぐり、澄んだ声を張り上げる。

 

「お客様一名はいりまーす!」

 

「(……あれ、酒場ってこんなこといちいち言うのっ? まあどっちでもいいか)」

 

 目立つような余計な真似しないでと胸の中で呟きながら、店内へ進むシルさんの後に続く。

 やや体を縮こませた姿勢。自分のことながら失笑ものだ。

 

 どこまで小心者なんだよ僕は。

 

「では、こちらにどうぞ」

 

「は、はい……」

 

 案内されたのはカウンター席だった。

 こう、真っ直ぐ一直線に席が並ぶカウンターの中、ちょうどかくっと曲がった角の場所。すぐ後ろには壁があって、酒場の隅に当たる。曲がり角の席だから隣に椅子は用意されておらず、誰かが座ってくることはない。一人きりでカウンターの内側にいる女将さんと向き合う感じ?

 

 シルさん、入店初めての僕に気をつかってくれたのかな。

 これなら他の人に邪魔されることなく自分のペースで食事ができる。

 かなり融通してくれたのかもしれない。

 

「アンタがシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねえ! ほう、でも随分と鍛えてるみたいだね」

 

 いや、“可愛い顔”はほっといて下さいよ。僕も気にしてるんだから。

 カウンターから乗り出してきたドワーフの女将さんに、僕は柄にとなくジト目で抗議の目を向ける。

 

「──どうやら本当らしいね」

 

「何がですか?」

 

「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大(・)食(・)漢(・)なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を落としていきなよぉ!」

 

「──ブフッ?!」

 

 告げられた言葉に度肝を抜かれる。

 ばっと背後を振り返ると、側に控えていたシルさんはさっと目を横に逸らした。

 

 逸らしたよ! 目を逸らしちゃったよこの人!

 

「ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか!? 僕自身初耳ですよ!?」

 

「……えへへ」

 

「えへへ、じゃないですよ!?」

 

 誤魔化されるか! とんでもない『魔女』だこの人! いや、魔性の少女だ!!

 

「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振る舞ってあげて、と伝えたら……尾鰭がついてあんな話になってしまって」

 

「絶対に故意じゃないですか?! というか尾鰭どころではない気が…」

 

「私、応援してますからっ!!」

 

「いや、まずは誤解を解いて下さいよ!!」

 

 と…とんでもない悪女に僕は捕まってしまったらしい。

 

 僕は遅ればせながらも朝方の事を後悔し、あの可愛い笑みに騙される自分の単純さに腹が立った。

 

「あの…僕はそんなに大食漢じゃないですからね?」

 

「……お腹が空いて力が出ないー……朝ご飯を食べられなかったせいだー」

 

「止めてくださいよ!しかも棒読み!? ていうか、汚いですよ!?」

 

 自分で無理矢理押し付けといて一飯の恩を返せとか、詐欺過ぎる!? やはり魔性、この人は危険だ?! 僕のなかのお義母さんが言ってる、此奴は危険だと。

 

「ふふ、冗談です。ちょっと奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください」

 

「は…はい。 まあお腹いっぱいになるまでは食べる気でしたけど…」

 

 ちゃっかりしてるよなぁ……。

 僕は溜息をつきたくなるのを我慢しながらカウンターに向き直った。丁寧に用意されているメニューを手に取り、メニューの量に目をひん剥いた。

 

 正直、どれを食べようか迷い、取り敢えずパスタを頼むことにした。

 「酒は?」と言われ、僕は飲めませんと返す。代わりに果実水を頼むことにした。

 

「楽しんでいますか?」

 

「えぇ……圧倒されてます」

 

 パスタを半分食べたところで、シルさんがやってきた。

 

 実感会話が噛み合っていないように思うが、僕はなんとかちょっと皮肉をこめて感想を述べる。

 彼女は薄鈍色の髪を揺らしながらエプロンを外すと、壁際に置いてあった丸イスを持って、僕の隣に陣取った。

 

「お仕事、いいんですか?」

 

「キッチンは忙しいですけど、給仕の方は十分に間に合ってますので。今は余裕もありますし」

 

 いいですよね? とシルさんは視線で女将さんに尋ねる。

 女将さんも口を吊り上げながらくいっと顎を上げて許しを出した。

 

「えっと、とりあえず、今朝はありがとうございます。パン、美味しかったです」

 

「いえいえ。頑張って渡した甲斐がありました」

 

「……頑張って売り込んだっていう方が正しいんじゃないんですか?」

 

 それからシルさんと、ここのお店のことについて少しだけ話をした。

 

 この『豊饒の女主人』は女将さんのミアさん(店員の人はお母さんと呼んでいるらしい)が一代で建てたもので、彼女は昔は冒険者だったらしい。

 

 所属する【ファミリア】からは半脱退状態らしく、神様の許しももらっているそうだ。

 

 まあ、そうじゃないとあり得ないくらいに強い人達が多いし、特に女将のミアさんとさっきからこっちをチラチラ見て…僕? じゃなくて恐らくシルさんのことを心配してるのかな? とにかくこちらを見ている金髪のエルフの人はとても強そう…動きに無駄がないと言うか…なんというか…恐ろしい。

 

 従業員は“女性のみ”受け付けと徹底的。

 

 何でも結構わけありな人が集まっているらしく、そんな人達でもミアさんは気前良く迎え入れてくれているのだとか。

 

 じゃあシルさんも? と思い切って尋ねてみると、彼女は「働く環境が良さそうだったので」と答えた。同性だけならそれだけ気楽なのかな、と納得する。

 

「このお店、冒険者さん達に人気があって繁盛しているんですよ。お給金もいいですし」

 

「……シルさんってお金が好きな人、なんですか?」

 

「ジョークですよ、ジョーク。それに、ここには沢山の人が集まるから……」

 

 シルさんはそう言ってカウンターから顔を上げて、店内を大きく見渡す。

 注文を取りにきた店員へちょっかいを出すドワーフの客に、それを軽くあしらうヒューマンのウエイトレス。運ばれる料理に満足そうに舌鼓を打つエルフもいれば、テーブルをくっつけお祭り騒ぎのパルゥム達もいる。

 

 そして、総じて皆ジョッキを掲げ、顔を赤くして賑わっていた。

 

「沢山の人がいると、沢山の発見があって……私、目を輝かせちゃうんです」

 

「…結構エゲつないこと言うんですね…」

 

 やっぱりこの人、何処か感性が人間っぽくないというか、神っぽいというか…。…いや、やっぱり怪しい。

 

 瞳を細めてシルさんはそうこぼした。

 

 横からじっと注視する僕の視線にはっと気付いた彼女は、頰を赤らめてわざとらしく「こほん」と咳をつく。

 

「とにかく、そういうことなんです。知らない人と触れ合うのが、ちょっと趣味になってきているというか……その、心が疼いてしまうんです」

 

「……結構すごいこと言うんですね」

 

 でも、それは分からんでもないような気がしなくもなくもないような。僕もオラリオに来て驚きまくっている口だ。

 

 新しい発見ばかりあるというのは、この都市に身を置く人達の特権なのかもしれない。

 

 …いや、やっぱり全然共感できない。えぇっと、昔お祖父ちゃんが言ってたような…『ろ〜るぷれいんぐげ〜む』?だっけ。それに似てる気がする。

 

 でも本当にこの人がなかなかにえげつない事を言っている事実は何一つ変わらない、…やっぱり魔性と言うか…可愛い顔してサラッとえげつないこと言うな…。

 

「そう言えばシルさん…なんであっち側がガラ空きなんで───」

 

「ご予約のお客様のお出ましにゃ!!」

 

「──あ、なんでもありません」

 

 僕の疑問の声は、店の入り口から響く猫人の大声と共にかき消されていった。

 どっと十数人規模の団体が酒場に入店してきた。僕の位置とちょうど対角線上の、ぽっかりと席の空いた一角に案内される。

 一団は種族がてんで統一されていない冒険者達で、見るに全員が全員、生半可じゃない実力を漂わせている…。

 

「(なんか…凄い人達だなー。どこのファミリアなんだろう?)」

 

『……おい』

『おお、えれえ上玉ッ』

『馬鹿、ちげえよ。エンブレムを見ろ』

『……げっ』

 

 周囲の客も彼等が【ロキ・ファミリア】だということに気付いた途端、これまでとは異なったざわめきを広げていく。

 顔を近付けあって密談を交わすようなひそひそ話。

 

『あれが』

『……巨人殺しの【ファミリア】』

『第一級冒険者のオールスターじゃねえか』

『どれが噂の【剣姫】だ』

 

 聞こえてくるさざ波のような声には全て畏怖がこめられていた。中にはヴァレンシュタイン…さん?や他の女性の構成員を見て口笛を吹かす人もいる。

 

「(あぁ…通りで。実力者が多いと思ったら…)」

 

『よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!』

 

 一人の人物が立って音頭をとった。真後ろの姿しか見えず、僕の方からは顔が窺えない。だが、纏う気配が人ではないと僕に赤裸々に語り…恐らく神様だろうと当たりをつける。

 

 それから【ロキ・ファミリア】の人達は騒ぎだした。『ガチン!』とジョッキをぶつけ合い、料理と酒を豪快に口の中へ運んでいく。

【ロキ・ファミリア】が宴会一色の雰囲気に突入すると、他の客も思い出したように自分達の酒をあおり始める。

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入られてしまって」

 

「ほぇー、そうなんですねぇ」

 

 僕が興味半分で【ロキ・ファミリア】を見ていることに気付いたシルさんが、耳に顔を寄せ、手で壁を作りながらこっそり教えてくれる。

 

 

…………

………

……

…

 

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

「あの話……?」

 

 アイズという名前が彼等の間から上がる度に体を硬直させてしまう。

 どうやらヴァレンシュタインさんから見て、席が二つほど離れた斜向かいの獣人の青年が、彼女に何かの話をせがんでいるようだ。

 

 美形っぽい顔立ちでありながらしっかり男らしくて……同性の僕から見てもすごい格好良い。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いた兎(・)野(・)郎(・)の!」

 

 なんだが…デジャブな気がする…。その“兎野郎”に僕は何処となく親近感を抱いた。 

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」

 

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

 ダンジョンは行きが自分の足なら、帰りも自分の足で階層を上っていかなければならない。目的地の階層へ直行させる便利な方法なんてないのだから、僕達冒険者は到達階層を増やす度に、何度も何度も同じ場所を往復することになる。

 

 だからよっぽど深い階層に向かう時は、行きの準備と帰りの準備、両方を充実させていかなければならない。行くだけ行って力つき、帰れなくなってしまったでは目も当てられないからだ。ダンジョン深層へ向かう【ファミリア】では、豊富な人員と物資、そして帰還のタイミングを見極めるリーダーの存在が重要になってくる。

 

 今まで聞いた情報をまとめると。

 

 深層まで『遠征』していった彼等【ロキ・ファミリア】は。

 帰路の際に遭遇したミノタウロスの群れを仕留め損ね。

 何とかそれを追いかけていき、最後の3体を僕がフルボッコにした。

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)が!」

 

 ほへぇ、そんなに情けないような人がいるんだなぁ〜。

 ──ん? あの場には僕とヴァレンシュタインさんしかいなかった…。つまり…だ、その兎野郎っというのは…。

 

「(僕か…。 いや、親近感どころかご本人やんけ?!)」

 

 その事実に僕は一瞬吹き出しそうになるのを堪え、【ロキ・ファミリア】のほうで今も高らかに笑い続ける狼人の声に耳を傾ける。

 

「腹抱えたもんだぜ。 いかにも駆け出しっぽさそうな奴がよぉ、アイズに助けられてそのままそそくさと帰っちまってさ」

 

 ハァ、勘違いか…。 まあわざわざ訂正させるほどのものでもないし、どうでもいいか。

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

 

「アイズが間一髪ってところでミノを真っ二つにしてやったんだよ、なっ?」

 

「……」

 

 にしても、滑稽なほどに僕を笑ってくれるなぁ。まあこの程度の屈辱…お義母さん達に死ぬ程浴びせられた上に、こんな物がカスみたいに感じる程の侮辱を浴びせられた僕の錬鉄の精神(メンタル)を叩き割るには少々火力…いやだいぶ火力が足りない。

 

 ヴァレンシュタインさんは何やら抗議の目を向けようとしているが、なるほどやはり会話が苦手なのだろう。

 んまあ、表情が変わらない訳ではない辺り、お義母さんのように感情をあまり表に出さないわけではなく、表情筋が死んでいるわけでもなく、おそらくあまり表に出せないのだろう。

 

 というか、ヴァレンシュタインさんの近くにいるあの山吹色の長髪の妖精(エルフ)の人、レフィによく似てるなぁ。

 

 …、そう言えばレオンさんが【ロキ・ファミリア】に所属してるって…。

 レベルは3…?くらいかな。あの輪に入ってて、稀有な魔法を持ってるってレオンさんが言ってたから、多分【九魔姫(ナインヘル)】…リヴェリアさんの後釜?ってことなんだろう。

 

 …なんか部外者が名前で呼ぶのって変だよね。今話しかけるのは良くないよね…流石に【ファミリア】の宴会中に部外者が割り込むのは良くないよねぇ。

 

「ごちそうさまでした」

 

 僕はそんな彼の罵倒をおかずにミアさんのご飯を平らげる。

 とても美味しかったのでまた来よう、そう僕は心の中で誓いを立てて近くに居るシルさんに話しかける。

 

「シルさん、お金です」

 

「はい、丁度いただきま~す! 少し色をつけていだたいても良いんですよ〜?」

 

「あはは、ではそれは次に来たときに…ということで。 また来させて頂きますね!」

 

「はい、楽しみに待っていますよベルさん」

 

 シルさんは花のような笑顔を僕に向けてそう言ってくれた。

 僕もその笑顔に笑顔で返し、このあとの予定を考える。

 神様はまだ宴会の筈…じゃあ僕は大人しくダンジョンで暇を潰す……いや、ちょっと憂さ晴らしでもするとしますか。

 

 僕はこの後の予定を考え、少し悲しい気持ちになりながら席を立つ。

 

「ほら、坊主。持っていきな!」

 

「え…えぇ?!…あぁ!っと」

 

 ミアさんは突然僕に向かって風呂敷に包まれた何(・)か(・)を渡してきた。

 それを僕は慌てて受け取り、中身を確認する。その中にはパンや飲み物が入っており、軽い弁当のような物だった。

 

「ダンジョンに行くんだろう? 持っていきな」

 

「えぇ…なんて分かったんですか?!」

 

「あたしはこれでも元(・)団長でね、あんたみたいな冒険者を腐る程見てるだよ。 強さに飢えた奴とかね」

 

 

 見透かされた…と僕は内心で零しながらもミアさんのご厚意を受け取る。

 そして、【ロキ・ファミリア】のほうからまたしても青年の狼人の吠える声が聞こえ、僕はまだやってるよと心の中で思う。正直恥ずかしい、馬鹿にされるのは良いとして、あんなに色んな人がいる間で僕の話をしないで欲しい、兎は案外ビビリなのに…トホホ。

 

「行って来ます!」

 

 そう言って僕はカウンター席を離れ、入り口のほうへと向かう。

 

「坊主!──いや、これは明日まで取っておくか。 また明日の朝来な、シルがなんか渡したいものがあるんだとさ」

 

「…はい! 分かりました」

 

「えぇ?! ミア母さん!!」

 

 シルさんは素っ頓狂な声を上げてミアさんのほうを見やる。

 僕はミアさんの発破を受け取り『豊穣の女主人』の入り口に立ち、出ようとした時──

 

「──ベルさん、頑張って下さい!」

 

「はい、行って来ます」

 

 僕は外へと駆け出し、その足でダンジョンへと向かった。その足取りは今までにないほどに早く、そして強く、ダンジョンのあるバベルの塔があっという間に目の前に来るぐらいには早かった。

 

 

 


 

 

 

 それは少し前、ベルが【ロキ・ファミリア】の青年が嘲笑していた人物が自分であると気づく少し前のこと。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 そうロキ・ファミリアの主神であるロキが派閥(ファミリア)の団員達に声をかけ、その声掛けと共にファミリアの団員達も各々で酒や食べ物を口の中へと頬張り、遠征の疲れを癒していく。

 

 楽しい、と金髪金眼の少女─アイズはそんな事を考えていた。普段の自分ならそんな事を考えたりしない、何をしてるんだ?ダンジョンに行って少しでも鍛えたらどうだ?とそう自問自答していただろう。

 

 きっと、あの子のおかげた。

 あの子からは懐かしい感じがした。 優しいお母さんのように、何処までも強いお父さんのような、そんな気配がした。

 

 この時間がずっと続いて欲しい。 その平穏な時間が続いて欲しい。 心の底からそう思える。

 

 

………

……

…

 

 

 だからだろう。 今、目の前で彼を罵倒するベートさんに対して、苛立ちが止まらない。

 彼は弱くない、彼はミノタウロスを倒した、たった一人で、『LV.1』の駆け出し冒険者(かれ)が。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いた兎野郎の!」

 

 ───止めて、と。

 アイズは心のなかで呟いた。

 

「……」

 

 止めて、あの子を侮辱しないで。

 あの…懐かしい風を感じさせてくれた、もう思い出すことはないと思っていた思い出を…思い出させてくれたあの子を………もう、止めて。

 

 

 皆が笑いを笑いを浮かべて卓を囲む中、彼女だけは机の下で拳を握りながら俯いてた。

 拳からは薄っすらと血が滴っており、アイズが如何にベートに怒っているかを物語っていた。

 

 今も尚、兎(・)野(・)郎(・)と評される少年─ベルを罵倒し続ける青年の名はベート・ローガ。

 【ロキ・ファミリア】でも生粋の超実力主義者である彼は弱者を嫌う、それも異常な程に。

 同じ派閥内の仲間達に対してもそれは同じであり、『弱者を見下し、嘲笑する』それが彼の在り方。

 

「ふむぅ? それで、その冒険者どうしたん? 助かったん?」

 

 大柄の男、【ロキ・ファミリア】の幹部であり古参メンバーのドワーフ、ガレスは今も高らかに少年を嘲笑するベートに問う。

 

「あぁ、アイズが間一髪ってところでミノを真っ二つにしてやったんだよ、なっ?」

 

 今、自分がどのような顔をしているのか、アイズにはわからなかった。

 

 胸の奥でささくれ立とうとするこの感情をどう表現していいかわからない。何故心が乱れかけているのか、頭の隅にいる昨日の白髪の少年に問いかける。

 

 彼にあの日の父を重ね、自問自答する。

 

 違う、私じゃない。

 

 アイズはそれを言葉に出来なかった、あの少年が自分と会話していた時、ずっと彼の顔は引き攣っていた。きっと、怖かったのだろう。

 そう思うと…、さっきまでは楽しかったこの時間が酷く億劫に感じる。

 

 

 そこからもベートの嘲笑は続いた。 ファミリアの団員達もその話を聞いて笑みを浮かべ、共に笑い出す人間まで現れる。

 アイズの気分は更に落ちていき、ベートを睨みつけ、そのまま俯いて目を塞いでしまう。

 

 「怖い顔しないで」なんて言葉が聞こえても、それでもやっぱり笑えない。笑っていいはずがない。

 

 なんでこんなに苦しいのか?分からない、分からないけど、そんな“ナニか”がアイズの心を締め付けていく。

 

「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 何か、自分の中にある大切な思い出にヒビがはいる。

 

 あぁ、そうか。 私の思い出が、あの白い少年と一緒に、お父さんやお母さん達との思い出で汚されてると…そう感じてるから…。

 

 気づいてしまったら、もう止まらない。ひび割れていく少女の心は、更に音を立てて割れていく。

 かつての記憶が、まだ笑みを浮かべていた少女(アイズ)の思い出が、消えていく。

 それを認識した瞬間、喉の奥から何かがこみ上げてくる。

 それが溢れないように口を手でバレないように抑える。

 

 頭の片隅が、削れていく音がする。

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

 リヴェリアが柳眉を逆立てて制止する。

 彼女の静かな非難の声に、肩を揺らしたティオナ達は気まずそうに視線を逸らしたり、レフィーヤだけはずっと『兎野郎』の部分を思い出しながら静かにベートにキレていた。

 だけどそれでもベートさんの嘲笑は止まらない、止まってくれない。

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護して何になるってんだ? それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

 「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」

 

 ロキが見兼ねて仲裁に入るも、彼は唾棄の言葉を緩めない。 リヴェリアに触発され、その強過ぎる我に完全に火がついているベートは、嘲笑を隠さず再びアイズへ視線を飛ばす。

 

 ──ガリガリガリ。

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

「…そんな事、ありません」

 

 少女は初めて言い返した。

 掠れた声で、絞り出すように、だがその声は皆の嘲笑や酒場の騒音で掻き消されていく。

 

 ──ガリガリガリ、ガリガリガリ。

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ? あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

「……ベート、君、酔ってるの?」

 

 そんな強引な問いに、フィンが軽く驚く。

 

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 この時ばかりは、はっきりと、アイズはベートに嫌悪を覚えた。

 迷いなく、目の前の青年ではなく頭の中の少年を選ぶ。

 

 ──ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ。

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

「無様だな」

 

 リヴェリアは、振られてしまって情けないベートを逆に嘲笑する。

 それに怒ったのか、ベートは更に質問を変えてアイズに問う。

 

「黙れババアッ。……じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

「……っ」

 

 昂ぶっていた感情に冷水を掛けられる。

 それは、無理だ。

 それは、出来ない。

 私があの子の隣にいたら、きっとあの子が汚れてしまう、それは嫌だ。

 私の手で、あの日の記憶を…汚したくない。

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」

 

 そして、ベートは一拍置いて、溜めていたものを吐き出すかのように言い放つ。

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

 そんなベートの言葉にアイズは耳を閉じようとした…、だがその時、あそこにいた白い少年の名前が聞こえた。

 

 

『──ベ(・)ル(・)さん、頑張って下さい!』

『はい、行って来ます』

 

 ベル…そう確かに酒場の店員である少女が言う。

 その声に応えるように真っ白な髪の少年は大声で挨拶をして酒場を出ていった。

 

 周囲がざわめく。何事かとそちらを見やるが既に少年の姿はなく、恥ずかしそうにモジモジとする店員の少女のほうに皆の視線が移る。

 

「あぁン? なにままごとなんてやってんだ?」

 

「へぇ、シルちゃんにモテるなんて、エライ男やでぇ!」

 

 周囲と同じ反応をするベート達を尻目に、アイズは一人立ち上がる。

 知っている、見間違えるわけもない、聞き間違える訳もない。

 鍛え抜かれた動体視力はほんの一瞬しか見えなかった少年の顔をしっかりと捉えていた。

 

 優しそうな笑顔、昨日みたものと同じ深紅(ルベライト)の瞳。

 

「(あの時の……?!)」

 

 店の出入り口まで進んで、柱に手をつきながら外を見回した。

 だが、少年の姿は、既に見えなかった。

 

「ベル……」

 

 少女が言っていた名前を、昨日あの少年から聞いた名前をアイズは小振りの唇に乗せて反芻する。

 

 背中を叩く仲間達の呼び声より、その名前がやけに自分の胸へと響き渡った。

 

「ほいほい、アーイズた〜ん。なにやってるんー?」

 

「……」

 

 先程宴の音頭を取っていた女性が背後に立ち、両腕をアイズの腹部に回してくる。息がかかるほど体を密着させ、恥骨をアイズの臀部に押し付けてきた。

 

 この神物──【ロキ・ファミリア】の主神その人でなかったならば、いや同性でなかったら殴り飛ばしているところだが、流石に彼女へ乱暴することはできない。

 

 ──と一瞬の思考が過ぎりつつも、アイズは困った顔で腹に回された手をとってひねり、肘鉄、相手が後退したところでその頰っ面へ張り手をかました。

 もし仮に、ベルがこの瞬間をみていれば、思わず吹き出しただろう。やはり、どこの神もあまり変わらないのだと。

 

「ちょ、めっちゃ乱暴しとるやん……!? 表情と行動が全く嚙み合ってないよアイズたん……!?」

 

「変なことしないでください」

 

 もみじのできた頰を押さえ涙目になる相手はプルプル震えていたかと思うと、すぐに復活して「クーデレなアイズたん萌えー!!」と叫び出した。

 

 アイズは非常にソレから目を背けたくなった。

 

「まぁまぁ、そんな顔せんで。ベートと酒飲みたくなくなったんなら、ミア母ちゃんに頼んで店の外に吊るしてもらうから」

 

 どうやら、ロキはアイズが出口へ向かった原因を勘違いしているらしい。

 

 見ると、「ぐぉおおおおおおおおお!?」と叫ぶ獣人の青年がみなの手で地面に取り押さえられ、縄で盛大にぐるぐる巻きにされているところだった。

 

 言い争っていた先程のハイエルフに頭を踏まれている。

 

 他の客はそれをはやしたて、どんちゃん騒ぎの有り様だ。

 

 それでも、許せるはずがないし、許したくもない。

 

「ほな、いこぅ。アイズたん、うちに酌してぇ」

 

「……死んでもごめんです」

 

「んなッ!? 酷いでアイズたん?!」

 

 肩を抱かれやんわり連れて行かれる中、アイズはもう一度外を見た。

 

 魔石灯の光でぽつぽつ照らされる大通りの先に、少年の姿を望むことはかなわない。

 すっかり暗くなった夜空は、とても輝いており、宝石のように煌めいていた。





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