最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です   作:道化の作家

8 / 16

 皆フレイヤ様がヘラとアルフィアにどう折檻されるのが見たいのかな?17巻の内容が見たいのかなぁ?とコメントを観ていて思ったので、是非ともそうならコメントでオネしゃす。多ければ反映するかも…?


第七話 貴方、ベルっていうのね byアリーゼ・ローヴェル

 

「おーい! ファーイたーん、フレイヤー、ドチビー!!」

 

「……もっとも、君なんかよりずっっと大っ嫌いなやつが、ボクにはいるんだけどねっ」

 

「あら、それは穏やかじゃないわね」 

 

 品良く微笑むフレイヤから視線を切って回転すると、大きく手を振りながら歩み寄ってくる女神がいた。

 

 朱色の髪と朱色の瞳。いつもは紐で結びまとめてある簡単な髪型を、今日はパーティーに合わせてか夜会巻きにしている。細身の黒いドレスを着こなしていた。

 

 フレイヤが出てきた後なので二番煎じの感は否めなかったが、彼女も当然ヘスティア達と同じように顔立ちが整っている。

 

「あっ、ロキ」

 

「何しに来たんだよ、君は……!」

 

「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか? 『今宵は宴じゃー!』っていうノリやろ? むしろ理由を探す方が無粋っちゅうもんや。はぁ、マジで空気読めてへんよ、このドチビ」

 

「……! ……!!」

 

「凄い顔になってるわよ、ヘスティア」

 

 自分より頭二つは高い神、ロキに馬鹿にされたヘスティアは顔を引きつらせる。

 彼女に対してもはやヘスティアが語ることは何もない。

 

「本当に久しぶりね、ロキ。ヘスティアやフレイヤにも会えたし、今日は珍しいこと続きだわ」

 

「あー、確かに久しぶりやなぁ。……ま、久しくない顔もここにはおるんやけど」

 

「そうね。お久しぶり、ロキ。それにフレイヤとヘファイストスも。ヘスティアに関しては本当に久しぶりね」 

 

 その声はよく透き通っていた。

 その声にロキは唾を吐き、フレイヤとヘスティアは驚いたような顔をし、ヘファイストスは更に心底驚いた顔をした。

 

 その風貌はとても美しく、纏う衣服は穢れを知らぬような純白の衣。

 胡桃色の長髪に、澄み切った海色の瞳を持つ見目麗しき月乙女の女神。

 

 その女神の名は、アストレア。正義の司る女神。

 

「えぇ?! ア、アストレア?!」

 

「あら?アストレア。貴方、確か都市外に行っていたのではなくて?」

 

 ヘスティアが驚きの声を上げ、フレイヤも同じく驚きの声を上げる。

 

「えぇ、でも怪物祭(モンスターフィリア)があるでしょう?」

 

「あぁ、アストレアのところの眷族達は当日警備にあたるんだったわね」

 

「そうよヘファイストス。全くロイマンもキツイことを言ってくれるわよねぇ」

 

 帰宅早々に警邏の準備をしろなんて。とアストレアは愚痴を零す。

 

「なんやアストレア。前にも言うたがな、うちは自分の事が好かんねん」

 

 ロキはまたしてもアストレアに文句を良い、ケッと唾を吐き捨てる。

 

 神々の中でも屈指の善神にして委員長属性のアストレアと悪戯好きのロキ。相容れないのは最早宿命といったところだろう。

 

 そんな空気に耐えかねたのか、ヘファイストスが話題を変えるようにヘスティアに問う。

 

「あ! そう言えば貴女、初めての眷族ができたんですってね。うちのヴェルフが絶賛してたわ。確か、白(・)髪(・)で(・)赤(・)い(・)目(・)を(・)し(・)た(・)ヒ(・)ュ(・)ー(・)マ(・)ン(・)だ(・)っ(・)け(・)? 【ファミリア】ができたってあんたが報告しに来た時は驚いたなぁ……」

 

「あぁ、そうなんだよヘファイストス。ベル君って言ってね。とっても良い子なんだよ」

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、それは。とても美味しそうね(興味深いわね)」

 

 そう、フレイヤは零す。

 そんな言葉には気付かず、ヘスティアはヘファイストスやアストレアと雑談をし続ける。

 

 

「何企んどるんや、あの色ボケ女神」

 

 そんな中、フレイヤの言葉を聞き逃さなかったロキだけは、美の女神の計略を見破ろうとしていた。

 そのまま彼女は不機嫌さを醸し出しながらも会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 うんうんと頷くヘファイストスの隣で、フレイヤが動きを作った。

 コトン、と持っていたグラスをテーブルの上に置いて、髪を翻す。 

 

「じゃあ、私もそろそろ失礼させてもらうわ」

 

「あら、もう帰るの? 貴方何か用事があったんじゃないの?」

 

「もう用事は済んだからいいの。それじゃあね」

 

「あ! ちょっと! ……貴方ここに来てから私たち以外の誰とも話してなかったじゃない……」

 

「そうよ、まだ全然お話していないじゃない」

 

 パーティーの最初から彼女と行動していたヘファイストスは怪訝そうな顔を隠さない。

 アストレアも同じく、そもそもこの宴に顔を出した意図すら分からない彼女に、わずかながらに警戒心を抱く。

 フレイヤはそんな彼女達を無視し、ヘスティアの方を見下ろして、これまでとは少し違った形で笑む。

 

 ぱちくりと、ヘスティアは瞳を瞬かせた。

 

「……それに、ここにいる男はみんな食べ飽きちゃったもの」

 

『『『『『『『『サーセン』』』』』』』』

 

「……すげぇ〜」

 

「……」

 

「……」

 

 それじゃあ、と言い残して、彼女はひしめく神達の中に消えていった。

 取り残されたヘスティアは言葉を漏らし、ヘファイストスとアストレアは互いに微妙そうな顔をして、隣り合うお互いの顔を見交わす。

 

 「……? なあへファイストス、アストレア。ボク、フレイヤに何かしたかなぁ……心当たりはないんだけど……」

 

「………貴方に心当たりがないのなら気にしなくていいんじゃないかしら。それにしても…………何を考えてるのかわからないわね……」    

 

 短くため息をつき、細い指でカリカリと右眼の眼帯をかく。 

 ヘスティアなどのヘファイストスに近しいものならわかるが、これは彼女の癖だ。

 言葉では装っていても、納得していなかったり不満があったりするとこの仕草をする。 

 今回は言葉でもあまり装えていないところからフレイヤの言動やヘスティアに対しての行動に相当納得がいっていないのだろう。

 

「アストレアは何か心当たりはあるかしら」

 

「いいえ、ないわ。 まあ、フレイヤが意味深な態度をすることなんていつものことだしね」

 

 アストレアの言葉に、ヘファイストスも声には出さないが言外に納得したという態度を示す。

 

 

「あれ!そう言えばロキの奴は何処行ったんだ?」

 

「あら、さっきなんだか不満気そうにしながら帰っていったわよ」

 

「えぇ?! そうなのかい。はぁ、なんだか誰も彼も変わってしまったようだね…、僕は寂しいよ」

 

 そう、ヘスティアはなんだか自分の知っている神物像とは大きく変わってしまっている彼女や周りの神々を見ながらなんだかしおらしくなっていた。

 

「…私もそろそろ帰ろうかしら。遅くなったらみんなも心配するしね」

 

 それじゃあまたね、と手を振り、アストレアも会場を後にした。

 残った二人で思わず顔を見合わせる。

 

「で、あんたはどうするの? 私はもう少しみんなの顔を見に回ろうかと思うけど、帰る?」

 

 ぴくっ、とヘスティアは肩を揺らした。

 

 本来の目的を思い出したからだ。

 

「もし残るんだったら、どう? 久しぶりに飲みにでもいかない?」

 

「う、うん、えーとっ……」

 

 急にしどろもどろになったヘスティアにヘファイストスは首を傾げる。

 細いうなじからこぼれる紅い髪に視線をさまよわせながら、ヘスティアはやがて覚悟を決め、ゴクリと喉を鳴らした。

 

「そのぉ……ヘファイストスに頼みたいことがあるんだけど……」

 

「……」

 

 すっ、と紅い左眼が細まる。

 

 日頃の親しみやすい雰囲気から一変して、厳しさに溢れた空気を纏い出した。

 

 金は貸さないと言い切った、先程と同じ姿勢だ。

 

「この期に及んで、また頼み事ですって? あんた、さっき自分が口にしていたことをよーく思い出してみなさい?」

 

「え、えと、何だっけっ……?」

 

「私の懐は食いあさらないって、そう言ってなかったかしら?」

 

 あぁ言ってた、とヘスティアは空笑いした。

 

 汚物を見るかのような目をする親友の前で、前言を撤回したくなる衝動が襲いかかってくるが、ヘスティアはぐっと顎に力を入れて耐える。ベルの顔を思い浮かべて胸を奮い立たせた。

 

 自分こそこの親友に愛想をつかされてしまうかもしれないと半ば覚悟しながら、ヘスティアはこの『神の宴』にやってきた目的を実行に移す。

 

「……一応聞いておいてあげるわ。な・に・を、私に頼みたいですって?」

 

 目の前で仁王立ちするのは紅眼紅髪の神ヘファイストス。

 

 天界では火の神と称されていた彼女が作った【ファミリア】は、このオラリオにて冒険者の収入で唯一運営がされていない。

 

 迷宮都市にもかかわらずダンジョンで生計を立てないという異色性を持つ【ヘファイストス・ファミリア】は、しかしこの都市に住む冒険者ならば誰もが知る大【ファミリア】である。

 

 ブランド、と言ってもいい。

 

 多くの人材を抱え、育成し、百の品に勝る一品を生み出すことで有名な業界大手の【ファミリア】。オラリオ以外の諸都市からも──世界中からも引く手数多である彼女の【ファミリア】は、そう、『鍛冶師(スミス)』の【ファミリア】だ。

 

 ベルの専属鍛冶師であるヴェルフ・クロッゾもその一人。LV.3であり特殊な血統故に、本来ならベルのような駆け出しのペェペェには両手を使っても抱えきれないほどの大物でもある。

 

 ヘスティアは彼の【ヘファイストス・ファミリア】永久現役社長に向かって、大きな声で自分の望みを放った。

 

「ベル君にっ……ボクの【ファミリア】の子に、武器を作って欲しいんだ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼。

 

「よし、それじゃあ取り敢えずヴェルフに打ってもらった防具を試してみますか」

 

 ベルはそう言いながら本拠にある姿見に自分を映し、そしてヴェルフに打ってもらった超軽量型装備(ライトアーマー)の着心地を試していた。

 

 感想は最高。大きさも、重さも、その全てが自分の求めていたものであり、まさに完璧と評するに相応しかったからである。

 

 とっととダンジョンへ特攻(アタック)して防具の使い心地や防御力を実感したいところだが、生憎と今持っている手持ちの武器は短剣一振りのみ。

 

 メインウェポンである長剣二振りはヴェルフに研磨し直してもらってるので無し。

 それ以外に武器は…ない。よってダンジョンにおもむく事は不可能となってしまった。

 

「あ…そう言えばミアさんから貰ったこの本。一体何なんだろう?」

 

 偽装?みたいな変な感じの細工はされているし、でも別に危険なものみたいな嫌ぁ~な感じはない。

 

 そう考えながら僕は椅子に座り、本の表紙を怪しげに見つめながらも、頭の中で“早く読め!”という好奇心に駆り立てられ、その要望に従うがままに本を開いた。

 

「……」

 

 刹那、空気が凍った。

 表紙を見て、脳内で意味を理解し、そして理解を拒んだ。

 

『自伝・鏡よ鏡、世界で一番美しい魔法少女は私ッ ~番外・めざせマジックマスター編~』

 

『ゴブリンにもわかる現代魔法! その一』

 

 どうしよう、そこはかとない地雷臭が。

 

 僕はそっと本を閉じた。一度眉を揉んで表紙をじっと見る。

 この装飾から結構期待していたんだけど、一ページ目に書かれていたその二つで一気に気が抜けてしまった。頭の中で響いていた声もそれに呆然としているのか何も響いてこなくなっている。

 

 いや、魔法少女はまだいいとして、ゴブリンは駄目だろ!流石にモンスターが魔法使ったら人が山のように死んじゃうから!?

 

 ミアさんは何を思って強くなれると思ったんだろう?これを読めば?強くなれる?それってもしかしてモンスターにでもなれと?それって怪人(クリーチャー)って奴じゃないの?

 

 だが、それでも一応読もう。

 

 僕はそれでも好奇心に抗えず、本の目次を飛ばして内容を読み込んだ。

 

 『魔法は先天系と後天系の二つに大別することができる。先天系とは言わずもがな対象の素質、種族の根底に関わるものを指す。古よりの魔法種族(マジックユーザー)はその潜在的長所から修行・儀式による魔法の早期習得が見込め、属性には偏りが見られる分、総じて強力かつ規模の高い効果が多い』

 

 案外中身は普通の魔法学について書かれているモノだった。内容はアルフィアお義母さんやレオンさんに教えられたモノと同じ物であり、ほぼほぼ復習みたいなモノだった。

 

 復習にはなるから次々読み進めていくと、一文一文の間に妙な文字?(数式?)が走っていることに気づく。【神聖文字(ヒエログリフ)】でも亜人(デミヒューマン)達の言語、ましてや共通語(コイネー)とも違う複雑怪奇な記号群。

 

 ページをめくる。

 

『後天系は『神の恩恵(ファルナ)』を媒介にして芽吹く可能性、自己実現である。規則性は皆無、無限の岐路がそこにはある。【経験値(エクセリア)】に依るところが大きい』

 

 このページからあの人に教えてもらっていない文が続く。いつの間にかその文に引き込まれながらただ読み進める。魔法とは興味である、引鉄は常に心の中に介在するなどの言葉が次々頭の中に入ってくる。

 

 ページをめくる。

 

 【絵】が現れた。

 顔も目も鼻も口も耳もある人の顔。真っ黒な筆跡の文章で出来た、瞼を閉じた人の顔の絵。

 

 ページをめくる。

 

『欲するなら問え。欲するなら砕け。欲するなら刮目せよ。虚偽を許さない醜悪な鏡はここに用意した』

 

 それが僕の顔だと気づいた瞬間、その絵の瞼が開いた。

 

 もう一人の『僕(おれ)』の目が僕を射抜いたその時、僕の意識は途絶えていた。

 

 ページをめくる。

 

『じゃあ、始めよう』

 

 瞼が開いた。僕の声が聞こえた。

 

 文字で綴られた深紅(ルベライト)の瞳が僕を射抜く。短文で形成された小さな唇が言葉を紡ぐ。

 

 ページをめくる。

 

『僕にとって魔法って何?』

 

 勝つためのモノ。

 絶対的な強さであり、理不尽の権化。

 あの鐘の音や、炎の舌、騎士の光、僕の憧憬でもあり先達。

 あの日見た、あの『英雄残光』に到れるような、そんな強い力。

 

『僕にとって魔法って?』

 

 道を切り開くものであり、弱い自分を勝たせてくれる、そんな力。

 そして、あの人たちのような絶対の一撃を放てる力。

 

『僕にとって魔法ってどんなもの?』

 

 『雷』…かな。何よりも早く敵を討てる圧倒的力。 不屈で、何者にも折れない、全てを守れる『雷霆(らいてい)』の矛。

 

 大切な人達を守れるような、そんな力。絶望を穿ち抜き、理不尽を打ち破り、あらゆる試練を突破できるモノ。

 

『その魔法に何を求める?』

 

 ……誰よりも早く、『雷』のようなそれでいて『光』のように早い。誰も彼も守れるような力。

 誰かが苦しんでるなら、助けてあげられるような、そんな力。

 

 誰よりも早く。

 何よりも早く。

 あの人達の元へと行けるような。

 そんな強い力。

 

『それだけ?』

 

 うぅん、そうだね。

 願うなら、もっとあの人たちにのような、そんな理不尽な力が欲しい…かも?

 

『我ながら欲張りだねぇ……』

 

 はは、そうだね。それでもあの人たちに追いつくためには、理不尽な力も持ち合わせてなきゃ無理ってもんだよ。

 

『わかってるさ。それが僕(きみ)だからね』

 

 目の前の僕がそっと微笑んだ。

 

 それを見た瞬間、僕の意識は現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバい…ことしちゃったよぉぉぉお?!」

 

 ベルは先程読んでいた本を持ってあたふたしていた。

 そして開かれている本には、最早何も書かれておらず、既に役目を終えていた。

 

 その本の名は『魔導書(グリモア)』。作成には『魔導』と『神秘』の発展アビリティを極限まで極める必要があり、それを作成できる魔術師(メイジ)は彼の魔法大国『アルテナ』でも数えるほどしかいないと言われるほど。

 

 お義母さんも、作ろうとして何回も失敗していた程の代物。

 最終的には3冊の魔導書の作成に成功しており、今もお祖父ちゃんが僕のために書き綴ってくれた本をしまっている本棚の一角に仕舞われている。

 

 気付けなかったのは、何より偽装工作がされていたせいで見破ることが出来なかったのもあるけど、いやまさか魔導書(グリモア)だとは思わなかった。

 

「ど、どうしよう。っていうかそもそも」

 

 ミアさんは絶対に知ってたよね、これが魔導書(グリモア)だってさ。

 マジで、じゃあなんでこれを寄越したんだ? 分からない。そもそも何が目的なんだ?

 

『強くなれるぞ』

 

 じゃありませんよ?!

 ヤバい、どう謝罪したら…、ん?謝罪いるか?これ。

 

 元々あの人がくれたやつで、あの人もそれをわかってて、『不吉』っていうのは恐らく魔導書(これ)が相当な代物だからで。いやでもあの人ならなんとか出来るでしょ。アルフィアお義母さんほどではないにしろ、ヴァレンシュタインさんよりかは強いだろうし。アビリティの部分とか。

 

「う~ん、今度それとな〜く聞いてみようかな?」

 

 ベルはそう考えながらも本拠の木造りのドアを開けて外に出る。

 

「(なんか…嫌な予感がする)」

 

 そう、研ぎ澄まされた第六感が何の前兆もなくベルに告げる。都市は今もこれ程までに賑わっているのに、何かの魔の手が今も尚ベルに差し迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで…あの本は魔導書(グリモア)で、僕はそれを知らずに使っちゃいました」

 

「別に良いんだよ、そもそも分かってて渡したんだからね」

 

 ベルは頭を水平に下げて謝った。

 魔導書を使用してしまったこと、そしてあれらは一度っきりの代物であり、二度は使えない。故にその重要性を知っているからこそ、何度も悩み、一応報告ついでに謝っておくのが筋というものだろうと、ベルは頭を下げている。

 

 だが当の本人であるミアはあっけらかんとしながら「良いんだよ」と平然と返す。

 

「そもそもアレは忘(・)れ(・)物(・)なんだからね」

 

 そう言いながらミアさんは心底呆れたようにシルさんを見る。なんで? …もしかして、シルさんへの貢物だったりするのか? それは…ある意味でヤバい、かなりヤバい。

 いや、でも忘れ物って…なら尚のことヤバい気が。

 

「そもそも。そんな代物、忘れるやつがいけないんだよ」

 

 えぇ、そういうもんですか?とベルは零す。

 とうとう痺れを切らしたミアは「店の邪魔だよ!」とベルを店から叩き出す。

 

 そうしてベルは若干の違和感とやるせなさ、尚且つ忘れた人への申し訳なさを感じながらも《豊穣の女主人》をあとにしようとした時。

 

「ん?クラネルさん」

 

「あ…リューさん」

 

 突然、若葉色の制服を着たエルフの女性と目が合う。

 金髪の髪を後ろで纏めたポニーテールの髪型をしたエルフの女性は僕の顔を見て少し驚いた顔を上げていた。空色(スカイブルー)の瞳が僕を射止め、少しの間なんとも言えない空気が流れる。

 

「えぇっと…それでは」

 

「はい、それじゃあ」

 

 リューがなんとか声を絞り出し、ベルもそれに応える形でなんとか気まずい空間を脱する。

 そうして、再度この場をあとにしようとしたあと…。

 

「私こそ清く、正しく、美しいLV.5、アリーゼ・ローヴェル!【 アストレア・ファミリア】の団長よ!バッチコーン。リオンはいるかしら?今度のフィリア祭で借りたいんだけど」

 

「え…うわっ!」

 

 目の前から突如出現した天真爛漫な赤毛の女性に驚いた僕はその場に尻もちをついてしまった。

 それはもう見事に、近くにいたリューさんはそんな情けない僕を心配し、目の前のアリーゼ…さん?はなんだか珍しいモノを見るような視線を僕に送ってくる。

 

「大丈夫ですか?クラネルさん」

 

「あ…はい、ありがとう御座います。リューさん」

 

 リューは心配しながらベルに手(・)を差し出す。

 それをベルは頭を下げながら掴み、そして立ち上がる。

 

 そして、それ等を終始青ざめた顔で見つめていたアリーゼは、ベルがリューの手を取った瞬間から何故か素っ頓狂な声を上げて騒ぎ出した。

 

「リ…リオンに…春が来たわ!!!!!」

 

「な…なな、何を言っているのですかアリーゼ!!」

 

「………はぁ?」

 

 アリーゼは凄まじい程の声量で騒ぎ立て、そして店内にいたリューの同僚たちですらリューとベルを交互に見やり、そして最終的には今も尚繋がれた二人の手を凝視する。

 リューが他人に肌を許した、その偉業ともとれるそれを前に、最早歴戦の猛者たるミアでさえ動きを止める。シルに至っては微笑んだ状態で固まっていた。

 

 

 そんな中、桃色の短髪のパルゥムの女性と、極東の和風美人を思わせるような黒髪長髪のヒューマンの女性が入ってくる。

 

 そしてアリーゼを一瞬見て、そしてそのアリーゼが見ている方を…、正確にはリューとベルの繋いだ手を凝視していた。

 

「おいアリーゼ、あんま騒ぐなよな。此処の店長はおっかねぇ──」

 

「そうですねぇ、団長殿。あまり騒がれるとわたくし達まで恥ずかしい思いを──」

 

 その後ろで心底申し訳なさそうに月乙女の女神が店内の、リューとベルを視界に収める。

 

「アリーゼ、あまり周りの子供達の迷惑になるような事は──」

 

「「「リオン(リュー)に春が来たわ(来ただと)(来やがった)?!?!?!」」」

 

「だから…違うと言ってるだろう輝夜、ライラ!! それに悪乗りしないでください、アストレア様?!」

 

 リューは両の頬を真っ赤に染め上げ、心底恥ずかしそうにする。

 だが、依然リューはベルと手を繋いだまま、離そうとはしない。 そして、先に限界が来たのはベルのほう、この現状の混沌(カオス)さに頬を引き攣り、そしてすぐさまリューの手から自身の手を引き、数歩後退りしてしまう。

 

「で!リオンとの馴れ初めは? まさか一目惚れ?」

 

「ほう、そいつは気になるなぁ。 にしても兎みてぇな奴だな」

 

「えぇえぇ、この貞操観念が化石なエルフ様を、一体どのような手腕で落としたのか。気になりますねぇ」

 

 アリーゼ、ライラ、輝夜は次々にベルに質問攻めを行い、ベルは少しづつ後退りするもののとうとうカウンター席の机の下側に入ってしまい、これ以上の後退は不可能になってしまった。

 

 追い詰められた兎の瞳には若干の涙が浮かんでおり、今から食われるのでは?という恐ろしさがベルの動きや思考能力を更に衰えさせる。

 

「あ…え……っと」

 

「ねぇねぇ、君の名前は?」

 

 そんな中アリーゼがベルに近づき更に質問をする。その状況に更にベルは混乱し、そもそも何故自分とリューがそ(・)う(・)い(・)う(・)仲(・)になっているのかすら理解出来ない状況だった。

 

 え…?僕が、リューさんの…春? 春ってなに?あの、お願いですから僕の話を聞いて…。

 

「ねぇ、貴方の名前は?」

 

「ベ…ベル、ベル・クラネル…です」

 

「ベル!分かったわ。それでベルはリオンの何処か好きになったの?」

 

「え?えぇと……」

 

 え?なんで僕かリューさんを好きみたいになってるの? 

 …オラリオって話聞かない人が多過ぎる気が。

 この人然り、シルさん然り。

 

 混乱して、それでもなんとか反応しようとするベルにライラと輝夜は面白半分で質問をし、アストレアは生温い視線をリューとベルに送り、アリーゼは凄まじい速度でベルに質問をし続ける。

 

 リューはその間、ポンコツエルフ全開で放心状態。

 

 ほんっとうにこのエルフは大事なときにいつもポンコツを発揮するなぁ!! by作者。

 

 こんがらがって、僕は取り敢えず言葉を紡いで言った。

 

「き…綺麗なところ…とか?」

 

「へぇ、それでそれで!」

 

「!?」

 

「誠実そうなところが…?」

 

「うんうん!!」

 

「…?!///」

 

「素敵だなと………?」

 

「そうなのね!!良かったじゃないリオン。脈ありよ、バッチコーン!!!」

 

「ア……、アリーゼ!!!!クラネルさんとはそういう関係では!!というかクラネルさんにシルという伴侶が!!///」

 

「えぇ?! リューさん?! それは初耳なんですけど!!」

 

「リュ、リュー!!何言ってるの?」

 

 リューの突然の暴露にベルは素っ頓狂な声で詳細を聞こうとし、シルは頬を赤らめながらリューを咎めようとする。

 

 まさにこの空間は混沌(カオス)。

 誰にも止められず、なんとかリューさんが弁明するが、「恥ずかしがらなくても良いのよ!」とアリーゼさんは満面の笑みで言い返し、リューさんがなんとかアストレア様に助けを求めるも、「あまりそういうのは詮索されたくないものよねぇ」と何故か生暖かい視線を僕とリューさんに送り、既にリューさんは放心状態。

 

 主神にまで誤解され、弁明しようにも誰も話を聞いてくれず、あまつさえその相手は親友の伴侶──ベルは当然認知してないが──となる男。

 あり得ない。エルフともあろう者が、伴侶が決まった相手、しかも親友の! 

 そのような粗相を犯すなど、あってはならない!とリューは内心自分を叱咤し、なんとか意識を保ち、弁明の機を窺う。

 

 その間、ベルは既に自身の中にいる《イマジナリー・アルフィア》の“福音拳骨(ゴスペルパンチ)”により精神を保つために意識を断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなのね!ごめんなさい、勘違いして。バッチコーン!!」

 

「今だけはその笑顔を殴りたい」

 

 アリーゼさんは満面の笑みで謝罪し、リューさんはそんなアリーゼさんの笑顔を今にでも殴りたいと宣言。

 

 いつもは周りを明るく照らす笑顔だとしても、今だけはせめて申し訳なさそうな顔をしてほしいものだとベルも思う。

 

 そんな中、ベルとリューの内心などなんのその。知ったことではないと言わんばかりな態度を取るアリーゼにベルは頬を引き攣らせ、リューはその右手の拳を固く握りしめ、もうパンチを放つ3秒前だった。

 

「にしても、リオンの手を握れる相手なんてそう居ないんだから!しかも男の子なんて。リオン、逃がしちゃ駄目よ!」

 

「だからアリーゼ!何を勘違いしているのですか?!クラネルさんにはもう伴侶の先約が!!」

 

「だぁからその先約は一体いつ結ばれたんですか?!まさか、僕の預かり知らぬところでですか?!」

 

 ベルの痛哭な叫びにも似た慟哭に、その場にいる誰も答えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は悲惨な事が多過ぎた…。神様は今頃パーティか、まあこの前は僕だけ外食しちゃったし、親友に会いに行くって言ってたし。そういうのは大事だよね。

 

 と、ベルは内心考え事をしながらも帰路につく。

 外はすっかり夜の帳が降り、都市は既に夜の顔に移り変わっていた。

 

 ベルは《豊穣の女主人》での騒動のあと、ミアに「喧しい」と一喝され、迷惑をかけた償いとして率先して店の手伝いをした。

 

 ベルは厨房に立つ事を許され、その手際の良さはあのミアも舌を巻くほどであり、シルには「また今度お手伝いに来てくださいね」と言われるほどだった。

 

 …いや、シルさんに関しては絶対他にも思惑があったよね。 僕、好かれてるのかな?

 

 いやいや、自信過剰にも程があるだろ?! 僕が? 僕みたいなひ弱そうで今にも食べられそうな兎如きが?シルさんに?いやいやいや、まさかね。

 

 ベルは自分の自惚れを叱咤し、夜の道を歩く。

 

 そんな時、突然後ろから声を掛けられた。

 その声はやけに透き通っていて、耳に残るような、それでいて鼻につく嫌ぁな声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、そこの少年。 俺の名前はエレン、なぁに、優しくてイケメンなただの神さ。 一つ、俺の質問に答えてくれないか?」




 
 ベルの服装。
 アルフィアの魔法衣を使用した戦闘服(バトル・クロス)を使用しており、色は黒のインナーに白と黒の礼服のような感じの服装。魔法耐性が高く、ベルもとても気に入っている。ちなアルフィア謹製の品、売ったらかなりの額になる。

ベル「まだ私は変身を2回残しています」
ジュピター「そのうち1回は儂が出るよな?」
作者「出すしかねぇな〜」

 お気に入り登録やコメントをしてくれるとモチベに繋がるので是非お願いします!評価もしてくれると嬉しいです、コメントでのアドバイスも待っています!
 それでは次回まで楽しみに待っていて下さい!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。