最強と最恐の系譜は雷霆の申し子です   作:道化の作家

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 【アストレア・ファミリア】をどうするかは、最後の最後まで悩んで、やっぱり一部だけ生存させることにしました。

 皆勘違いしてるけど、【フレイヤ・ファミリア】の魅了事件よりもヤバいときがあります。異端児編でベル君罵倒の瞬間をアルフィアが目撃したらそのまま【ジェノス・アンジェラス】の刑に処されますからね(笑)。


第八話 『邪神の遊び心』

 

 

「やぁ、そこの少年。 俺の名前はエレン、なぁに、優しくてイケメンなただの神さ。 一つ、俺の質問に答えてくれないか?」

 

 都市の暗闇に包まれる中、それでも尚強く、存在感を放つ異質な存在。

 それでいて、神でありながらも周り気配に溶け込んでいた。浮いていない、それが逆に僕の不信感を煽り、警戒心を強めながらも、その声の主は誰だ?と僕はその身体を翻しす。

 

 黒髪に前髪の一部が灰色で決して不潔というわけではないが、ボサボサの髪型。

 纏うローブも対して高価なものでもなく、ただ纏うその気配だけは神秘さを帯びており、神であることだけはベルにも分かっていた。

 

「それで、その質問とは?」

 

 どうせ、神々のお遊びだろう。

 暇を持て余した神々が、暇潰しにそこら辺にいた子供に突拍子もない質問を投げかけて反応を楽しむ。そんなところだろうとベルは思う。

 

「あぁ、『正義』とはなにか?」

 

 あぁ、なるほど。そう来たか。

 ベルは内心考え込む。この手の質問には万人共通の答えなどない。故に正解はなく、人の数だけ存在すると言っていいだろう。

 

 ならば、自身の考えを嘘偽りなく答えるのが正解(ベスト)だと当たりをつけ、そして答える。

 

「『理想』、それが僕の『正義』です」

 

「…『理想』。ずばり、その内容とは?」

 

「周りの人が笑顔でいられる世界。誰も涙を流さず、笑顔を浮かべ、毎日を楽しく感じられるような、そんな世界」

 

 ベルは嘘偽りなく、そして曇りなき眼でエレンの質問に答える。

 嘘かどうかなど神からば簡単に看破できる。故に目の前の少年の言葉に嘘偽りがないことを理解するエレンは、更に質問をする。

 

「それは、苦行だろう? 成せると? そのような荒唐無稽な理想論だ。本当に世界は救えると?」

 

 そう、エレンは諭すように言う。その答えは子供の絵空事のように儚く、空虚なものであると。

 それは『力なき意志』の戯言であり、それは『力を有した邪悪』の前では何もできずに消え去るものだと、エレンは言外に言い放つ。

 

 その言葉を前に、僕の中にある歯車が噛み合う。

 

「成してみせる。それが、俺(・)とあの人達との誓いなのでね。人々は『理想』こそを『正義』と信じ、神々はそれを『英雄』と称える。違うか?」

 

 次は自分が諭す番。そう言わんばかりにベルは語気を強めて語りかける。

 その言葉を聞き、エレンは何処か感傷に耽りながらもベルの曇りなき、そして嘘無き言葉を見つめ、言葉を紡ぐ。

 

「はは!そうか。ありがとう、俺の質問に答えてくれて」

 

 その神は、満足そうに俺に笑いかけ、そのまま夜の暗闇に姿を消していった。

 不快な神だとベルは内心吐き捨てながら、その後ろ姿を見て、その周りにいる白色の装束を纏う何者かの存在を感知し、そして警戒心を上げた。

 

「やっぱり…ただの神じゃなかったか……。見覚えがあるようなないような…」

 

 そう、ベルは先程の会話を思い返し、小さく呟く。その声は都市の喧騒に飲まれて掻き消されていく。

 

 これは誰も覚えていない、たった二人だけの会話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは迷宮都市オラリオの地下水路。

 

 都市を支える、なくてはならない施設の一つであり、今まさに一柱の神がそこを悠々と歩いていた。

 

「ベル、やっぱりお前を選んでよかったよ」

 

 コツコツと鳴り響く靴の足音はとても軽快で、何処か踊っているようにもとれる程に嗤っていた。

 

 街灯のような僅かな灯火(ともしび)が溢れる中、その男神は高らかに笑いながら、あの少年との会話を思い返す。

 

 すると、どうしてか。笑みが止まらない。それは何故か?あの少年の『正義』が、『絶対悪』たる自分と同じだったから?

 

 かつて、オラリオに絶望を齎すため、『覇者』達のもとを訪れた時、あの少年はまだ9歳だったか。

 

 再び、二度目に見た顔は覚悟の決まった、まさに英雄(おのこ)のような顔つきになっていたのを今でも覚えている。

 

「そうだ!『正義』とは、すなわち『理想』。最初っからどちらかを選ばないといけない『正義』など、そこらの駄犬にでも食わせておけばいい!!」

 

 子供達はいつも面白いことを考える。

 

 『貨車(トロッコ)』の話だ。

 

 分岐器を切り替えなければ、5人を見殺しにする。

 

 切り替えれば、一人だけが死ぬ。

 

 その選択に、ありとあらゆる『正義』が詰まっている。子供達はそう、信じている。

 

「神(おれ)から言わせれば、真の『正義』はそこにはない。───『正義』とは、選ぶことではなく、掴み取ることだ」 

 

 選択は二つだけではない。

 三つに変えればいい。数多の答えを生み出し、手を伸ばせばいい。

 

 そして彼は言った。彼は全てを救うと。

 『貨車(トロッコ)』自体を壊し、どちらも選ばず、全てを掴み取る。

 

 定められた規則(ルール)を、課せられた前提を、知ったことかと笑い飛ばしながら。

 

 それは何処か、あの好々爺の男神のような笑みすら見え隠れしていた。

 彼はそれを実現させる為に力を磨いたのだろう、あの時彼奴の瞳を見て、俺はそれを確信した。

 

 やっぱり彼奴を選んでよかったよ。流石は彼らの『系譜』だ、面白い。

 

「あり得ないを、あり得るに変える。天秤を打ち壊す。……なんだっていい」

 

 光が必要だった。世界の絶望を、オラリオの停滞を、あの北の果てに鎮座する『最悪の竜』の討ち倒すだけの輝きが。

 

──『人々は『理想』こそを『正義』と信じ、神々はそれを『英雄』と称える。違うか?』

 

「違わないぜ!! そうだベル、それこそが神々(おれたち)の求める『英雄(せいぎ)』だ!!」

 

 目的はもう半分は達せられた。ならばあとは彼の手の回らない、『停滞』を打ち壊す時だ。

 

「任せてくれ、ベル。俺はオラリオの停滞を討ち壊そう。だからお前は『英雄』になってくれ。大丈夫だ、その手助けはきっと俺の神友がやってくれるさ」

 

 針は今、進もうとしている。どうしようもない、時代のうねりと共に。

 

 彼はたった一度だけ『正義』を問うただけで、その『正解』に至った。

 

「答えは得た。オラリオが、下界が進むべき指標を」

 

 これより待ち受ける、いかなる苦難にも屈さず、『理想』を追い求める眷属の輝きが。それはまるで、古代の英雄達のように。絶望を笑い飛ばし、『力を有した意志』を持って、世界を救ってきた彼らのように。

 

 そして彼も今まさに至ろうとしている。昔日の頃の『英雄』たちに。

 

 だから俺は『非道』を選んだ。圧倒的なまでの『正義』に討たれる、『絶対悪』の道を。

 

「代価は要らん、賞賛も要らない。求めるは躍動(やくどう)、そして『次代の英雄』だ!!」

 

 もうあとには引けない、これ以上の停滞は許されない。最強(ゼウス)達は消えた。更に『約束の刻(とき)』は結ばれた誓約を待たずして必ず訪れる。

 

 もう、猶予はない。故に、何としてでも時計の針を、進めなくてはならない。

 

 そして彼は『答え』を口にした。旅を経ずして、彼は『希望』に辿り着いた。道は作ろう、語り手はあの男神にでもやらせればいい。俺はただ、『巨正』により討たれる『巨悪』であり続けるだけ。

 

 なぁに、辛くはない。彼奴のほうが、もっと辛く、苦しいしな。それでも彼は絶対に諦めない、彼奴が唯一諦めたのは、それは『諦めること』だ。

 

 それは才禍の怪物にすら認められた才能の一つ。諦めない意思、不撓不屈の意思を持った彼奴なら、きっと成せるだろう。

 

 

「我は『原初の幽冥(ゆうめい)』にして『絶対悪』──」

 

 それはいずれ、絶対の『正義』により討たれる『悪』の象徴(こんげん)。

 

「我が真名(しんめい)たる【エレボス】の名に誓い──」

 

 その名は、『地下世界』と『暗黒』を司る。だが、決して死を歓迎するような神の名ではない。 天邪鬼ような、そんな神の名。

 

「君にこの言葉を贈ろう───」

 

 これは、数多の命を天に還し、選ばれし者を見出して、超克させる。『正義』も『悪』も、全てを礎に変えて。それが俺の神意。

 

 そして、彼の『正義(あく)』であり。

 

 気紛れは神のエゴであり、彼の『悪(せいぎ)』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────あぁ、意志を有する(強き)者よ。汝の名こそ、真の『英雄(えいゆう)』なり。

 

 いずれ正義の剣(つるぎ)により断ぜられる『悪』であり、それこそが『絶対悪』。

 

 『理想』に至ることの出来ない、『停滞』を許した下界の眷属(こども)達を焚き付け、超克の先へと駆り立てる。かつて何処かの『覇者』達が語った物と同様の理論(モノ)。

 

 理想に至れない下界を、理想に至らせるための『踏み台』。とても独りよがりで醜い、高潔な悪。

 

 それは真実、『絶対悪』ではなく───『必要悪』。

 

「さぁ、『次代の英雄』に続く、『勇者』達を生みに行こう」

 

 それは神聖譚(オラトリア)はおろか、眷属達の物語にさえ残らない物語。

 

 さしずめ、『正義』と『悪』の織りなす。

 

 ───『正邪の決戦』。

 

 その日、確かに『絶対の正義』と『絶対の悪』は胎動した。

 

 

 


 

 

 

「ハァぁぁぁあ!!!!」

 

『グァァア?!』

 

『グギィイ?!』

 

 向かってくる棍棒を大きく避ける。敵意のこもった攻撃は目の前を危なげもなく通過した。

 薄青の壁面で覆われたダンジョンの中で、オークの声はよく響いた。

 興奮しているモンスターを観察しながら、僕は間合い(リーチ)の短剣を使って攻撃を仕掛ける。

 

「(右、左ッ、上ッ!)」

 

 サイドステップからのバックステップで、振り回されるオークの天然武器(ネイチャーウェポン)を避けきる。

 

 振り下ろした棍棒は大地を割り、その威力の代償としてオークには致命的な隙が生まれる。

 

「(ここッ!!)」

 

 その隙を逃すことなく、不慣れな短剣を使って肉薄する。生まれた隙、圧倒的なまでの彼我の実力差。その全てを遺憾無く発揮し、僕はオークの腹に白刃を突き立て、魔石を砕く。

 

 そして、もう一体のオークは、決着がつくと共に僕の一瞬の隙を突こうと速攻を仕掛けてくる。

 

 幅の狭い各通路と連結した、規則正しい正方形構造を持つ広々としたフロアの中、壁際に追い込まれないように常に自身の立ち位置と相手の位置を確認し、繰り出される棍棒と剛力による鈍重な攻撃を躱していく。

 

 ダンジョン特有の生温かい空気が、肌をぬらりと舐めてくる中、僕は自身の特徴である『小柄な身体』を活かし、僕は伸ばされる腕をかいくぐり相手の肉薄を躱す。地面を蹴る足と膝の感触を念頭に置きつつも、その巨大な躯体に生まれた僅か隙間を縫うように移動し、オークの背後に回る中、決して噛み合うことのないダンスを僕とオークは踊っていた。

 

『グッ…ゥ゙オ゙オオオ!!!!』

 

 オークの汚い咆哮がルームに響く中、そんな声など歯牙にもかけず、僕の剣筋はその雑音を掻き消さんと鋭さを増す。

 

「ハァあ!!」

 

 背後に回され相手(ぼく)に業を煮やし、破れかぶれな攻撃を繰り出してくる。

 その攻撃は僕の顔程の太さを誇る腕による打撃、裏拳を差し込もうとオークは僕の頭を狙う。

 

「───ふぅッ!!」

 

 脳みその片隅で警報が鳴る。

 それは本能にも似た、あの人達との稽古により培われた第六感からの警報。

 

 視界の隅で捉えた僅かな動作から攻撃を予測し、繰り出された攻撃を僕はまるでバク宙のように頭と足を反(・)転(・)さ(・)せ(・)る(・)事で避ける。

 

 転身させた身体、逆転した視界、それ等を即座に御し、僕は両の手を地面につき、思いっきり掴(・)む(・)。

 

「ハァ!!」

 

 掴まれた地面と力点とし、両の手と腕を軸に、僕は脚を回転させてオークの頭を蹴りつける。

 

『グギィア?!』

 

 頭に痛烈な一撃が加わり、オークは咄嗟に攻撃を加えられた左側の頭を押さえる。

 

 棍棒により塞がれた右手、蹴られた頭を庇うために塞がれた左手、そして生まれた隙は胴体をがら空きにし、急所である胸さえもさらけ出す。

 

「終わりだッ!」

 

 僕は反転した身体を再度反転させて、ちょうど一周させる事でようやく元の姿勢に戻る。そこから大きく屈み込み、右腕に力を蓄えて水平に首を斬りつける。

 

 短剣であれば本来ならこのようにはいかない、だが積み上げられた『力』のアビリティと経験を持ってそれを成する。特に後者は圧倒的だ、最強の先達にその全てを教わり、そして僕もその全てを喰(・)ら(・)っ(・)た(・)。

 

 故に、オークの野太い頸部を斬り飛ばす。【ステイタス】により元々磨き上げられた『技』に更に威力が加わり、その一撃は尚も強靭なものとなっていた。

 

『……グゥ』

 

 生まれるは静寂。斬り飛ばしたオークの生首が何度も地を舞い、そして遺された胴体と共に炭化する。

 魔石だけとなったモンスターの残骸を睨見つける、周囲の警戒を行い、そこでようやく僕は戦闘が終了したことを認める。

 すると身体からは徐々に力が抜け、慣れないナイフによる戦闘も相まって疲労感はかなりの物となっていた。

 

「ふぅ、ナイフでの大型モンスターとの多対一の戦闘。慣れれば大丈夫だけど、やっぱり慣れないうちはかなり不便だな」

 

 短剣を下げ、構えを解く。

 

「……よし」

 

 軽く屈伸を行い、自身のコンディションを確認する。

 

 疲労による疲れはある物の、昨日一日休んだ事で、どうやら酒場での一件の後の怪我や疲労は全て取れたようだ。

 完治と言っていいだろう状態に、自然と僕も笑みを零す。

 

「それにしても…何だったんだろう」

 

 思い返すはこの前の夜の一幕。当然現れたモブ臭い神、自身の事を『イケメン』などと評する変神のせいで、今日のダンジョン攻略でもかなり意識を持っていかれた。

 

  現在位置はダンジョン11階層。周囲にモンスターの気配がないことを確認しながら、僕は改めて先程の戦いを振り返ってみた。

 短剣という少し不本意な獲物とはいえ、オーク2体を手玉に取れたという事実。今後の戦闘で短剣を取り入れるかどうかも吟味する必要があるだろう。

 

「にしても…今回はヴェルフの防具テスト、出来なかったなぁ」

 

 繰り出された攻撃は全て避けきってしまった為、本来の目的であるヴェルフに作って貰った超軽量防具(ライトアーマー)の強度テストは失敗してしまった。

 

 また今度にしようと少し名残惜しい気持ちを残しながらも先程倒したオークの魔石を短剣でほじくり出す。

 オークの魔石をバックパックに仕舞い込み、今日の探索を終了させた。

 

 帰り道での戦闘も考慮しないといけないからそろそろ頃合いだ。荷物が溜まる度、換金のため地上へ戻っていたので、本日四(・)度(・)目(・)となる帰路に僕はついた。

 

 記憶の中にある道順を引っ張り出し、11階層から1階層までを一気に駆け上がる。

 

 途中で遭遇(エンカウント)したウォーシャドーやらダンジョン・リザードを一撃で蹴散らしていく。

 

「ふぅ〜、着いた」

 

 外はすっかり夕暮れか、と頭の上で染め上がった橙(オレンジ)色の空を想像して呟く。

 

 1階層の残り半分ほどまで路程を消化すると、僕以外の冒険者の姿が目立ってくるようになる。ダンジョンの出入り口は一つだから、当然、迷宮から帰還の際には他の冒険者達と合流することになるのだ。

 

 僕のように超軽量防具(ライトアーマー)を装備した冒険者はあまり居らず、重そうな、それでいて高価そうな武装を纏うドワーフやエルフの面々を見て、重くないのかな?と内心疑問に思う。

 

 正直、僕のような『防御力』を捨てて、『攻撃』と『速度』に特化させた戦い方が少ない事は十分理解しているし、熟練の冒険者でなければ攻撃を受けすぎて殺られる…なんて事がザラだろう。それでも言わせて欲しい、やっぱり速度そこ至高!お祖父ちゃんも言ってた、当たらなければどうということはないッ!と。

 

『当たらなければどうということはないッ!』

『へぇ~、確かに攻撃が当たらなかったら防御力とか気にしなくて良いもんね!』

『あぁ、じゃからアルフィアの魔法も、当たらなければどうということはないんじゃ!』

『……』

『どうした?ベル。そんな、今にも後ろに居るアルフィアが福音拳骨(ゴスペルパンチ)を待機させてまま見下ろしていそうな顔しとって……ヒュぅ?!───ア、アルフィア?! ち、違うんじゃ』

『ほう?何が違うのだ?当たらなければどうということないのだろう?ならば避けてみるがいい』

『あ…悪(わり)ぃ、儂死んだ』

『【福音(ゴスペル)】』

『グフぅ?!』

『お祖父ちゃ〜〜〜〜ん』

 

 うん、あの人の魔法だけは不可避だし、そもそも防御力とかそんな物は全て貫通してきそうだし。

 

 そう考えながら僕は少し立ち止まり、ある事を思い出す。

 

「(そういえば、神様、今日も帰ってこないのかな……)」

 

 神様がご友人のパーティーに出かけて二日経つ。神様自身何日か留守にするって言っていたし、そう心配することじゃないってわかってはいるけど。

 

 神様に会えなくて、僕の方が神経が擦り減りそうだよ。

 

 粗相は犯してないだろうか、神様……。

 

「あ、着いた」

 

『始まりの道』とも呼ばれる横幅が限りなく広い1階層の大通路を進み終えると、地上へと繫がる大穴が現れた。

 

 高さはおよそ10M(メドル)。直径の長さもほぼ同等で、太い円筒形が作られている。円周に沿うように緩やかな階段が設けられていて、大きな螺旋を描いていた。

 

 数組の冒険者パーティがその銀色の階段を上っていくように、僕もそれを倣う。ややあって最後の階段をまたぐと、視界は一気に開け、人工的で清涼な匂いが鼻腔を満たした。

 

 ダンジョンの直上に建造された白亜の巨塔『バベル』、その地下一階。

 

 今上ってきた大穴を中心に広がるのは円形の空間だった。それも途轍もなく広い。何千人もの冒険者を収容できると言っても決して誇張じゃない、それほどまでの広大さ。

 

 すぐ下にモンスターの巣窟が存在することを露ほども感じさせない神殿めいた造りは、高貴な感じに溢れている。

 

 広間そのものは青と白の色を基調にしており、周囲には冒険者らしき名前が複数刻まれた漆黒の石碑が点在している。長く太く伸びる柱は等間隔に設置され、ちょっと数え切れないほど。首を上に向ければ天井一面を埋めつくす蒼穹が広がる。これ以上ないくらい精緻な空の絵画だ。

 

 ここからはもう完璧な安全地帯。張り詰めていた神経も自然と緩み、隠れていた疲労がずっしりと体にのしかかってきた。

 

「(……あれ?)」

 

 多くの冒険者とバックパックを背負うサポーターがひしめく中、後から来る人達の邪魔にならないよう壁際に移動していた僕の視界に、見慣れない光景が飛び込んできた。

 

 巨大なカーゴ。箱型で底面に車輪が取り付けられてある物資運搬用の収納ボックス、それがダンジョンの大穴から少し離れた場所にいくつも置かれている。

 

 確か……ダンジョン深層を攻略、つまり『遠征』する時によく使われるんだっけ? 

 食糧やスペアの装備品、後はドロップアイテムとか大量の道具を格納するためだとお義母さん達が教えてくれたのを思い出してながらじっくりと巨大なカーゴを観察する。

 

 おぼろげな知識から情報を引っ張り出してカーゴの群れを眺めていると──唐突に、ガタゴトッ、と箱が揺れた。

 

「(…、モンスターかな?)」

 

 ひとりでに動けカーゴに僕は咄嗟に何が入っているのか考え、ダンジョンから出てきたのであればそれはモンスターしかいないだろうと当たりをつける。

 

 カーゴの中から『ウウゥ』と低い唸り声まで聞こえてくる。

 

 …だけど、モンスターを運び出して何をするだろう?

 解剖でもするのかな?となんとなく適当な理由を並べるもそれらしい答えは見つけられず、僕はあのカーゴを押すギルド職員の人たちを凝視してしまう。

 

 ギルドが管理するバベルは、ダンジョンの『蓋(ふた)』としての役割を有しているとはお義母さん達から聞いていた。

 

 『古代』と呼ばれる時代にはモンスターの地上進出が日常茶飯事だったらしく──その被害は馬鹿にならず世界規模で地上は荒らされたらしい──、それを未然に防ぐためにこの巨塔(バベル)は築かれたのだと。要は、怪物達をダンジョンから出さないための防波堤みたいなものだ。

 

 今でこそ『神の恩恵(ファルナ)』を授かった冒険者が自分達からモンスターを狩りに行っているので、怪物が群れをなして押し寄せてくるなんて間違ってもないんだけど……それでもギルドはこのバベルを拠点に、今もダンジョンの監視を怠っていないと聞く。

 オラリオの管理を預かる彼等としては、都市そのものに被害が及ばないよう日夜対策を講じているのだ。

 

 つまり、間違ってもモンスターはダンジョンから出してはいけないわけで。

 

 ダンジョンを出たこの安全地帯にモンスターが存在するということは、本(・)来(・)ならあってはならない。

 

 何かの祭り事か?と僕は考えながら、同じくあのカーゴを見つめる同業者達の方を見やる。

 

 すると更にカーゴが大穴の階段から団体と共に運ばれてくる。

 

『今年もやるのか、アレ』

『怪物祭(モンスターフィリア)ねぇ……』

『あんな催し飽きずに続けて、意味あんのか?』

『パンと見世物であろう……くだらん』

『【ガネーシャ】のところも損な役回りだな。ギルドに押し付けられて、市民に媚を売るような真似を、毎年毎年』

『そりゃあオメェ、何てったって【群衆の主(ガネーシャ)】様だしなぁ、はははっ』

 

 喧騒とまでは言えないざわめきの中から、そんな話し声を拾った。

 

 ……怪物祭(モンスターフィリア)?

 

 聞き慣れない単語に首を傾げる。強引に捕獲されただろうモンスター達が、この場所に次から次へと運び込まれているのは、その怪物祭(モンスターフィリア)というものに関連してのことなのだろうか。

 

 あぁ、そう言えばヘルメスが僕たちにそりゃあもう熱烈に語ってきた、確か?

 

「(モンスター達を調教(テイム)する見世物…だったか? はぁ、まるで群衆に、『モンスターに慣れて下さい』って言ってるようなもんだよな)」

 

 まさかな、と内心一瞬だけ浮かんだ疑問を、頭を振って掻き消す。

 

 象の顔の描かれたエンブレム付きの装備を纏う【ファミリア】の構成員達。彼等が大小様々なカーゴを引っ張ってくる光景を、僕は周囲の人達と同じように眺めていた。

 

「(あっ……エイナさん?)」

 

 視界の隅に映ったセミロングのブラウンヘアー。

 見覚えのある後ろ姿にはっと目で追うと、間違いない、そこには僕の担当官であるエイナさんがいた。

 尖った耳を持つハーフエルフの彼女は、とても整った顔立ちを今は真剣な表情に変え、もう一人いるギルド職員と何やら入念に打ち合わせを行っている。

 

「(仕事中、なのかな……)」

 

 書類を片手に話し込んでいるエイナさんへ声をかけるのはためらわれた。

 

 そしてどうやら、さっき盗み聞きした会話と照らし合わせてみるに、このモンスターの運搬はギルド公認らしい。

 

 ギルドの職員であるエイナさん達がこの作業に関わっている時点で、何となく察せられる。

 

「(まあ、大体さっきの考察で合ってるだろうし、仕事の邪魔は…駄目だよね)」

 

 仕事の邪魔をしてまで尋ねるのは気が引ける。周りにいる見ず知らずの人達に聞くのもあれだし──まあ、僕みたいな小心者には聞けるはずもなく──……何だか世間知らずと笑われてしっても嫌だしなぁ。

 

 消化不良だな、と内心思う心を掻き消しながら無理矢理踵を翻す。

 これ以上ここに残ってもしょうがない、体もすっかり汗臭くなってしまっている。

 最後にエイナさんの横顔を見やって、僕はこの階に設置されてあるシャワー室へ歩を進めた。

 

 

 


 

 

「11万ヴァリスで〜す」

 

「ありがとう御座いました!」

 

 ロビーにいる受付の人に見送られ、僕はギルド本部を出る。

 体を洗ってバベルを後にした僕は、魔石とドロップアイテムを換金するためにギルド本部へ足を運んでいた。

 エイナさんがいないことはわかっているから、済ませることだけ済ませて早々に退出させてもらったけど。

 

「日も暮れてきちゃったなぁ……」

 

 外はすっかり夕焼けの色に染まっていた。

 

 メインストリート前に建てられた大神殿を彷彿させるギルド本部から一歩出ると、瞬く間に辺り一帯は騒がしくなる。モニュメントが設置されている本部の前庭を抜ければ、異種族入り乱れた人波が僕の目の前を右に左に通り過ぎていった。

 

 オラリオにはメインストリートと呼ばれる大通りが八本存在する。都市の中心地から放射状に八方位、街をぐるっと囲う市壁まで伸びているのだ。ケーキに見立てれば都市の全体像は摑みやすいかもしれない。ちょうどホールケーキを八分割する感じ。

 

 それぞれの大通りを区別する時には、北のメインストリート、南東のメインストリートという風に、その方角ごとに分けて呼んでいる。ちなみに、僕と神様が住んでいる教会の隠し部屋は、北西のメインストリートと西のメインストリートに挟まれた区画にある。シルさんの働いている『豊饒の女主人』が建っているのも西のメインストリート沿いだ。

 

 僕が今いるこの北西のメインストリートは、ギルド本部が面しているだけあって道行く人の大半が冒険者だった。

 

 オラリオでダンジョンにもぐる以上、ギルドとの諸手続き及び彼等のサポートは必要不可欠なので、冒険者は例外なくギルド本部へ頻繁に通うことになる。だからこのメインストリートには自然と冒険者の姿が多く見られるのだ。

 

 伴って、大勢の冒険者が行き交うこの大通りには、彼等を客に絞ったお店が軒を争うことにもなる。顔を左右に振っても視界に飛び込んでくるのは武器屋や酒場ばかり。メインストリートを一歩外れた薄暗い路地裏にだって、ちょっと怪しげな道具屋を始めとした、冒険者専用の商店がいくつも並んでいる。宿屋なんかも結構ざらだ。

 

 それぞれのお店の中に消えていく冒険者達を視界に入れながら、僕はあてもなくぶらぶらと歩く。ホームに帰っても神様はいないから、気の向くまま時間を潰したい気分だった。

 

「ん? おお、ベルではないか!」

 

「あっ、ミアハ様!」

 

 石畳の道を歩いていると、正面から来た人物に声をかけられた。

 

 美麗な目鼻立ち。僕より目線がうんと高い長身の青年は、陳腐な言い回しをしてもいいのなら、まさに貴公子そのもの。ヒューマンとも亜人(デミ・ヒューマン)とも一味異なった気品みたいなものが、着ている灰色のローブの内から滲み出ている。

 

 その並外れた容姿と、何より身に纏う独特の神威で目の前のお方が神様だということはすぐにわかる。僕は【ファミリア】の主神であるヘスティア様を除いて唯一親交のある神様、ミアハ様にお辞儀をした。

 

「こんにちは、ミアハ様。お買い物ですか?」

 

「うむ。夕餉のための買出しだ、神自らな。ベルは何をしている?」

 

「えぇ、本拠(ホーム)に帰っても神様は居ないので、暇潰しをしてました」

 

「ふふ、そうか。ヘスティアは天邪鬼みたいな所があるからな。苦労するだろう?」

 

 大きな紙袋を両手に持ったミアハ様は気持ち良く笑いかけてくる。その明朗な人柄を抜きにしてもミアハ様の笑顔は魅力に溢れていて、もし此処に女の人がいれば数人はミアハ様の虜になっていただろう。




 あとがき

 個人的にはベルの才能はその純粋さにあると思ってます。相手の言ってる事やアドバイスをそのまましっかり受け止められる純粋さと、直向きな努力が出来る所。アイズだったから原作ではあそこまで強くなれた、この二次創作ではアルフィアとザルドとレオンの薫陶により、尚且つ7年という歳月を鍛錬に費やしたからこそここまでに至ってる感じです。

 ベルの才能や成長速度は教える人の技量にも作用するするし、その人の技量が高ければ高い程、その恩恵をフルに活かせるのがベルの才能かな?後は生存力と運、逃げ足くらいかな。

 原作でのベル君はレア度は『R(レア)』、ここから誰に会うか、どう出会うかによってバフの量が変わり、強さも変わるんだなぁと原作を読んでいて思いました。

 それにアイズがソード・オラトリアで言っていた「冒険者に向いていない、身体じゃなくて、心が」という描写も、今作のベル君は『英雄』になるという絶対的な目標であり渇望がある為精神性はむしろ異常者より。尚且つベルは一度思うとスキル化するほどまで思い込む為スキルが増えやすい、的な感じに変化してる。


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