亜人族は生きにくい。   作:アインツベルン

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適当に書き進めています
特に読み返しておらず、記憶にあるまま続きを書いているので、内容や設定に齟齬があればおしえてください


第3話

「店先で話されるのも迷惑だから、とりあえずスタッフルームを貸し切りにしといた。感謝して」

「感謝って、別に頼んでないんだけど」

 

 言うと、朱音はわざとらしくため息を吐いた。

 

「自分の状況わかってる? その姿でどうやって普通に暮らしていくつもりなの? 身分証は使えた? 仕事には行けるの? わかっていると思うけど、君はもう普通の生活は送れないの。分かったら私の言いなりになって」

「それは、」

 

 一応わかっているつもりではある。酒を買おうとしたところで、店員のお姉ちゃんに馬鹿にされてしまった。仕事に行こうものなら、そもそも入り口で警備員に止められそうだ。

 かといって上司に電話をかけても、この声のせいで悪戯電話を疑われそうだし、働けないなら金を工面する事もできない。当然、借金の類も無理だろう。返せる当てがないどころか、借りる事すらできなそうだ。

 

「ここで働けばいいのか?」

「君に愛嬌があればそれも考えたけど無理ね。それに、君の種族を考えるなら、もっと適した仕事がある」

 

 朱音はそういうと、棚からグラスを一つ取り出して、珈琲を注いだ。

 

「ちょっとまってくれ、俺の種族がわかってるのか?」

「当たり前でしょ。私はもう何人も亜人を見てきてるの。一目見ただけで大体わかるよ」

「なら教えてくれ、俺は何なんだ」

「そう急くなって。とりあえず一回珈琲でもどう? これなら君でも飲めるでしょ?」

 

 確かに、珈琲なら飲めた。これならと珈琲を選んだ辺り、本当に俺が何なのか見当はついているらしい。

 

「どう? 市販の物にしてはおいしいでしょ」

「ああ、後に引かなくて飲みやすいな」

「ならよかった。子供でも飲みやすい甘ったるいやつだからね」

「にしてはかなり苦いけど」

「当たり前でしょ。今の君はただの子供なんだから、前に比べて味覚がいいの」

 

 どうやら、子供になったのは見た目だけではないらしい。

 

「亜人になると、体の機能も全部引っ張られて変わるのか?」

「そうだね。性別まで変わるって言うのは私も初めて見たケースだからちょっと驚いてるけど、まあ妥当と言えば妥当なのかな」

 

 含みを持たせた言い方に、内心で興味が膨らんでいく。だが。

 

「まあ、色々聞きたい事はあるだろうけど、一旦は何も聞かないで。最初に、私から言えることは言う。そのあとでなら、なんでも答えてあげるから。ああ、これはあくまで時間短縮のため。余計な会話の手間を削減して、使える時間を増やす目的だから」

「あ、ああ」

 

 続いた言葉に、そう返すしかなかった。

 

「もうわかっている事だと思うけど、日本には今、人間以外に、ヒトの姿をしている別の種族が存在している」

 

 朱音はそう語り始めた。

 

 *

 

 聞かされたのは、至極当然と言った内容の物だった。

 

 日本には亜人がいる事。それらは、神話や民間伝承から引き継がれた種族的特徴を持つという事。

 

 数千年以上前から、亜人は生まれ始めた。人と同じ姿をしながらも、どこか人とは違う亜種族。並外れた嗅覚や聴覚を持つ狐族、精気を喰らう事でしか生き永らえる事の出来ない吸魔種《サキュバス》。吸血鬼や、エルフ。それから、妖。

 

 それらは古には妖魔と呼ばれ、人々の願いや欲望を触媒として生まれる、ヒトならざるバケモノだ。

 誰かが殺戮を望めば、殺戮に適した種族が顕現する。誰かが魔術を望めば、魔術に長けた種族が現れる。最初は人ではない異形をしていた彼らも、軈て時代の移り変わりとともに人々の願いの形も変容し、最後には人によく似た姿で生まれるようになった。

 

「しかし、今ではもう、ほとんどの場合、亜人は日本人からしか生まれない。それがなぜかわかる?」

「わかる訳ないだろ」

 

 返すと、朱音は不遜に笑んでいった。

 

「妖は人々の願いから生まれてた。妖を信じていればいる程、その数が多ければ多い程、より顕現する確率が高い。けれど現代においては、そういった類のものは全てファンタジーで、もはや誰も、本気でそんなのがいるなんて信じてないんだよ」

「でも、ならどうして日本人からは生まれるんだ?」

「私が、そうしたからだよ」

「……は?」

 

 正直、状況が今一つ読み込めていなかった。

 自分が化物になったことはわかったけれど、同じようなのが割とたくさんいて、しかもそれが日本人からしか生まれないなんて言われても、何が何だかさっぱりわからない。

 

 ましてや、朱音がそうした? なら、彼女は一体何者なんだ。

 

「——ッ!」

「気になる? 知りたい?」

 

 突然前のめりに顔に触れられ、そう言われた。香水とも、シャンプーとも違う淡く甘い香りがふわりと漂い、鼻腔を掠めていった。

 

「……教えてくれ。お前が誰で、俺が何なのかを」

「いいよ。ただその代わり、私のお願いも一つ聞いてもらう」

「ああ、約束しよう。だから、」

「あー、そう急くなって言っただろう? 別に勿体ぶるような物でもないし、今じゃその名すら廃れて久しいんだし」

 

 そういうと朱音は、自分の元にも珈琲を注ぎ、一口だけカップに口を付けて、大きく息を吐いてからこういった。

 

「私は、今生き残っている中で最古の妖。常世を千年彷徨った、ただの哀れな子狐だよ」

 

 窓一つない密室に、風が立ち込めた。彼女の黒髪が揺れて、風に揺られながら、長く、腰まで伸びていく。

 そして、その艶やかな髪の間隙から、ひょこ、と、一本の黒に近い灰色の尻尾が生えて――そのまま地面にぺたりと落ちた。

 

「……一本しかないじゃん」

 

 溜息混じりに返すと、「それが問題なの!」とまるで幼女の癇癪みたいな語調で叫ばれた。

 

 *

 

「妖狐ってのはね、狐ちゃんが長い間妖気に振れ続けることで化ける存在なの。猫又みたいに、長く生きてれば勝手に変化するシステマチックな物じゃないの」

「はあ」

「で、私は九尾。それはもう、すごい妖怪だったんだから」

「そうなんだ」

「そうなの」

「へぇ」

「信じてないだろ!!」

 

 と言われても、今目の前で見せられたのは、一本しか尾のない幼女の姿をした黒い狐であって、大妖怪の風体とは到底思えない。

 

「すごかったんだから! 朝廷と争って封印されたり、島に流されたり、磔にされたり!」

「全部負けてるだろそれ」

「それはそうだけど、国と戦ったんだよ! 名誉ある敗北ってものなの!」

「キャラ変わってるよ」

「元からだし!」

「必死だなぁ」

 

 立ち上がり、すごい勢いで弁明を始める朱音に半眼を向ける。

 妖狐なのは認めるとして、そんな大妖怪がここまで必死に自分を凄さを語ってくると、なんというか、強烈な小物臭が漂ってくる。

 

「まあいいや。君が認めようが認めまいが、私が大妖怪だった事には変わりがないんだから」

「そうだよねー」

「それで、」

「うんうん」

「——馬鹿にするな! 話しずらいわ!!」

 

 涙目で文句を言われた。

 流石に可哀想になってきて、ちゃんと座り直し彼女の方を見る。

 

「それで、その問題ってのは何なんだ?」

「……なんで君が仕切り始めるの」

「いいから」

「ああ、なんか面倒くさくなってきた。もう手短に済ませるわ」

 

 言うと、やっと彼女も落ち着いたようで、椅子に座り、こちらに向き直った。

 

「私はかつて、本当に九尾の狐だった。けれど、度重なる戦いや左遷、それから時代の変化で、段々と出せる尾が少なくなってきて、今じゃ一本しか出せないし、妖術もあの頃の100分の1くらいしか使えない。妖気が徐々に枯渇し始めてるの」

「その妖気ってのが完全になくなったらどうなるんだ?」

「妖気が一切なくなることはない。それは亜人の生命力そのものだから。けど、私の場合は少し違うくて、妖気が一定割合を下回ったら、その存在ごと消えてしまうの」

「消える? 死ぬとかじゃなくて?」

「そう、消える。消えてなくなるの。それが妖狐の定めであり、妖にとっての死になる」

 

 まとめると、かつて狐だった彼女は、妖気を吸い上げ続け妖狐となり、何らかの理由で人々と争ってきた。その結果、自己を構成していた妖気が減り続け、今では尻尾一本分。

 

「つまり要するに、今のお前は、その辺の狐と同じ雑魚ってことか?」

「そう。私はその辺の狐と――じゃない! その辺の狐が人に化けれるわけないでしょ! 妖術使ってる狐見たことある!? あんなのと一緒にしないで!」

「でも、尻尾が一本ってことはそういう事なんだよな」

「訂正して。その辺の狐と同じ雑魚じゃなくて、妖狐界隈では雑魚って」

「結局雑魚なのかよ」

「そうよ、悪い?」

「悪いとは言ってない」

 

 そう、悪いとは言ってないし、思ってもいない。実際俺をここまで連れてきてくれたことには感謝している。その真意はわからないが、彼女が俺よりも強いのは確かだし、言い合えるというだけで、彼女が本気で殺しに来たら、勝てるわけがない事もわかっている。

 

「生きた歴史証人になんて口の利き方するんだか。老人は敬えって教わらなかったの?」

「老人扱いしていいの? 怒らない?」

「……怒る」

「なら言うなよ」

 

 適当に会話しながら考える。それなら、大妖怪がどうしてこんな夜の街で生きているのか。俺なんかに眼を付けたのか。

 

「で、俺に聞いて欲しい頼みっていうのは何なんだ?」

「ああそう。一つだけ聞いて欲しい事がある」

「だから、それは何なんだ」

「えっと、」

「なんだよ」

 

 何故かすごくもったいぶられた。

 両手を股の間に挟み、肩を小さくしながら俯いて、ふるふると震え始めた。一体どれだけプライドが高かったら、頼みごとをする時にこんな調子になるんだろう、と内心で溜息を吐く。

 

「えっとね、その、」

「なんでも言ってくれ。俺にできる事ならするから。どうせもう元の社会じゃ生きていけないんだし」

「わかってる。だから、その、君には私の妖気回復を手伝ってほしいの」

「妖気回復?」

「そう、ようきかいふく」

 

 最後に関しては、訳が分からないくらい舌足らずで、しかも棒読みだった。

 

「俺、妖気なんか感じ取れないけど」

「別に大丈夫。君が妖気を扱えるかどうかに関わらず、私は君から妖気を回復できるから」

「それは、どうして?」

「君が、私(・)と(・)同(・)じ(・)種(・)族(・)だから」

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