【挿絵表示】
本作はpixivにも投稿しています。
風が吹きすさぶ荒野、俺は決闘相手と対峙する。
「はぁ、イチタも懲りないね」
ショートヘアの彼女はため息交じりで、呆れたような仕草で言う。
「これで一万回目だよ? いい加減やめたら良いのに」
「うっさい! 今度という今度こそ、レイ! お前を倒す!」
魔法剣士のレイ。この魔界で最強と言われるほど強い、実力なら魔王にも並ぶ剣豪だ。けれど俺もガンナーとして研鑽を重ねて、レベルを上げてきた。負けるつもりなんてない。
剣を構える彼女。俺もリボルバーを装填して戦闘態勢に入る。
「仕方ないな。またボコボコに叩きのめしてあげる!」
「こっちの台詞だぜ!」
きらめく刃と、放つ銃弾。俺とレイとの一万回目の決闘が幕を開けた。
繰り出される剣技、回避に専念する。
「逃げるのは上手くなっているみたいね。でも、逃げてばっかりだと勝てないよ!」
『秘剣一文字』、レイは真一文字に剣を振り下ろす。一撃で大地を割るほどの威力、これでまだ本気じゃないのが恐ろしい。
「逃げてばっかな訳ないだろ! トーテンクロイツ!」
撃ったのは大火力の一発。爆炎が上がり、十字の光が照らす。俺達悪魔は頑丈だから余程でないと死ぬことはない、相手があのレイなら特にだろう。
出し惜しみはなし、これで気絶でもしてくれれば勝ちだ。そう思ったもののほとんど無傷だった。煙が晴れて姿を見せた彼女、魔法陣を展開して魔法を行使する。
「ギガ……ファイア!」
強力な火炎魔法が俺ごと広範囲を巻き込む。剣術と魔法、魔法剣士はその両方に長けている。結構なダメージは受けたものの戦えないほどじゃない。
俺が炎から脱出し、狙い撃ちを仕掛ける。……が、レイは剣で弾丸をいなすと同時に再度魔法を唱える。氷魔法クールで氷塊を生成し、連射して放つ。
「俺に射撃戦とはな! 受けて立つぜ!」
早撃ちで氷塊を全て撃ち貫く。砕けた氷は無数の結晶に散らばって、辺りを煌めかせる。
レイは俺を見据えて、口元を緩める。
「やるねイチタ。また強くなってるじゃん。ガンナーの腕ならこの魔界なら一番だと思うよ」
「当然だろ。レイに勝つためなら幾らだって修行するさ」
まだ余裕のある彼女に、銃口を向けて行った。
「今度こそお前に勝って、俺の下僕にしてやるぜ!」
「下僕にする、か」
俺の言葉にクスりとするレイ。
「昔から変わらないね、イチタは。
じゃあ……ここからは本気で行くよ!」
解放されたレイの魔力、離れているのにビリビリと肌で感じた。
これで本番だ。二丁拳銃を両手に握り、本気の彼女に対峙する。
「上等だ! 俺も全力で相手してやるぜっ!」
────
決闘は幕を閉じた。
レイと俺は、旅の道中で拠点にしている町への帰路についていた。
「イチタも頑張ったよ、お疲れ様」
「……くっ」
決闘後に回復魔法で傷は癒えたものの、ショックは癒えない。本気を出したレイに真っ向から挑んで、そして敗北した。
「一万回目の負け、か」
「そう、今回も私の勝ちだね。もう慣れちゃった」
レイはこっちを横目に、懐かしがるようにつぶやく。
「昔から、ボクが最強の魔法剣士になりたくて、故郷の村を出ようとした時から。
イチタってばムキになって止めようとして、決闘を仕掛けて来たよね。『俺が勝てば、下僕としてここにいろ』って」
「覚えてるのかよ、それ。大分昔だぞ」
自分でも思い出すのが恥ずかしい。俺達二人は魔界の中では平和とも言える村で生まれ育った。穏やかな日々、ずっとここ暮らしていけると思っていた。けれど、ある日レイは村から出たいと言った。魔法剣士として魔界を回って修行して、いつか最強になりたいと。
(冗談じゃなかった。村の外……魔界はずっと危険が多くて、何が起こるか分からない。止めるためにはああするしかなかった)
だからレイを止めようと決闘を申し込んだ。勝てば相手を下僕として従えられる、悪魔らしい習慣。そうすれば彼女が出て行くことはないと思ったからだ。
「決闘は私が勝って、村から出て修行の旅に出た。そしたらイチタまで村から出て、道中で事あるごとに決闘を仕掛けてくるんだもん。また『勝ったら俺の下僕になれ』って感じで
ほとんど二人旅みたいな感じだったよ。でも互いに修行して、イチタとの決闘だって腕を磨く機会にもなった」
「俺は別に、レイを鍛えるつもりはなかったぞ」
まるで俺が彼女の手助けをしたみたいじゃないか。別にレイに強くなって欲しいわけじゃない。俺はただ──
「だよね。私を心配してくれて、守りたかったから。村を出たことも、魔界の旅も、イチタからしたら無茶だと思ったよね。だから下僕にしてしまえば何とかなるって、素直じゃないんだから」
「…………」
赤面する。レイはストレートに言いすぎだ。
心境を当てられてどう返せばいいか分からなくなる、そんな中で俺はつい、本音を漏らしてしまう。
「それの何が悪いんだよ。俺はただ、レイと一緒に居られたらそれでいい。強さなんてどうでもいい、村にいたときみたいに穏やかに過ごせたら」
本当は、レイのことが好きだった。だから危険な目には遭わせたくなくて、平穏無事にいてほしい。
「ふふっ、強がっているのに、イチタは悪魔らしくないね」
「……余計なお世話だ」
「強さなんてどうでもいい、か」
歩きながらレイは隣の俺に視線を移して、諭すように話す。
「私はそう思わないかな。確かに村は平和だったけど、魔界全体は暴力渦巻く弱肉強食とした世界で、私たちの村もいつ危険が及んでもおかしくないから。
イチタだって覚えてるでしょ、前魔王がこの魔界を支配していた時に、故郷を襲おうとする悪い悪魔を退治したこと。強さだって平和を守るのに必要だって思うから」
暴虐と悪徳で魔界を支配していた前代の魔王。あの時代の魔界は暴力と支配で満ちて、旅をしていた俺たちも野盗の襲撃、圧政を敷く魔王軍との戦いも珍しくなかった。レイが言ったように村に危機が及ぶこともあって、その度に俺達が守りに行くことも何度かあった。
そんな前魔王は今は倒され、代替わりした現魔王によって魔界は以前よりも平和になっている。
「今は平和になったけど、またいつ危機が訪れるか分からない。大切なものを守るのも、強さなんだから。
故郷の村、何より──イチタのことを」
優しい眼差しを投げかけて、俺に告げた言葉。
「それって、俺のことを」
「イチタが素直になったんだから、私も素直にならないと。
これが私が強くなりたかった理由。イチタまで村を出た私について来たのはビックリしたけど、一緒に旅が出来て嬉しかった。もっと守りたいって思えたから強くもなれた。
何だか両思いだね、私たち」
思わず顔が真っ赤になって、帽子のつばを下げて顔を隠す。レイには俺の考えが見透かされていて、逆に彼女が俺の事を想ってくれていたことには気づけなかった。
そのために強くなろうとしていた。俺も修行をして、鍛えていたとしても決意が違う。幾ら決闘したって勝てないわけだ。
「本当に敵わないな、レイには」
赤い月が昇る空を仰いで、一呼吸。
少し落ち着いてから決意を決めて、俺は気合を込めて言った。
「決めた! 次の決闘は絶対にレイに勝ってみせる!」
「せっかく素直だったのに、いつものイチタに戻ったね。まだ私を下僕にしたいの?」
「そうそう、今度こそレイを下僕に……っと、違う違う!」
つい、いつものように応えてしまう所だった。
「レイを止めるためじゃない。君が俺を守るのなら、俺も君を守れるだけの強さがあると証明するためだ。
だから決闘で勝ったら……俺と、付き合ってくれないか」
今更引き下がるなんて男じゃない。俺は正直な気持ちを告白する。
レイは少し驚いた。それから微笑みながら俺を抱き寄せると。
「イチタからの告白──嬉しい。
でも、それなら決闘なんてしなくてもいいんだよ。不器用で、なかなか素直になれなくて、でも純粋なイチタが好きだから。強さにこだわらなくても今からだって」
「ありがとう。でも、やっぱ駄目だ」
身体を寄せようとする彼女から身を引いて、言葉を続ける。
「レイと一緒になるなら、それに見合う男になりたい。
我儘なのは分かっているけれど、証明がしたいんだ……俺は」
「……そっか。でも、イチタらしいね」
レイは言うと、いつもの様子に戻って俺に言った。
「じゃあイチタが決闘して来るの、待ってるから。
──でも今日はもう遅いから、近くの町に向かって休もう。宿屋で一眠りして、明日から修行をつけてあげる。
私に勝てるだけ強くなってもらわなきゃ。ビシバシ鍛えるから覚悟してね!」
────
一万回目の敗北と、新たな決意。
ガンナーとしてさらにレベルを上げて、レイとの厳しい修行。その甲斐あって一万回一回目に挑んだ決闘。結果は、俺の敗北だった。
それでも諦めはしない。再び修行を重ねての決闘、敗北してからまた鍛え直し。レイと一緒に何度も、そして──。
「はぁ……は……ぁ」
倒れているレイ、そして彼女を押し倒すような姿勢で、満身創痍になりながら銃を突きつける俺。
「やったね、イチタ。私の負け……だよ」
一万と二百回目の決闘で、ついに勝利した。
俺は銃を下ろし、レイは回復魔法で二人の体力を回復させる。そして──倒れたままの姿勢でいた彼女に覆いかぶさるように、口づけを交わす。
魔法剣士のレイとガンナーの俺ことイチタ。
二人は無事に結ばれてハッピーエンド、と言うわけだが。
「ふふっ! 私も負けっぱなしはイヤだもの!」
今度はレイから申し込まれた決闘でボロ負けした。
次はまた俺が勝ってみせる──この戦いも、まだまだ続きそうだ。