落星の継承者 重量変化だけしか使えない主人公が、バカでかい武器を振り回す話 作:青井リンボ
双星祭の本祭を迎えた商業区は、普段とは比べものにならないほど多くの人で埋め尽くされていた。
通りの上には、金色の太陽と銀色の月を重ねた飾りが幾重にも吊るされている。
露店から立ち昇る湯気。
楽器を打ち鳴らす音。
品物を売り込む商人たちの声。
それらが混ざり合い、街の至るところから絶え間なく聞こえていた。
サビとミリーは、人の流れを避けながら露店の間を歩いていた。
「普段より、ずいぶん多いな」
「今日で大市も終わりだからね。買い残した物を探してる人も多いんでしょう」
ミリーはそう答えながら、並んだ店へ忙しなく視線を向けている。
道具や衣服、食べ物だけではない。
旧時代の食器。
欠けた装飾品。
修理された魔導機。
頁の抜けた本や、表紙の色褪せたコミックも並べられていた。
行き交う人びとの切れ間から、見覚えのある白髪が見えた。
「あの爺さんだ」
コミック老人は、露店の脇に置かれた椅子へ腰掛け、膝の上に何冊ものコミックを積んでいた。
だが、今日は読み聞かせをしている様子ではない。
老人の前には、黒い修道服を着た老シスターが立っている。
巨剣槍の改修を依頼した工房で、ベロニカと共にいた女だった。
聖都でも、司教の姿をしたベロニカの傍らに立っているところを見ている。
老シスターは、一冊の薄いコミックを手にしていた。
「これはどうでしょう。絵も多く、話もそれほど長くありません」
「やめとけ。最初の半分が説教じゃ」
「善い行いを学べる話ですよ」
「善い行いを学ぶ前に、子供が逃げ出すわい」
老人は老シスターの手から冊子を取り上げると、脇の山へ戻した。
代わりに、表紙へ大きな鳥が描かれた一冊を取り出す。
「こっちにしろ。字が読めん小さい子でも、絵を追えば話が分かる」
「最後に、鳥が町を燃やしていませんか?」
「悪い奴の町だけじゃ」
「孤児院で読む物を選んでいるんです」
「だから子供が面白がる物を選べと言っとるんじゃ。教えることばかり考えるな。まず続きを聞きたいと思わせんと、話は残らんぞ」
老シスターは表紙を見つめ、僅かに眉を寄せた。
「では、町が燃えない話はありませんか?」
「注文が多いのう」
「あなたに尋ねたのは、そのためですよ」
老人は不満そうに鼻を鳴らしながらも、積み上げたコミックを一冊ずつ探り始めた。
口では文句を言っているが、選ぶ手つきは真剣だった。
子供が見ても分かりやすい絵。
声に出して読みやすい台詞。
一度で終わらず、次の話を待ちたくなる物。
文字を十分に読めない者が多いこの街でも、コミックなら絵と声を通じて物語を共有できる。
サビ自身も、絵を追いながら少しずつ文字を覚えている。
老人は何冊かを比較したあと、海を渡る兄妹が描かれた一冊を差し出した。
「これなら燃えるのは船だけじゃ」
「……最後まで読んでから決めます」
「信用がないのう」
老シスターは冊子を受け取ったところで、近づいてきたサビたちに気づいた。
その視線が、サビとミリーの顔を順に確認する。
驚いた様子はなかった。
老シスターは二人へ静かに目礼すると、老人へ向き直った。
「では、残りはまた後日に。祭事の手伝いへ戻らなければなりませんので」
「本祭の日まで働かされとるのか」
「あなたも、読み聞かせをするのでしょう」
「わしは好きでやっとる」
「私も同じですよ」
老シスターはそれだけ言うと、コミックを胸元へ抱え、人混みの中へ入っていった。
修道服の後ろ姿は、祭りを行き交う人々の間へするりと紛れていく。
ミリーが、その姿を見送りながら口を開いた。
「あの人、ベロニカと一緒にいたシスターよね」
「ああ」
サビは老人へ目を向けた。
「知り合いなのか?」
「昔の馴染みじゃよ」
「昔って、いつだ?」
「年寄りに昔の話をさせると長くなるぞ」
老人はそれ以上説明するつもりがないらしく、膝の上のコミックを揃え始めた。
サビも無理に聞くほどのことではないと思い、老シスターが消えた方向から目を戻す。
すると、老人の視線がサビの胸元で止まった。
「星が1つ増えとるな」
そこには、昨日更新されたばかりの傭兵証が下げられている。
「ああ。三ツ星になった」
「そうか」
老人は傭兵証を眺めたあと、サビの顔を見上げた。
目を細め、しばらく何かを確かめるように眺めている。
「何だ?」
「顔つきが変わったのう」
「そうか?」
「前は、噛みつく前の野犬みたいな顔をしとった」
「今も大して変わらねえだろ」
「少しは、周りを見るようになった」
老人は満足そうに笑った。
サビには、自分の顔がどう変わったのか分からない。
だが、老人が馬鹿にしているわけではないことだけは分かった。
「それに、前より身体がぶれんようになった」
「歩いてるだけで分かるのか?」
「そのくらいならな」
老人は肩を竦める。
「何を覚えたのかまでは知らん。見たところ、誰かに教わったような動きでもなさそうじゃ」
「戦いながら試しただけだ」
「どうりで、妙な育ち方をしとるわけじゃ」
老人はそう言って笑うと、サビの持つ駆動軸へ目を向けた。
街中で巨剣槍を持ち歩くわけにはいかないため、今日も以前から使っていた駆動軸を下げている。
そして再び、サビの傭兵証へと目を向ける。
「三ツ星になったなら、これからもっと面倒な仕事が増えるぞ」
「大規模作戦にも呼ばれるかもしれないな」
「星が増えりゃ、遠くから見つける奴も増える。良い奴も、悪い奴もな」
「脅してんのか?」
「忠告じゃよ」
老人は新しいコミックを一冊手に取った。
「まあ、お前さんは昔より多少まともな顔になった。今すぐ食われることもなかろう」
「多少か」
「褒めすぎると、若い奴はすぐ調子に乗るからのう」
ミリーが隣で小さく笑った。
老人はその声を聞くと、今度はミリーへ視線を向けた。
「そっちも、少し顔が軽くなったな」
ミリーの笑みが僅かに止まった。
「……そう見える?」
「ああ。じゃが、何か1つ増えた顔でもある」
老人はそれ以上踏み込まず、膝の上でコミックを開いた。
「まあ、年寄りの勘じゃ。外れることもある」
ミリーは少しだけ黙ったあと、鞄の上から手を添えた。
だが、何も答えなかった。
老人も聞き返さず、集まり始めた子供たちへ顔を向ける。
「そろそろ始めるぞ。祭りの日まで、わしの所へ来るとは暇な連中じゃ」
「爺ちゃんも暇だろ!」
子供の一人が声を上げる。
「わしは忙しいんじゃ。面白い話を選ぶのは大変なんじゃぞ」
老人は文句を言いながらも、どこか嬉しそうに最初の頁を開いた。
サビとミリーは、子供たちの輪から少し離れる。
「見ていかないの?」
ミリーが尋ねる。
「たまたま目に入っただけだ。それより腹が減った」
「家を出てから、もう2つ食べてたでしょう」
「祭りは食う物が多いって、お前が言ったんだろ」
「全部食べろとは言ってないわよ」
二人は言い合いながら、再び祭りの人波へ入っていった。
それから二人は、大市に並ぶ店を見て回った。
日が傾き始めた頃には、通りを埋めていた人の数が、昼間よりさらに増えていた。
二人が歩いている通りの中央には、石造りの浅い水路が真っ直ぐに延びている。
水路を挟んだ両側に石畳の道があり、その外側には露店や商店が隙間なく並んでいた。
等間隔に架けられた小さな石橋を、人々が絶えず行き来している。
水は街の外へ向かって緩やかに流れ、祭りで落ちた花びらや、小さな紙片を運んでいた。
空は赤みを帯び、建物の隙間から差し込む光が、石造りの通りを長く照らしている。
街路の上に吊るされた魔力灯も、1つずつ明かりを灯し始めていた。
普段使われている白い灯りだけではない。
双星祭に合わせて用意された金色と銀色の魔力灯が、水路の両側へ交互に並んでいる。
まだ明るさの残る空の下で、それらは夜の訪れを待つように淡く輝いていた。
灯りが水面で細長く揺れ、流れに合わせて形を変えている。
「昼より人が増えてないか?」
サビは前から来た集団を避けながら言った。
「仕事を終えてから来た人もいるんでしょうね。これから本祭だもの」
ミリーも人とぶつからないよう、サビの近くへ寄る。
小さな橋のたもとでは、星神教の修道士や祭りを手伝う子供たちが、通りを歩く人々へ星灯を配っていた。
薄い半透明の膜に、小粒の魔石を包んだものだった。
今はまだ光を失ったまま萎んでいるが、本祭の合図に合わせて魔力を流せば、空へ昇るのだという。
サビとミリーも1つずつ受け取った。
「何でこんなのを配るんだ?」
「見てのお楽しみね」
ミリーは意味深な笑みを浮かべ、はぐらかす。
サビは首を傾げたつつ、渡された物へ眼を落した。
サビの星灯には金色の紐が結ばれ、ミリーのものには銀色の紐がついている。
二人は本祭が始まるまで、それぞれ腰の革帯と鞄へ下げておくことにした。
通りでは、昼間に見た品物に加えて、夜の祭事に使う灯籠や金銀の飾りを売る露店が増えていた。
酒や焼いた料理の匂いも強くなっている。
その中で、ひときわ大きな声を張り上げている店があった。
「聖都クエーサーから届いた双星樹の果実だ! 本祭に間に合った新物だよ!」
店先には、見覚えのある印が焼きつけられた木箱が積まれていた。
「ゴードンの商会ね」
ミリーが足を止める。
箱の中には、橙色と青色の果実が分けて並べられていた。
丸みを帯びた橙色の果実は、夕暮れと魔力灯の光を受けて艶やかに輝いている。
青色の果実は、それよりも僅かに小さく、深い色の皮に細かな光沢が浮かんでいた。
傷のない果実には、サビが予想していた以上の値段がつけられている。
「高いな」
「聖都から運んでるんだから、これくらいするんじゃない?」
木箱の隣には、傷のついた果実を加工した品も並んでいた。
果汁を混ぜた酒。
砂糖と煮詰めた菓子。
薄く切った果肉を乾かした保存食。
崩れた街道で傷んだ果実も、捨てずに商品へ変えたらしい。
「残った物から利益を伸ばすのが、商人の腕だったか」
「本当に全部売るつもりみたいね」
サビたちが眺めていると、店員が透明な器を持ち上げた。
「そこのお二人さん! 双星ゼリーはどうだい? 橙と青の果肉を一度に味わえるよ!」
器の中には透明なゼリーが満たされ、その中央に二色の果肉が浮かんでいた。
祭りに合わせ、2つの果実が太陽と月を模すように並べられている。
ミリーが値段を確認し、二人分を買った。
「結局買うのか」
「命懸けで運んだんだから、どんな味かくらい知っておきたいでしょ」
「買うのに金は取られるけどな」
「まだ言ってる」
二人は木匙を受け取り、再び通りを歩き始めた。
サビは器を片手に、祭りを行き交う人々へ目を向けた。
こんなふうに、大勢の中をのんびり歩いたことがあっただろうか。
孤児だった頃は、人の顔も、店に並ぶ品もろくに見ていなかった。
道端に食べ物が落ちていないか。
店の裏へ、まだ食べられる物が捨てられていないか。
目に入っていたのは、それくらいだった。
今は自分の金で食べ物を買い、味の違いを確かめようとしている。
妙な感じがした。
サビは木匙で橙色の果肉をすくい、そのまま口へ入れた。
柔らかな甘みのあとに、僅かな酸味が残る。
酒場で飲んだ果実酒よりも、味がはっきりしていた。
「橙の方は甘いな」
「青は少し酸っぱいわよ」
ミリーは青い果肉を半分ほど匙で削り取った。
「でも、こっちの方が私は好きかも」
「色もお前の矢みたいだな」
「食べ物を攻撃と比べないでくれる?」
「似てるだろ」
「なんかやだ」
ミリーはそう言いながらも、残った青い果肉へ匙を伸ばした。
その時、横から走ってきた子供を避けようとして、身体を僅かに捻る。
器が傾いた。
「あっ」
透明なゼリーの上を、青い果肉が滑った。
器の縁を越え、石畳へ落ちる。
青い塊は一度だけ跳ね、そのまま通りの端まで転がっていった。
「落ちたぞ」
「あー、もったいないなあ」
ミリーが追おうとした時には、果肉は石組みの水路へ落ちていた。
浅い水の中で一度だけ石へ引っかかり、その場をくるりと回る。
魔力灯の金と銀の光が、水面と青い果肉の上で揺れていた。
だが、すぐに後ろから流れてきた水へ押し出される。
青い果肉は細い水路を流れ始めた。
ミリーは器を持ったまま、その行方を目で追う。
人々の足元を縫うように遠ざかり、やがて石造りの暗渠へ吸い込まれて見えなくなった。
「もう取れないわね」
「もう1つ買うか?」
「いいわよ。少しは食べられたし」
ミリーはそう答え、器に残った橙色の果肉へ匙を入れた。
「それより、サビの方はもう空じゃない」
「少なかった」
「食べるのが早かっただけでしょ」
二人は再び人の流れに混じり、明かりの増えていく通りを歩き始めた。
背後の水路では、祭りの光だけが絶えず流れ続けていた。
やがて空に残っていた赤みが消え、街の上を夜の闇が覆った。
本祭の開始を告げる鐘が、エクスランドの中心部から鳴り響く。
一度。
二度。
三度。
その音が建物の間を抜け、遠くへ広がっていく。
鐘の余韻が残る中、通りを照らしていた魔力灯が1つずつ光を弱め始めた。
「暗くなってるぞ」
「星登りが始まるからよ」
ミリーは足を止め、周囲を見回した。
金色と銀色に輝いていた街並みが、急速に暗くなっていく。
露店の火も小さく絞られ、騒いでいた人々の声まで少しずつ静まった。
その代わり、人々の手元で小さな光が灯り始める。
薄い半透明の膜で作られた、丸い星灯だった。
内部には小粒の魔石が浮かび、そこへ魔力を流すことで、金色や銀色の鋭い光を放っている。
子供たちは両手で大切そうに抱え、大人たちは紐の部分を指へ掛けていた。
サビとミリーも、通りの入口付近で1つずつ渡されている。
サビの星灯は金色。
ミリーの持つものは銀色だった。
「これを飛ばすのか?」
「合図があるまで離しちゃ駄目よ」
「分かってる」
「本当に?」
「ガキじゃねえんだぞ」
周囲では、先に手を離しかけた子供が母親に慌てて止められていた。
サビは自分の星灯を眺める。
膜の内側で、小さな魔石が規則的に明滅している。
手を強く引かれるほどではないが、星灯は既に上へ昇ろうとしていた。
やがて、鐘がもう一度鳴る。
今度は先ほどよりも高く、長い音だった。
それを合図に、人々が一斉に手を開く。
無数の星灯が、夜空へ向かって放たれた。
金色と銀色の光が、建物の間からゆっくりと昇っていく。
最初は人の頭より少し高い程度だった。
それが屋根を越え、塔を越え、やがて街全体の上へ広がっていく。
「すげえな……」
サビは思わず声を漏らした。
暗くなった街の上を、無数の光が埋め尽くしていた。
1つ1つは小さい。
だが、それらが集まると、夜空に新しい星の群れが現れたように見える。
地上から昇った光が、本物の星へ近づいていく。
遠くへ行くほど見分けがつかなくなり、普段の何倍もの星が空に浮かんでいるようだった。
周囲の人々から、感嘆の声が上がる。
祈るように手を組む者。
空を指差す子供。
肩を寄せ合い、黙って眺める者もいる。
サビも、自分の放した金色の光を探そうとした。
だが、すぐにほかの光へ紛れ、どれだったのか分からなくなった。
「どれが自分のか分からねえな」
「それでいいんじゃない?」
隣に立つミリーも、空を見上げている。
「全部一緒に昇るものだから」
銀色の光が、ミリーの褐色の肌と白銀の髪を淡く照らしていた。
二人はしばらく言葉を交わさず、昇っていく星を眺めた。
やがて、ミリーが小さく口を開く。
「……サビは、アオを取り戻したらどうするの?」
サビは空から視線を外し、ミリーを見る。
「バーグを倒した後か?」
「それもあるけど……全部終わった後」
「全部?」
「もしアオって子が戻ってきて、もうバーグを追わなくてもよくなったら」
ミリーは空を見たまま続けた。
「その後、何をするつもりなのかなって」
サビはすぐには答えられなかった。
アオを取り戻す。
そのためにバーグを探し、傭兵になり、戦い続けてきた。
だが、その先についてはほとんど考えたことがない。
「分からねえ」
サビは正直に答えた。
「終わってみないとな」
「そうよね」
ミリーは小さく頷いた。
それで話は終わるかと思った。
だが、ミリーは何かを迷うように、何度か口を開きかけている。
「お前はどうするんだ?」
サビが尋ねると、ミリーは僅かに目を見開いた。
「私?」
「ああ」
「私は……」
ミリーは言葉を探すように、昇っていく星灯へ目を向けた。
「……その後も、あなたと傭兵を続けてもいいと思ってる」
「……俺と?」
「絶対にそうしたいってほどじゃないわよ」
ミリーは少し早口になった。
「別のことを始めるかもしれないし、やりたいことが見つかるかもしれない。でも……」
一度言葉を止める。
「そうなったらいいとは思ってる」
サビは、ミリーの言葉を頭の中で確かめた。
アオを取り戻した後。
バーグとの戦いが終わった後。
それでも、二人で傭兵を続ける。
サビにとって、それは考えたこともない未来だった。
だが、別に不自然なこととも思わなかった。
「アオが戻っても、お前がいなくなる理由にはならねえだろ」
ミリーがこちらへ顔を向けた。
「そうなの?」
「お前が辞めたいなら別だけどな」
「……そういう考え方もあるわね」
ミリーはそれだけ答え、再び空を見上げた。
口元には、ごく僅かな笑みが浮かんでいる。
サビも隣で空を見た。
金色と銀色の光は、今も絶えず上昇していた。
どれが自分たちの放した星なのかは、もう分からない。
それでも、2つの光もあの群れのどこかで、同じ夜空へ昇り続けているのだろう。
数週間にわたって続いた大市と、双星祭の本祭は、無数の星が空へ消えていく中で静かに終わりを迎えた。
翌朝。
祭りの余韻が残るエクスランドに、魔力拡声器を通した放送が鳴り響いた。
『廃都市地下におけるハイブクイーンの確認に伴い、大規模討伐作戦の実施が決定されました』
通りを歩いていた人々が、頭上へ設置された拡声器を見上げる。
『傭兵各位は、自身が招集対象に指定されているか、各傭兵ギルドでご確認ください。繰り返します――』
通りには、前夜の金と銀の飾りがまだ残されていた。
露店を畳み始めた商人。飾りを取り外していた職人。
祭りの後片づけをしていた住民たちも、作業の手を止めて放送へ耳を傾けている。
廃都市地下へ派遣されていた調査隊が帰還した。
巣が確認されたのは、エクスランドと聖都クエーサーを結ぶ交易路から東へ外れた廃都市ネブラ。
地上の大半は崩壊しているが、地下には旧時代の排水路や輸送路が広範囲に残されている。
ファングアントはその地下網を利用し、巨大な巣を形成していた。
内部では複数の掘削種に加え、さらに別の上位種も確認されている。
そして、その中心には、群れを生み続けるハイブクイーンが存在していた。
傭兵ギルドだけでは対処できない規模と判断され、開闢軍主導による大規模討伐作戦が決定された。
三ツ星以上の傭兵が、全員招集されるわけではない。
これまでの実績や戦闘能力、装備、作戦内で求められる役割を基に、招集対象が選定される。
朝食を食べていたサビとミリーは放送を聞き終えると、互いに短く顔を見合わせた。
それから、三ツ星へ昇格したばかりの傭兵証を携え、傭兵ギルドへと向かっていった。