落星の継承者 重量変化だけしか使えない主人公が、バカでかい武器を振り回す話 作:青井リンボ
サビが巨剣槍を構えた瞬間、大盾を持った男たちが一斉に動いた。
「女は生け捕りだ」
バーグはサビから目を離さないまま告げる。
「多少壊しても構わねえ。手足を潰してでも連れて帰れ」
盾の陰から、鉤のついた長槍や拘束用の鉄縄を持った男たちが姿を見せた。
「そっちのガキには手を出すな」
バーグが鋸刃剣の切っ先をサビへ向ける。
「こいつは俺がやる」
ミリーが弓を引いた。
青い魔力が瞬く間に矢の形へ固まる。
「サビ、下がって!」
放たれた矢が、サビの横を抜けた。
バーグは首を僅かに傾ける。
魔力矢はその横を通り過ぎ、背後から近づいていた男の肩へ突き刺さった。
男が呻き、大盾の陰へ倒れ込む。
続けて二本、三本。
青い光が地下空間を走った。
大盾を持つ男たちが前へ出る。
最初の一枚へ魔力矢が突き刺さった。
厚い金属板が大きくへこみ、盾を持つ男の足が床を滑る。
さらに同じ場所へ二本目が命中する。
亀裂が広がり、盾の表面から破片が弾けた。
「代われ!」
後方から声が飛ぶ。
傷んだ盾を持つ男が下がり、別の大盾がすぐに前へ入った。
ミリーは狙いを変える。
盾の脇から覗いた脚へ矢を放つ。
一人の膝を青い光が貫いた。
男が崩れ落ちる。
だが、その身体を別の者が引きずり、すぐに盾の後ろへ隠した。
男たちはミリーへ一直線には近づかない。
柱と崩れた車両を使い、左右へ分かれていた。
正面では大盾が矢を受ける。
その間に、鉤槍を持った者が柱の陰を進む。
さらに後ろでは、鉄縄を抱えた男が姿勢を低くして機会を窺っている。
ミリーは後退しながら矢を放った。
一本が盾の上を越え、後方の男の顔を掠める。
血を流した男が瓦礫の陰へ退く。
それでも包囲は止まらなかった。
「ミリー!」
サビが踏み出そうとする。
目の前へ鋸刃剣が振り下ろされた。
サビは巨剣槍を振り抜き、横から刃を差し込む。
軽量化を解除した瞬間、金属同士がぶつかった。
サビはそのまま鋸刃剣を弾き、刃を返してバーグの胴を薙ぐ。
巨剣槍が加速する。
バーグは受けなかった。
バーグは鋸刃剣の腹を、振り抜かれる途中の巨剣槍へ添えた。
まだ軽い刃を、そのまま床へ押し流す。
(……まずい!)
サビが重さを戻すより早い。
刃が床に叩きつけられる。
ひびが広がり、砕けた石片が跳ね上がる。
バーグは巨剣槍の内側へ踏み込んだ。
鋸刃剣の柄頭が、サビの手首へ叩きつけられる。
(クソッ……!)
指から力が抜けかけた。
サビは巨剣槍を再び軽くし、床から引き抜く。
柄を軸に身体を回し、石突をバーグの側頭部へ振るった。
バーグは上体を沈める。
石突が髪の上を通過した。
そのまま横へ回り込まれ、蹴りがサビの脇腹へ打ち込まれる。
「ガッ……!」
鎧越しに衝撃が突き抜けた。
サビは身体を軽量化する。
攻撃へ逆らわず、横へ飛ばされて威力を逃がした。
両足が床から離れる。
着地する前に巨剣槍を振り、武器の勢いで身体の向きを変える。
崩れた柱へ足をつき、反動でバーグへ飛び込もうとした。
「それも予想の範囲内だ」
バーグの声が聞こえた。
サビが柱を蹴るより早く、踏み込んできたバーグの鋸刃剣が迫ってくる。
慌てて横に飛び抜く。
鋸刃剣が柱を砕き、間一髪飛び退いたサビはそのまま床へ転がった。
バーグは追撃しない。
笑いながら鋸刃剣を肩へ戻した。
「随分と面白え力を手に入れたじゃねえか」
サビは片膝をつき、巨剣槍を構え直す。
右手首が熱を持っている。
脇腹にも鈍い痛みが残っていた。
「軽くして振る」
バーグが指を一本立てる。
「当たる時だけ重くする」
二本目。
「自分も軽くして、ぶっ飛ばされた勢いを使う」
三本目。
「馬鹿でかい得物に振り回されるふりをして、身体ごと移動する」
バーグは指を下ろした。
「随分と評判になってたぞ、クソガキ」
サビは黙ったまま、バーグの足元を見る。
踏み込みに無駄がない。
巨剣槍が軽いうちは、正面から力を受けずに軌道だけを変える。
重さを戻そうとした瞬間には、すでに刃の届く場所から外れていた。
バーグが鋸刃剣を振るう中で、力みを使い分けている。
当たらない攻撃へ無駄な魔力を使っていない。
巨剣槍の重さと正面から競うつもりが、最初からなかった。
バーグが笑みを深くする。
「ついこの間まで、殴っても睨むしかできなかった奴隷がよ」
鋸刃剣の刃が、床を擦った。
「少しばかり力を持ったら、俺に勝てると思ったか?」
背後で、ミリーの魔力矢が大盾へ突き刺さる音が響いた。
男たちの怒声。金属の擦れる音。
包囲は少しずつ狭まっている。
サビがミリーへ視線を向けかける。
バーグの身体が沈んだ。
サビはすぐに前へ向き直る。
鋸刃剣が、下から斜めに迫っていた。
巨剣槍を軽くし、刃を合わせる。
鋸刃剣は巨剣槍の下へ潜り込み、そのままサビの身体を掬い上げる。
サビは即座に身体を軽量化した。
(衝撃へ逆らわず、後方へ飛ぶ。そして壁を蹴って、一撃を入れる……!)
先ほどと同じ、軽量化して吹き飛ばされる動き。
だが、身体は後ろへ飛ばなかった。
バーグの一撃は直前で脱力し、押し飛ばすだけの力が乗っていない。
軽くなった身体だけが、斜め上へ掬い上げられる。
壁へ伸ばした足が、何もない空を切った。
(うそだろ……!)
「馬鹿が」
真下で、バーグが踏み込み直した。
今度は鋸刃剣へ濃い魔力が集まっている。
サビは空中で巨剣槍を引き寄せた。
重量を増やす。巨剣槍に赤黒い煙がまとわりつく。
だが、最大まで上げる時間はなかった。
青白く光る鋸刃剣が、巨剣槍の上から叩きつけられる。
轟音。
サビの身体は巨剣槍ごと地面へ落ちた。
「ガ……ッハァ……!」
叩きつけられた床に亀裂が入る。
接地の直前に身体を軽くした。
それでも衝撃は消えなかった。
肩から床へ叩きつけられ、肋骨の奥で鈍い音が鳴る。
身体が一度跳ねた。
そのまま肩と背中を何度も床へ打ちつけながら、瓦礫の上を転がっていく。
息が詰まった。
片脚に力が入らない。
口の中へ血の味が広がった。
バーグはひび割れた床の縁に立ち、転がっていったサビをにやけながら見下ろしている。
「その程度で、俺に勝てるつもりか?」
その向こうで、ミリーの矢が再び大盾を砕いた。
盾を持っていた男が後ろへ倒れる。
ミリーは開いた隙間へ続けて矢を放った。
一人の肩を貫く。
もう一人の鉤槍を弾き飛ばす。
だが、崩れた盾の前へ別の男が入った。
左右の柱の陰からも、拘束具を持った者たちが距離を詰めている。
ミリーがサビを見る。
床へ叩きつけられ、転がる姿に、ほんの一瞬だけ顔を向けた。
その背後で、伏せていた男が動いた。
足音は、周囲の怒声と金属音に紛れた。
「ミリー!」
ミリーが気づいて振り返る。
だが、遅い。
男の手に握られた短い棒状の魔道具が、首筋へ押し当てられた。
鈍い破裂音が鳴る。
ミリーの身体が大きく跳ねた。
白銀の髪が舞い、全身から青い魔力が噴き出す。
形成しかけていた矢が形を失い、無数の光片となって周囲へ散った。
押し当てていた男の腕まで魔力に弾かれ、皮膚が焼ける。
「ぐッ!」
男は呻きながらも、魔道具を離さなかった。
ミリーは弓を握ろうとした。
指先が僅かに動く。
だが、膝が折れ、そのまま前へ崩れ落ちた。
「押さえろ!」
大盾の陰から男たちが飛び出す。
一人がミリーの弓を蹴り飛ばした。
別の男が両腕を背中へ回し、金属製の拘束具を手首へ嵌める。
両足にも同じものが取りつけられた。
拘束具に埋め込まれた魔石が光る。
ミリーの身体から漏れていた青い魔力が、急速に弱まっていった。
「阻害具を入れろ!」
「もう動いてる!」
「出力を上げろ。こいつの魔力は聞いてたより強い!」
男の一人が、首元へ帯状の魔道具を巻きつける。
留め具が閉じると、低い駆動音が鳴った。
「……い、や……はな、し……」
ミリーの背中が一度だけ震える。
それきり、身体から力が抜けた。
「ミリー!」
サビが身体を起こそうとする。
肋骨へ激痛が走り、片腕が床へ落ちた。
その向こうで、手下たちはすでに次の作業へ移っていた。
崩れた車両の陰から、箱状の物が引き出される。
人一人を収められるほどの大きさ。
太い金属製のフレームへ、分厚い外殻が取りつけられている。
側面には複数の魔石と回路。
内部には身体を固定するための帯が並び、底には薄い緩衝材が敷かれていた。
危険な捕虜や、魔力を使う者を生きたまま運ぶための拘束箱だった。
「開けろ!」
二人が蓋を持ち上げる。
残りの男たちが、意識を失ったミリーを運び上げた。
腕と脚を持ち、乱暴に箱の中へ収める。
頭が外殻へぶつかる直前、一人が首の後ろへ手を差し込み、衝撃を避けた。
「傷を増やしすぎるな。死なせたら俺たちも終わるぞ!」
「分かってる!」
内部の拘束帯が、胸、腰、太腿へ巻かれていく。
手足の拘束具も箱のフレームへ接続された。
蓋が閉められる。
重い金属音が地下空間へ響いた。
複数の留め具が固定され、側面の魔力阻害装置が順番に点灯する。
外から見えるのは、呼吸を確認するための細い隙間だけだった。
「運び出せ!」
四人の男が箱の取っ手を掴む。
持ち上げられた金属箱が、低く軋んだ。
サビは床へ巨剣槍を突き、無理やり片膝を立てる。
視界の端で、ミリーを入れた箱が持ち上げられていく。
動かなければならない。
だが、片脚は痺れたまま力が入らず、息を吸うたびに胸の奥が軋んだ。
バーグが鋸刃剣を肩へ担ぎ、にやついた顔でサビを見下ろしている。
「さて」
背後では、手下たちが拘束箱を運び始めている。
「次はてめえだ」