落星の継承者  重量変化だけしか使えない主人公が、バカでかい武器を振り回す話   作:青井リンボ

57 / 58
57

 バーグの姿が白い煙に紛れて消える。

 サビは視覚を捨て、周囲の魔力へ意識を集中した。

 

 灰色の煙が兜の周囲を流れる。

 

 雨音。瓦礫から落ちる水滴。

 どこかで、石片を踏む音。

 そのすべてが狭い広場へ反響していた。

 

 バーグの姿は見えない。

 だが、魔力まで消えたわけではなかった。

 煙幕の左側。

 サビを回り込むように、魔力の反応が移動する。

 

(左か)

 

 サビは巨剣槍を軽量化し、穂先を左へ向けた。

 反応が近づく。踏み込みにしては小さい。

 それでも、迷っている暇はなかった。

 

 サビは身体を捻り、巨剣槍を振り抜く。

 刃が煙を切り裂いた。

 

(……は?)

 

 だが、そこにバーグはいない。

 青白い魔力の塊が、床の上を跳ねていた。

 

「――ッ!」

 

 小さな魔力弾。

 バーグが作り出し、煙の中へ放った囮だった。

 

 同時に、右側の煙が揺れる。魔力の気配は極わずか。

 バーグは身体強化を切り、生身の脚力だけで踏み込んでいた。

 

 巨剣槍は左へ振り切っている。

 サビが重さを戻すより先に、鋸刃剣が煙の中から現れた。

 サビは咄嗟に身体を軽量化し、後方へ跳ぶ。

 

 それでも、完全には逃げきれない。

 

 鋸刃に魔力がまとわりつき、兜をえぐる。

 金属が裂け、視界を覆っていた装甲の一部が弾け飛んだ。

 刃が左の頬をえぐり取り、そのまま鎖骨の上を通った。

 胸当てが大きく抉られる。

 

「ぐッ――!」

 

 熱いものが顔から首へ流れた。

 頬肉がえぐり取られ、歯がむき出しになる。

 衝撃に押され、身体が後方へ流された。

 

 バーグはそこで、右脚へ魔力を集中させた。

 追撃。

 鋸刃剣を引き戻し、さらに踏み込もうとしている。

 

 サビの視界はまだ煙で白い。

 右目にも血が入り、ほとんど見えない。

 

 だが、後退しながらも手放さなかった巨剣槍の穂先を、片手でバーグの方へ向けた。

 体勢を整える時間はない。

 距離を取る余裕もない。

 

 サビは巨剣槍を軽くしたまま、柄の根元を捻った。

 内部の魔力回路が繋がる。

 石突側の機構から、爆発的に魔力が噴き出した。

 

 轟音。

 

 軽量化した巨剣槍がサビの片腕ごと前へ射出される。

 バーグの表情が僅かに変わった。

 直撃する瞬間、サビは軽量化を解除する。

 

 バーグは鋸刃剣を戻し、飛び込んでくる穂先を外側へ弾く。

 反応そのものは間に合っていた。

 

 だが、斬られた直後のサビが、体勢も戻さずに推進機構を使うとは読んでいなかったようだ。

 鋸刃剣が穂先へぶつかる。

 

 巨剣槍の軌道が僅かに逸れた。

 だが、完全には外れない。

 厚い刃が、バーグの左肩の装甲へ食い込んだ。

 

「ガァッ――!」

 

 赤い装甲が砕ける。

 巨剣槍の穂先が、その奥の肉を深く抉った。

 バーグの左腕が大きく跳ねる。

 肩から下が、不自然な方向へ引かれた。

 

 推進機構の噴射が途切れても、巨大な慣性は止まらない。

 穂先へ食い込んだ装甲ごと、バーグの身体を前へ押し込んでいく。

 

 サビも柄へしがみついたまま引きずられた。

 足が床から離れる。

 二人の身体が、煙と泥水を撒き散らしながら広場を横切る。

 

 正面には、崩落で亀裂の入った壁があった。

 バーグは鋸刃剣を右手だけで動かし、巨剣槍を外そうとする。

 だが、左肩へ食い込んだ刃が抜けない。

 

「クソォ!」

 

 サビは答えない。

 右手首が悲鳴を上げる。

 裂かれた胸から血が流れ、握力が抜けかけていた。

 それでも柄へ指を食い込ませる。

 

 巨剣槍が壁へ突っ込んだ。

 凄まじい衝撃が広場を揺らす。

 

 壁材が砕け、二人の周囲へ瓦礫が弾け飛んだ。

 バーグの身体が巨剣槍と壁の間へ叩きつけられる。

 

 サビも柄に引かれ、肩から壁へ激突した。

 兜の残った部分が割れる。

 胸当ての留め具が千切れ、黒い装甲が床へ落ちた。

 

 二人は瓦礫と共に地面へ崩れ落ちた。

 サビは肩から転がり、水溜まりへ倒れ込む。

 

 口の中へ泥水と血が入った。抉れた頬から激痛が走る。

 咳き込みながら、片腕で身体を起こす。

 

 少し離れた場所で、バーグも瓦礫の中から立ち上がろうとしていた。

 右手には、まだ鋸刃剣がある。

 だが、左腕は動かなかった。

 

 肩の装甲は大きく割れ、その奥から血が流れている。

 腕は力なく垂れ下がり、指先すら動いていない。

 バーグは自分の左腕へ一度だけ視線を落とした。

 

 それから、サビを見る。表情は変わらない。

 殺意だけがにじむ顔だった。

 ただ、残った右手で鋸刃剣を握り直した。

 サビも血の混じった息を吐き、巨剣槍の柄へ手を伸ばす。

 

 煙幕は少しずつ薄れていた。

 その代わり、崩れた壁から落ちた瓦礫が広場へ散らばっている。

 

 二人とも立っているのが不思議なほど傷ついていた。

 それでも、どちらも武器を手放さなかった。

 

 二人は同時に地面を蹴った。

 

 バーグの鋸刃剣が横薙ぎに迫る。

 サビは巨剣槍を立てて受ける。

 金属同士が激突し、痺れが両腕へ走った。

 

 左腕を失っても、バーグの斬撃は重い。

 サビは巨剣槍の重さを戻し、押し返そうとする。

 

 だが、バーグは力を受けきる前に鋸刃剣を引いた。

 体勢を崩したサビの脇腹へ、蹴りが叩き込まれる。

 

「ぐッ……!」

 

 身体が横へ流れる。

 サビは片足を滑らせながら踏みとどまり、巨剣槍を振り返した。

 

 バーグは上体を反らして避ける。

 刃が砕けた胸当ての表面を削った。

 そのままバーグが踏み込む。

 

 右腕だけで振り下ろされた鋸刃剣を、サビは引き戻した穂先で逸らす。

 刃が肩を掠めた。

 黒い装甲の残骸が飛び、傷口から血が噴き出す。

 

 サビは怯まずに、石突を突き出した。

 バーグは鋸刃剣の腹で受けた。

 接触の瞬間、サビが重さを戻す。

 

 鈍い衝撃が響き、バーグの身体が一歩後退した。

 だが、それだけだった。

 

 バーグは地面へ沈んだ右脚へ魔力を集中させ、再び前へ出る。

 鋸刃剣が下から跳ね上がる。

 

 サビは身体を軽くして飛び退いた。

 切っ先が胸元を掠め、身体がさらに後方へ押し流される。

 

 着地した足が水溜まりへ深く沈んだ。

 泥水が周囲へ跳ねる。

 サビは大きく間合いを取った。

 

 息を吸う。

 胸の傷が開き、喉の奥へ血の味が上がってくる。

 右手の感覚も薄い。えぐられた頬からは出血が続いている。

 巨剣槍を支えているだけで、腕が震えていた。

 

 正面では、バーグも肩を上下させている。

 左腕は垂れ下がったまま。赤い装甲はほとんど残っていない。

 それでも、鋸刃剣を持つ右腕と両脚には、まだ魔力が集まっていた。

 

 次に正面からぶつかれば、サビの方が先に崩れる。

 サビは呼吸を整えながら、周囲へ視線を動かした。

 

 崩れた壁。積み上がった瓦礫。

 広場の各所に溜まった雨水。

 踏み荒らされ、石粉の混じった泥。

 

 サビは巨剣槍を両手で握り直した。

 その場で大きく振りかぶる。

 

 バーグの表情が僅かに強張った。

 巨剣槍の穂先を見据え、右腕と胸元へ魔力を集中させる。

 

 サビが巨剣槍を振り下ろした。

 だが、刃はバーグへ向かわなかった。

 

 地面へ、重量化した赤黒い穂先が接触する。

 浅い水溜まりごと、泥と砕けた瓦礫を掬い上げた。

 巨大な刃が、匙のように地面を抉る。

 

 次の瞬間、サビは巨剣槍を振り抜いた。

 爆発的な轟音が響く。

 大量の雨水と泥、石片が、正面からバーグへ襲いかかる。

 

「チッ!」

 

 バーグは右腕を顔の前へ上げた。

 残った装甲だけでは防ぎきれない。

 全身へ魔力を広げる。

 飛来した石片が魔力の膜へぶつかり、次々と砕けた。

 

 泥水が弾ける。細かな石粉が霧のように舞い上がる。

 視界が茶色く染まった。

 

 バーグは顔を守りながら、周囲へ視線を走らせる。

 

 霧の向こうで、重い風切り音が鳴った。

 正面から、巨大な黒い影が飛び込んでくる。

 

 巨剣槍。

 

 バーグは右脚を踏み込み、鋸刃剣を振り上げた。

 突きこまれた巨剣槍を正面から受ける。

 

「オオッ!」

 

 鋸刃剣が黒い刃と激突する。

 金属が削れ合う、甲高い音が響いた。

 巨剣槍は軌道を逸らされ、回転しながら瓦礫の向こうへ飛んでいく。

 

(飛んで……?)

 

 巨剣槍の向こうに、サビはいなかった。

 

「——ッ!」

 

 バーグが視線を上げる。

 

 煙るような粉塵の上。

 サビは軽量化した身体で一気に跳躍していた。

 振りかぶった両手には、拾った人の胴ほどもある瓦礫が掴まれていた。

 

 瓦礫が崩れる音さえ、いつもより遠く聞こえる。

 視界が一瞬だけ、広場全体を見下ろす形に変わる。

 

 崩れた壁。

 泥水の水溜まり。

 そして、粉塵の中で右腕を振り抜いたバーグの姿。

 

 サビは落下しつつ、バーグ目掛けて瓦礫を振り下ろす。

 指先が、ざらざらとした表面に食い込む。

 腕の付け根が軋んだ。

 

 視界の中で、バーグの右腕が持ち上がっていく。

 鋸刃剣がまだ半分も引き戻されていない。

 

 落下の勢いへ、振り下ろす力を重ねる。

 石を握る指の骨が、軋むような感触を伝えてきた。

 

 バーグの顔が近づいてくる。

 驚愕に見開かれた目だった。

 これまで一度も見せなかった顔だ。

 

 余裕も、嘲りも、そこにはない。

 奥歯を噛みしめ、顔が歪んでいる。

 初めて、剥き出しの焦りだけがあった。

 バーグは叫んだ。

 

「——サビィィィィィ!」

 

 その目に映る自分の姿を、サビは一瞬だけ意識した。

 

 石塊がバーグの頭部へ触れる、その寸前。

 サビは瓦礫の重量を最大まで引き上げた。

 

 軽かった石塊が、赤黒いもやをまとい瞬時に重くなる。

 肩の関節が悲鳴を上げる。

 それでも手を離さなかった。

 

 空気が唸る。

 赤黒いもやを纏った石塊が、バーグへ襲い掛かる。

 

 バーグは頭を逸らしながら、右肩と鋸刃剣で受けようとした。

 石塊が鋸刃剣へ激突する。

 

 凄まじい重さに刃が大きく沈んだ。

 石の一部が砕ける。

 だが、勢いは止まらない。

 

 残った塊が右肩を押し潰し、そのままバーグの頭部へ叩き込まれた。

 

「ガッ!……」

 

 鈍い音が響いた。

 バーグの巨体が瓦礫ごと、地面に叩きつけられる。

 頭が石の床へ激突し、水溜まりが赤く弾けた。

 

 サビも石塊と共に地面へ落ちた。

 地面に激突し、泥の中に沈み込む。

 

 一瞬の静寂が訪れ、遠くでの戦闘音が微かに響く。

 

 それでも、どうにかサビは身体を起こした。

 荒い呼吸だけが、広場に響く。

 

 バーグは動かない。

 

 右手から離れた鋸刃剣が、水溜まりの中へ沈んでいた。

 サビはその場に膝をついたまま、倒れたバーグを見つめた。

 

 動かない。

 頭の横では、雨水に混じった血がゆっくりと広がっている。

 

 頭からは大きく出血が続き、右肩は大きく潰れ、左腕も垂れ下がったままだった。

 それでも、まだ死んだとは限らない。

 

 サビは荒い呼吸を繰り返しながら立ち上がった。

 膝が折れかける。

 地面へ手をつき、どうにか踏みとどまった。

 

 回復薬で遠のいていた痛みが、一気に戻り始めている。

 頬から胸へ走る傷が熱い。

 右手首はまともに曲がらず、脇腹へ力を入れるたびに息が詰まった。

 

 それでも、ここで倒れるわけにはいかない。

 サビは水溜まりへ沈んだ鋸刃剣を蹴った。

 重い刃が泥水を跳ね上げ、バーグの手から離れて転がっていく。

 

 続いて、瓦礫の向こうへ飛んでいった巨剣槍を探す。

 黒い刃は、崩れた壁材へ斜めに突き刺さっていた。

 サビは足を引きずりながら近づき、柄を掴む。

 

 軽量化する。

 それでも、腕に力が入らない。

 一度では抜けず、足を瓦礫へ押しつけて引いた。

 

 石片が崩れる。

 巨剣槍がようやく抜けた。

 サビはそれを杖のように使い、バーグの元へ戻る。

 

 途中で一度、壁際へ横たえたミリーを見た。

 まだ動いていない。

 だが、胸は僅かに上下している。

 

 サビは再びバーグへ視線を戻した。

 

(勝ったのか……)

 

 実感は余りなかった。

 奴隷時代は恐ろしかった存在だった。そして、憎い相手だった。

 夢の中でも何度も、目の前でアオを連れ去られる場面を見てきた。

 

 そんな相手がいま、自分の前で倒れている。

 自分が倒した。アオとミリーの顔が浮かんだ。

 

(……)

 

 サビは大きく息を吸い、倒れた巨体の横へ立った。

 その時、バーグの喉から低い呻きが漏れた。

 

「……ぐ……」

 

 瞼が僅かに動く。頭を打ったせいか、焦点の合わない目がしばらく宙を彷徨い、やがてすぐそばに立つサビを捉えた。

 

「……殺さねえのか」

 

 掠れた声だった。

 サビは答えず、巨剣槍をバーグの右腕へ押し当てる。軽量化を解くと、元の重さへ戻った刃が腕を床へ沈めた。

 

「ぐッ……!」

 

 バーグの顔が歪む。

 左腕は動かない。右腕も巨剣槍の下へ押さえ込まれ、鋸刃剣は手の届かない場所まで転がっている。

 

「聞くことがある」

 

 バーグは荒い息を吐いた。

 

「……俺にか」

 

「アオはどこだ」

 

 その名を聞いた瞬間、バーグの目が僅かに変わった。

 痛みとも怒りとも違う。何かを思い出したように、サビの顔を見る。

 

「……まだ探してたのか」

 

「どこにいる」

 

「知らねえよ」

 

 サビは巨剣槍へ体重をかけた。バーグの右腕がさらに床へ押し込まれる。

 

「誰に渡した」

 

「……知らねえ」

 

 バーグは息を詰まらせ、血の混じった唾を吐いた。

 

「指定された……場所まで運んだ。待ってた連中に、渡しただけだ」

 

「どこの奴らだ」

 

「知らねえよ……名乗りもしなかった」

 

 サビは巨剣槍を押しつけたまま、バーグを見下ろす。

 

「お前、開闢軍にいたんだろ」

 

「……昔はな」

 

「なんで抜けた」

 

 バーグの口元が僅かに歪んだ。

 

「抜けた……?」

 

 息を吸った途端、胸の奥で何かが引っかかったように咳き込む。

 

「……俺が、捨てたんだよ。軍も……家もな」

 

「なんでだ」

 

「……あそこにいたって……同じだ」

 

 バーグは浅い呼吸を繰り返した。

 

「どれだけやっても……もっと出来る奴が出りゃ、そっちを見る」

 

 そこで一度目を閉じる。

 苦痛を押し殺すように歯を食いしばり、再びサビを見た。

 

「……そんなところで、いつまでも……認められるのを待ってられるかよ」

 

「それで?」

 

「……俺の腕を買うって奴がいた」

 

 バーグは息を吐いた。

 

「軍の外なら……好きにやれるってな」

 

「そいつらが、アオを連れていけって言ったのか」

 

「……最初の頃の仕事だ」

 

「誰が命令した」

 

「だから……知らねえって言ってんだろ」

 

 苛立った声を出した途端、バーグの顔が痛みに歪んだ。

 

「名前も……顔も知らねえ。仕事を持ってくる奴も……毎回違った」

 

「アオを渡した後は」

 

「……知らねえよ」

 

 バーグは荒い息を吐きながら、僅かに目を細めた。

 

「ガキ一人……その後どうなったかなんざ、興味もなかった」

 

 サビは巨剣槍を握ったまま、しばらくバーグを見下ろした。

 嘘を吐いているようには見えない。

 

「……そうか」

 

 ここから先へ繋がるものを、バーグは持っていない。

 サビは壁際に横たわるミリーへ一度だけ視線を向け、再びバーグを見る。

 

「アオのことを知らねえなら、後はミリーだ」

 

「……あ?」

 

「お前をどうするかは、ミリーに決めさせる」

 

 バーグの表情から、僅かに残っていた笑みが消えた。

 

「……あの女に、か」

 

「ああ」

 

 ミリーの両親を殺したのはバーグだ。

 自分が憎んでいないわけではない。

 だが、その先まで自分が勝手に決めることではなかった。

 

 サビはバーグの脚へ視線を落とす。

 両腕はほとんど使えない。それでも、このままではまだ逃げられる可能性がある。

 

「だから、それまで動けなくする」

 

 バーグが眉を寄せた。

 

「何する気だ」

 

「脚を折る」

 

 サビは巨剣槍を持ち直し、穂先を持ち上げた。

 

「……なんだ?」

 

 その時、広場の水溜まりが震えた。

 

 最初は、遠くで何かが崩れたのかと思った。

 だが、違う。

 

 一定の間隔で、空気が押し下げられている。

 

 雨水の表面に、次々と波紋が広がった。

 風が上から吹き込む。

 灰色の空が見える崩落口から、土埃と細かな雨粒が舞い落ちる。

 

 サビは顔を上げた。

 重い羽音。一度。さらに一度。

 

 巨大な翼が空気を叩く音が、急速に近づいてくる。

 バーグも目だけを上へ向けた。

 その顔から、僅かに残っていた嘲笑が消える。

 

 サビの魔力感知へ、上空から巨大な反応が触れた。

 ファングアントでも、バーグでもない。

 

 比較にならないほど濃い魔力。

 だが、その奥にある気配だけは、知っていた。

 

 忘れるはずがなかった。

 

「……まさか」

 

 崩落口を覆うように、巨大な影が広がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。