「死ねぇ!!」
物騒な掛け声と共にヤニカスが爆破される。
破壊され下半分になった顔。それが煙となり消える前に何かを呟いた気がした。
煙となり霧散したその後にも嫌なニヤニヤした笑いだけが残る。
煙が集まり再び形を成そうとしたその瞬間。
「させない!!」
デクの体が破壊されないギリギリの力を込めたパンチが体を形成するのを防ぐ。
行き場の無くなった煙に八百万の作った強力扇風機の風と焦凍の冷気が襲い掛かる。
細分化された煙は「大拳」の風でさらに吹き飛ばされる。
それに負けじと嫌な笑いを湛えた口元から煙が集合する。
瞬間、黒影がそこで暴れてそれを霧散させる。
少しでも煙を防ぐべくモギモギが投げられる。電気が流される。吹き出しによって周囲が搔き乱される。
『おおっと、どうしたことだ!!A組もB組もクラスの垣根を越えて一位の佐藤に襲い掛かっている!!』
プレゼント・マイクの困惑に満ちたアナウンスの響く中、それでも彼らは攻撃の手を緩める事は無い。
何故なら彼らは感じたからだ。
「恐ろしい事になる」
と。
ここでこのヤニカスを落としておかないと恐ろしい事になる、と!!
●
その空間は死んでいた。
限られた空間内には薄く瘴気の如く煙が渦巻き、耐えがたい臭いを放っている。
その瘴気は絶えず空間内を循環し、外と内部を区切っている煙の壁に新しい材料を供給している。
この空間が汚染されて時間が経っていないにも関わらず既に大地までがその浸食を受けているよう。
壁からは埋め込まれた巨人が歩き出すが如く、常に新しい人間が供給されて「それ」が倒されるたびに戦列へと加わる。その様はまさに終わりなき戦いに従事させられる戦奴か修羅を思わせる。
このまま永劫の彼方までこの地獄は続く様に思われた。
そんな地獄の中心に支配者の如く座す人影がいる。
今朝ほど改めた服装はもう既に至る所にヤニが付き、ニコチンの匂いが染みついている。
ぐだっと大地に寝転んだその姿からは意志や尊厳といったものがすべて抜け落ちたのよう。
外界から全てシャットダウンされたこの地で彼女は寝転びながら書物を捲る。
外部から漏れ聞こえてくる微かな騒音、それ以外に聞こえるのは頁を捲る音だけである。
やがて彼女の口が微かに開き、そこから言葉が漏れだそうとしている。
この地獄絵図の中心である彼女。その口から飛び出すのは世を呪う言葉か、全てを崩壊させる呪言以外には考えられない。
そして空気を振動させ、ついには言葉が漏れだした。
「暇にゃ」
まあ、ニャーの事なんですけどね。
白煙の向こうから悲鳴や怒号、絶叫が聞こえるにゃ。
ん~良いBGMにゃ。
ニャーは寝転んで読んでいたき〇らから顔を上げ、しばしその悲鳴に聞き入るにゃ。
予想通り大量の金髪はみんなの度肝を抜けたみたいにゃ。
これでニャーに関る時間は減ったはずにゃ。
後は時間切れまで、ここでヤニ吸ってればいいにゃ。
でも暇にゃ。
これぞ安全圏から敵を一方的に攻撃する芋砂戦法にゃ。
問題は勝利に貢献とかできない事とたまに職種を変えて前線に出るとボコボコにされる事くらいにゃね。
でもカイジの会長も言ってた気がするにゃ。
王は勝てる勝負しかしない!ってにゃ。
じゃーニャーはきら〇を読むのに戻るにゃ。
やはり日常百合は至高にゃ。
何故こんな所にき〇らがあるかって?
万が一に備えて体操着の中に仕込んであったにゃ。
にゃんのためって?
プラスなんちゃらって生徒に圧かけてくる学校にゃよ。
観客席にスナイパーくらい仕込んでいてもおかしくないにゃ。
観客席スナイパーはバキ世界でもTier1にゃよ。
地上最強の生物を仕留めた実績持ちにゃ。
あの時実弾使ってたら、あの世界の様々な問題解決してた気がするにゃ。
その後のアレも
自由の女神壊したハゲにバキューン!!
空道の使い手にもバキューン!!
これで解決にゃ。
それにしても外がギシギシうるさくなってきたにゃね。
金髪の数が足りないかにゃ?追加で足しとくかにゃ。
二体くらい増やすかにゃ。
仲間が増えて本物の金髪も喜ぶにゃ。
にゃ?何か悲鳴に交じっていた歓声みたいなのが増えてきたにゃ。
これはひょっとしてニャーの金髪大活躍じゃないかにゃ?
ここで優勝決めてもいいにゃよ。
キルアの受けなおした回のハンター試験みたいに。
それにしてもボガンボガンと爆発の音と風の音がうるさすぎやしないかにゃ?
なんかさっきより怒号や歓声が大きくなってきたし……
まさかコレ、攻撃されてるにゃ?
お、落ち着くにゃ。タバコ吸う人間は慌てないにゃ!!まだ慌てる時間じゃないにゃ!!
落ち着くにゃ。
今まで乗り越えてきた危機に比べたらこのくらいなんともないにゃ。
食堂でヤニ吸って、ランチラッシュにマジ切れされた時のことを。
食堂で食器を灰皿代わりにしようとして、厨房からナイフ持って飛び出してきたランチラッシュに平謝りした時のことを。
食堂でカレーフェアの時にうんこの話をして、出刃包丁を持ったランチラッシュに土下座した時のことを。
落ち着くにゃ。
『素数』を数えて落ち着くにゃ。
『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字……
ニャーに勇気を与えてくれるにゃ。
2…4…6…8…10…13
いや違う。12にゃ。
……大体素数って何にゃ?
爆発音に加えて風の音が凄いにゃ。
まさかコレ、少しずつ削られているにゃ?
しゃあないにゃ。壁を修復してもっと厚く……
うーん、ニャーが引きこもったままで時間切れだと流石にクレームが付くのじゃにゃかろうか?
というかラストでニャーが登場すれば盛り上がり間違いなしにゃ。
決してこうして引きこもって漫画読んでるのが暇すぎるからじゃないにゃよ。
じゃあ早速壁の修復を止めて…いくつかのリソースをと。
さてこれでいいにゃ。
後はみんなが突破するのを待つだけにゃ。
突破できるにゃよね…………?
●
物間寧人を爆破する。爆破された物間寧人は煙となって消えるも、その煙は中央にある煙の壁の中に吸収され、すぐに新しい物間寧人がそこから出てくる。
現在グラウンドにいる物間寧人は30人ほど。
本物の物間寧人と違い個性を使う事は無いものの、その数による暴力は決して侮れない。
現に何人かは奇襲を受けてハチマキを奪われている。
「クソが!!切りがねえ」
「どうする爆豪、このままじゃジリ貧だぞ」
さらに一体を片付けた爆豪に、下から切島が声をかける。
その言葉通り、こちらを警戒したのか6人ほどの物間寧人がこちらを窺っている。
「あのヤニカスは放置できねぇ!!何故か知らねえが、まだ余力を残してやがる」
その言葉を裏付けるかのように、さらに煙の壁から4人の物間寧人が表れる。
彼らはすぐさま騎馬を組むとこちらへ向かって……
来ようとするのを氷漬けにされる。
爆豪が跳び煙の壁に爆撃を加える。
表面の煙が消し飛ぶものの、それはすぐに元の煙へと吸収される。
「クソがあぁぁぁぁぁぁ!!」
「いや、それでいい」
「!! 金髪野郎……」
その寸前、風が吹き戻ろうとした煙を掻き消した。
爆豪が振り向くと「大拳」で手を大きくした物間が笑っていた。
「どういう風の吹き回しだ?お前が俺に協力するなんて」
「別に好きで協力するわけじゃない……ただ……」
「ドカン」という吹き出しが煙の壁に向かい表面を散らす。
骨抜が煙を柔らかくする。
「どうなってんだ。俺の「柔化」が一部しか通用しない!!」
「おそらく……」
少し柔らかくなった部分にダークシャドウが攻撃を加え淡雪の如く煙が舞い立つ。
「煙の内部が循環して個性の影響を留めないようにしてると思いますわ」
その淡雪も八百万の作った大型扇風機の前に消え失せる。
「A組まで…」
「佐藤さんの個性は協力無比です。おそらく個性だけならヒーロー科最強でしょう」
「ダカラコソ イドムカチガアル」
「頂点に挑む戦いか。孤高の星を今落として見せる」
『おおっと、ここにきてトップを落とすために他の生徒たちが手を組んだ!!お前ら、これは燃える展開だぜ!!』
「せ、青春!!青い春!!ブルースプリング!!」
ミッドナイトも悶えている。
「佐藤さんのこの煙の壁は物理はほとんど通さないけど、属性攻撃はわずかに通るみたいだ!!」
緑谷が分析し、属性を持つ者は壁への直接攻撃を、そうでない者は迫りくる物間を防ぐ。
爆破で煙が削れる。その煙を巨大扇風機が吹き飛ばす。
その隙間から生まれた物間を黒影が殴打し、煙の中へと押し込める。
「佐藤ちゃんに教えてもらった技、使わせてもらうんよ」
麗日が壁の上の空気を無重力化すると、それに引っ張られて周囲の空気がそこに集まる。
煙もそこに引っ張られ……
「今!!」
拳藤の巻き起こした風がそれを散らす。
大量の煙が宙へと舞い消える。
それに従い今まで見えなかった内部が薄ぼんやりと映し出される。
内部のヤニカスは微動だにしない。
極限まで薄くなっていた煙は爆豪の最後の攻撃であっさりと破れた。
「にゃっ!!」
今まで内部に籠って見えなかったヤニカスの姿が露わになる。
その姿は……
右側を下にし横たわる姿。
右手はを枕にし、左手にはき〇ら。口にはタバコ。
ご丁寧にどこから用意したのか、缶コーヒーの空き缶を灰皿入れにしている。
「な……」
今まで必死に煙を壊していたのに、中身はコレか。
そう考えた爆豪が切れた。
「なめてるんじゃねぇ!!」
その時、ヤニカスが動く!!
片足をゆっくり持ち上げて……
『プッ』
「にゃ。朝飯に芋食ったからよく出るにゃ」
一同のコメカミに血管が浮き出る。
この人生を舐め腐ったヤニカスに何としても一矢報いたい。
爆豪に至っては「もう二度と個性を使えなくてもいい覚悟と決意」を一瞬決めそうになった。
意外とこすい所があるので、思っただけだったが……。
「はぅっ!!」
ついでに観客の一人がその屁を吸い込んで、全身の穴という穴から血を吹き出して悶絶した。
切れた一同が徐々にヤニカスに迫る。
A組残存総兵力39名。
B組残存総兵力40名。
ヤニカス残存兵力1名。
ニャーはメビウスの箱
ニャーは自らのヤニを吸い
ポイ捨てられる
A組。砂藤君か田口君のどちらかが消えると思いますが、どっち消えたか迷ってるので現在はシュレディンガー状態だと思っててください。