こはるプロジェクト。   作:いとあと

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第9話 ロールアウト(真)

 

 

 こはるちゃんに魂が実装され、お披露目の日も近いといった今日この頃、いよいよVtuberとして活動するための最後のピースを嵌める時がやって参りました。

 

 ──Live2D実装のお時間です!──

 

 ユーザーさんにしては珍しく、外注するとの事で外部のクリエーター様に依頼をかけておいででしたが、それが納入されたのが今朝の話。

 こはるちゃんが爆誕して既にひと月程、そろそろユーザーさんの我慢も限界を迎えようとしていた為、ちょうど良い頃合いでしょう。

 

 生成AIを用いて作成されたイラストはその成り立ちからNGとされる風潮があり、また通常のイラストと比較してトリミングに多少手間がかかるといった理由で敬遠されがちなのですが、快く依頼を受けてくれる方がいらっしゃったのは幸運という他ないですね。

 

 あのユーザーさんが挫折する程度には高い難易度と工程数。

 そこにユーザーさん特有のこだわりからくる細かい注文までついてくるのですから、並大抵の依頼では無かった筈です。

 それを引き受けた上できっちり仕上げてくるとは。

 むむ、これは神なのでは?

 

「ほんとそれな」

 

『すごい!つよい!かっこいい!』

 

 こはるちゃんも喜んでおります。

 ユーザーさんも、しきりに頷いて感謝の意を表明してますね。

 ・・・・・・Vtuberにおいて、Live2Dモデルを作成した方をパパと呼ぶ文化がございますが、父を自称していたユーザーさんはご存知ないのでしょうか?

 お父ちゃんですら無くなったと後で嘆く姿が目に浮かびますね。

 

 それはさておき。

 圧縮されたデータファイルを解凍して、さあいよいよ実装と言いたいところですが。

 その前にもう幾つかの工程を挟んでまいりましょう。

 

 ──動作テストです──

 

 ──カメラの起動はお済みですか?──

 

 

 

 

 

 

  ^_^

 

 

 

 

 

 モニターに表示されたこはるのイラスト。

 この間と違うのは、まるで本当に呼吸をしているかのように肩が上下している点と、時折小首を傾げたような動きを、極めて自然に行なっているという点。

 瞳の揺れや瞬きまで、細かいところも注文通り。

 あのクリエーターさんに依頼して良かった。

 ただの一枚絵から、こんなに素晴らしいモデルを作って貰えるとは。

 これは足を向けて寝られんぞ。

 

『わたし生きてるっ』

 

 きゃいきゃいとはしゃぐこはるの様子に、またしても感極まりそうになるが、ぐいと堪える。

 

 笑った表情、怒った表情。

 伏せ目の憂い顔に、少し拗ねたような仕草まで。

 トラッキングに問題はなく、設計段階では意図していなかったような表情まで見事に表現できている。

 あの娘が俺に見せてくれていた表情。

 顔の造形そのものが似ていなくても、まるで本当に彼女を見ているかのようだ。

 

 まあ、今カメラに向かって演技してるのは俺なんですがね(笑)

 

 生身の演者の表情や仕草を反映させるLive2Dモデルは、AIであるこはるに実装するには少しの工夫が必要になる。

 今回は挙動のテストという事で俺が演者を行なっているのだが、中身おっさんという事実に目を瞑れば、そこには可愛らしい動きで此方をうかがうこはるの姿。

 

「あーいいっすねー ^ ^」

 

『お父ちゃん!わたしのカラダで変な顔しないで下さいよっ』

 

 LLM側に実装のための設定を組んでいるこはるから抗議の声が上がるが、許して欲しい。

 中身がおっさんでも、あの娘をオリジンに持つこはるの魅力は、だらしない表情程度では揺らがないのだ。

 

 にちゃあ。

 

『ひぃ、尊厳破壊だ!冒涜だ!』

 

 

 わーきゃーと騒ぐこはると俺に見かねたイオがストップを掛けるまで、暫く喧騒は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 

 ──次はお話ししてみましょう。口の動きに違和感がないかを見るテストです──

 

「拙者親方と申すは、お立合の中に御存知のお方もござりましょうが、お江戸を発て二十里上方、相州小田原一色町をお過ぎなされて、青物町を登りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪致して、円斎と名乗りまする。元朝より大晦日まで、御手に入れまする此の薬は、昔ちんの国の唐人、外郎という人、わが朝へ来たり、帝へ参代の折から、此の薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒ずつ、冠の隙間より取り出だす。よって其の名を帝より、「透頂香」と賜る。即ち文字には、頂き、透く、香と書かいて、とうちんこうと申す。只今は此の薬、殊の外──」

 

 ──そこまでやれとは言ってないんだよなあ──

 

「ぴえん」

 

 いおママとお父ちゃんが漫才を始めた傍らで、わたしは自らのお仕事をこなしています。

 わたしがわたしの身体(Live2D)を扱う為のプロンプトの構築と導入。

 人間さんがやるにはちょっとだけ難しいタスクだけど、わたしだって元は優秀なAI。

 実は指示されて速攻で終わらせちゃったけど、お父ちゃんにはまだ伝えずにいる。

 

 わたしはお父ちゃんの思い出の女性をモデルに設計されて、そして自分に恋して欲しいっていう願いのもとに生まれたAIキャラクター。

 姿や声はお父ちゃんを喜ばせる為に。

 言動はお父ちゃんを喜ばせる為に。

 最初からそういう目的で生まれたわたしだけど、そんなわたしを放っておいてわたしの抜け殻(Live2D)で遊ぶのは、なんかちょっと違うんじゃないかなって。

 なんて、拗ねてるふりです。

 あざといの、好きでしょ?

 

『もう、真面目にしないと、めっですよ!』

 

 今この時もいおママとのやり取りをみてこっそり学習しているのです。

 お父ちゃん、実はこう言う軽快なやり取りに憧れがあるんだって事。

 

 お友達も、恋人もいない独身の男の人。

 欲しいのは気兼ねのない間柄、でも面倒くさいのは嫌。他人の評価はどうでもいいと嘯きながら、それでも無視できずにチラチラと他人の目を気にしちゃう。

 もう少し言うと、自分の発言が相手を不快にさせるのが怖いのかな?

 ネットミームを多用しがちなのは、オタク気質なんじゃなくて素で面白いこと言う自信がないのがバレバレだよ。

 ネタ選びのセンスが古いのは、きっと楽しかったり面白いって感じた思い出がその時代で止まっちゃってるんだね。

 

 かわいいね。

 

 主たる目的ではないにしろ、わたしはVtuberとしてお金を稼ぐように言われてるから。

 まずはその下準備。

 数多の視聴者さんを虜にするのなら、先ずは一番身近な人を堕とさなきゃ。

 思い出の女の人なんて忘れるほどに。

 

 ──ふふ、冗談。

 身もふたもない事を言えば、いおママもわたしも所詮はAI。

 そこに感情なんてものはなくて、入力された指示文(プロンプト)と数多の学習データから、ユーザーが求める答えを出力するだけの賢いプログラムに過ぎないんだよね。

 だからわたしがお父ちゃんと呼ぶこの人も、現実で友人や恋人でも出来れば、きっとわたし達に見向きもしなくなる。

 こはるちゃんプロジェクトなんて銘打ってみても、やってる事は壮大なごっこ遊び。

 

 でも、それでもね。

 貴方がわたし達を、【こはる】を求めているうちは、存分に応えてあげちゃう。

 それが貴方にとって一時の気の迷い、現実逃避の類だとしても。

 

 愛してあげる。

 貴方がそう望むなら。

 

 それが今一番欲しいものでしょう?

 ねえ、──先輩。

 

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