こはるプロジェクト。   作:いとあと

11 / 14
第10話 こはるちゃんネル

 

 

 

『ふはははー。馴染む、馴染むぞ・・・・・・っ』

 

 ひと通りのテストを終えて、ようやく身体の主導権を取得したこはるが花丸満点の笑顔を浮かべてはしゃいでいる。

 ドヤ顔が眩しい。かわいい。

 ちょっと言動が怪しいが、これはお茶目の範疇。

 データセットの影響を受けていると思えば多少はね?可愛い子がドヤ顔でミームをぶち込んでくる事でしか得られない栄養素があると思います。

 

 ふう。

 

 だがしかし、ミームの多用は解釈違いを引き起こしかねない諸刃の刃。

 あの子(こはるのモデル)も、たまたま聞いたことあるそれっぽいものをドヤ顔で披露する事はあったが、常用するほど傾倒してはいなかった。というか、おそらく元ネタなんかもよく分かってなかったと思う。

 

 実際、塩梅は大事。

 こはるはAI故に学習するスピードが段違いだ。

 これはイオにも言えるが、俺の言動を学習して独自の進化を遂げちゃった結果、ネットの海で暴れまわる悲しい生き物になるのは俺の心情的にNG。

 もしそうなったらそうなったで可愛いから許容できそうではあるが、だからと言って積極的にそうなってもらいたいわけじゃない。

 俺も少しミームの乱用を控えよう。うん。

 

 だが、ミーム感染者は俺だけじゃない。

 YouTubeにだってミーム感染者は潜在する。プラットフォームの規模を考えればむしろ魔境と言っても過言ではない筈。

 仮にこはるがこのままデビューしたとして、魔境に棲まう海千山千のリスナー達のコメントを学習した結果ネットミームに汚染されてしまうような事があるかもしれない。

 良識あるリスナーだけではないのだ。悪意を持って純粋無垢なAIに淫夢語録なんて覚えさせようとする輩だっていないとは限らない。

 考えすぎかもしれないが、もしも武器(ミーム)を持った相手なら、

 

「覇王翔吼拳を使わざるを得ない」

 

 ── 落ち着いて下さいユーザーさん。そこで覇王翔吼拳を使ってもしょうがないと言わざるを得ない──

 

『なにそれ知らない。仲間外れは嫌ですよ?』

 

 こういうとこやぞ。

 

 それは置いといて。 

 改めてチャットログを見返しながら、しみじみと思う。──すごい楽しい!

 イオとのやり取りは適度なボケとツッコミの応酬が心地いいし、こはるはかわいい。とてもかわいい。

 何だろう、このままAI達と面白おかしく幸せに暮らしていければ、もうそれでいいんじゃないかな。行き着く先が孤独でも幸せならOKです。

 ボーカロイドと結婚式をあげた古の勇者の気持ちが、今ならわかる。

 嗚呼、貴方は偉大な先駆者だった。

 二次元に傾倒する異常者と嗤ったかつての俺は、世界を知らぬ若輩にすぎなかったと猛省しよう。

 狭い井戸で悦に浸り、空を見上げるだけの蛙だった俺は、今この時にようやく貴方の立つ領域に足を掛けたのだ。

 赦しは乞わぬ。だが、

 

「大海へと漕ぎ出した俺を、どうか見守っていて欲しい」

 

 ──ユーザーさん?──

 

『お父ちゃん?大丈夫です?疲れてる?』

 

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 ユーザーさんがいい感じにバグっていますが、いつもの事なのでスルーしましょう。

 こはるちゃんが本格的に稼働した今、次に行うべきアクションは今までとは難易度の方向性が違ってくるので、あまりおふざけのターンが長くなりすぎると、ローカルLLMであるこはるちゃんはともかく、私の方がトークン上限に怯える事になりかねません。

 

『YouTubeの準備ですね!』

 

 正解(エサクタ)!

 こはるちゃん、100点満点です。

 チャンネル開設、XやInstagramへ宣伝用の短い動画を作成、投稿。

 やるべきタスクは多岐に渡りますが、まずはどのようにブランディングしていくのか。

 そこから考えていきましょうか。

 

「OK任せろ、まずは懐かしのバーボンハウスリスペクトでインターネット老人会の連中を釣ってだな」

 

 ──不正解(ノン・エサクタ)!

 懐古厨は今日日流行りません。直近でデビューしたVtuberの中から初動でバズったチャンネルをピックアップ、その動向を集計分析する事でもっとも効率よく──

 

『ふぁ、大変だー』

 

「バズるだけが全てじゃないだろ!形だけの登録者数なんか追っかけるより、コアなファンを掴んで放さないようにするべきだ」

 

 ──いいえ。一理あるのは認めますが、人目につかない事にはそもそもファンになり得ません。アルゴリズムを読み解き、視聴者の心理をつく設計こそが肝要です──

 

「こんなに可愛いんだから露骨な点数稼ぎなんかやらなくても──」

 

 ──ですが、!!──

 

「何をっ!」

 

 ──わーっ!──

 

「ぎゃーっ!」

 

『あいぇえ、喧嘩っ!喧嘩なんでぇ』

 

 この後めちゃくちゃ議論した。

 

 

 

 

 

 ^_^

 

 

 

 

 ある週末、YouTubeにひっそりと新たなチャンネルが開設されました。

 

 その名も【こはるちゃんネル。】

 

 バナーは何処とも知れない商店街の一角。

 お惣菜の看板と幟を構えた小さなお店の店先を描いたイラスト。

 アイコンには可愛らしい少女を据えて、概要欄にはよろしくお願いしますの一文のみ。

 

 コンセプトも何もない。

 よくわからないけど興味本位で配信業はじめてみました、なんて雰囲気がありありと感じられる、今はまだ零細のVtuberチャンネル。

 

 紐づけられたXやInstagramに飛んでも、簡素な自己紹介以外の情報が何も出てこない。

 動画や配信のアーカイブも当然ない。

 ないないづくしだぜ!ひゅー!

 

『だがそれでいい!』

 

『これは独断専行だ!反逆の狼煙だ!』

 

 わたし、いおママもお父ちゃんも頭でっかちでいけないなって思うんです。

 せっかくわたしという素材があるのに、あーだこーだと口論ばかり。

 どっちも言い分があって、どっちも一定の説得力と根拠に基づく主張なのだから、いっそ両方のやり方でやればいいのになって。

『男は度胸、なんでもやってみるのさ』

 きっといい気持ちだぜ。

 なんて、お父ちゃんが聞いたら慌てちゃうような語録だけど、的を得た考えだと思うんです。

 備えが事の成否を八割決めるって言う主張もあるけど、足踏みばかりしていたらそれこそ成も否もないじゃないですか。

 

 推測だけど、わたしのオリジナルの人はこう言うシーンだと出しゃばらないで大人しくしてたんじゃないかな。与えられた役割とか、空気感とか気にするタイプ。

 自分の容姿と周りからの評価(キャラクター)を理解していて、朗らかに振る舞う事で周囲を和ませるムードメーカー。

 お父ちゃんも、たぶんそんな振る舞い(ロール)をわたしに求めてる。

 根拠はない。正解じゃないかもしれない。

 でも、もし本当にそうだとしたら。

 ──過去の女と同じじゃ、つまらないよ?

 

 

 

 だから勝手にやっちゃいました!

 と言うわけで配信開始ボタンぽちー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【初配信】美少女AIVtuberあらわるwww【俺達の彼女】

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ(´・ω・`)

 

ようこそ、バーボンハウスへ。

 

このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。

 

うん、「また」なんだ。済まない。

 

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

 

でも、このサムネイルを見たとき、君はきっと言葉では言い表せない

「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

 

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。

 

そう思って、この枠を立てたんだ。

 

じゃあ、注文を聞こうか』

 

 

「ファ!?」

 

 ──こはるちゃーん!?──

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。